ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年5号
特集
第1部 その時あの人はどう動いたかヤマト運輸──被災地から始まるビジネスモデル

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2011  24 俺たちが何とかする  三月十一日、十四時四六分。
ヤマト運輸は労働 組合との「春期生活改善」交渉の真っ最中だった。
人事総務部の石崎隆浩部長も当然ながらその席に いた。
しかし、地震を受けて団体交渉は中断。
そ のまま労組と災害対策本部を立ち上げた。
石崎部 長がその事務局長を命じられた。
 即座に情報収集を開始した。
しかし東北六県を エリアとする同社の東北支社は約一万人の従業員 を抱えている。
太平洋側の三県だけでも約六〇〇 〇人だ。
このほかにメール便の配送業務を委託し ている約四〇〇〇人の「クロネコメイト」や宅急便 取次店、作業協力会社などのパートナー企業の状 況も把握する必要があった。
 十三日になって、ようやく災害の全容が見えて きた。
最も被害の大きかったのは宮城県で、その 時点で連絡のつかない従業員が四〇〇人近くいた。
現地で情報収集に当たるスタッフには従業員の安 否と共に避難所の場所と規模の把握を進めさせた。
大規模災害時には自治体の指定した避難所のほか、 各地に小規模な避難所が自然発生する。
「そうした 末端の地域情報が後で事業を再開するときに大事 になってくる」と石崎部長はいう。
 一方、業務改革部の福田靖部長は、東北支社を 支援するため、十三日に本社から現地入りした。
予想を超える被害状況の大きさに当初は驚きを禁 じ得なかったという。
「それでも現場からは一刻も 早く事業を再開したいとの声が上がっていた。
気 持ちはよく分かった。
現地ではモノの供給が完全 にストップしていた。
それだけ我々に対する被災者 の期待は大きかった」。
 事業の再開には、第一に電力の確保、第二に通 信の確保、第三にセキュリティの確保が条件とな る。
いずれも復旧のメドが立たない状況だった。
と ころが現場は自分の判断で走り始めた。
一八日に 青森が他の被災地に先行して営業所止めサービスを 開始した。
現場の独断専攻を本社が後から追認す るかたちだった。
 すぐに他の地域も手を挙げた。
しかし会社とし て公式にサービス再開を告知するには、オペレーシ ョン方法を固めておかないと作業に混乱を来す恐 れがある。
その結果、返って顧客に迷惑をかける ことになりかねない。
災害対策本部の石崎部長は 「逸る現場を抑えることが本社側の役回りだった」 と振り返る。
 三月二一日になって被害の大きかった岩手、宮 城、福島の三県でも営業所止めサービス開始を公式 にアナウンスした。
実際には、その時点で集配サー ビスも行っていた。
 そのため、営業所止めサービスの送り状であれ ば通常なら届け先に着店の営業所名とその住所を 書くところを、一般の宅急便と同様に届け先人の 名前と住所を記入してもらうようにした。
「住所が  4 月1 日、2019 年度に宅配便シェア50%超を目指す 長期経営計画がスタートした。
それと同時に11 年度に 取り扱う宅急便1 個につき10 円を東北の復興に寄付す ることを決めた。
東北の復興に独自の構想を提示して、 社会貢献を果たすと共にビジネスモデルの革新を実現 しようとしている。
           (大矢昌浩) ヤマト運輸 ──被災地から始まるビジネスモデル 第 1 部 その時あの人はどう動いたか 石巻波渡センター。
流された家でシャッター が破損してしまった 特 集 3・11どうなる物流 25  MAY 2011 分かれば何とかできる。
俺たちが何とかする」と いう現場の声がオペレーション方法を修正させた。
 届け先が例え配送不可地域であっても、そこか ら一番近い営業所まで荷物を送る。
そして営業所 から届け先人に電話を入れる。
なかには営業所ま で取りに来られない人もいる。
