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DECEMBER 2005 44
二〇〇四年秋、米国西岸のロサンゼルス・
ロングビーチ両港では、バースに着岸できず
に沖待ちする船舶が数十隻に達するなど大混
乱に陥りました。 その結果、西岸で陸揚げし
て中西部などに配送するコンテナ貨物は平均
で一〇日以上も遅れました。 混雑化の原因は
何だったのでしょうか?
そして今年はこの
問題をきちんと解消できているのでしょう
か?
港湾労働者不足に起因
昨年秋に発生したロサンゼルス・ロングビ
ーチ両港の大混雑は、コンテナバースに着岸
できずに沖待ちするコンテナ船が五〇〜七〇
隻に及ぶといった信じられない光景を生み出
しました。 港の機能が完全に麻痺してしまっ
たため、米国のサプライチェーンはズタズタ
に引き裂かれてしまいました。 それでも何と
かサプライチェーンを動かそうと、貨物の輸
送を海運から航空にシフトさせて対処した荷
主も少なくありませんでした。
現在、米国では中国をはじめとするアジア
諸国から大量の貨物を輸入しています。 米国
の輸入コンテナ数は毎年二桁の伸びを記録し
ています。 急増する貨物に対応するため、船
会社は船舶の整備・大型化を、そして中国な
ど輸出国ではコンテナターミナルの整備・拡
張を進めてきましたが、肝心のコンテナ受け
入れ側の米国、とりわけ米国に輸入されるコ
ンテナ貨物の大半を陸揚げしているロサンゼ
ルス・ロングビーチ両港の体制は万全ではあ
りませんでした。 コンテナ貨物の急増に対し
て両港の処理能力が追いつかず、結果として
大混雑を招いてしまったのです。 港湾施設のキャパシティ不足、さらに内陸
部に貨物を運ぶ鉄道やトラックの輸送力不足
などが混乱の原因とされています。 それは間
違いではありません。 しかし一番の原因は港
湾労働者が不足したことでした。 両港ではす
べてのコンテナターミナルでの荷役が北米西
岸港湾労働者組合(ILWU)から派遣され
る労働者によって行われるルールになってい
ます。 ところが、同組合の組合員である労働
者の不足のため、コンテナ船が入港しても荷
役ができないという状況に陥ってしまったわ
けです。
ILWUは急きょ、新規に労働者を採用し
て問題解決に乗り出しましたが、にわか採用
の素人集団では作業効率が上がるはずがあり
ません。 次から次へとコンテナ船は港にやっ
てきます。 輸送力増強のため、米国中西部な
ど内陸向けに貨物を供給する鉄道輸送への投
資、例えば作業員の増員や機関車の新規投入、
あるいは線路の複線化などに取り組んできた
ものの、コンテナ貨物はそれを上回るスピー
ドで増えていきました。
混雑回避の具体策
もっとも、二〇〇五年に入ってからロサン
ゼルス・ロングビーチ両港ではピークシーズ
ンでも昨年のような混乱は発生していません。
第一に、荷主がコンテナ貨物の陸揚げを他港
に分散させるとともに、ピークシーズンを避
けた早めの商品調達を実施したことが奏功し
ています。
船会社がロサンゼルス・ロングビーチ港へ
の集中を避けるため、配船・スケジュールを
変更したこともプラス要因となっています。
ロス港大混雑の元凶とは
《第9回》
45 DECEMBER 2005
多くの船会社はオークランド港への寄港順序
を変更したり、タコマ港、シアトル港などを
対象にした新規航路開設や増便に踏み切りま
した。 また、「オールウォーターサービス」と
呼ばれる北米東岸向け航路の増強を図った船
会社もあります。
港湾労働者も大量投入しました。 「カジュ
アル」と呼ばれる臨時作業員約六〇〇〇人を
新たに雇用し、このうち二〇〇〇人が訓練を
経てILWUの登録労働者となりました。 港
湾労働者不足を解消するための対策で、一定
