ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年1号
ケース
イフコ・ジャパン 単品管理

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2011  42 欧州の流通システムを日本に導入  欧米の青果物市場ではプラスチック製の折 りたたみコンテナを産地から消費地の小売店 まで一貫利用するユニット・ロード・システ ムが普及している。
産地がコンテナをレンタ ルして、畑で収穫した青果物をコンテナに詰 めて納品する。
小売店で使用済みになったコ ンテナは回収して洗浄を行い再利用する。
 この仕組みは日本で主流となっている段ボ ール箱流通と比べて、さまざまな利点がある。
環境に優しいことに加え、産地での作業性も 向上する。
段ボール箱は組み立てるのに手間 がかかるため産地では収穫の前日に組み立て ておく必要がある。
それに対し、折りたたみ コンテナはワンタッチで組み立て・折りたたみ ができるので、収穫当日に畑で容易に組み立 てられる。
前日の準備がいらない。
 プラスチック製で水に強く、雨の日の収穫 にも対応できる。
通気性が良いメッシュ構造 なので段ボールよりも予冷時間が短くて済み、 品質保持の点でも有利だ。
耐荷重性にも優れ、 段積みしても段ボールのように荷崩れする恐 れがない。
しかもレンタルなら必要な時に必 要な数だけ利用できて、回収や洗浄の手間も 省ける。
 この仕組みはドイツのシェラー社が一九九 三年に開発し、現在はオランダのイフコ・シ ステムズ社が「イフコ・コンテナーシステム」 という名称で世界展開している。
日本ではシ ェラーと三菱化学MKV(現三菱樹脂)ほか 三社が合弁で九五年にイフコ・ジャパンを設 立し、コンテナのレンタル事業として同システ ムの普及活動を開始した。
 日本で使うコンテナも、仕様は欧州と同様 に、縦横の外寸を四〇×六〇センチに統一し、 積載する商品に合わせて高さだけバリエーシ ョンを設けた。
モジュール化によって、小売 りの物流センターから店舗へのドーリー(台 車)輸送を効率化し、空コンテナをスタッキ ングして回収できるようにした。
 ただしドイツで生まれたレンタルコンテナシ ステムを日本へ持ち込むにあたり、国情の違 いによる大きな問題があった。
このシステム は青果物の流通とともにコンテナが転貸しさ れることを前提としており、レンタル会社は 貸し出した相手とは別の会社からコンテナを 回収しなければならない。
 ドイツでは小売り業者が青果物を産地から 直接仕入れるのが一般的で、コンテナの転貸 しが産地と小売りの間だけで行われるため、 レンタル先と回収先が別でも運用に大きな支 障はない。
これに対して日本では卸売市場経 由のウエートが高く、流通が多段階で行われ るため、流通過程でのコンテナの管理が複雑 になる。
 このため日本では当初、大手量販店による 市場外流通のルートを主なターゲットにして レンタルコンテナの普及を進めた。
相対取引 の市場外流通ならばドイツと同様の方法でコ  青果物用レンタルコンテナの貸し出し・返却・在 庫状況をICタグで管理するシステムを大日本印刷 と共同開発し、2010年4月から運用している。
コン テナの個体管理により顧客ごとに回収状況を把握で きるようになった。
紛失防止や回収率の向上に活か してレンタルコンテナ普及への基盤強化を図る。
単品管理 イフコ・ジャパン ICタグで通い箱を捕捉して回収確保 青果物のトレーサビリティーにも対応 43  JANUARY 2011 ンテナを管理できる。
 イフコ・ジャパンは産地にコンテナの利用 を促すのと並行して、小売り側にもゴミの削 減や荷役・搬送作業の効率化などをアピール し、システムへの理解と回収への協力を呼び かけた。
そのうえで承諾を得られた小売りの 物流センターを回収先として登録していった。
店舗への納品が済んで空になったコンテナを、 店舗が物流センターへ返却し、一定の数量に なると同社が物流センターへ回収に行く。
 だが青果物を扱う以上、取引数量のウエー トが大きい卸売市場にコンテナが流通するこ とは避けられなかった。
市場で青果物はセリ にかかり、落札した中小のスーパーや八百屋 に青果物といっしょにコンテナが納品される。
回収先として登録されていない場所にコンテ ナが滞留するようになり、紛失するケースも 増えてきた。
コンテナ管理の強化が喫緊の課 題となった。
コンテナと青果物を同時に捕捉  同社はコンテナを確実に回収するために、 ドイツで運用実績のあるデポジット(保証金) 制度を日本でも導入している。
コンテナを貸 し出す際に保証金を預かり、転貸ししたコン テナが小売りから回収されたときに保証金が 払い戻される仕組みだ。
