2011年4月号
ケース
ケース
独コンチネンタル・タイヤ 欧米SCM会議?
APRIL 2011 76
SCM担当に大きな権限
私はドイツのハノーバーに本社を置くコンチ
ネンタル・タイヤにおいて、SCMの責任者
を務めています。
まずは当社の親会社のコン チネンタルという会社の概要についてお話し ましょう。
創業は一八七一年で、四輪馬車や 自動車用のタイヤを生産するゴムメーカーと してスタートしました。
現在は「自動車部品部門」と「タイヤ部門」 の二部門に分かれており、両部門の下にそれ ぞれ三つの事業部門を置いています(図1)。
売上規模は自動車部品メーカーとしては世界 第五位、タイヤメーカーとしてはブリヂスト ン、ミシュラン、グッドイヤーに次いで第四 位です。
タイヤというと、他の消費財と比べて無骨 なイメージを持たれる方も多いと思いますが、 当社にとっては売上高の最も大きな部門であ り、営業利益率も一六%と最も高くなってい ます。
一〇年前から進めてきたSCM改革が、 この高い利益率の背景となっています。
当社のタイヤ部門には、「乗用車&小型トラ ックタイヤ部門」と大型トラック用のタイヤを 扱う「商用車用タイヤ部門」、そして修理な どを行う「Conti Tech」と呼ぶ三 つの部門があります。
そして乗用車&小型トラックタイヤ部門は、 自動車メーカーが完成した車に装着するタイ ヤを販売する部門と、個人も含めたユーザー や修理店にタイヤを販売する部門の二つに分 かれています。
このうち細かい対応を求めら れるのは後者の補修用タイヤで、それが今回 のSCM改革のターゲットでした。
そのサプライチェーンとしては、本拠地で あるヨーロッパ・中東・アフリカ(EMEA) 地域には九工場と二二カ所の物流センターを 構えています。
南北アメリカは三工場・七物 流センター、アジア・太平洋地域は二工場・ 八物流センターです。
独コンチネンタル・タイヤは10年越しで補修用タ イヤのサプライチェーン改革に取り組んでいる。
情報 システムをグローバルに統合し、SCM部門に権限を 与えて製販を同期化。
さらには取引先別・商品別の 利益率に応じてサービスレベルを調整し利益の最大化 を図った。
同社SCM部門のトップを務めるダーク・ ピーターマン氏が改革の軌跡を語る。
欧米SCM会議? 独コンチネンタル・タイヤ 顧客別・商品別の利益率に応じて サービスレベルと在庫水準を調整 図1 コンチネンタルの組織図 コンチネンタルAG 自動車部品部門タイヤ部門 シャシー&セイフティ パワートレイン インテリア 乗用車&小型トラックタイヤ 商用車用タイヤ Conti Tech 売上高 43.7 億ユーロ 営業利益 3.5 億ユーロ 売上高 34 億ユーロ 営業利益 ▲2 億ユーロ 売上高 43.6 億ユーロ 営業利益 5.6億ユーロ 売上高 47 億ユーロ 営業利益 7.7億ユーロ 売上高 10.7 億ユーロ 営業利益 0.2 億ユーロ 売上高 24.1 億ユーロ 営業利益 2.4 億ユーロ 77 APRIL 2011 この他、OEM(相手先ブランドによる生 産)まで含めると、世界一六カ国の計二五カ 所に生産拠点を配置しています。
一方、販売 体制は十三カ国・二二〇〇カ所に拠点を構え ています。
このサプライチェーンを使って二〇 〇九年度には約一億本のタイヤを販売しまし た。
改革以前の当社はセクショナリズムに陥っ ていました。
生産部門、ロジスティクス部門、 販売部門がそれぞれに需要予測や生産計画を 立てていました。
予測や計画を立案するのに 多くの手作業が発生し、時間の無駄とミスの 原因となっていました。
またサプライチェー ンに透明性がないため、注文したタイヤがい つ届くのか不確かで、多くの在庫を抱えるこ とを余儀なくされていました。
我々が最初にSCM改革に着手したのは二 〇〇一年のことです。
次の四つの段階を踏ん で改革を進めました。
まずはEMEA地域を対象にして、〇一年 から〇三年までの二カ年計画を作成しました。
