ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年12号
特集
欧米先進事例の真実 米国ロジスティクスIT市場の現状

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2005 18 ロジスティクスIT市場の輪郭 我々ARCではSCMのアプリケーションを、大き くサプライチェーン・プランニング(計画系:SC P)とサプライチェーン・エクセキューション(実行 系:SCE)とに分けています。
このうち実行系のロ ジスティクス関連では「WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)」と「T MS(Transport Management System:輸送管理 システム)」という、二つの代表的なロジスティクス・ アプリケーションがあります。
WMSの市場規模は二〇〇四年でおよそ一〇億米 ドル(約一一〇〇億円)と弾いています。
ここでいう 市場には、ソフトウェアのほか、導入やメンテナンス のサービスも含んでいます。
ハードウェアとマテハン 機器は含まれていません。
市場規模はゆっくりと成長 しています。
しかし米国市場は既に成熟し、アジア市 場が成長の牽引役となっています。
TMSの市場規模は二〇〇四年で九億一〇〇〇万 ドルです。
二〇〇五年は九億五〇〇〇万ドル超を見 込んでいます。
WMSとTMSはここ数年、顧客から の値下げ圧力が強まっています。
例えばWMSの二〇 〇四年の平均販売単価は二〇〇一年に比べて一六% 下落しました。
この他にもSCE分野の比較的小規模なアプリケ ーションとして「ヤード・マネジメント(Yard Management)」や「サプライチェーン・イベント・ マネジメント(SCEM)」があります。
このうちヤ ード・マネジメントは、日本の方にはあまり馴染みの ない領域かも知れません。
これは物流センターの車両 ヤードのどこにトラックやトレーラーがあるのか、あ るいは待機しているトラックをどのように効率よく稼 動すべきなのかを管理するアプリケーションで、WM SとTMSをちょうど中間でつなぐ形になります。
そ の多くは、「クロスドック」や「フロースルー」と呼 ばれるような、在庫を保管せず入荷した商品をすぐに 出荷するための処理に利用されます。
この分野のオペレーションには、大きなビジネスチ ャンスがあると考えられています。
大規模な配送セン ターには、毎日数百台から一〇〇〇台を超える車両 が出入りしています。
これを効率化することで大きな コストダウンが実現できると期待されています。
現在、 この分野では「Nabis」というベンダーが代表格 で、ほかに「C3」も台頭してきています。
RFIDの関連市場は、今のところITベンダーが 望んでいるほどの速さでは成長していません。
まだ未 成熟です。
RFIDの導入に取り組んでいる会社を 対象に当社が今年九月に行った調査によると、製造 業者の八〇%は配送センターにRFIDを導入して いるだけで、生産時点から導入していると答えた企業は十三%でした。
彼らのほとんどはRFIDを工場で 実行するのは、お金がかかりすぎると感じています。
製造業者は現状の取り組みではRFIDがもたら すメリットを享受することはできないことを理解して います。
工場を皮切りに最終的にはサプライチェーン 全体が可視化できないと製造業者にはメリットがない ということです。
次に挙げる三つの課題は、RFID を活用する上で製造業者がとくに悩んでいる点です。
一つはボリュームです。
全体の物量のうち、ICタ グを貼付した製品が一定の割合を占めないとメリット が得られません。
しかし現状では、ほとんどの企業が 十二品目以下の製品にしかICタグを貼付していませ ん。
我々がヒアリングしたところによると、このボリ ュームが三〇%から四〇%になるまでは投資に見合っ 米国ロジスティクスIT市場の現状 ARCアドバイザリーグループスティーブ・バンカー SCM担当サービスディレクター 米国のロジスティクスIT市場は既に成熟している。
新分野 として期待されているRFID市場も現状では期待されたほど成 長していない。
既にRFIDの導入に踏み切った製造業者でも、 その効果には懐疑的で、今後5年以内に投資に見合う効果が 得られようになるとは考えにくい状況にある。
《米国レポート》Interview 19 DECEMBER 2005 た効果が得られないという答えがありました。
二つ目の課題は、現状のRFIDはコストが高い 上に信頼性が低いという問題です。
もっともこうした 技術的な課題はRFIDのユーザー企業が一定以上 のボリュームを継続的に購入するようになれば、クリ アできるはずです。
従って、どのタイミングでRFI Dを本格的に導入するかの判断が重要になってきます。
現時点ではしばらく様子見をして、ベンダー間の競争 をかき立てようという姿勢が目立っています。
三つ目の課題は、全てとは言わないまでもウォルマ ートをはじめとする一部の小売業者は既に調達先の製 造業者がRFIDを導入していることを前提としてお り、それに対応するために配送センターでどうやって ICタグを貼付すべきなのかという問題です。
配送セ ンターにおけるICタグの貼付方法には次の三つがあ ります。
一つ目が「SKU(ストック・キーピング・ユニッ ト:在庫管理の最小単位)」単位にICタグを貼付す るやり方です。
ウォルマートからの注文に合わせて、 パレットから各ケースを取り出し、そこにICタグを 貼り付けします。
そして再度パレットをシュリンク包 装して、パレット自体にもICタグを貼付して出荷し ます。
現状ではほとんどの企業がこの方法を採用して いますが、基本的に手作業であるため、かなりの手間 がかかっています。
二つ目の方法は、ベルトコンベヤーを活用するもの です。
ウォルマート向けの出荷量を予め想定し、その 分のパレットをコンベヤーラインに載せ開梱機器でシ ュリンク包装を解き、自動的にタグを貼付します。
そ れを改めて梱包ラインに載せてシュリンクし直して出 荷します。
三つ目はピッキングカートを使用して「レインボー パレット」を作るやり方です。
ちなみにレインボーパ レットとは一つのパレットに複数のアイテムを積み合 わせてシュリンク包装したものです。
カートを押して 倉庫内を移動し、必要なケースをピッキングしてタグ を貼付し、パレットに載せます。
最後にそのパレット に何が混載されているかを示すリストをプリントアウ トしてパレットに貼付します。
ICタグの倉庫オペレーション このうち二つ以上のプロセスを、同じ会社が同時に 採用しているケースが少なくありません。
ただしカー トを押しながら倉庫を回るやり方はあまり採用されて いません。
少なくともウォルマートがベンダーにレイ ンボーパレットを要求することはありません。
コンベヤーラインでタグの貼付を自動化する方法に も課題があります。
既存のコンベヤーラインの処理ス ピードを落とさないで、タグの貼付に対応するには専 用のコンベヤーを設ける必要があります。
それでも自動化を実現すれば、手作業ではクリアできない様々な 課題が解決できるのではないかと期待されているので すが、私がヒアリングした限りでは、ユーザー企業は RFIDのソフトウェアやコンサルタントなどの技術 的パートナーには満足している一方で、マテハン機器 などのハードウェア企業には満足できていない状況に あります。
我々がヒアリングした全ての企業の中で、二年以内 にRFIDの投資を回収できると考えている企業は一 社だけでした。
その他の企業は投資の回収までに早く て二年、あるいは回収できないと考えています。
RF IDの導入による効果が全くないわけではありません が、今後五年以内に投資に見合う効果が得られると は考えにくい状況です。
(談) Steve Banker ボストンカレッジでMBA、インディ アナ大学で博士号取得。
ペンシルバ ニア州立大学教授、ストーンヒルカ レッジ教授等を経て、米ARCアドバ イザリーグループSCM担当サービ スディレクターに就任。
「シックスシ グマ・ロジスティクス」など、サプ ライチェーンとロジスティクス関連 の著書多数。

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