ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年3号
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「3PLの活用で“各論反対”を突破する」山田健 日通総合研究所 取締役教育コンサルティング部長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2011  4  「国内物流は今後も縮小傾向が続く でしょう。
同時にアジアを始めとし た海外シフトが進んでいる。
とりわ け大手メーカーにとってはグローバル ロジスティクスの構築が大きなテーマ になっています。
その時に、さて国 内はどうするかとなれば、やはり共 同物流が最も有効な選択肢の一つに なってくるはずです」 ──共同物流は決して新しいテーマ ではありません。
 「確かにこれまでも多くの事例が 報告されてきました。
しかし、手放 しに成功したと評価できる事例は実 はそれほど多くはありません。
共同 物流が失敗する原因を探っていくと、 その多くは?総論賛成、各論反対? に行き当たります。
共同物流を進め ようという?総論?には誰もが賛成 する。
しかし?各論?に落とし込ん だ時に、様々な反対意見や抵抗が出 てくる」  「とりわけ荷主同士で相談して始 めた共同物流は往々にして各論が壁 になって取り組みが頓挫してしまう。
共同配送便を仕立てたものの、物量 の波動を吸収するところで負荷がか かり、その負担やメリットの配分で 揉めてしまう。
荷主主導の共同化は 参加者が限られるため物量のパイも 大きくならない。
物流事業者側では 物量減少で改めて注目 ──共同物流に改めて注目が集まっ ています。
 「国内物量の減少が大きいと思い ます。
日本のGDP(実質国内総生 産) は二〇一〇年度現在五四二兆円 で、バブル期の一九八九年度の四一 九兆円と比べると約三割伸びていま す。
ところが国内の貨物輸送量(ト ンベース) は八九年の六五億トンに 対して一〇年は四七億トンで三割近 く減っている(次頁図)」  「G D Pが伸びれば物量も伸びる というのが、かつては当たり前でし た。
それが九〇年頃を境にして急激 に乖離するようになっています。
そ の理由としては、サービス経済化や 商品の小型化、海外生産シフトの進 展、また公共事業の抑制などによる 建設関連資材の減少などが挙げられ ています。
ちなみに新聞報道による と海外生産シフトによって日本のG DPは三五兆六〇〇〇億円も失われ ているそうです」 ──つまり国内の荷物が減ったから 積載率を維持するために共同物流が 必要になっているのですね。
 「もちろん環境問題や若年層ドライ バーがこれから減少していくといっ た長期的な問題もありますが、やは り物量の減少が最大の要因でしょう。
また、それとは別に一括物流センタ ーの普及も共同物流のドライバーの 一つになっている」  「ご存じのように量販店は一括物流 の開始によって新たにセンターの運 営費と配送費が発生するため、その 費用を『センターフィー』として、多 くは仕入れ代金と相殺するかたちで ベンダーから徴収しています。
これ がベンダー側の大きな負担になって いる」  「基本的に一括物流は、それによっ てトータルコストが減るという前提に 立っているわけですが、実際には物 流センターの運営コストが大きいため、 配送費の削減効果が相殺されて、ベ ンダー側ではコストアップになってい ます」  「その影響でベンダー側では、セン ターフィーの負担を吸収するために、 何らかの合理化策が必要になってい る。
そこでベンダー、その多くはメ ーカーやメーカーの販社、卸売業など ですが、彼等が量販店の一括物流の 上流に位置する物流の共同化に乗り 出しています」 ──今後も共同物流のニーズは拡大 しそうですか。
山田健 日通総合研究所 取締役教育コンサルティング部長 「3PLの活用で“各論反対”を突破する」  国内の物量が減少トレンドに入ったことから、改めて共同物 流が注目されている。
ライバル企業同士の共同化は周囲の耳目 を集めるため、これまでも多くの取り組みがニュースとして報告 されてきた。
しかし、定着しているケースは稀だ。
荷主同士の 共同化は“総論賛成・各論反対”に陥り、長続きしない。
(聞き手・大矢昌浩) 5  MARCH 2011 効率化へのモチベーションが働かない。
苦労が多い割にはメリットが少ない んです」  「一方で同じ会社内、同じグループ 内の共同物流も意外に長続きしない。
