ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2005年12号
判断学
楽天のTBS乗取りは成功するか

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2005 72 ライブドアVSフジテレビは、結局フジ側が買占め株を引き取るという形 で決着した。
しかし今回の楽天によるTBSの乗取りは事態が泥沼化する可能 性がある。
楽天とTBS、それぞれが抱える弱点とは何か。
「日本的買占め」=グリーン・メール ライブドアによるニッポン放送株の取得、村上ファンドに よる阪神電鉄株の取得に続いて楽天によるTBS株取得事 件が起こり、日本でもいよいよ本格的な企業買収時代がや ってきたといわれる。
イギリスやアメリカでは株式の買占めによる企業買収はご く普通のビジネスとしてやられているが、日本ではこれまで 安定株主工作によってそれを防止してきた。
ところがバブル 崩壊後、?持合い崩れ〞が起こり、銀行を中心に安定株主が 株を売ったために、安定株主構造が崩れた。
そこで日本で もいよいよ本格的な株の買占め=会社乗取り時代がやって きた、というわけだ。
ただ、これまでの動きをみると、そう簡単ではない。
ライ ブドアの場合、結局はフジテレビがニッポン放送株を引き取 るという形で解決しているが、このような形で会社側が買占 め株を引き取るというやり方が日本では簡単にやられてしま うからだ。
日本ではこれまで安定株主工作によって会社乗取りを防 止してきたが、逆にこの会社側が安定株主工作をすること をあて込んで株を買占めるということが流行した。
私はこれ を「日本的買占め」といっているが、これがアメリカに輸出 されたのがグリーン・メールである。
株を買占めて会社側に引き取らせるというのがこの「日 本的買占め」=グリーン・メールだが、ニッポン放送の場合 も結局はこれによってライブドアは儲けたのである。
同じよ うなことが阪神電鉄の場合にも考えられるし、TBSの場 合でも起こりうる。
もしそうなると、株を買占めた側はこれで大儲けするとい うことになるが、そうなるとこれをまねする投資ファンドや 企業が次々と現れてくる。
それは誘拐犯と同じで、カネを渡 すから次々と誘拐が起こり、歯止めが掛からなくなる。
もし会社が引き取らなかったら この「日本的買占め」では、これまでほとんどすべてのケ ースで買占められた株を会社側が引き取るという形で解決し たが、会社側にとってそれは大変な負担になる。
そこで一九 八七年に豊田自動織機の買占められた株をトヨタグループが 引き取るという事件のあと、財界では買占め株を引き取らな いと決議した。
誘拐犯にカネを渡さないと決めたのである。
それ以後、「日本的買占め」はなくなっていたのであるが、 ライブドア事件でこれが新しい形で再発した。
これと同じよ うなことが次々と起こると大変なことになる。
阪神電鉄の株を買占めた村上ファンドの場合、阪神電鉄 を乗取るのが目的でないことははっきりしている。
もしそん なことをすれば巨額の資金が寝てしまって、投資ファンドの出資者はたまらない。
そこで株価が上がったところで阪神電 鉄側が引き取れば、村上ファンドにとって大成功である。
し かし果たしてそううまくいくだろうか。
ライブドア、村上ファンドにくらべ楽天の場合は、はっき りと経営参加が目的であるとし、TBSに対して共同持株 会社の設立を申し込んでいる。
TBSと楽天が共同出資し て持株会社を設立した場合、楽天の三木谷社長が大株主と してその持株会社を買収することになり、これは事実上の三 木谷社長によるTBSの乗取りということになる。
そこでTBS側はどう出るか、ということがいま注目され ているのだが、もしTBS側が買占められた株を引き取れば、 楽天にとっては大成功とまではいわないにしても、儲かる話 ではある。
しかし、そううまくいくだろうか。
それよりも、財界はこ のような「日本的買占め」に対して抵抗するし、TBS側 もそれに同調せざるをえないだろう。
そうなるとこの事件は ニッポン放送の場合のように簡単に解決せず、泥沼に突っ 込んでいく危険性がある。
73 DECEMBER 2005 泥沼に突っ込むか では守る会社側の方はどうか。
これまでのTBSの経営 陣の発言、そして対応策を見ていると、これが株式会社の 経営者かと疑わざるをえない。
TBSの社長が「楽天の三木谷社長は子供のころ北風と 太陽のイソップ物語の話を読んでいないのではないか」と発 言したというが、これを聞いて、この人は株式会社、あるい は株式はどういうものかわかっているのか、と思った人が多 いに違いない。
三木谷氏が言うように、株を買うのは自由であり、株式 を公開している以上、株式売買自由の原則がある。
もしそ れが駄目だというのであれば、株式の公開=上場をやめるべ きである。
これはイソップ物語の世界ではなく、ビジネスの世界、それも株の世界の話なのだ。
いったいなぜTBSは株式を公開したのか、その原点に 立ち返って考えるべきだ。
そしてTBSが発表している新株予約権の発行は乗取り 防止を目的にしたものだが、これは株主の権利を侵害するも のだし、裁判所で不公正な株式発行として違法判決を受け る可能性がある。
さらにこの乗取り防衛策の発動に際して、企業価値評価 特別委員会という第三者機関を作っており、そこで審議す るというが、この委員はいったい誰が決めたのか。
会社側が 委員を決めておいて、これを「第三者」といっても誰もそれ を信用する人はいないだろう。
そのほか、これまでのTBS側のこの事件に対する対応を みていると、いかにも株式会社の原理がわかっていないとい わざるをえない。
このような会社側の態度が事件の解決をお くらせ、泥沼に突っ込んでいく可能性が高い。
そうなると困 るのはTBSだけでなく楽天も困る。
そこで思わぬ方向に進 んでいくということになるという可能性もある。
おくむら・ひろし1930年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『会社は誰のもので もない』(ビジネス社)。
株価が下がれば失敗する 楽天がこれまでやってきたことは、高株価を利用して資金 を調達し、これでIT関連企業の株を取得して事業を伸ば していくというやり方である。
このような株高を利用して事 業を拡大するというやり方はライブドアの場合にも共通する し、村上ファンドの場合もまた株高を利用して儲けるという やり方である。
このようなやり方はアメリカでも大流行したことがある。
一九六○年代のコングロマリット合併がそれである。
そこで は株価収益率(PER)の高い会社がPERの低い会社の 株を買占めて乗取るという形で急拡大していった。
同業種 の会社を乗取ると反トラスト法違反になるので、全く異なる 業種の企業を乗取っていったのだが、これでアメリカの大企 業はショックを受け、ニクソン政権がコングロマリット退治 に乗り出した。
その結果、一九七○年代になってコングロマ リット合併の動きは衰えていき、コングロマリット企業の倒 産が続いた。
ライブドアや村上ファンド、楽天はある意味でこのコング ロマリットに似ている。
このやり方の危険性は、株高を前提 としているため株価が下がればすべて駄目になるというとこ ろにある。
楽天の場合、新興企業で企業の規模が小さいにもかかわ らず、株式の時価総額は大きく、TBSを上回っている。
し かし、TBS株取得のために増資をすれば株価は下がるし、 買占めがうまくいかず、事件が長期化すればさらに株価が下 がるだろう。
そうなると楽天の戦略はすべて駄目になる。
株 価が上がり続けるという前提で買占めが行われており、もし 株価が下がればすべて失敗するということになる。
ともあれ、村上ファンドにせよ、楽天にせよ、それは株価が 上がり続けるという前提に立ってはじめて成功するものであ る。
事件が長引いて、泥沼にはまると失敗する危険性が高い。

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