ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年1号
グローバルSCM
第8回 在庫日数二六日の壁を乗り越える

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

57  JANUARY 2011  在庫削減の最初の壁は、在庫日数二六日に ある。
その壁を前にして、多くの企業が足踏 みしている。
必要なBPRを実施できないこ とが原因だ。
これを乗り越えるにはどうすれ ば良いのか。
具体的な改革のステップを解説 し、有効なツールを紹介する。
容易には乗り越えられない壁  食品・日用雑貨品メーカーの在庫削減には、 在庫日数二六日と二〇日あたりに大きな壁が ある。
そして二〇日の壁を乗り越えた「グルー プ1(在庫日数一五日未満)」の過去の取り 組み経緯から、在庫日数を二〇日以下の水準 まで削減するには、需給管理組織をいったん 集中型にする必要のあることがわかった。
 それでは、もう一つの二六日の壁はどうやっ たら乗り越えられるのであろうか。
これまで の連載で既に述べてきたように、そのために は生産計画の週次化と、需要計画と生産計画 の連携強化が必要になる。
だが、その実現は 容易ではない。
多くの企業がここでつまずい ている。
 今回の調査で「グループ3(在庫日数三〇 日以上)」に分類されたうち複数の企業が、 週次化、連携強化といった取り組みを行う以 前の状態にあった。
そのヒアリングでは、「週 次化しようにも月次計画業務の運用が属人化 され将来プロセスが描けない」「連携強化を進 めようとしても関連部門で同じ数字を見るこ とさえ出来ていない」といった声を多く耳に した。
 実際、我々がクライアントの需給の現場に 赴いた際にも、驚きを隠せない光景を目にす ることがある。
最新の計画数値を営業部門、 生産部門が部門フォルダなどにそれぞれ個別 に保有していて、需給部門は半月前の数値で 在庫調整を行っている。
その需給部門内も能 力格差が歴然としている。
調整作業を熟練の 担当者は煩雑なロジックの入った「エクセル (表計算ソフト)」を開き、長年の勘と経験を 駆使して職人的に処理しているのに対し、他 の担当者はそこまでのレベルに達していない。
 こういった光景が平然と存在する状況では、 二六日の壁を踏破することなど夢の話である。
いままでの業務のやり方を抜本的に見直す必 要がある。
 以上のことから我々は、二六日の壁を乗り 越えるために、まず?BPR(ビジネス・プ ロセス・リエンジニアリング)によって需給 改革の土台を構築すること、?その土台構築 を出来るだけ短期間に実現すること、そして ?その土台のうえに改革の検証/評価→改善 といったPDCAサイクルを上手く乗せてい くことが重要であると考えている(図1)。
需給改革の土台構築のためのBPR  需給改革の土台構築として取り組むべきこ とは、需給業務の標準化・見える化・省力 第回 アビームコンサルティング プロセス&テクノロジー事業部 SCMセクター シニアマネージャー 次世代を拓く 日本型SCM が 山中義史 在庫日数二六日の壁を乗り越える 8 JANUARY 2011  58 化、および在庫に関する責任と権限の再配置 である。
この四点が通常業務のうちに機能し ていない限り、どれだけ他の改善施策を行っ てもその効果は限定的である。
しかし、「グ ループ3」に属する企業数の多さが示すよう に、受注/出荷などの他のロジスティクス業 務と比較して、需給業務に関しては、土台構 築の遅れている企業が目立っている。
需給業務の標準化  これまで需要予測や適正在庫を考慮した発 注機能に代表される需給業務は、標準化が難 しいとされてきた。
BPRの現場でも、「需 給業務に精通しているのは長年経験した熟練 者のみ」「後継者を育てるのが一苦労」という 話をよく耳にする。
二〇一〇年問題とも呼ば れる団塊世代の大量退職が始まる中で、この 問題への備えを重視する企業も少なくない。
 では本当に、需給業務は標準化できないの であろうか。
答えは否である。
需給経験が二、 三年目の社員でも、整備された業務マニュア ルに沿って、見事に業務をこなしている姿を、 我々はこれまでいくつも目にしてきた。
 そのポイントは、業務上の?意思入れ箇所? を明確にして、かつ出来るだけ少なくするこ と、それ以外はシステムによる自動化に委ね ることである。
発注業務に例をとれば、毎回 の発注数量の確認・精査に注力するのではな く、元になる需要計画の精度と、在庫基準の 的確さに注目し、双方の検証に力点を置くと いった具合である。