そもそも製品の荷姿が違う、配送先 が違う、商慣習が違う場合には、こ れを一緒にしてもほとんどメリットが 出ない」  「荷主同士で車両を往復利用しよう という取り組みも、狙いとしては理 解できますが効果は薄い。
トラック の往復実車率は今や七二%です。
近 で対応するというのはやはり無理な んです。
それぞれの荷姿、それぞれ の商慣習に合わせたサービスが求め られています。
そのため我々はこれ までの路線便に代わって、いわゆる 『業界プラットフォーム型3PL』が 今後の共同物流の主役になっていく と考えています」  「対象とする荷主、対象とする荷物 を絞り込んで、高度なサービスを集 中的に提供するインフラ型のソリュー ションです。
荷姿や商慣習を絞り込 むことでサービスレベルは上がってく るし、コストも低減できる」  「もう一つのパターンが調達物流で す。
つまりモノを買う側が物流をま とめる。
量販店の一括物流もそうで すが、買う側が物流を指定するわけ です。
顧客の要請ですから、売る側 としては従わざるを得ない。
そうい った必然性のある共同物流がこれか らの方向性だと思います」 距離のルート配送は通常片道ですか ら、長距離輸送だけを見れば実車率 はもっと高い。
帰りを空で走らせて いることなどまずありません。
荷主 に返り荷がない場合でも、物流事業 者は配車を仕立てる時点で帰り荷を 勝手に手当てしています。
従って荷 主の工夫する余地はほとんどない」 共同物流「成功の条件」 ──それではどうすれば共同物流を 成功させることができるのでしょうか。
 「やはりカギは各論の部分にある と言えます。
私自身の経験を元に説 明すると、以前に私は日本通運の東 北支店に営業マンとして勤務してお りました。
二〇年近く前のことです。
その時に自然発生的な食品の共同物 流を手がけたことがあります。
当時、 東北では仙台にあるビール工場や洋 酒工場のほとんどが日通の荷主でし た。
酒類以外の食品工場の仕事も受 託していました」  「各工場で生産した在庫を東北六県 の各メーカーの特約店や卸に納品す るのが我々の主な仕事でした。
ロッ トがまとまる荷物はもちろん貸切ト ラックによる工場直送ですが、それ 以外の荷物はすべて仙台の日通の拠 点に在庫を置いて、共同配送便や路 線便(特別積合わせ便) で出荷して いました」  「共同物流という言葉を取り立てて 使っていたわけではないし、当時は まだ情報システムが今ほど整備され ていませんでしたので、配車業務も いわゆる?カルタ取り?、机の上に伝 票を並べて担当者が積み合わせを工 夫するという原始的なやり方でした が立派に機能していました。
また東 北の北三県、青森、秋田、岩手とい った遠方への輸送にはJRコンテナ を使っていました。
モーダルシフトの 走りでもあったわけです」  「この自然発生的な共同物流が成り 立ったのは、メーカー各社の物流を 日通一社で受託していて、しかも輸 送手段の選択や配車業務まで一括し て請け負っていたからでした。
また 荷主各社との運賃契約は個別に行い、 運賃体系には距離と重量を併用した 従量制を採用するといった細かな配 慮が効いていました」 ──物流業者が主導することで荷主 企業同士の余計な摩擦を避けられる というのは理解できます。
そもそも 複数荷主の荷物を個建てで集めて混 載する路線便は共同配送の理想型と も言えます。
 「しかし残念ながら現状の路線便は、 そうなっていない。
荷姿や商慣習の 全く違う荷物を一つの輸送サービス ( やまだ・たけし)1979年、 横浜市立大学商学部卒。
同年 日本通運入社。
提案営業、国際・ 国内物流システム構築に携わっ た後、97年より日通総合研究 所経営コンサルティング部勤務。
09年6月より同社取締役教育 コンサルティング部長として物 流・ロジスティクス分野で必要 とされるノウハウをセミナー等 を通じて提供している。
実質国内総生産(GDP)と国内貨物輸送量の推移(1989 年度=100) 出所:内閣府「国民経済計算確報」、「四半期別GDP 速報」、国土交通省各種輸送 統計より日通総合研究所作成(2010 年度は予測値) 140 130 120 110 100 90 80 70 60 1990 1995 2000 2005 2010 419兆円 542兆円 65億トン 47億トン 実質GDP 総輸送量

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