の成果を上げています。
ほかにも?オフピーク・プログラムの実施
?コンテナ引き取りのフリータイム短縮?鉄
道会社によるスタッフおよび荷役機器などの
拡充――などに取り組みました。 このうち、
オフピーク・プログラムの「ピア・パス(Pier
Pass)」については、もう少し詳しく触れて
おきましょう。
今年七月にスタートした「ピア・パス」と
はオフピーク時以外の時間帯にターミナルか
らトラックでコンテナ貨物を引き取る場合、
トラックに対して四〇ドル(一TEU当たり)
を徴収する制度です(ただし、Alameda
Corridorを使った鉄道及び空コンテナの引き
取りは課徴されない)。
オフピークに設定されている「平日の午後
六時から午前三時まで、および土曜日の午前
八時から午後六時まで」にコンテナの引き取
りをシフトさせる。 それによってターミナル
の混雑緩和を実現しようというもので、ロサ
ンゼルス・ロングビーチ両港の各ターミナル
はオフピークに合わせて業務時間を延長しま
す。
当初はコンテナ貨物を引き取るトラックドライバーが夜間の労働を嫌がるのではないか
など、「ピア・パス」導入の効果に対して疑
問を呈する声もありました。 しかし、両港で
扱うコンテナ貨物全体の六分の一を占める大
手輸入業者(荷主)一五社の賛同や、ILW
Uも協力もあって、「ピア・パス」は順調に
浸透しています。
「ピア・パス」ではコンテナ貨物全体の約
二〇%を夜間および土曜日にシフトさせると
いう目標が掲げられましたが、すでに現段階
でその目標を大きく上回っているようです。
最終的には導入三年目までに全体の四〇〜四
五%をシフトさせることを目指しています。
ターミナル拡張は困難
このように様々な対応策が講じられたこと
で、ロサンゼルス・ロングビーチ港の混雑は
緩和の方向に進みましたが、根本的な問題解
決には至っていません。 したがって両港が再
び混雑化に陥る可能性は十分に高いと言えま
す。
第一にインフラ面での課題が残されたまま
です。 前述した通り、コンテナ貨物の取扱量
は拡大し続けています。 しかし、物量増に対
応するためのコンテナターミナルの拡張は、
環境保全を求める地域住民らによる反対運動
などがあり、困難な状況にあるのが実情です。
また、パナマ運河経由の北米東岸への寄港、
シアトルやタコマなど西岸北部港への寄港に
シフトさせる船会社も見受けられますが、い
ずれの港もキャパシティには限界があります。
トラックの運転手不足の懸念もあります。
米国のトラック運転手は零細な自営業者が多
く、不規則な労働時間や、ターミナルでの待
ち時間が長いため車両の回転率が悪くなって
売り上げが減少することを嫌います。 今後は
混雑の激しいロサンゼルス・ロングビーチ港
での仕事を避ける傾向が強まる可能性もある
でしょう。
ロサンゼルス・ロングビーチ港にはまだま
だ課題が山積みの状態です。 昨年秋のような
混雑を再び起こさないようにするためには、
地域住民、各市当局、港湾管理者、ターミナルオペレーター、船会社、鉄道会社、トラッ
ク会社、倉庫会社、輸出入事業者など全ての
関係者の協力が欠かせません。
もり・たかゆき1975年大阪商船三
井船舶入社。 97年MOL Distribution
GmbH社長、2001年丸和運輸機関海
外事業本部長、2004年1月より現職。
主な著書は「外航海運概論」(成山堂)、
「外航海運のABC」(成山堂)、「外航海
運とコンテナ輸送」(鳥影社)、「豪華客
船を愉しむ」(PHP新書)など。 日本海
運経済学会、日本物流学会、ILT(英)
等会員。 青山学院大学、長崎県立大学
等非常勤講師、東京海洋大学海洋工学
部講師
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