 需要計画精度と、適正在庫基準の検証で あれば、システムサポートによりシミュレー ション等が可能であり、熟練者以外でもその 見直し業務を行うことが出来る。
月次の検証 /見直しに注力し、週次の発注業務は極力人 手をかけないという運用も実現可能である。
需給業務の見える化  需給業務は関連部門が多岐にわたるだけに、 意思決定に必要なデータも営業、物流、生産 等、複数部門にまたがって存在している。
そ のためか、最も基本となるはずの「製販在情 報(製造/販売/在庫)」の見える化を実現 できていない企業は意外に多い。
 そうした企業では「最新の販売計画がわか らないため自部門で予測している」「生産計画 の変更が伝わってこない」「現場の担当者のエ クセルを見ないと最新状況は解らない」と言っ た話を良く聞くことになる。
 この製販在情報の見える化はシステムサポー トによって比較的容易に実現できる。
基幹シ ステムからは在庫・受注等の実績データを、 各部門からは計画データを取得して、拠点・ アイテムごとの日別入出庫情報、将来在庫推 移を日次で自動更新し可視化する。
これぞシ ステム活用の真骨頂である。
 この見える化は、とりわけBPRの初期段 階において極めて大きな効果を挙げる。
「見 える化の結果、意思決定のスピードが二、三 日から数時間に格段に上がった」と話す担当 者も多い。
その要点は、当然ながら「関連部 門全てが、同じ画面で、同じ数字を見ながら コミュニケーションすること」を改革の大方 針として、部門個別の情報の囲い込みを徹底 的に排除することにある。
図1 在庫削減に向けたステップ 35 30 25 20 15 10 5 在庫日数 集中型 グループ2 分散型 グループ3 自律分散型 グループ2 26 日の壁20 日の壁 ステップ1 26 日の壁の踏破 ●生産計画の週次化 ●需要計画と生産計画 の連携強化 ●需給改革の土台構築  (SCP システムを活 用した短期間BPR) ステップ2 20 日の壁の踏破 ●週次生産計画+日次 調整のルール化 ●在庫削減の目的意識 の共有と需給管理機 能の分散 低 高 需給管理機能の集約度 日本型SCMが次世代を拓く 59  JANUARY 2011 需給業務の省力化  現在の食品・日用雑貨品メーカーにおいて は商品ラインの増加によって、アイテム数が 横ばいもしくは増加する傾向にある。
それに 伴い、一人の需給担当者が管轄するアイテム 数も増えている。
我々の調査においても、一 人当たりの主管アイテム数が一〇〇〜一七〇 アイテムという企業が多かった。
 担当者個々の経験で需給調整を行っている BPR前の企業においては、アイテム数の増 加が、「日々の在庫監視業務に十分な時間を かけられない」、「定期的な精度評価、および マスター等の見直し業務には全く手が付けら れない」といった状況を生んでしまう。
 メリハリのある在庫監視を行うことが、省 力化には最も効果がある。
事前にアイテムご とに上限在庫基準、下限在庫基準を定め、閾 値を越える危険在庫のみをアラート表示する。
そして、日々の需給調整は在庫アラートのみ を管理対象とした、ピンポイントの在庫監視 を行う。
 上限・下限在庫基準の見直しが進んでいる 企業では、担当者ごとのアラート件数は一〇 アイテム程度である。
さらにアラート監視に よる先手の需給調整が軌道に乗っていれば、 当日新規に発生するアラートはごくわずか(数 件)のはずである。
 メリハリのある在庫監視を導入し、一定期 間をかけてその基準値を精査していくことで、 需給調整業務の負荷を大幅に軽減することが できるのである。
 これまでに述べた、需給業務の見える化、 標準化、省力化のイメージを簡単に整理して おく(図2)。
在庫の責任と権限の再配置  前述した、標準化・見える化・省力化だけ では二六日の壁の踏破は難しい。
一連の改革 と同時に在庫の責任を持つ組織に、在庫適正 化に必要な権限を与えなければならない。
と りわけ関係者が多岐にわたるSCMにおいて は、責任・権限についてもプロセスに合わせ て明確にしなければ、当初想定した業務プロ セスを維持することが困難となる。
 在庫削減に必要な権限とは、全社で保持す る在庫量を決定する権限、そして在庫の減ら せない要因を作っている関連部門に対し、改 善施策の実施を指示する権限である。
 この責任と権限の再配置に関しても成功し ている企業は少ない。
需給管理組織に権限を 集中させたが、一年も経たない間に形骸化し 元の機能配置に逆戻りしたといった事例も多 く見られる。