このフェーズで部門ごとに行っていた。
需要 予測を一つにまとめ、生産計画についても 「マスタープラン」を作ることにしました。
そ のツールとして「i2テクノロジーズ(二〇一 〇年一月にJDAソフトウエアが買収)」のソ フトウエアを導入しました。
また、各部門が緊密に連携をとるための組 織改革として、販売部門に「市場需要マネジ ャー」を配し、工場には「供給計画マネジャ ー」を配しました。
「市場需要マネジャー」の 主な責務は、需要予測の質を高めること、サ ービスレベルを設定することなどです。
一方、 「供給計画マネジャー」の責務は、計画通りに 生産を進めることや地域ごとに適正な在庫水 準を保つことです。
さらに両者の間に「サプライチェーン・マ ネジャー」を置いて、生産・販売間の調整を 行う役割を持たせました。
両部門にデータ提 出の締め切りなどのルールを順守させて、両 者の間に利害の対立があった場合にはその調 整を図り、最終的な決断を下します。
「サプライチェーン・マネジャー」には大き な権限が与えられました。
このことは、それ まで各部門がそれぞれに権利と権限を持って いた当社にとって、大きな戦略の転換を意味 しました。
SCMコミュニティの誕生 情報システム面では生産部門が運用してい る「商品の補充計画」をウェブ上で販売部門 にも把握できる仕組みを作りました。
販売部 門にはそれに基づいて、いつまでに注文のタ イヤを納入することができるのかを顧客に回 答することを義務付けました。
生産計画はそれまで、作業に一カ月もかけ て翌月の計画を立案していました。
これを改 め、まず十二〜一八カ月先の計画を立て、そ れを週次で修正する体制に変更しました。
そ の結果、先行きの見通しが格段に良くなりま した。
また工場と販売とロジスティクス部門 が合同で需要予測を立てるようにしたことで、 精度が大幅に向上しました。
これによって在庫水準が下がり、在庫回転 率がそれまでと比べて二五ポイント上がりま した。
同時に「配達能力」と「配達の信頼 性」も向上しました。
その結果、当社の使用 総資産利益率(ROCE)は、その分母とな る「資産」と「支出」が減り、「利益」が増 えたことで、大きく向上しました。
これが第 一段階の改革の成果です(図2)。
第二段階の〇四年から〇六年には、この取 図2 第1 段階のSCM 改革 新戦略SCM の主な指標使用総資本 利益率 需要予測の (ROCE) 一本化 生産の マスタープラン 商品の補充 顧客への解答 需要予測の 精度 在庫 配達能力 配達の 信頼性 資産 支出 利益 APRIL 2011 78 り組みを南北アメリカとアジア・太平洋地域 に広げました。
EMEAと同様に、需要予測 を一本化したり、生産のマスタープランを作 るだけでなく、全社で使用する「KPI(重 要業績評価指標)」を設定して、業務内容の 改善を明確に把握することを目標に掲げまし た(図3)。
そのツールとして我々SCM部門が主導す るかたちで「スコアカード」を導入しました。
各工場や営業所の実績を全社で決めたKPI に沿って評価したスコアカードを、本社のS これにはi2テクノロジーズの需要予測の ソフトウエアを全社的に導入したこと、そし てサプライチェーンに関するすべての数字をS APのソフトウエアのテンプレート上で見るこ とができるようにしたことが大きかったと思 います。
すべての数字が、世界のどの拠点で も同じ形式で表示され、同じ意味を持つよう になったわけですから。
顧客別利益率でサービス水準を調整 この第二段階の全社における取り組みでK PIの改善に成果を上げた後、第三段階に進 みました。
〇六年から〇八年にかけて、全地 域で「顧客と商品の集中」の取り組みをはじ めました。
取引先には、利益率の高い取引先もあれば、 利益率の低い取引先もあります。
例えば大手 量販店の注文は発注量こそ多いけれども利益 率は低く、小さな町の特約店は発注量は小さ くても利益率は高い傾向にあります。
