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物流指標を読む
JANUARY 2011 78
環境税は政“菅”談合の産物か??
第25 回
●今年10月から地球温暖化対策税の導入が決定
●増税無しでもCO2排出量の削減目標は達成可能
さとう のぶひろ 1964年 ●菅政権、財務省、環境省が各々の利益を追求か
生まれ。 早稲田大学大学院修
了。 89年に日通総合研究所
入社。 現在、経済研究部担当
部長。 「経済と貨物輸送量の見
通し」、「日通総研短観」など
を担当。 貨物輸送の将来展望
に関する著書、講演多数。
小さく産んで、大きく育てる
政府税制調査会は昨年十二月一五日の全体会
合で、石油や石炭など化石燃料の課税を強化する
「地球温暖化対策税」(環境税)を今年一〇月か
ら導入することを決めた。 もっとも、新税の導入
というよりは、実態は税目の衣替えに近い。 すな
わち、石油石炭税(注:原油、輸入石油製品、ガ
ス状炭化水素、石炭に対して課される国税。 一〇
年度における税収は約四八〇〇億円)の税率をC
O2排出量に応じて引き上げ、増税分を「環境税」
にするというものである。 急激な負担増を避ける
ため、一五年四月まで三年半かけて税率を徐々に
上げていき、最終的には現行の一・五倍(増収規
模は約二四〇〇億円)にもっていきたい考えだ。
最終的な引き上げ幅は、原油・石油製品が七六
〇円/
kl
(注:現行税率は二〇四〇円/
kl
)、液化
石油ガス(LPG)と液化天然ガス(LNG)が
七八〇円/トン(注:同一〇八〇円/トン)、石炭
が六七〇円/トン(注:同七〇〇円)となってい
る。
この増税に伴い、当然ながら幅広い製品やサー
ビスの価格に影響が生じる。 経産省の試算による
と、増税分が製品価格に転嫁された場合、ガソリ
ン、軽油、灯油については一リットル当たり〇・
七六円の負担増となる見込みだ。
その一方で、民主党が〇九年の衆院選マニフェ
ストで謳っていた、ガソリン税と軽油引取税の税
率上乗せ分(旧暫定税率)の廃止については、深
刻な税収不足を背景に、再び先延ばしされた。
環境税の創設は、環境省の長年の悲願であり、と
にかくどんな形であっても導入したいということ
なのだろう。 産業界からの強い反発は必至である
ことから、それをできるだけ抑えるために、「小さ
く産んで、大きく育てる」作戦をとったのであろ
うが、税率があまりにも低すぎて、果たしてどれ
だけの効果があるのかという疑問を禁じえない。
石油情報センターのデータにより、一〇年十一
月における燃料油の店頭現金価格(全国平均、消
費税込み)をみると、レギュラーガソリンが一三
二円/リットル、軽油が一一三円/リットルであ
る。 これに最終的な税額がオンされたとしても、価
格の上昇率は一%にも満たない。 言うまでもなく、
地球温暖化対策のために環境税を導入する最大の
目的は、化石燃料の価格を上昇させることにより、
その消費量を抑制することにある。 しかし、燃料
価格が一%も上昇しないのであれば、価格効果は
ネグリジブルスモールと言わざるをえない。
さらに新聞報道によると、経産省は、環境税の
税収をエネルギー対策特別会計の特定財源として、
その使途を企業の省エネ対策などに充てることを
主張しているのに対し、財務省は税収の半額以上
を一般財源とすることを提案しているらしい。 仮
に財務省案が通ったならば、温室効果ガスの排出
抑制効果がさらに減じられるのは必至であり、「増
税の言い訳として、地球温暖化の抑制を錦の御旗
に掲げただけ」というそしりは免れまい。
ちなみに、毎日新聞の報道によると、国立環境
研究所(国環研)が環境省の依頼で実施し、中央
環境審議会の専門委員会に報告した、環境税の導
入に伴う温室効果ガスの削減効果に関する試算が
あるそうだ。 試算の前提条件は、すべての化石燃
「温室効果ガス排出量」環境省
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自動車の導入やビル・住宅の省エネ、断熱化など
の温暖化対策に充当したとしても、温室効果ガス
の削減効果は、二〇二〇年時点において一九九〇
年比で一%減と見込まれている。 国環研の試算で
は、ほかに排出量取引制度などを合わせても、削
減効果は、二〇年時点で九〇年比七〜八%減にと