 この問題は部門間の責任分担に触れるだけ に企業風土によってもそのアプローチは異なっ てくるが、一般にはBPR初期においては、 何から何まで一度に需給管理組織に権限を集 中しすぎないこと、そして改善施策を指示で きる数値的根拠を容易に把握できるようにす ることが成功の確率を高める。
 まずは全社在庫のコントロールに注力する のが得策であろう。
例えば、製品ごとの在庫 に関する上限・下限基準を定める権限を需給 管理部門に持たせながら、一方で生産部門・ 物流部門にはそれぞれ従来通りに製造コス ト・物流コストを優先した計画を立てさせる。
それによって在庫基準を超えることがないよ うに需給管理部門が監視し、基準が守られて ない場合には改善指示を出すといったやり方 である。
図2 需給業務の見える化、標準化、省力化イメージ 見える化画面 アラート 一覧画面 将来在庫の見える化 将来の在庫推移、欠 品/滞留見込を一覧 画面で確認可能 同じ画面を使用 全員が同じ画面を 使ってオペレーショ ンを実施 アラート監視 危険品に対して自 動で在庫アラート 情報を算出 需給改革の土台を しっかり構築 需給の『見える化』 業務の『標準化』 業務の『省力化』 JANUARY 2011  60 SCPパッケージでBPRを短期化  既存の業務プロセスをベースにBPRを実 施すると、それまで慣れ親しんできたやり方 にどうしても引きずられてしまい、プロセス の抜本的な改革が進まない傾向がある。
それ を避けてBPRを短期間で実施するには、S CPパッケージの活用が有効である。
 パッケージに包括されている標準業務や、 そこに散りばめられた業務改善のエッセンス を利用することで、通常は一年〜一年半かか る導入期間を半分以下に短縮できることが最 大のメリットだ。
 我々の調査では、二六日の壁を乗り越えて きた「グループ2」に属する企業の半数以上 が、SCPパッケージを導入していた(図3)。
そうした企業からは以下のようなコメントが 得られた。
 「SCPパッケージ導入を機にSCPに合わ せてBPRを行った」「SCPパッケージを業 務標準化のためのツールとして導入した」「全 社の見える化、コミュニケーションのツールと して導入した」「BPRを出来る限り短期間で 行うことを最優先とし、SCPの導入を決め た」  
咤達丱僖奪院璽呼各に成功した企業に共 通しているのは、SCPパッケージにあまり 多くを求めず、あくまで需給改革の土台構築 のツールと位置付けていることである。
そし てパッケージの活用法としてはシンプルな機 能から始め、段階を経て機能強化するのが定 石となる。
 土台構築には、需給業務の標準化・見える 化・省力化が必要であると前節で述べた。
こ の三点はシステムサポート無しには実現が難 しい。
標準化はパッケージに含まれる標準業 務・標準画面によって、また見える化はデー タの一元管理・一覧表示によって、省力化は 自動処理によって、それぞれシステムサポー トの恩恵を受けることで、その実現が容易に なる。
 しかし、それ以外の機能までパッケージに 頼ろうとすると、かえってBPRの実現を遅 らせてしまうことがある。
自社独自の需要予 測ロジックに凝りすぎてしまい、長い時間を かけて大幅なカスタマイズを行ったが、シス テムを使いきれなかったといった失敗例はよ く耳にする。
 
咤達丱僖奪院璽犬瞭各に成功した企業の もう一つの共通点は、いずれも二〇〇五年頃 の?第二次
咤達優屐璽?にそれを実施して いる点である。
 日本ではS C Pパッケージの導入が 二〇〇〇年頃から始まった。
これを?第一次 SCMブーム?とすると、当時導入したケー スでは、海外からの輸入パッケージであるこ とから日本の需給業務に馴染まず、大幅なカ スタマイズが必要になったり、また一部機能 に限定した活用に留まってしまうことが多かっ た。
その結果、「SCPパッケージは導入が 難しく、投資に見合う効果が得られにくい」 という評価を広めてしまった。
 しかしながら、第二次
咤達優屐璽犹にお ける導入例に見るように、土台構築と割り 切って大きなカスタマイズを避けて導入すれば、 SCPパッケージはBPRを短期間で実現す る有効なツールとなりえるのである。
国産テンプレートの登場  「グループ2」企業の調査結果において解っ たもう一つの傾向は、SCPパッケージを導 入した企業と比べると数は少ないながらも、 SCPシステムをスクラッチで開発して二六 日の壁を乗り越えた企業が複数社存在するこ とである(図3)。
