ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年4号
道場
メーカー物流編 ♦ 第19回「月次生産なのに在庫日数が一カ月を大幅に上回っている製品が少なくありません。原因としては二つが考えられます」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 APRIL 2011  88 ち構えているような風情の物流部の連中を見 て呟く。
物流側は部長をはじめセンター長も 含めた七名のプロジェクトメンバー全員が揃 っている。
 「いえいえ、体力勝負なら負けませんが、 頭脳勝負だと少数精鋭のおたくには敵いませ んよ」  生産管理部長より少し後輩の物流部長が 穏やかに答える。
「またまた」と言って、生 産管理部長が二人の部下を紹介する。
プロジ ェクト側はそれぞれ自己紹介する。
こうして 生産計画関係の検討会が始まった。
最初に 主任が口火を切った。
 「型通りの質問になって申し訳ありません が、話のとっかかりとして、まずお聞きした いのですが、うちの場合、基本的に在庫責任 の所在はどうなっているんでしょうか?」  主任のストレートな質問に生産管理部長が 67「月次生産なのに在庫日数が一カ月を大幅に 上回っている製品が少なくありません。
原因としては二つが考えられます」 《第108 生産計画担当者との会議がもたれた  ようやく春めいてきたある日の午後、本社 生産管理部とプロジェクトチームとの間でミ ーティングが行われた。
物流部長が生産管理 部長に呼び掛けたもので、生産管理部から部 長と二名の生産計画担当者が参加した。
 本社の生産計画担当は、製品別の月次の 必要量を工場に提示する役割を担っている。
営業部門との協議を経て販売見込み量を確定 することが主たる仕事である。
実際の製造ラ イン別の生産計画は各工場の計画担当者の 役割であるが、ロジスティクスという点では 工場の担当者よりも本社の計画担当者の方が かかわりが大きい。
 「また、そっちは随分大人数だね。
数で負 けそうだ」  会議室に入るなり、生産管理部長が、待 メーカー物流編 ♦ 第 19 回  ロジスティクス導入を進めるプロジ ェクトチームは、営業部門との調整を 一段落させて、今度は生産部門と対 峙することに。
月次で生産しているの に、在庫日数が二カ月以上、ものによ っては半年にも達している理由は何な のか。
生産部門における在庫管理の実 態解明が始まった。
大先生 物流一筋三〇有余年。
体力弟子、美人弟子の二人 の女性コンサルタントを従えて、物流のあるべき姿を追求する。
物流部長 営業畑出身で数カ月前に物流部に異動。
「物流 はやらないのが一番」という大先生の考え方に共鳴。
業務課長 現場の叩き上げで物流部では一番の古株。
畑違 いの新任部長に対し、ことあるごとに反発。
コンサルの導入 にも当初は強い拒否反応を示していたが、大先生の話を聞 いて態度が一変。
経営企画主任 若手ながらプロジェクトのキーマンの一人。
人当たりは柔らかいが物怖じしない性格のようで、疑問に感 じたことは素直に口にする。
89  APRIL 2011 「うーん」と言って、言葉を選ぶように話し 始める。
 「本音で話をさせてもらいます」  生産管理部長の言葉にみんなが頷く。
物流 部長が「もちろん、それでお願いします」と 答える。
生産管理部長が頷いて、話を続け る。
「在庫責任の所在は、あるような無いよ うなものです。
あるようなというのは、在庫 を切らすと、営業からわれわれのところに文 句が来ますんで、在庫は原則われわれの責任 かなと、まあ感じるということです。
もちろん、 営業がわれわれに伝えなかったイベントなど で欠品が出たり、誰も予想しえなかったよう な突発的な需要増の場合などは免責になりま す」  ここまで話して、生産管理部長が一息いれ る。
みんなが納得したように頷く。
 「在庫責任が無いようなというのは、たと え欠品が出たからといって、組織的にペナル ティが課せられるということはないということ と、欠品とは逆の過剰在庫については実質的 に何のお咎めもないわけで、その意味で、責 任がないということです。
私の言いたいこと、 おわかりですよね?」  「わかる、わかる」  業務課長が大きく頷き、確認するように聞 く。
 「でも、上の方から在庫を減らせとか言っ てくるでしょ。
その筋からは責められないん ですか?」  「はい、たしかに、これまでは毎期末にな ると、そんな話が出てました。
ただ、大き な声では言えませんが、期末対策で力づくで、 それなりに在庫を減らしてきましたんで、上 の方の要望には形だけですが、何とか応えて きました。
正直なところ、一過性の在庫削減 です。
でも、これからはそういうわけにはい かないんですよね。