それまでの改革の成果として、コンチネン タル・タイヤへの注文は期日通りにタイヤが 届くという認識が取引先の間に広まっていま した。
しかし、工場は注文を受け付けた順番 に従って生産しているだけでした。
それでは 利益率は上がっていきません。
そこで「サー ビス・レベル・マネジメント」と名付け、利 益率の高い顧客からの注文を優先するように しました。
製品にも同じことが言えます。
タイヤの種 CM部門で毎月作成します。
それを受け取っ た各組織では、結果を分析して改善案を報告 書にまとめます。
その報告書を本社SCM部 門が最終的なレポートにまとめ、経営陣の元 に届けるのです。
こうしたスコアカードに基づく改善活動に 継続的に取り組むことで、「在庫水準」や「配 達能力」、「配達の信頼性」といったKPIの 指標はいずれも大きく改善されました。
また、この取り組みを通じて、全社にサプ ライチェーンに対する理解と、その手法が有 効であるという認識が浸透しました。
そして 社内に「サプライチェーン・コミュニティ」と も呼ぶべきものが出来上がっていきました。
各工場・営業所のSCM担当者には、月 に一回の電話による会議に参加することを義 務付けました。
また、年に一回は本社に集ま り、二、三日をかけて、会議やワークショッ プを行いました。
これによってサプライチェ ーンに関する認識を深め、問題意識を共有す ることに努めました。
サプライチェーンの関連用語やデータの見 方に関して社内に共通知識が出来上がったこ とは、SCMの精度を高める上で、大きなア ドバンテージとなりました。
それ以前は、サ プライチェーンの諸問題や課題を話し合うたび に、専門用語や数字の説明にかなりの時間を とられていました。
その必要がなくなり、す ぐ本題に入って大切なことを議論できるよう になりました。
図3 各地域のKPI の導入 ●本社のSCM 部門が 毎月5 日までに作成 各拠点の月次KPI 分析 ●スコアカードが届いて3日 以内に作成 ●各地域で分析 ●改善の手法を本社に報告 本社SCM 部門のレポート ●スコアカードが届いて3日 以内に作成 ? ? ? ? スコアカード 本社の幹部 地域組織の フィードバック 79 APRIL 2011 さらに〇八年から取り組んでいるのは、工 場の生産体制の改革です。
「サービス・レベ ル・マネジメント」と「プロダクト・セグメン テーション」によって、市場の動向に機敏に 反応できるサプライチェーンが出来上がりま した。
しかし工場の生産体制には課題があり ました。
当社の工場における生産スケジュールは、 三カ月を一つのサイクルとして、年に四サイク ルを回しています。
つまり四半期ごとに、一 つのサイクルが回るわけです。
従来はその四 半期の第一週から第五週までは、期初に立て た生産計画通りに進めて、第六週以降を実需 に合わせて調整するというやり方でした。
しかしこれでは、生産を実需に合わせるの に十分な時間が取れないことが分かりました。
そこで期初に立てた計画通りに生産する期間 を、第一週から第五週ではなく、第一週から 第二週の二週間に短縮しました。
残りの一〇 週間は、販売部門から上がってくる実需情報 に合わせて生産するようにしたのです。
こうすることによって、市場動向に合わせ た迅速な生産体制ができあがりました。
この スピードアップによって、生産体制を消費者 のニーズに一層近づけることができました。
(ジャーナリスト 横田増生) (注)この原稿は、二〇一〇年六月にチェコで行われた「ヨーロ ッパSCM&ロジスティクス・サミット」のセミナーの講義 内容をセミナーの主催者であるWTGイベントから掲載に ついての承諾を得た上で、該当企業のホームページの情報 などを加えて再編集したものです。
市場に近い物流センターで多く抱えていた在 庫を、工場側の倉庫に移したことです。
利益 率を勘案して一番利益率の高い取引先にタイ ヤを送るには必要な施策でした。
当初は工場 側の保管能力に不足が生じましたが、倉庫を 拡張したり、新たな倉庫を建てることで対処 しました。
