ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年3号
物流指標を読む
第27回 それでもトラック運賃は上昇する「企業向けサービス価格指数(CSPI)」日本銀行「トラック運送業界の景況感」全日本トラック協会「企業物流短期動向調査」日通総合研究所

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む MARCH 2011  82 それでもトラック運賃は上昇する 第27 回 ●足下の低下基調は徐々に緩やかに ●貨物輸送量は小幅な減少の見通し ●原油価格高騰が燃料価格にも影響 さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
トラック運賃は暗黒大陸  先月号で紹介したバイロン・ウィーン氏の「一〇 大びっくり予想」(Ten of Surprise)は、「世の中 の人々は三分の一未満の確率でしか起こらないと 考えているが、ウィーン氏は七〇%の確率で起こる と確信している事柄」をサプライズとして発表して いるものだ。
それに倣って、筆者も一一年度のト ラック運賃について、「運賃水準自体に大きな変動 はみられないと思うが、基調としては若干の上昇 に向かうのではないか」と予想した。
別にそれほ ど突拍子もない予想だとは思っていないのである が、ある人から「非常に大胆な予想」と評された。
 確かに、トラック事業者に運賃水準の話を聞く と、「下がっている」と一様に口を揃える。
そも そも、トラック運賃は読みにくい。
以前、燃料価 格の高騰を受けて、本誌(二〇〇八年九月号)が 「トラック運賃急騰!」という記事を掲載した時 でさえも、「運賃水準は低下している」と言って いた事業者は少なくなかった。
トラック運賃の水 準は相対で決められるケースが多いため、決定に 際しては力関係など様々な要素が働き、その結果、 「コストは上昇しても運賃水準は上がらない」と いった、業界外の人々には理解不能な現象がしば しば起こる。
トラック運賃は?暗黒大陸?なのだ。
 とは言っても、「運賃水準は上がるところもあれ ば、一部では横ばい、ところによっては低下」な どといった、一昔前の天気予報のような不明瞭な 予想ではどうしようもない。
「大胆な予想」と揶揄 されるのを覚悟で、その根拠を示してみたい。
 まず足元のトラック運賃(一般)の動向を整理 してみよう。
日本銀行の「企業向けサービス価格 指数(CSPI)」をみると、一〇年一〇〜十二月 の貸切貨物輸送については九八・九(注:〇五年 平均=一〇〇)で、前期比で〇・二ポイント、前 年同期比で〇・七ポイント低下している。
 次に、全日本トラック協会「トラック運送業界 の景況感」調査(一〇年一〇〜十二月期調査)に よると、一〇年一〇〜十二月の一般貨物の運賃・ 料金水準判断指標はマイナス二一で、前期との比 較では六ポイント、前年同期との比較では十三ポ イントの上昇となっている。
 最後に、日通総合研究所「企業物流短期動向調 査」(一〇年十二月調査)によると、一〇年一〇 〜十二月の一般トラックの運賃動向指数はマイナ ス一で、前期との比較では一ポイント、前年同期 との比較では九ポイントの上昇となっている。
 以上のことから、一般トラックの運賃水準は、足 元においては引き続き低下傾向にあるものの、低 下基調は徐々に緩やかになってきていると判断で きる。
しかも、運賃・料金水準判断指標、運賃動 向指数の推移をみると、総じて、実績値が前回調 査時点(三カ月前)における見通しの値を上回っ ていることから、予想以上に底堅い動きとなって いることが分かる。
ちなみに、一一年一〜三月の 見通しでは、運賃・料金水準判断指標がマイナス 二一、運賃動向指数がマイナス三となっているが、 次回調査における実績値はこれよりも若干上ぶれ する可能性がある。
 次に、今後の運賃水準の動向を左右すると考え られる指標の動きについて予想してみよう。
すな わち、先月号でも書いたように、?貨物量、?コ 「企業向けサービス価格指数(CSPI)」日本銀行 「トラック運送業界の景況感」全日本トラック協会 「企業物流短期動向調査」日通総合研究所 83  MARCH 2011 諸国における反政府運動が中東産油国にも波及す るという思惑や、原油輸送の大動脈となっている スエズ運河が封鎖される懸念などから、一月末に 北海ブレンド原油は、二年四カ月ぶりに一バレル= 一〇〇ドルを突破した。