 ただし日本では制度への認知度が低く適用 が難しいケースも多い。
その場合にはコンテ ナの受け払い時に顧客がどこへ何ケース出荷 したか記録をとり、同社へ 定期的に報告してもらう方 法をとっている。
 いずれの方法も顧客側で は、転貸しした先への保証 金の請求事務や、コンテ ナ受け払い情報の作成・報 告などの煩雑な業務が発生 する。
顧客の負荷を下げる ためにも抜本的な対策を講 じる必要があった。
 同社はこれらの問題を解 決するために、大日本印 刷と共同でICタグによる 「コンテナ管理システム」を 構築した。
耐水性に優れ たカードタイプのUHF帯 ICタグをコンテナに装着 し、青果物の流通過程で 受け払いのたびにタグに記 録したID番号を識別し個 体管理を行うシステムだ。
 これに合わせてコンテナに積んだ青果物の 情報をICタグで管理する「青果物入出荷管 理システム」も整備した。
 コンテナのレンタル先である農協など「集 出荷業者」は通常、青果物を入荷した際に品 名や生産者名、重量などを台帳に記録する作 業を行っている。
コンテナ管理システムと青 果物入出荷管理システムを一体で運用するこ とで、コンテナの受け払い業務とともに青果 物の情報を作成する業務まで効率化できるよ うにした。
 さらにICタグで取得した情報を大日本印 刷のサーバーで管理し、インターネットを経 由してシステムに参加する事業者間で情報を 共有することにより、トレーサビリティー管 理の一元化も実現しようと狙った。
●産地情報登録 ●自動計量検収 青果物入荷 管理システム コンテナ 管理システム ●入荷検品 ●自動計量検収 ●商品情報の入手 ●トレーサビリティ  の迅速化 ●コンテナ  受払管理 ●コンテナ受払管理 ●出荷・回収管理 ●洗浄履歴管理 コンテナ+青果 コンテナ +青果 空コンテナ 空コンテナ お届け 生産者集出荷業者 外食産業 加工業者 イフコ・ジャパン インターネット 情報公開データベース DNP データセンター IC タグを利用したコンテナレンタルのスキーム JANUARY 2011  44  第一ステップとして外食チェーン向けの食 品加工工場に納品する業務用レタスを対象に 運用システムを構築した。
業務用レタスの産 地が新規に同社のレンタルコンテナを利用する にあたり、従来のモジュールコンテナより底の 面が一回り小さいサイズにして欲しいとの要 望があった。
これを受けて同社で新型のコン テナを導入することになり、コンテナの製造 段階でICタグを装着する形でシステム開発 を行った。
収穫情報を川下とも共有  外食チェーン向けレタスの流通とシステムの 流れは次の通りだ。
 まず集出荷業者がイフコからコンテナをレ ンタルして生産者へ転貸しし、収穫したレタ スを詰めたコンテナを生産者から集荷する。
 コンテナはパレット単位で集出荷業者の拠 点に入荷されてくる。
入荷時に青果物の生産 者名・品目などをパソコンでシステムに入力 し、パレットごとICタグリーダー付きの計 量器に乗せて重量を自動計測する。
これによ って青果物の生産者名・品目・重量などの情 報とコンテナのID番号が紐付けられて、サ ーバーにデータが送られる。
 集出荷業者の拠点ではもともと入荷時に計 量を行っており、作業プロセスは従来と変わ らない。
入荷担当者が青果物情報の管理をす ることで、コンテナの受け払い管理をシステ ムが自動的に処理する仕組みだ。
 この仕組みによって情報の共有によるメリ ットも得られる。
青果物の日々の収穫量は天 候などの影響で大きく変動する。
悪天候で入 荷数量が計画よりも少ないことが事前にわか れば、不足分を他の産地から手当てするなど 早めに手を打てるようになる。
 外食産業向けの業務用野菜は重量単位で取 引されるケースが多い。
新システムによって 加工業者は青果物の入荷前、集出荷業者が拠 点に入荷した時点で、その日の重量情報を把 握することができるようになった。
 量販店向けとは異なり、業務用野菜のコン テナは、加工業者の工場で野菜がラインに投 入されて空になったところで、回収が行われ る。
イフコのデポでは回収したコンテナのI Cタグをゲートタイプまたはハンディタイプの リーダーで一括読み取りして返却情報を管理 する。
 この後でコンテナの洗浄を行う。
洗浄が終 わると次回の貸し出しに備え、折りたたんだ 状態のコンテナを一パレットに最大二七五枚 まで積んで、荷崩れ防止用のストレッチフィ ルムを巻き出荷単位の荷姿にする。
 この工程で、パレットを載せたターンテー ブルを回転させてストレッチフィルムを巻く際 に、二七五枚分のコンテナのICタグを一度 に読む。
タグのIDをすべて読み取ると現品 票が出力される。
これをパレット単位で貼付 する。
 現品票にはグルーピングした二七五枚分の  レタスはその後、集出荷業者の拠点から加 工業者の工場へ送られる。