工場の生産体制にもメス 営業マンへの説明にも時間をかけました。
量販店からの大量の注文を手にした営業マン に対して、「今すぐその注文を発注すると、後 から入ってくるかもしれない利益率の高い注 文が受けられなくなるかもしれないから、発 注をかけるのを待つように」と説得するのは 容易なことではありませんでした。
しかし、顧客をランク付けする前と後の利 益率の違いを示すことで、注文の対応に差異 をつけることに対する営業マンの抵抗は次第 に薄らいでいきました。
類によって利益率は違います。
当社で一番利 益率の高い商品は「コンチネンタルUHP」と いうタイヤです。
一方で他社のPB(プライ ベート・ブランド)商品の生産を請け負って いる場合などは利益率は高くありません。
それでも従来は、どのタイヤも区別せず に同じレベルの在庫水準を維持していました。
これを改めてタイヤも商品ごとの利益率に応 じて在庫水準を変えるようにしました。
利益 率の高いタイヤの在庫は多く持ち、利益率の 低いタイヤの在庫を減らしたわけです。
これ を「プロダクト・セグメンテーション」と名付 けました。
この二つを組み合わせて、サプライチェー ンの態勢を組 み直したとこ ろ、「在庫」は 減り、「在庫回 転率」と「注文 即納率」は高ま りました。
財 務諸表におい てはさらに「資 産」と「支出」 が減って、「利 益」が上がりま した(図4)。
この取り組 みのポイント は、これまで 企業概要 社 名 コンチネンタルAG 創 業 1871 年 本 社 ドイツ ハノーバー 会 長 エルマー・デーゲンハルト 売上高 200 億9600 万ユーロ (2兆2708億4800万円) EBITA 15 億9100 万ユーロ (1797 億8300 万円) 従業員数 13 万4434 人 (注1)いずれも2009年度末の数字 (注2)1ユーロ= 113円で換算 図4 第3 段階のSCM 改革 新戦略SCM の主な指標 サービスレベル マネジメント プロダクト・ セグメンテーション 在庫 在庫回転率 注文即納率 ROCE 資産 支出 利益
まずは当社の親会社のコン チネンタルという会社の概要についてお話し ましょう。
創業は一八七一年で、四輪馬車や 自動車用のタイヤを生産するゴムメーカーと してスタートしました。
現在は「自動車部品部門」と「タイヤ部門」 の二部門に分かれており、両部門の下にそれ ぞれ三つの事業部門を置いています(図1)。
売上規模は自動車部品メーカーとしては世界 第五位、タイヤメーカーとしてはブリヂスト ン、ミシュラン、グッドイヤーに次いで第四 位です。
タイヤというと、他の消費財と比べて無骨 なイメージを持たれる方も多いと思いますが、 当社にとっては売上高の最も大きな部門であ り、営業利益率も一六%と最も高くなってい ます。
一〇年前から進めてきたSCM改革が、 この高い利益率の背景となっています。
当社のタイヤ部門には、「乗用車&小型トラ ックタイヤ部門」と大型トラック用のタイヤを 扱う「商用車用タイヤ部門」、そして修理な どを行う「Conti Tech」と呼ぶ三 つの部門があります。
そして乗用車&小型トラックタイヤ部門は、 自動車メーカーが完成した車に装着するタイ ヤを販売する部門と、個人も含めたユーザー や修理店にタイヤを販売する部門の二つに分 かれています。
このうち細かい対応を求めら れるのは後者の補修用タイヤで、それが今回 のSCM改革のターゲットでした。
そのサプライチェーンとしては、本拠地で あるヨーロッパ・中東・アフリカ(EMEA) 地域には九工場と二二カ所の物流センターを 構えています。
南北アメリカは三工場・七物 流センター、アジア・太平洋地域は二工場・ 八物流センターです。
独コンチネンタル・タイヤは10年越しで補修用タ イヤのサプライチェーン改革に取り組んでいる。
情報 システムをグローバルに統合し、SCM部門に権限を 与えて製販を同期化。
