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APRIL 2011 80
目標達成に邁進する“企業気質”
近鉄エクスプレスは現在、三カ年(二〇一一年三
月期〜一三年三月期)の新中期経営計画「Ready
for the Next!(未来への挑戦)」を推進している。
〇八年の世界同時不況により、事業環境が激変し
たとの認識の下、欧米の競合他社と対等に戦える
経営構造の構築を狙ったものである。
最終年度の一三年三月期連結業績目標として、
売上高三〇〇〇億円、営業利益一五〇億円、営
業利益率五・〇%が掲げられた。 経営戦略の骨格
は、?強いアジアをつくる(経営資源の集中投下)、
?強いアジアを売る(欧米競合他社と戦える「売
る」仕組み作り)、?コアコンピタンス(人材、品
質、IT)の強化、?コンプライアンスの徹底と環
境についての管理体制の強化、の四点となる。 航
空貨物事業に偏らず、“グローバル・ロジスティク
ス・パートナー”としての地位を固めるべく、
(1)
バランスの取れた経営体制の構築、(
2) グローバル
市場での競争力の向上、を目指している。
近鉄エクスプレスは一一年三月期業績予想を上
方修正し、売上高二六〇〇億円、営業利益一〇
八億円としたが、期初予想が売上高二三五〇億
円、営業利益一〇〇億円であったことを踏まえれ
ば、売上高の上方修正額に比べ営業利益の伸びが
限定的となっている。
背景には航空スペースの仕入原価の上昇幅が大き
くなり、収支改善が限定的に留まったことがある。
特に一一年三月期上期は、荷動きは好調に推移し
たものの、航空貨物の需給逼迫を受け仕入原価が
上昇局面にあったこと、仕入コスト上昇分の荷主
への転嫁が難航、或いは一定のタイムラグを必要と
したこと、を主因に収益性の低下に直面した。
しかし、みずほ証券は引き続き近鉄エクプレス
を評価している。 日本を代表するフォワーダーと
して、中長期的には国際物流拡大の恩恵を受け続
けると考えられるためである。
一一年三月期会社予想は概ね達成可能とみられ、
一二年三月期以降も海外拠点の業容拡大、国内拠
点の合理化継続により、増収増益を確保すると予
想する。 足下の事業環境は、
(1)
荷動きの減速、
(2)
円高、
(3)
燃料油高騰、といった“三つの逆風”を
受けている。 中期経営計画に掲げられた一三年三
月期目標の達成は必ずしも容易ではないと思われる
が、株式市場においては近鉄エクスプレスの“企業
気質”に対する信認が厚い。 この“企業気質”を
通じて、計画達成への取り組みが期待される。
みずほ証券は三月八日、近鉄エクスプレスの目
標株価を二五五〇円から二八五〇円に引き上げ
た。 その前提として、一二年三月期業績を売上
高二七六〇億円、営業利益一二四億円と予想し
ている。
これには上記
(1)
〜
(3)
の“三つの逆風”、具体的
には、
(1)
は世界経済減速に伴う荷動きの調整、(
2)
近鉄エクスプレス
二〇一二年三月期以降も増収増益を確保
中長期的には国際物流拡大の恩恵続く
世界同時不況に端を発した事業環境の激
変に対応し、事業構造の強化を進めている。
荷動きの減速、円高の進展、燃料油高騰が
進んでいるため足下の事業環境は厳しいが、
近鉄エクスプレスの強みは海外展開力と経
営管理能力、そしてテーラーメードのサー
ビスにある。 中長期的には国際物流の拡大
による恩恵が続くだろう。
國枝 哲
みずほ証券 エクイティ調査部
運輸セクター シニアアナリスト
第67回
81 APRIL 2011
は海外拠点収益の為替換算による目減り、(3) は燃
料油高騰に伴う燃油サーチャージ(FSC)の収
受漏れ、等のネガティブ要因を勘案し、従来予想
を僅かながらも減額修正した経緯がある。 ただし、
中期経営計画の最終目標数値達成に向けて臨む
“企業気質”は織り込んだ。
この一二年三月期みずほ証券予想を基準に、P
ER(株価収益率)約十三倍を適用して目標株価
を算出している。 PERの適用水準は、
(1)
直近三
年間の実績平均値、
(2)
郵船ロジスティクスの妥当
株価を基にした予想PER水準(十二・七倍)と
の整合性、等を重視したものである。
今後の株価カタリスト(変動要因)としては、日
本からの航空貨物輸出量の動向がある。 一方、株
価リスクとして、
(1)
航空貨物スペースの仕入原価
の再上昇、
(2)
FSC問題の再燃、
(3)
それら収支要
因の荷主転嫁の遅延、等が挙げられる。 いずれに
せよ、近鉄エクスプレスは
(1)
国際物流市場の拡大
を享受し得る点、
(2)
ノンアセット型収支構造で損
失リスクが抑制されている点、
(3)
強い国際展開力
と経営管理力を併せ持つ点、で評価し得る。
海外部門が全社収支を牽引
航空貨物の輸送需要は、〇五年頃を境に頭打ち
傾向に転じている。 それ以前は短期的な振れを伴
いつつも、国際貨物が主導する形で総じて拡大基
調にあった。 しかしながら、?製造業のグローバ
リゼーションに伴う国内生産拠点の空洞化と現地
調達率の向上、?製造業による海外生産の安定化
とSCMの高度化に伴う緊急輸送需要の後退、?