どまるらしい。
毎日新聞の記者は、この記事を「環境税導入で
も、温室ガスたった一%減 九〇年比で」という
見出しで報じていたが、筆者の感想はむしろ、「本
当に一%も削減できるの?」である。 試算に用い
たモデル等はもとより、試算結果の詳細も公表さ
れていないので、根拠も何もない、あくまでも感
覚的な感想なのだが‥‥。
増税のための錦の御旗
ところで、京都議定書で設定されたわが国の温
室効果ガスの削減目標は、〇八年から一二年まで
の期間中に九〇年(基準年)比で六%削減すると
いうものだ。 なお、六%のうち、森林吸収源対策
で三・八%、京都メカニズム(注:市場原理を用い
た削減目標の達成手法のことで、具体的には、ク
リーン開発メカニズム、共同実施〈注:先進国同
士で温室効果ガス削減事業を実施し、その結果生
じた排出削減量の一部をホスト国から投資国に移
転するもの〉、排出権取引の三手法があげられる)
で一・六%の削減を目標としているから、実際に
は基準年比で〇・六%の削減を目指すこととなる。
二一世紀に入っても、温室効果ガスの排出量は、
九〇年時より一割近く高い水準での推移が続き、正
直なところ、目標の実現は難しいのではないかと
見る向きも多かったが、ここにきてフィージビリテ
ィはぐっと高まってきたように思う。
環境省が公表している〇八年度の温室効果ガス
排出量(速報値)は、前年度比で六・二%減と大
幅な削減となり、基準年比でプラス一・九%の水
準まで低下した。 すなわち、あと二・五%削減で
きれば目標達成となる。
〇八年度に温室効果ガス排出量が低下した最大
の要因は、金融危機の影響等による年度後半の急
激な景気後退に伴い、各部門のエネルギー需要が
大幅に減少したことだ。 ちなみに、〇八年度の実
質経済成長率は前年度比で四・一%減、鉱工業生
産指数は同十二・七%減となっている。 翌〇九年
度についても、経済成長率は同二・四%減、鉱工
業生産指数は同八・九%減と引き続き景気が低迷
したことから、排出量がさらに低下したことは確
実であり、図らずも削減目標を達成した可能性が
ある。 もっとも、一〇年度については三・二%の
経済成長が見込まれており(注:日通総合研究所
による一〇年十二月時点の予測値)、排出量は再
び増加に転じたとみられるが。
さて、結論。 この環境税であるが、今秋に導入
することの意義は何なのか、正直よく分からない。
温室効果ガス排出量の削減効果は小さく、しかも
税収の半額以上を財務省が一般財源として分捕ろ
うと狙っている。 しかも、排出量の削減目標はほ
ぼ達成できそうな状況下で‥‥。 どのような形で
あっても環境税を導入したい環境省、とにかく税
収を増やしたい財務省、何かしなければ政権がも
たない民主党。 政官談合(政?菅?談合か?)に
思えて仕方ないのは筆者だけであろうか。
料にCO2排出量一トン当たり約二七三円の課税
を行う(注:ガソリンに対しては〇・七円/リット
ル)というもので、税収総額は二四〇〇億円であ
り、来年度導入予定の環境税案とほぼ同じ条件に
している。
その試算によると、その程度の税率では化石燃
料の使用抑制にはつながらず、税収をハイブリッド
日本の温室効果ガス排出量
2008 年度における我が国の排出量は、基準年比+1.9%、前年比−6.2%
(原子力発電所の利用率を84.2%と仮定した場合、基準年比−3.1%
13
12
11
10
排出量
(億トンCO2換算)
4.8% 2.8% 2.3% 5.0%
3.1%
5.1%
13.71 億トン
12.54 億トン
(基準年比−0.6%)
11.86 億トン
(基準年比−6%)
13.39 億トン12.86 億トン
(基準年比+1.9%)
〈前年度比−6.2%)
13.58 億トン
13.54 億トン
13.59 億トン
12.61 億トン
基準年
(原則1990 年)
※環境省ホームページより
2003 2004 2005 2006 2007 2008 京都議定書削減約束
(2008 年〜2012 年)
森林吸収源対策で3.8%
京都メカニズムで1.6%
の確保を目標
2.5%
原子力発電所の利用率が84.2%
であったと仮定した場合
12.22 億トン
(基準年比−3.1%)
〈前年度比−6.6%〉
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