さらには取引先別・商品別の 利益率に応じてサービスレベルを調整し利益の最大化 を図った。
同社SCM部門のトップを務めるダーク・ ピーターマン氏が改革の軌跡を語る。
欧米SCM会議? 独コンチネンタル・タイヤ 顧客別・商品別の利益率に応じて サービスレベルと在庫水準を調整 図1 コンチネンタルの組織図 コンチネンタルAG 自動車部品部門タイヤ部門 シャシー&セイフティ パワートレイン インテリア 乗用車&小型トラックタイヤ 商用車用タイヤ Conti Tech 売上高 43.7 億ユーロ 営業利益 3.5 億ユーロ 売上高 34 億ユーロ 営業利益 ▲2 億ユーロ 売上高 43.6 億ユーロ 営業利益 5.6億ユーロ 売上高 47 億ユーロ 営業利益 7.7億ユーロ 売上高 10.7 億ユーロ 営業利益 0.2 億ユーロ 売上高 24.1 億ユーロ 営業利益 2.4 億ユーロ 77 APRIL 2011 この他、OEM(相手先ブランドによる生 産)まで含めると、世界一六カ国の計二五カ 所に生産拠点を配置しています。
一方、販売 体制は十三カ国・二二〇〇カ所に拠点を構え ています。
このサプライチェーンを使って二〇 〇九年度には約一億本のタイヤを販売しまし た。
改革以前の当社はセクショナリズムに陥っ ていました。
生産部門、ロジスティクス部門、 販売部門がそれぞれに需要予測や生産計画を 立てていました。
予測や計画を立案するのに 多くの手作業が発生し、時間の無駄とミスの 原因となっていました。
またサプライチェー ンに透明性がないため、注文したタイヤがい つ届くのか不確かで、多くの在庫を抱えるこ とを余儀なくされていました。
我々が最初にSCM改革に着手したのは二 〇〇一年のことです。
次の四つの段階を踏ん で改革を進めました。
まずはEMEA地域を対象にして、〇一年 から〇三年までの二カ年計画を作成しました。
このフェーズで部門ごとに行っていた。
需要 予測を一つにまとめ、生産計画についても 「マスタープラン」を作ることにしました。
そ のツールとして「i2テクノロジーズ(二〇一 〇年一月にJDAソフトウエアが買収)」のソ フトウエアを導入しました。
また、各部門が緊密に連携をとるための組 織改革として、販売部門に「市場需要マネジ ャー」を配し、工場には「供給計画マネジャ ー」を配しました。
「市場需要マネジャー」の 主な責務は、需要予測の質を高めること、サ ービスレベルを設定することなどです。
一方、 「供給計画マネジャー」の責務は、計画通りに 生産を進めることや地域ごとに適正な在庫水 準を保つことです。
さらに両者の間に「サプライチェーン・マ ネジャー」を置いて、生産・販売間の調整を 行う役割を持たせました。
両部門にデータ提 出の締め切りなどのルールを順守させて、両 者の間に利害の対立があった場合にはその調 整を図り、最終的な決断を下します。
「サプライチェーン・マネジャー」には大き な権限が与えられました。
このことは、それ まで各部門がそれぞれに権利と権限を持って いた当社にとって、大きな戦略の転換を意味 しました。
SCMコミュニティの誕生 情報システム面では生産部門が運用してい る「商品の補充計画」をウェブ上で販売部門 にも把握できる仕組みを作りました。
販売部 門にはそれに基づいて、いつまでに注文のタ イヤを納入することができるのかを顧客に回 答することを義務付けました。
生産計画はそれまで、作業に一カ月もかけ て翌月の計画を立案していました。
これを改 め、まず十二〜一八カ月先の計画を立て、そ れを週次で修正する体制に変更しました。
そ の結果、先行きの見通しが格段に良くなりま した。
また工場と販売とロジスティクス部門 が合同で需要予測を立てるようにしたことで、 精度が大幅に向上しました。
これによって在庫水準が下がり、在庫回転 率がそれまでと比べて二五ポイント上がりま した。
同時に「配達能力」と「配達の信頼 性」も向上しました。
その結果、当社の使用 総資産利益率(ROCE)は、その分母とな る「資産」と「支出」が減り、「利益」が増 えたことで、大きく向上しました。
