ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年1号
特集
第4部 主要プレーヤーの次の一手商船三井──キャリアに徹しコンテナ船で稼ぐ池田潤一郎 常務執行役員 定航部担当

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2011  36 商船三井──キャリアに徹しコンテナ船で稼ぐ  物流事業はあくまでコンテナ船の補完機能として 位置付け、日本郵船とは対照的にキャリア志向を 鮮明にしている。
そのコンテナ船事業ではリーマン ショックで巨額の赤字を計上し、一時は事業の存続 すら危ぶまれたが、業務構造改革と徹底したコスト 削減によってV字回復を見込む。
定航事業で九〇〇億円の収支改善 ──物流事業をどのように位置付けていますか。
 「総合物流を打ち出している日本郵船さんと当社で は明確に路線が違ってきています。
当社はあくまでも キャリアとしてやっていくスタンスです。
原則として 物流事業は、我々が持つコンテナ船部門とのシナジー 効果が発揮できる限りにおいて力を入れていく」 ──物流事業とキャリア事業は、そう簡単には馴染ま ない?  「そうした認識をはっきりと持っています。
利用運 送なのか、アセットを持って実運送を行い、スペース を売るのかという根本的な違いはもちろん、例えば エアフォワーディングと海上輸送では動かす貨物の単 位から違う。
エアはキログラム単位なのに対し、海上 は最低でもトン単位。
それを扱うマインドも当然、同 じというわけにはいかない」 ──しかし、コンテナ船事業は他船社との競争が激し く、差別化も難しいために利益を出しにくいと言わ れています。
 「確かに競争は厳しい。
それでも船会社の輸送品質 には明確に差があります。
荷主も自分たちで定時性 などの品質を測るモノサシを、きちんと持っていま す。
船会社の中には安かろう悪かろうというところ が決して少なくはない。
それに対して多少運賃が高 めでも高い輸送品質を求める荷主は常に存在します。
我々はその方向を狙っています」 ──高い品質は求めても、高い運賃はなかなか受け 入れられません。
 「確かに今はお客さまがビッド(入札)で航路ごと に船会社を選びますが、そのビッドの過程で運賃の 差がだんだん小さくなっていくというのが実態です。
最初の段階では運賃の幅がかなりありますが、最終 段階に近づくにつれて、各社荷物を取るために下げ ざるを得なくなる」 ──今や日系荷主のビッドでも、日本の船会社であ ることは評価ポイントにならないのでしょうか。
 「荷主が当社を日本の会社だからと意識することは まずないといっていい。
実際、外国船社といっても 日本の法人や代理店にいるのは日本人なので、どの 国の船社だろうが営業面では関係ありません。
しか も今や日本企業の荷物の半分程度はアジア地域から出 るようになっている。
日本の荷主であっても海外で ビッドを行うことが珍しくはありません。
その場合 には相手は日本人ではなく現地スタッフです。
当社 も海外では現地の社員がセールスしています」 ──リーマンショック以降、荷動きが大きく落ち込み、 コンテナ船事業は二年連続の赤字でした。
 「一一年三月期はコンテナ船事業の経常損益は前期 の五六九億円の赤字から三五〇億円の黒字へと、九 〇〇億円以上も改善する見通しです。
とにかく生き 残らなければならないと、相当なコスト合理化を断 行しました。
それまで我々はおよそ一〇〇隻のコン テナ船を運航していましたが、そのうち一〇%強の 船を売り払ったり、スクラップにしました。
その中に は償却済みの、いわゆる“宝船”も含まれます。
以 前なら考えられなかったことです」 ──ライバルの日本郵船は自社の保有船を半減し、外 部からの短期用船を活用する“コンテナ船隊の縮小・ ライトアセット化”を打ち出しました。
 「当社はむしろ自社船を増やしていく方向です。
郵 船さんのように自社船や長いスパンでの用船を減ら し、短めの期間の用船を増やせば、荷動きが落ち込 んでも借りていた船を返せばすぐに身軽になれる。
荷 池田潤一郎 常務執行役員 定航部担当 第4部 主要プレーヤーの次の一手 特 集 国際物流企業への通知表「荷主満足度調査」 37  JANUARY 2011 動きが増えればその分、また船を借りればいい。
