ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年5号
特集
第2部 これから物流に何が起きるのか3PL──今夏には人手不足が深刻化するハマキョウレックス 大須賀正孝 会長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2011  34 半年後を読み今日の手を打つ  新年度に入ってハマキョウの社員たちには「半年 後には人手不足が必ず来る。
それに対して今のう ちに打ち手を示しなさい。
庫内作業の機械化も検 討しなさい。
人手が半分で済むような工夫をして いきなさい」という指示を出した。
 これまで当社はマテハン機器にはほとんど投資を してこなかった。
実際、人手を有効に活用したほ うが生産性はいい。
しかし、絶対的な人手不足と もなれば話は違ってくる。
 配送も同じだ。
これまでは傭車を使ったほうが 有利だった。
しかし、ドライバー不足になれば傭車 に頼れなくなる。
安い値段では運んでくれなくな る。
バブル時代のように傭車を使うと自分で運ぶ よりも返って高くなってしまう。
これまでと同じ ことをしていたら利益は出ない。
 被災地の風景は、まるで戦後の焼け野原だ。
そ れを見て落ち込んでしまうのは分かる。
しかし、経 営者であれば動かないとダメだ。
落ち込んでいて も何も動かない。
そのままどんどん落ちていくだ けだ。
どうしたらプラスになるのか、前に進む方 向に無理にでも自分を持って行くしかない。
 楽観的になればいいというわけではない。
冷静 に半年先を読むことが大事だ。
一〇年後には、こ んな会社にしたいという夢を持つのはいい。
しか し一〇年先どころか三年先のことでさえ、何が起 こるかなど誰にも分からない。
それでも半年先で あれば、大抵のことは分かる。
 日本の半年後は復興あるのみだ。
大変な資金が 投じられることになる。
被災地だけではない。
私 の地元の静岡でも今回の震災をきっかけに浜岡原子 力発電所に一五メートル以上の防波堤を建設する ことになった。
企業もリスク回避のために今後は工 場の分散、機能の分散を図っていくだろう。
様々 な地域に復興需要が広がっていく。
 その結果、何が起きるか。
猛烈な人手不足がや ってくる。
復興期に最も人手が足りなくなるのは 建設労働者で、その次が物流業だ。
庫内作業員も ドライバーも足りなくなる。
 モノも不足する。
先日、ウチで新しいセンターを 建てるのに見積もりを依頼したら、試算ができな いと言われてしまった。
値段の問題以前に建材自 体がないという。
メーカーは受注生産への切り替 えを進めて在庫を持たなくなった。
そこに震災が 来て、工場がストップしてしまったため一気にモノ 不足になっている。
 燃料費も上がってきた。
今でこれだから半年後 には、これまでのデフレから一転してインフレにな る恐れさえある。
それに対して今日の手を打つ。
半 年後には、またその先の半年後を読んで動く。
結 局のところ経営というのは半年、半年の積み重ね なんだろうと思う。
 とりわけ3PLは足の長い商売だ。
運ぶだけで 他に付加価値のない運送業は、明日の売り上げさ え確実ではない。
3PLは違う。
新しいセンターを 作り、稼働させるまでには時間がかかる。
今期の 仕事でも売り上げが立つのは来期。
それだけに一 年先の売り上げまではっきりと見通せる。
今期も ハマキョウレックスは二〇%増の利益を見込む。
そ の分、売り上げも増える。
そう確信している。
 ただし、この後に予定されている計画停電の影 響は深刻だ。
物流業にとっては大問題になる。
電 力の使用を分散するために、工場の稼働時間をず  震災の復興需要は日本全土に及ぶ。
その結果、 今夏には物流現場の人手不足が深刻化する。
庫 内作業の労働力確保が難しくなり、ドライバー不 足から傭車費用が跳ね上がる。
手を打つのは今だ。
経営者が下を向いていることは許されない。
(聞き手・大矢昌浩) ハマキョウレックス 大須賀正孝 会長 3PL──今夏には人手不足が深刻化する 第2部 これから物流に何が起きるのか 特 集 3・11どうなる物流 35  MAY 2011 全くなくなった。
融資を受けても返済のしようが ない。
悲惨な目にあっている。
 今回の原発問題でも同じようなことが起きるの ではないかと心配している。
そのため私が会長を 務める静岡県トラック協会では、今回の震災の義 捐金として集まった約一八〇〇万円を一般のボラ ンティア団体ではなく、被災した各県のトラック協 会に直接贈ることにした。