今日の会議はそういう話 し合いと理解していますが‥‥」  生産管理部長の正直な答えに、なぜか座が 和んだ雰囲気になる。
物流部長が答える。
 「はい、期末に力づくで在庫を減らすなん てことはしないで、一年を通して適正な在庫 水準を保っていこうということをやろうとし ています。
そのためのカギを握っているのが みなさんだと思ってます」  生産管理部の三人が頷く。
計画担当の二 人はちょっと不安そうな表情をしている。
そ の二人に主任が質問する。
 在庫が膨らむ要因は二つある  「お二人は、毎月の必要生産量を工場に提 示しているんですよね?」  主任の突然の名指しの質問に二人がどきっ とした顔をし、すぐに頷く。
それを見て、主 任が続ける。
 「初歩的な質問で済みませんが、必要生産 量はどのように策定するんですか?」  二人のうち年長の担当者が頷いて、説明を 始める。
 「基本的には、現状の売れ方とこの先の営 業の売り方をベースに決めています」  生産管理部長と違って、建て前的な返答だ。
業務課長が噛み付こうとするのを主任が制し て、二人の前に在庫関連の資料を置く。
 「ちょっと、これを見てください。
うちの 製品を売り上げの大きい順に並べてあります。
見ていただきたいのは、そこの在庫日数の欄 です。
ずっと後ろの方まで見てください」  主任に促されて、二人が顔を寄せ合うよう にして、資料を見る。
途中までページを繰っ たところで、主任が発言する。
 「見ればおわかりのとおり、在庫日数が二 カ月を越えるような製品が少なくありません。
ものによっては三カ月とか半年にもなるもの もあります。
うちは月次生産ですから、安全 在庫を含んでも、平均で一カ月分くらいに収 まっていればいいんですが、それとは程遠い 実態です。
必要生産量の策定が、いまおっし ゃったようなやり方で貫徹されていれば、本 来そんな結果にはならないはずです。
ところ が、そうなってないということは、そこに何 かがあるということになります。
そうですよ ね?」  主任の問い掛けに生産計画担当の二人が 小さく頷く。
警戒しているのか、返事がない。
主任が改めて確認する。
 「在庫が一カ月を大幅に越えているものが 少なくないという原因としては二つの要因が 考えられます。
一つは、あなた方が策定して APRIL 2011  90 いる月次の必要生産量が大きすぎるか、生産 側が一カ月分を越えて作っているかです。
二 つが複合的に作用しているかもしれません。
いかがですか?」  主任の質問に年長の担当者が意を決したよ うに答える。
 「はい、おっしゃるとおりだと思います。
私 どもが提示する必要生産量は、たしかに多 めに策定しています。
先ほど部長からお話が ありましたように、欠品を出すと営業から責 められますので、どうしても安全を見越して 多めになってしまいます。
生産の側も、作る 段になりますと、いろいろ都合があるようで、 私どもの提示以上の量が作られているようで す。
ただ、これについては、私どものコント ロールが及ばないところですので、どうしよ うもないというのが正直なところです」  年長の担当者が、今度は正直に答える。
主任が頷いて、続けようとするところに業務 課長が割って入った。
 「うちの営業はいい加減だし、生産は勝手 だから、その間に入って、あんたらも大変だよ。
うん、わかる。
生産はあれだよ、月次計画は やってるけど、月次生産はやってないってこ とだよ。
先生の受け売りだけど‥‥」  業務課長の物言いに二人が驚いたような顔 をする。
それにはかまわず、物流部長が興味 深そうな顔で業務課長に聞く。
 「なに、先生の受け売りって、業務課長は 先生にお会いしたの?」 だそうです。
その意味で言うと、うちの生産 は月次で生産計画を作っているのに、生産は 月間必要量以上のものを作っているってこと じゃないですか? だから月次生産じゃない ってこと」  「はい、たしかに、そうです。
製品にもよ りますが、生産ロットですとか段取り替えが どうだとか持ち出して私らの提示する以上の 量を作ってます。
たしかに、その意味では、 月次生産ではありません」  業務課長の話に思い当たったのか、若い方 の計画担当者が、突然口を挟んだ。
年長の 担当者も同意するように頷いている。
物流部 長が独り言のように呟く。
 「なるほど、計画は月次だけど、生産は月 次でない‥‥か。
言いえて妙だし、本質を突 いている」  部長の言葉にみんなが同意を示すように頷 く。
部長が続ける。
 「そのあたりは、生産とのミーティングでや るとして、営業対策としての多めの量の策定 は、これからは必要ない。
現状の出荷量をベ ースに必要生産量は決めればいい。
それを越 える出荷が想定されるなら、営業からその情 報をもらう。
もちろん、しかるべき責任者を 通して。
そういうルールについては、いま営 業側と打ち合わせをしている」  物流部長の言葉に計画担当の二人は安堵 したような顔で頷く。