これが第 一段階の改革の成果です(図2)。
第二段階の〇四年から〇六年には、この取 図2 第1 段階のSCM 改革 新戦略SCM の主な指標使用総資本 利益率 需要予測の (ROCE) 一本化 生産の マスタープラン 商品の補充 顧客への解答 需要予測の 精度 在庫 配達能力 配達の 信頼性 資産 支出 利益 APRIL 2011 78 り組みを南北アメリカとアジア・太平洋地域 に広げました。
EMEAと同様に、需要予測 を一本化したり、生産のマスタープランを作 るだけでなく、全社で使用する「KPI(重 要業績評価指標)」を設定して、業務内容の 改善を明確に把握することを目標に掲げまし た(図3)。
そのツールとして我々SCM部門が主導す るかたちで「スコアカード」を導入しました。
各工場や営業所の実績を全社で決めたKPI に沿って評価したスコアカードを、本社のS これにはi2テクノロジーズの需要予測の ソフトウエアを全社的に導入したこと、そし てサプライチェーンに関するすべての数字をS APのソフトウエアのテンプレート上で見るこ とができるようにしたことが大きかったと思 います。
すべての数字が、世界のどの拠点で も同じ形式で表示され、同じ意味を持つよう になったわけですから。
顧客別利益率でサービス水準を調整 この第二段階の全社における取り組みでK PIの改善に成果を上げた後、第三段階に進 みました。
〇六年から〇八年にかけて、全地 域で「顧客と商品の集中」の取り組みをはじ めました。
取引先には、利益率の高い取引先もあれば、 利益率の低い取引先もあります。
例えば大手 量販店の注文は発注量こそ多いけれども利益 率は低く、小さな町の特約店は発注量は小さ くても利益率は高い傾向にあります。
それまでの改革の成果として、コンチネン タル・タイヤへの注文は期日通りにタイヤが 届くという認識が取引先の間に広まっていま した。
しかし、工場は注文を受け付けた順番 に従って生産しているだけでした。
それでは 利益率は上がっていきません。
そこで「サー ビス・レベル・マネジメント」と名付け、利 益率の高い顧客からの注文を優先するように しました。
製品にも同じことが言えます。
タイヤの種 CM部門で毎月作成します。
それを受け取っ た各組織では、結果を分析して改善案を報告 書にまとめます。
その報告書を本社SCM部 門が最終的なレポートにまとめ、経営陣の元 に届けるのです。
こうしたスコアカードに基づく改善活動に 継続的に取り組むことで、「在庫水準」や「配 達能力」、「配達の信頼性」といったKPIの 指標はいずれも大きく改善されました。
また、この取り組みを通じて、全社にサプ ライチェーンに対する理解と、その手法が有 効であるという認識が浸透しました。
そして 社内に「サプライチェーン・コミュニティ」と も呼ぶべきものが出来上がっていきました。
各工場・営業所のSCM担当者には、月 に一回の電話による会議に参加することを義 務付けました。
また、年に一回は本社に集ま り、二、三日をかけて、会議やワークショッ プを行いました。
これによってサプライチェ ーンに関する認識を深め、問題意識を共有す ることに努めました。
サプライチェーンの関連用語やデータの見 方に関して社内に共通知識が出来上がったこ とは、SCMの精度を高める上で、大きなア ドバンテージとなりました。
それ以前は、サ プライチェーンの諸問題や課題を話し合うたび に、専門用語や数字の説明にかなりの時間を とられていました。
その必要がなくなり、す ぐ本題に入って大切なことを議論できるよう になりました。
図3 各地域のKPI の導入 ●本社のSCM 部門が 毎月5 日までに作成 各拠点の月次KPI 分析 ●スコアカードが届いて3日 以内に作成 ●各地域で分析 ●改善の手法を本社に報告 本社SCM 部門のレポート ●スコアカードが届いて3日 以内に作成 ? ? ? ? スコアカード 本社の幹部 地域組織の フィードバック 79 APRIL 2011 さらに〇八年から取り組んでいるのは、工 場の生産体制の改革です。