少しでも同業者の助け になればと願っている。
ピンチをチャンスに  一方、3PL事業に限って言えば震災による被 害は限定的だった。
東北にはまだ3PLが根付い ていない。
東北には工場がかなりあるが、3PL は使っていない。
メーカー物流は計画生産である ために物量の波動が小さい。
3PLを導入しても 効率化の余地は限られている。
 東北の3PLは、現状では大手チェーンストアの 流通センターの仕事があるくらい。
生活必需品を 扱う川下の物流は今後もなくなりはしない。
震災 で一時的な影響は受けても必ず盛り返す。
逆に市 場としては立ち上がったばかりだった東北の3PL が、今回の震災を契機として本格化する可能性が あると見ている。
 被災した東北のメーカーにしても、設備投資は 生産に回して、これまでは自分たちの社員や物流 子会社で処理していた物流をアウトソーシングする ことを検討するだろう。
メーカーと物流会社を比 べれば人件費の水準にはかなりの差がある。
メー カー物流に効率化の余地は限られていても人件費 の差額分のコストは下がる。
3PLにはチャンスに なるはずだ。
              (談) 岩手の業務再開は我々が一番乗りだったと聞いて いる。
近物レックスの現場は大変な状況のなかで よくやってくれたと思う。
 もっとも、現状では自動車部品が少しずつ動き 出してきた程度で、荷主のほうはまだ止まってい るところが多い。
正常化するのはゴールデンウィー ク明けになるだろう。
それも一〇〇%元通りにな るわけじゃない。
近物レックスの路線網は見直しが 必要になるかも知れない。
 被災地の地場運送会社はもっと大変だ。
二カ月 も業務が止まれば、それまで自転車操業だった会 社は否応なく淘汰される。
売り上げが二割近くも 落ちて、入金もなかったら、やっぱり回らない。
車 両のローンや燃料費の支払いを一度でもジャンプす れば今はすぐに止められてしまう。
 民主党政府が亀井静香金融・郵政担当相の時代 にぶち挙げた返済猶予制度(モラトリアム、正式 には「中小企業金融円滑化法」二〇〇九年十二月 施行)、あれは最悪だった。
今年三月だった期限を 一年延長したそうだが、あの制度に甘えてしまっ ている経営者がたくさんいる。
その上に重ねて融 資をしたところで結局、返済はできない。
 被災地の物流業に今必要なのは融資よりも補償 だろう。
今回の震災、とくに原発被害では地元の 漁業や農家には相応の補償金が支払われることに なるはずだ。
しかし、魚や農産物を運んでいた運 送会社は、補償の対象にならないのではないか。
 宮崎県の口蹄疫問題の時がそうだった。
牛を飼 っていた生産者には国の全額負担で補償金が支払 われた。
ところが牛を運んでいた運送会社には低 利融資だけで補償はなかった。
牛を運ぶ車両で他 のものが運べるわけではない。
専門会社は仕事が らす必要があるのは分かる。
しかし物流業は荷主 の稼働時間に合わせて動かなくてはならない。
 こっちの荷主は休み、こっちの荷主はやる、とい うことになれば物流会社は休めない。
これまで週 休二日で仕事していたところを毎日稼働しなけれ ばならなくなる。
帰り荷の調整も難しくなる。
電 力問題で一番苦労をするのは実はメーカーではな く、我々のようなサービス業だろう。
物流は止められない  震災の当日は地元の浜松で講演会だった。
こっち もかなり揺れたが、慌てるほどではなかった。
と ころが本社に戻り、テレビを付けたら仙台空港に 津波が押し寄せる映像が映っている。
「なんだこれ は」と驚いたよ。
グループの路線会社、近物レッ クスは仙台のほか、岩手県の気仙沼と宮古にター ミナルを置いている。
完全にやられたと思った。
 現地にいくら連絡しても電話は全く繋がらない。
テレビを見ているほかなかった。
仙台の事務所、そ して気仙沼と宮古のターミナルが被災したことが分 かったのは結局、週が明けた月曜日のことだった。
車両は八台が流された。
 その頃には従業員の安否情報も集まってきていた けれど連絡のつかないものが、まだ八人いた。
最 後の一人と連絡がついたのは震災から八日後のこ と。
電信柱によじ登って津波を逃れたらしい。
幸 い従業員には一人の犠牲者も出なかった。
 しかし、そうして従業員の安否や被災状況を確 認している間にも業務をストップするわけにはいか ない。
燃料を何とかかき集めて三月一六日には路 線を再開した。
自分の知る限り、その時点で他の 路線会社はまだどこも動いていなかった。
宮城や

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