この場で自分たちが責 められるわけではないという安堵のように見  「いや、そうそう、たまたま先生の事務所 の近くに行ったものだから、ちょっとご挨拶 にお寄りしただけ‥‥」  「たまたまねー」  物流部長が業務課長の顔を覗き込む振りを する。
業務課長が嫌そうな顔をする。
企画課 長が助け舟を出すように、業務課長に聞く。
 「それで、その受け売りって、どういうこ と?」  業務課長がほっとしたような顔で元気に答 える。
 計画は週次でも生産は週次じゃない  「それそれ、えーと、あっ、週次生産の話 なんだけど、この前、ある会社の話を聞いて いたら、生産計画は週次で立ててるって言 うんだけど、在庫は一カ月分くらいあるのさ。
おかしいだろ。
そのときは質問できなかった んで、たまたま先生にお会いしたとき、それ を先生に聞いたわけ。
そしたら、先生が『計 画は週次だけど、生産は週次じゃないのさ』 ってお答えになったわけ」  物流部長がおもしろそうに『お答えになっ た』と確認するように復唱する。
プロジェク トのメンバーが一斉に噴き出す。
生産管理 部側は事情がわからず、きょとんとしている。
業務課長が照れ臭そうな顔で続ける。
 「はいはい、先生はそのあと、こうもおっし ゃいました。
『週次生産というのは、本来一 週間分の必要量を生産することと理解すべし』 湯浅和夫の 91  APRIL 2011 の突然の指示に戸惑ったような表情を見せ、 生産管理部長の顔を見る。
生産管理部長が 大きく頷き、二人に静かに話す。
 「昨日、常務に呼ばれて、お達しを受けた。
二人をこのプロジェクトのサブメンバーとし て、日常業務に支障がない範囲でということ だけど、基本的に物流部長の指揮下に置いて くれということだった」  二人が驚いたような表情を見せるが、嫌そ うな気配はない。
むしろ、興味津々といった 風情だ。
そんな二人を見ながら、生産管理部 長が物流部長に声を掛ける。
 「近々、正式にロジスティクス部というのが 発足し、君が部長になるって聞いている。
そ のとき、この二人も異動になるんじゃないか な? まあ、いまの時点で、本人たちを前 に人事の話をしてはいかんかもしれないけど、 その可能性があることくらい彼らも知ってお いた方がいいと思って」  「はい、その可能性は否定できないとだけ 言っておきます」  物流部長が率直に考えを述べる。
それを聞 いて、年長の担当者が「先ほどご指示いた だいた件は、早急にやります」と返事をする。
それを聞いて、業務課長が突然、同席してい る物流センター長に声を掛ける。
 「センター長は、数年前まで工場にいたん だよな。
生産計画やってたんじゃなかった?」  「はい、その一員でした。
済みません。
当 時を振り返ると、たしかに、まとめて作りた いという意識が強かったといえます。
そのあ たりに根源があるんでしょうね」  センター長の話を聞きながら、部長が迂闊 だったという顔をする。
 「そうだった。
身近に関係者がいたんだ。
それでは、センター長も加わって、うちの生 産の実態を解剖してみてくれないか。
日常業 務で忙しいかもしれないけど、頼むよ」  「わかりました」  物流部長の指示に、計画担当の二人とセ ンター長が同時に返事をする。
こうしてプロ ジェクトはまた一歩前に踏み出した。
える。
そんな二人に、突然、物流部長が「と ころで、二人にやってもらいたいことがある」 と声を掛ける。
二人がぎくっとした顔で部長 を見る。
 ロジスティクス部発足へ  「ちょっと事前に知りたいので、君たちが 作った製品別の計画値と実際に生産された数 量とを比較可能な形で表にしてくれ。
それと 各製品の一日当たり生産能力も一緒に示して ほしい」  二人の計画担当者は、他部門の部長から Illustration©ELPH-Kanda Kadan ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大 学院修士課程修了。
同年、日通総合研究 所入社。
同社常務を経て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを設立 し社長に就任。
著書に『現代物流システ ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の 手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』 (以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コン サルティング http://yuasa-c.co.jp PROFILE

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