地元のドライバーに とって届け先人の多くは昔からの顔なじみだ。
相 手の事情は分かっている。
営業所に荷物が溜まっ てしまえば作業の邪魔にもなる。
取りに来るのを 待ってはいられなかった。
 どの道が通れるのか。
どの家に人が残っている のか。
家屋の倒壊が激しく大半の住人が避難所で 暮らしている地域であっても、昼間は自宅に片付 けに戻っていることが多い。
そうであれば、例え 住んでいなくても届けられる。
そうしたミクロな 配送情報を宅急便のドライバーは把握していた。
 自治体の集積所から支援物資を被災者に届ける 仕事も積極的に手伝った。
「かなり早い時点で自治 体の集積所や指定避難所まで支援物資は来ていた。
しかし、その先が問題だった。
そこを我々がお手伝 いさせていただいた。
本当の末端まで荷物を届け られるのは当社しかない」と福田部長は胸を張る。
 三月二五日からは岩手、宮城、福島の一部地域 で正式に集配サービスを再開した。
その後も配送可 能エリアを急ピッチで拡大し、同三〇日までに立ち 入り禁止区域などを除く東北エリアのほぼ全域で 業務の再開を果たした。
宅急便シェア五〇%超を目指す新戦略  同社は三月三一日の本社災害対策本部会議をも って被災対策を終了させた。
四月一日からは復興 のフェーズに入っている。
 四月一日は同社の創業一〇〇周年に当たる二〇 一九年に向けた長期経営計画がスタートした日でも ある。
宅急便のマーケットシェアは現状の約四〇% を一三年度に四五%超まで引き上げ、一九年度に 五〇%超という目標を掲げる。
 既に成熟したとも言われる宅配便市場において 高い成長を維持していくため、ヤマトホールディン グスは今後三年間で総額二八〇〇億円の設備投資 を計画している。
それによって「地域社会に密着 した生涯生活支援プラットフォーム」を確立するこ とを向こう三年の重点実施事項に挙げている。
 今回の震災で壊滅的な被害を受け、これから復 興を目指す東北地方が、その格好の舞台となる。
「東北を単に昔の姿に戻すのではなく、そこに当社 が提案する新しい流通プラットフォームを根付かせ る。
それによって東北の復興に貢献していきたい」 と岡村正経営戦略部長は抱負を語る。
 避難所から仮設住宅に住まいが移り、生活基盤 が安定してくると、次には消費が大きなテーマにな ってくる。
買い物の不便さを痛感するようになる。
クロネコメンバーズ戦略部の佐藤英明部長は「そう した人たちにモノを届けるという基本機能を提供し ていくうえで、我々がこれまで“買い物弱者”支 援のために開発してきた様々なサービスを活かして いきたい」という。
 昨年十一月には岩手県で買い物支援にプラスし て、ドライバーが一人暮らし高齢者の生活状況の見 守り役を務める「まごころ宅急便」を開始してい る。
自治体の福祉協議会や地元スーパーとヤマト運 輸が手を組み、買い物代行のご用聞きと届け時に ドライバーが利用者の安否や健康状態を確認する。
その情報を福祉協議会にフィードバックすることで 利用者の生活を支えていくというサービスだ。
 あるいは、仮設住宅にクロネコメンバーズの会員 端末「クロネコピット」を置いて宅急便の利便性 を向上し各種の情報サービスを提供する。
地方で 宅急便の取扱店となっている小規模な“パパママ・ ストア”を生涯生活支援プラットフォームの基地と して再生する──等々、東北の復興というテーマ に直面したことで従来の取り組みに新しいアイデア が次々に注ぎ込まれている。
 四月一日にヤマトホールディングスの木川眞社長 は一一年度に取り扱った宅急便一個につき一〇円 を東北の生活基盤復興に寄付することも決めてい る。
寄付金の総額は約一三〇億円が見込まれる。
一〇年三月期の当期利益約三二三億円の同社にと って決して軽い金額ではない。
しかし、それが同 社独自の復興構想の狼煙となっている。
石巻の配送。
右手の奥に届け先の自宅がある

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