航空貨物輸送を刺激する新しい販売商品等の低
迷、等に加えて、その後の燃料油価格の高騰も航
空貨物輸送を敬遠する流れを加速させた。
特に、日本発航空貨物需要は少子高齢化社会
の到来等もあり、今後も大きな成長は見込み難い
と思われる。 従ってフォワーダーには、?成長を
求めて海外展開を加速させること、?海上や鉄道、
トラックなどを組み合わせた複合輸送サービスの
開発と販売の強化を行うこと、等が求められる。
斯かる状況下、近鉄エクスプレスは予てより、?
営業販売力、?海外展開力、等に定評があり、業
績を拡大してきた実績がある。 国内物流各社との
比較においては、海外部門が全社収支を牽引し、
同社の競争力の源泉として位置付けられてきた
(図)。 今後は更に、成長著しいアジア発貨物の取
り込みに注力し、商圏を拡大する必要があると考
えている。
荷主は国際物流において海上輸送への志向を一
段と強めている。 更には、基本的な物流業務だけ
でなく、流通加工や在庫管理、情報処理等も含め
た物流業務全般を一括して外部委託する傾向にあ
る。 結果、近鉄エクスプレスは航空貨物以外の業
務を更に拡大させることも求められている。
同社は既に、国内における航空貨物需要の低迷
を受けて、事業戦略の見直しに着手している。 結
果、海上貨物とロジスティクスの両事業の強化を
通じた“グローバル・ロジスティクス・パートナ
ー”への転換を強く打ち出している。 当該戦略に
準じた取り組みは既に一定の成果を見せ始めてお
り、この傾向は今後更に強まるものと期待される。
一方、欧米の物流大手はM&Aを通じた業容の
拡大を一段と進めている。 中でも
(1)
海上貨物の取
扱量、
(2)
ロジスティクスの事業規模、においては
近鉄エクスプレスとの格差は鮮明である。
このため、近鉄エクスプレスは得意とするテーラ
ーメードサービスを通じて、陸上ネットワークから
倉庫、トラック、ITシステムなどを効率よく組
み合わせ、顧客のニーズに最適な物流システムの
提案に一段と注力することが求められている。 そ
して、このような対応をしなやかに且つ強力に推
進し得る企業文化と事業基盤を保持している企業
である、とみずほ証券では評価している。
地域別営業利益と海外営業利益比率の推移
00
/3期
日本
160
140
120
100
80
60
40
20
0
-20
(億円)
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
(%)
米州
01
/3期
02
/3期
03
/3期
04
/3期
05
/3期
06
/3期
07
/3期
08
/3期
09
/3期
10
/3期
11
/3期
12
/3期
13
/3期
(予想)
(予想)
(予想)
欧州・中近東・アフリカアジア・オセアニア
海外比率(右軸)
くにえだ さとる
一九九〇年日本興業銀行(現みずほ
コーポレート銀行)入行。 産業調査部、
市場投資調査部、株式投資室でガラ
ス・土石製品、運輸、自動車産業な
どを担当し、ポートフォリオマネジメ
ント部で債券流動化を推進。 二〇〇
三年より現職。 一橋大学商学部卒。
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