「サービス・レベ ル・マネジメント」と「プロダクト・セグメン テーション」によって、市場の動向に機敏に 反応できるサプライチェーンが出来上がりま した。
しかし工場の生産体制には課題があり ました。
当社の工場における生産スケジュールは、 三カ月を一つのサイクルとして、年に四サイク ルを回しています。
つまり四半期ごとに、一 つのサイクルが回るわけです。
従来はその四 半期の第一週から第五週までは、期初に立て た生産計画通りに進めて、第六週以降を実需 に合わせて調整するというやり方でした。
しかしこれでは、生産を実需に合わせるの に十分な時間が取れないことが分かりました。
そこで期初に立てた計画通りに生産する期間 を、第一週から第五週ではなく、第一週から 第二週の二週間に短縮しました。
残りの一〇 週間は、販売部門から上がってくる実需情報 に合わせて生産するようにしたのです。
こうすることによって、市場動向に合わせ た迅速な生産体制ができあがりました。
この スピードアップによって、生産体制を消費者 のニーズに一層近づけることができました。
(ジャーナリスト 横田増生) (注)この原稿は、二〇一〇年六月にチェコで行われた「ヨーロ ッパSCM&ロジスティクス・サミット」のセミナーの講義 内容をセミナーの主催者であるWTGイベントから掲載に ついての承諾を得た上で、該当企業のホームページの情報 などを加えて再編集したものです。
市場に近い物流センターで多く抱えていた在 庫を、工場側の倉庫に移したことです。
利益 率を勘案して一番利益率の高い取引先にタイ ヤを送るには必要な施策でした。
当初は工場 側の保管能力に不足が生じましたが、倉庫を 拡張したり、新たな倉庫を建てることで対処 しました。
工場の生産体制にもメス 営業マンへの説明にも時間をかけました。
量販店からの大量の注文を手にした営業マン に対して、「今すぐその注文を発注すると、後 から入ってくるかもしれない利益率の高い注 文が受けられなくなるかもしれないから、発 注をかけるのを待つように」と説得するのは 容易なことではありませんでした。
しかし、顧客をランク付けする前と後の利 益率の違いを示すことで、注文の対応に差異 をつけることに対する営業マンの抵抗は次第 に薄らいでいきました。
類によって利益率は違います。
当社で一番利 益率の高い商品は「コンチネンタルUHP」と いうタイヤです。
一方で他社のPB(プライ ベート・ブランド)商品の生産を請け負って いる場合などは利益率は高くありません。
それでも従来は、どのタイヤも区別せず に同じレベルの在庫水準を維持していました。
これを改めてタイヤも商品ごとの利益率に応 じて在庫水準を変えるようにしました。
利益 率の高いタイヤの在庫は多く持ち、利益率の 低いタイヤの在庫を減らしたわけです。
これ を「プロダクト・セグメンテーション」と名付 けました。
この二つを組み合わせて、サプライチェー ンの態勢を組 み直したとこ ろ、「在庫」は 減り、「在庫回 転率」と「注文 即納率」は高ま りました。
財 務諸表におい てはさらに「資 産」と「支出」 が減って、「利 益」が上がりま した(図4)。
この取り組 みのポイント は、これまで 企業概要 社 名 コンチネンタルAG 創 業 1871 年 本 社 ドイツ ハノーバー 会 長 エルマー・デーゲンハルト 売上高 200 億9600 万ユーロ (2兆2708億4800万円) EBITA 15 億9100 万ユーロ (1797 億8300 万円) 従業員数 13 万4434 人 (注1)いずれも2009年度末の数字 (注2)1ユーロ= 113円で換算 図4 第3 段階のSCM 改革 新戦略SCM の主な指標 サービスレベル マネジメント プロダクト・ セグメンテーション 在庫 在庫回転率 注文即納率 ROCE 資産 支出 利益
