ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年4号
物流行政を斬る
第1回 公約実現を目指すなら高速道路料金はまずトラックを優遇すべき

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

公約実現を目指すなら 高速道路料金はまず トラックを優遇すべき  高速道路料金を原則無料化し、流通コスト・生活コストの低 減を図るという民主党のマニフェストは評価に値する。
しかし、 実態が伴っていない。
手厚く優遇されているのは普通車ばかり で、肝心のトラックの料金では限定的な措置しかとられていな い。
行政はわが国の物流をどう設計していきたいのか。
まずは 全体的なビジョンを示す必要がある。
第 1 回 国内物流の主役はトラック  企業が物流に関する活動を行う時、行政(政府) の動きを理解することはとても重要です。
高速道路 料金が無料になれば、船舶輸送をトラック輸送に代 える動きが出てくるでしょうし、排出ガス規制が強 化されればその逆も考えられます。
 本連載は、物流に関する行政の動きについて考え るものです。
本来、民間部門の自由な経済活動によ って効率的な資源配分が実現されれば、政府部門の 出る幕はありません。
何らかの不具合が生じるから こそ、政府部門の出番となります。
しかし民間部門 が「市場の失敗」を犯すように、政府もまた「政府 の失敗」を犯す可能性があります。
本連載ではこう した視点に立ち、行政の動きを考察してみたいと思 います。
 第一回目となる今回は、先の衆議院議員選挙で民 主党がマニフェストに掲げた「高速道路料金」に焦 点を当てて見ていくことにしましょう。
 国内物流の担い手を、?トラック、?船(内航海 運)、?鉄道、?航空、の四つに分けると、そのシ ェアはトンベース(重量ベース)で、?九一・七%、 ?七・四%、?〇・九%、?一・一%、トンキロ ベースで、?六二・一%、?三三・七%、?四・ 〇%、?〇・二%(二〇〇八年、国土交通省・総 合政策局情報管理部調べ)です。
トンキロという単 位は、一tの貨物を一 km 運んだ場合を一トンキロと したもので、五tの貨物を一〇 km 運べば五〇トンキ ロと表します。
 ここで、トンベース(重量ベース)とトンキロベー スで、トラックのシェアが大きく異なることに気付 くでしょう。
トンベースでは九一・七%なのに対し、 トンキロベースでは六二・一%です。
これは、重量 に掛け合わせる「距離」が異なることを意味してお り、トラックは船や鉄道に比べて短距離中心である ことが分かります。
また船や鉄道輸送の場合は、そ の両端をトラックに頼らざるを得ないケースが多い ことも背景にあるでしょう。
 一般に近・中距離のものはトラック、長距離のも のは船・鉄道で運ぶのが適していると言われます。
航空輸送は単価の高い商品や、リードタイムが短い ものが適しています。
識者により様々な意見があり ますが、概ね五〇〇〜六〇〇 km 位を境に、トラック と船・鉄道の使い分けがなされることでしょう。
こ のように輸送機関を変更することを「モーダルシフ ト」と呼びます。
 ここでは、トラックによる輸送が船や鉄道に比べ て近距離中心のものであることを確認しました。
た だし近年では、買い手企業によりサービス要求レベ ルが向上していることから、長距離であっても「追 っかけ」と呼ばれるトラックが使用されるケースが 増えてきていることには留意が必要です。
 わが国の物流行政の全体像および今後の方向を示 したものに、「総合物流施策大綱」があります。
現 在は二〇〇九年七月に閣議決定された二〇一三年ま での五カ年計画が実施されています。
 詳細はまた別の機会に見ますが、その柱は三つあ り、?グローバル・サプライチェーンを支える効率 的物流の実現、?環境負荷の少ない物流の実現等、 ?安全・確実な物流の確保等、が示されています。
このうち?は、 (1) 輸送モードの総合的な対策、モー ダルシフトを含めた輸送の効率化、 (2) 環状道路の整 備、ITSの推進等の交通流対策、(3) 地方公共団 体、荷主、物流事業者等の多様な関係者の連携によ る取組み、 (4) 効率的な静脈物流の構築、が描かれて います。
APRIL 2011  98 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 (財)流通経済研究所 客員研究員 寺嶋正尚  今ここで注目したいのは、 (1) の「モーダルシフト を含めた輸送の効率化」です。