そ うした考えも理解はできます」  「しかし、当社はそうしない。
自社で船を所有した り長期で押さえることのメリットはやはり小さくな い。
その一つはコストが明らかに安いことです。
これ から荷動きが良くなれば皆、船を欲しがるので、当 然用船料が上がってコストは上がる。
この世界は結 局、船を持っていかないと商売にならない」 ──新造船を発注しても竣工してマーケットに投入す るまで数年かかり、しかも船の寿命は数十年と長い。
長期的な市況をうまく読んで投資していくというの は、バクチ的な要素が大きい。
その点で商船三井は、 将来の需要拡大に賭けたということになりますか。
 「我々は当たるも八卦、当たらぬも八卦でやってい るわけではありません。
今後、リーマンショックのよ うなことが全くないとはいえませんが、基本的には 世界の貿易とそれに伴う海上荷動きは伸びていくと いう前提に基づいて投資をしています」  「過去数十年の傾向を見ても、世界の貿易額と海上 荷動きは人口の増加に合わせて増えています。
また、 世界のGDP総計とコンテナ貨物の荷動きとを比べる と、一九九三年から二〇〇八年の世界のGDPの年 平均成長率が二・八%なのに対し、コンテナは年平 均八・六%もの伸びを示しています。
〇九年の数字 にはリーマンショックの影響が出ていますが、今後は 再び成長基調に戻るでしょう」 稼げる体制がようやく整った ──しかし、邦船社は過去にもコンテナ船不況に苦し んできた。
近年の業績をみても、鉄鉱石などの不定 期専用船事業の方が投資に対するリターンは高い。
 「コンテナ船事業は決して赤字ばかり出してきたわ けではありません。
二〇〇〇年以降は中国から欧米 に出る貨物の荷動きが伸び、基本的に黒字基調でき ています。
コンテナ船はバスのようにスケジュールを 決めて港を往き来する定期船であって、当社はコン テナ化が進む以前から定期船の会社でした。
当社が 初めてフル・コンテナ船を就航させたのは六八年のこ とですが、コンテナ化以前の歴史が長かっただけにコ ンテナ化に合わせて仕事のやり方やマインドを変える のに時間がかかった。
コンテナ船事業が苦しかった一 因かもしれません。
これに対してコンテナ化以降にス タートした船会社は、端からコンテナに最適化した経 営になっている」 ──コンテナ化で経営がどう変わったのですか。
 「港で降ろされたコンテナ貨物がそのまま内陸まで 運ばれるようになりました。
このため、単に船を運 航するだけでなく、一個一個血液のように大陸を流 れるコンテナという箱を、また海に戻すという管理が 必要になった。
すると事業の構造はまったく違った ものになってくる」  「コンテナ化以降も当社は例えば、情報システムに しても船単位の経営システムにコンテナのシステムや 陸上輸送のトラッキングシステムを屋上屋を重ねるよ うに乗せていました。
仕事のやり方も縦割りの弊害 が強く、お互い使う言葉や考え方が違っていた。
船 にしても昔は一年に一度造るか造らないか。
しかも 造るときは欧州や北米などの各航路の仕様で造って いたので、他の航路に転配するのが大変だった」  「しかし、コンテナは非常に標準化された考え方に 適した事業です。
当社もグローバルでの業務の統合と 標準化を時間をかけて進め、それが二〇〇〇年頃に 花開くようになってきた。
これからまだまだ稼いで いかなければなりません」 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 -500 -1,000 248.1 04 年 3月期 05 年 3月期 06 年 3月期 07年 3月期 08 年 3月期 09 年 3月期 10 年 3月期 11年 3月期 (予想) 350 -568.8 555.6 374.9 31.5 68.8 -213.3 連結経常利益とコンテナ船事業の経常利益の推移 (単位:億円) コンテナ船事業経常利益 連結経常利益 905.6 1749.8 1765.0 1824.9 3022.2 2045.1 242.3 1300

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