加工業者の拠点で も入荷時に同じ方法で重量の計測とICタグ の読み取りを行う。
さらに青果物を加工ライ ンへ投入する直前にもう一度、一ケースずつ 重量を計測してタグを読む。
 このときタグを読んだ時間の情報もいっし ょに紐付けておく。
青果物のトレーサビリテ ィへの対応だ。
 カット野菜を出荷した先で問題が発生した 場合、加工ラインに投入した日にち・時間帯 をもとに産地や生産者をたどることで原因を 特定し、出荷停止などの迅速な対応が可能に なる。
また生産者が圃場(ほじょう)ごとに 細かく情報を管理していれば、出荷停止措置 の範囲をトラブルの発生した畑だけに絞り込 むこともできる。
業務用レタスを対象に 運用システムを構築し た。
写真下はコンテナ に装着したカード型の IC タグ。
45  JANUARY 2011 負担方法など実運用における課題が残ってい る。
また青果物の種類によって作業形態が異 なることなども考慮して、業務内容に合う効 率的な運用方法を引き続き検討していく。
 従来、同社はコンテナを総数で管理するし かなかった。
コンテナを貸し出す際の「いつ どこへいくつ貸し出した」という情報と、回 収時の「いつどこからいくつ回収した」とい う情報を照合することで紛失をチェックする というやり方だ。
紛失したコンテナを特定で きないため、回収した枚数が貸し出した枚数 を下回っていても、顧客に返却を促す術は事 実上なかった。
 しかし、コンテナ管理システムでICタグ による個体管理を実施することによって、コ ンテナのID番号をキーに、顧客ごとに未回 収コンテナの数や回収までにかかった日数な どの詳細な情報を把握できるようになる。
 これによって滞留期間の長い顧客に対して 返却を呼びかけることが可能になる。
同社で はコンテナの回転率の向上や紛失防止に効果 が上がると期待している。
個体管理でビジネスモデルの革新へ  これまで同社のレンタル料金は利用枚数に 応じて設定されていた。
利用期間によるチャ ージは設けられていなかった。
従来の総数管 理ではレンタル契約を結んだ顧客が転貸した 先でコンテナがどれだけ滞留したかわからな いため、利用期間によって料金を設定するこ とが不可能だったからだ。
 だが個体管理の実現により、コンテナ一枚 ずつについて滞留期間を把握できるようにな る。
イフコ・ジャパンの目良彰企画部マネー ジャーは「将来は個体管理のデータを活用し て料率や契約内容に利用実態を反映できるよ うにしていきたい」と話す。
 コンテナの通い箱は段ボールと比べて使い 勝手がいいため、小売店の店頭で商品の陳列 用に使われ、そのまま長期間滞留しているケ ースもしばしば見受けられる。
段ボールと違 い、使用後はただちに返却しなければならな いことが流通先に充分に周知されないまま普 及が進んでしまったことが背景にある。
 目良マネージャーは「コンテナをきちんと 管理するには、ICタグのシステムを運用す ることと同時に、ユーザーに正しい使い方を 知ってもらう活動にももっと力を入れて行く 必要がある」と自戒する。
 現在、日本では年間に二〇億ケース近い青 果物が段ボールの荷姿で流通しているといわ れる。
これをどこまでレンタルコンテナに切り 替えていけるかがイフコ・ジャパンの事業規 模を決める。
そしてそれはコンテナの回収を どれだけ確実に行えるかにかかっている。
 上山智照常務は「今回のシステムを活用 してコンテナの回転率を上げることによって、 事業拡大への基盤を強化していきたい」と話 している。
(フリージャーナリスト・内田三知代) コンテナのIDと洗浄記録を紐付けたバーコ ードが印刷されている。
コンテナを貸し出す 際の管理は、現品票のバーコードを読み、レ ンタル先とコンテナのIDをシステムで紐付け ることによって行う。
 このシステムの開発でイフコは農林水産省 による〇九年度の新技術活用ビジネスモデル 実証・普及事業の補助を受けた。
二〇一〇年 三月までイフコのデポおよび集出荷業者、加 工業者の各拠点にICタグのリーダーライタ ーを設置して二つのシステムの運用実証実験 を行った。
 その後、四月から同社の拠点でコンテナ管 理システムの実運用を開始した。
現状では新 型コンテナに約二〇万枚のICタグを装着し て運用している。
今後は主力のレンタル商品 であるモジュールコンテナにもICタグを装着 し、量販店の物流センターから回収するルー トにも運用を拡大していく考えだ。
 しかし青果物入出荷管理システムにはまだ、 集出荷業者などのリーダーライターのコスト 洗浄したコンテナをパレットに積み ストレッチフィルムを巻く際にIC タグを読む

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