要はわが国として、 環境に優しい輸送機関を今まで以上に使っていきま しょう、という政策です。
トラックに頼りすぎた現 状を改め、船や鉄道の可能性を見直しましょうとい うわけで、これを実現するにはもちろん、?発荷主、 ?着荷主、?輸送機関、の三者による協力が不可欠 になります。
 このように総合物流施策大綱は、わが国の物流行 政の大枠を決めるものですから、当然今回のテーマ である高速道路料金に関する事がらも、この施策大 綱の内容と整合性が取られていなければなりません。
モーダルシフトとの整合性も課題  二〇〇九年八月に行われた衆議院議員選挙で、民 主党は「政権政策manifesto2009(マニフェスト20 09)」を掲げ、圧勝しました。
その内容の多くは、 財源を考えなくて良いのであれば、高く評価して良 いことでしょう。
今ここでは、道路行政に関するも のに絞って見ていくことにしましょう。
 マニフェスト2009では、「高速道路を原則無 料化して地域経済の活性化を図る」としています。
その目的は、?流通コストの引き下げを通じて、生 活コストを引き下げる、?産地から消費地へ商品を 運びやすいようにして、地域経済を活性化する、? 高速道路の出入り口を増設し、今ある社会資本を有 効に使って、渋滞などの経済的損失を軽減する、で あり、それを実現するための具体策として「割引率 の順次拡大などの社会実験を実施し、その影響を確 認しながら、高速道路を無料化していく」としてい ます。
年間所要額は一・三兆円と試算されています。
 これを受け昨年六月には、二〇一一年三月まで の期間を「実験」と位置付ける形で、全国三七路 線・五〇区間一六五二 km を対象とする無料化が実 現しました。
そして二〇一一年一月にはこれら実 験の延長と、さらに六区間三二九 km を追加するこ とが決まりました。
この無料化は、車種を問わず 適用されますが、これら区間が全高速道路に占め る割合はわずか二二%であり、それも細切れの状 態になっています。
 料金に関しては、普通車は土日・祝日が上限一 〇〇〇円、平日 が上限二〇〇〇 円になりました。
この料金を支払え ば、乗り放題とい うわけです。
これ に対しトラックは、 夜間利用料金の 無料区間一四九 三 km が新設された ものの、その他の 区間では料金の上 限制導入が見送 られ、従来通り の割引(大口多頻 度・通勤・深夜 など)が行われる ことになりました (二〇一〇年十二 月二四日・国土 交通省発表)。
 ここで考えてみたいのですが、これら施策により、 先に見たマニフェストの目的、「流通コストの引き下 げを通じて、生活コストを引き下げる」、「産地から 消費地へ商品を運びやすいようにして、地域経済を 活性化する」は実現出来るでしょうか。
本気でこれ を実現するなら、普通車よりもむしろ、先ずはトラ ックの利用料金を安くすべきなのではないでしょう か。
しかも効率的な大口輸送を促すべく、中型トラ ックより大型トラックの料金割引率を高く設定して も良いかも知れません(輸送ロットサイズの拡大を 促す)。
 またモーダルシフトとの関連で言えば、前節で見 たように五〇〇〜六〇〇 km 以上の輸送に関しては船 や鉄道を利用して貰えるよう、例えば距離に対する 累進性を持たせた料金体系を設計することも一案か も知れません。
 いずれにせよ現在の道路行政には、今後わが国の 物流をどう設計していきたいのか、その上で高速道 路網はどうしたいのか、といった全体的なビジョン が欠けていると言わざるを得ません。
これがあって 初めて、望ましい料金体系や負担のあり方について 考えることが出来ます。
今はまだ実験の段階でしょ うが、近い将来それら一連の実験結果を踏まえ、掲 げた目的に合致した望ましい施策が展開されること が期待されるところです。
99  APRIL 2011 国内物流の割合(トンキロベース) 国内物流の割合(トンベース) トラック 91% トラック 62% 船(内航船) 7% 鉄道 1% 航空 1% 鉄道 4% 航空 0% 船(内航船) 34% てらしま・まさなお 富士総合研究所、 流通経済研究所を経て現職。
日本物 流学会理事。
客員を務める流通経済研 究所では、最寄品メーカー及び物流業 者向けの研究会「ロジスティクス&チャ ネル戦略研究会」を主宰。
著書に『事 例で学ぶ物流戦略(白桃書房)』など。

購読案内広告案内