SCPシス テムの状況 需給管理組織 SCPパッケージ ベースで構築 SCPパッケージ とスクラッチの 併用(※) スクラッチ開発 集中型分散型 4 社1 社 1 社2 社 0 社1 社 ※需要の比較的安定している製品群についてSCPパッケージ を活用。
その他はスクラッチ 図3 グループ2企業における組織と    SCPシステムの状況 61  JANUARY 2011  このテンプレートは、標準化・見える化・ 省力化にシステムサポートの狙いを定めてい る。
また特売情報の管理、小売業の「三分の 一ルール(製造日から賞味期限までの三分の 一の期間を過ぎている商品は受け入れない)」 に対応した残余賞味期限の管理、日次の配送 センターへの供給計画等に見られる日本の商 習慣に対応している(図4)。
 現在、第一次
咤達優屐璽爐韮咤達丱僖 ケージを大幅にカスタマイズした企業などが リプレースを検討し始めている。
また、第二 次ブームでSCPパッケージを有効活用した 企業も二〇日の壁を越えるべく、さらなる在 庫削減に向けた検討を開始している。
こうし た企業にとって、日本型流通に対応したテン プレートの登場は、次に控える二〇日の壁を 踏破するための改革をスムーズに行う最適解 と我々は考えている。
 需給の課題に悩むのは大企業だけではない。
中堅・中小企業においては、置かれている環 境がよりシビアであるために、悩みも大企業 以上であることが多い。
国産テンプレートを 活用した短期間での需給改革の土台構築── この新しい流れは、ハードルの高さゆえ今ま で改革に着手できなかった企業にとって新た な改革のチャンスとなるだけでなく、後発の 利を得るための方法でもあると我々は位置付 けている。
 そのような企業にSCPパッケージを使わ なかった理由をたずねたところ、「自社の強 みと考えている業務がSCPパッケージとは 合わなかった」「海外産のSCPパッケージに 合わせたBPRでは外国企業並みにしかなれ ない」といったコメントが返ってきた。
 日本の市場環境は特異性が強い。
消費者お よび小売業の在庫鮮度へのこだわり、受注か ら納品までのリードタイムの短さ、倉庫賃料 の高さ、どれを取っても海外には類を見ない レベルにある。
国内の食品・日用雑貨品メー カーが、海外メーカー以上にきめ細やかな需 給管理が求められることは確かである。
 しかし第一次
咤達優屐璽爐ら一〇年の時 を経て、SCPパッケージは淘汰が進み、そ の機能も成長を遂げている。
導入の成功事 例も増えてきた。
こうした状況を背景にして 二〇一〇年現在、SCPシステムに新しい流 れが興っている。
国産テンプレートの登場と その導入である。
 我々アビームコンサルティングでは、日本の 需給ノウハウをベースとしたスクラッチ開発で 二六日の壁を乗り切った成功事例をベースと して、そこで開発されたシステムを、その後 の複数社展開で研磨し、「テンプレート」と いう形に整理している。
 その特徴は、日本の需給業務に適合し易い 機能を標準装備しているところと、標準機能 を必須機能に絞り込むことで、比較的安価に システムを導入できるところにある。
日本型SCMが次世代を拓く アビームコンサルティング株式会社 プロセス&テクノロジー事業部 SCMセクター シニアマネージャー 主に製造業(食品・日用雑貨メーカー)の大 手企業に対する、業務改革・ERP導入等 のプロジェクトに参画し、プロジェクトマ ネージャーとしての実績を多数有する。
特 に、SCP(サプライ・チェーン・プランナー) を活用した、需給業務のBPRに力を入れて いる。
SCM改革に関する講演多数。
アビ ームコンサルティングHP http://jp.abeam. com 山中 義史(やまなか・よしふみ) 需給業務テンプレートの標準機能 販売計画の登録 特売情報の登録 需要予測 在庫計画の立案 工場への生産依頼 在庫アラート監視 需給調整 生産計画の登録 KPI の評価・改善指示 販売計画─登録画面 特売情報─登録画面 需要予測の自動算出 安全在庫の自動算出 生産依頼の自動算出(MRP) 在庫アラートの自動算出 (上下限数量・残余賞味) 在庫計画表(製販在情報見える化) 生産計画のアップロード KP(I 重要評価指標)レポート アラート一覧画面 見える 化 省力化 標準化 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 計画の連動 PDCA サイクル 営業需給生産管理 図4 テンプレートにおける標準機能

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