現状はいくぶん落ち着き を取り戻しているものの、今後はさらに一段の高 値に向かって上昇する可能性が高いと思う。
その根 拠として、第一に、中国など新興国を中心とした、 世界的な石油需要の拡大が見込まれることがあげ られる。
IEA(国際エネルギー機関)は、一月 の月報で、一一年の世界石油需要見通しを日量で 八九一〇万バレルと発表している。
第二に、米国 の金融緩和に伴い溢れ出したマネーが商品市場に も参入して、金や原油、穀物などの値段をつり上 げていること。
さらに付け加えれば、昨今の猛暑 や厳冬といった気候要因も無視できない。
 こうしたことから、原油価格(WTI)の最 高値が一〇〇ドルを突破する可能性は高い。
とは 言っても、一時一四七ドル台をつけた〇八年夏の ような大暴騰はないだろう。
IEAも、OPEC (石油輸出国機構)が石油需要の拡大を受けて供 給を増やす公算は大きいと予想している。
すなわ ち、短期的には供給余力は十分あるということだ から、一時的に一〇〇ドルを突破する可能性はあ るとしても、平均すると九〇ドル台で落ち着くの ではないか。
 こうした原油価格の高騰が、軽油やガソリンなど の燃料価格の高騰となって跳ね返ってくるのは避 けられない。
石油情報センター資料によると、軽 油価格、ガソリン価格とも昨年秋から冬にかけて、 じりじりと値を上げており、一年前と比較すると 一割弱上昇している。
仮に為替レートに大きな変 動がないものと想定すると、燃料価格は瞬間的に 現状比で二割程度高くなる可能性があり、一一年 度平均でも一割程度は上昇するのではないか。
 国土交通省「自動車運送事業経営指標(〇九年 版)」によると、車両台数二〇台以下のトラック事 業者における営業費(運送費+一般管理費)に占 める燃料費の割合は約一割であるから、燃料費が 一割上昇すれば、営業費は一%上昇することにな る。
物価水準はプラス基調  最後に、物価水準であるが、足元の国内企業物 価指数をみると、十二月は前年同期比でプラス一・ 二%、一月(速報)は同プラス一・六%となって おり、プラス基調が定着したとみてよい。
一一年 度全体では一%台の上昇となるのではないか。
な お、過去のトレンドをみると、国内企業物価指数 が前年同期比でマイナスである時は、貨物輸送量 が増加していても、運賃は上昇していない場合が 多い。
国内企業物価指数がマイナスという状況下 では、荷主の売上高も伸びないため、当然荷主か らの運賃引下げ要求が厳しくなる。
その結果、需 給が多少タイトになっても、運賃は上昇しないと いうことである。
 以上のように、プラス要因とマイナス要因が混在 するなかで、運賃水準自体に大きな変動はみられ ないと思うが、コスト、物価水準とも上昇が見込 まれることから、運賃を値上げしやすい環境にな りつつある。
したがって、トラック運賃は基調とし ては若干の上昇に向かうのではないかとみた。
スト、?物価水準な どである。
 はじめに、営業用 トラック輸送量につ いては、日通総研の 見通しによると、一 一年度はマイナス 〇・六%(注:建設 関連貨物を除くと マイナス〇・四%) と小幅な減少が見 込まれている。
自営 転換の動きが続くな かで、生産関連貨物 には微増が見込まれ る一方で、消費関連 貨物および建設関 連貨物がそれぞれ小 幅な減少となるから だ。
 次に、運送コスト を構成する各種要 素のうち、とくに変 動の大きい燃料費 の動向を左右する原 油価格および燃料 価格について考えて みよう。
 まず、原油価格で あるが、エジプトを はじめとするアラブ トラック運賃関連指標の推移 1〜3月 4〜6月 7〜9月 10〜12月 100.6 100.1 100.3 100.6 100.5 99.9 99.8 99.6 99.1 99.1 99.1 98.9 -16 -19 -18 -22 -40 -45 -37 -34 -25 -28 -27 -21 20 36 43 32 4 -13 -12 -10 -6 -4 -2 -1 CSPI − (貸切貨物輸送) 2008 年 1〜3月 4〜6月 7〜9月 10〜12月 2009 年 1〜3月 4〜6月 7〜9月 10〜12月 1〜3月 2010 年2011 年 運賃・料金水準判断指標 (一般貨物) 運賃動向指数 (一般トラック) -21 (見通し) -3 (見通し)

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