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電話の不通でツイッターが活躍
今回の震災では電話がまったく使いものになら
なくなってしまった。 電話回線の脆弱さが露呈し
た。 その代わり「ツイッター( Twitter)」や「ス
カイプ(Skype)」など、インターネットのパケット
通信を利用したツールが大活躍した。
同じことが企業間の受発注システムでも起きて
いた。 電話回線を使った発注システム「EOS
( Electronic Ordering System)」は止まってしま
った。 一方でインターネット回線による電子データ
交換「EDI( Electoronic Data Interchange)」
は問題なく機能していた。
交換機で中央集権的に通信をコントロールする電
話回線は、もともと災害には弱い。 それに対して
インターネットは核戦争が起きた時のことを想定し
てデザインされている。 ネットワークの一部が破壊
されても、自動的にそこを迂回してデータが伝達
される。 通信速度は電話回線の一〇〇倍以上で電
話回線のように利用が集中してダウンしてしまう
こともない。 コストも桁違いに安い。
そのため企業間のオンライン取引には、日本以
外のどの国でもEDIが利用されている。 ところ
が日本はいまだ電話回線を使った EOSが大手を
振っている。 オンライン取引といっても実際には発
注データを送信しているだけで、EDIのような
双方向通信ではなく、在庫情報を確認することも
できない。
日本企業がEDIを導入できないのは、大型汎
用コンピューターを使った古いタイプの情報システ
ム、“レガシーシステム”を後生大事に抱えている
からだ。 ERPを導入したという企業であっても、
よくよく聞いてみるとレガシーシステムが一番奥に
隠れていることが多い。
インターネットは「TCP/IP」と呼ばれる通
信手順(プロトコル)を使う。 そのため現在の一
般的なパソコンには必ずTCP/IPが組み込まれ
ている。 ところが大型汎用機はインターネットの普
及前に設計されたものでTCP/IPに対応して
いない。 そのためインターネットを利用できない。
EDIを導入できない。
日用雑貨品業界のVAN(付加価値通信網)を
運営する当社プラネットは一九九九年に、それま
でのレガシーシステムに見切りを付けて、TCP/
IPに対応したオープン系システムに移行した。 そ
れを機にプラネットのユーザーである日雑メーカー
や日雑卸にもレガシーシステムからの脱却を訴えて
きた。
しかし、当初はなかなか受け入れてもらえなか
った。 システムの更新期を迎えたユーザー企業に乗
り込んで経営者を説得しても、その会社の情報シ
ステム部が反対する。 オープン系システムのプログ
ラミング言語や構造は大型汎用機とは全く異なって
いる。 レガシーシステムで育ったシステムエンジニ
アでは対応できない。
実際、欧米ではオープン系システムへの移行によ
るダウンサイジングを進めるために、CIO(最高
情報責任者)が先頭に立って情報システム部門の大
規模なリストラが実施された。 ところが日本企業に
は肝心のCIOがいない。 情報システム部門のトッ
プは部門の代表に過ぎず、経営の視点には立って
いない。 自らのスキルが否定されてしまう技術革
新には抵抗する。
レガシーからの脱却には社外の専門家も反対す
インターネットが災害に強いことは今回の震災でも
証明された。 通信速度やコスト効率も電話回線とは
桁違いに優れている。 ところが日本企業の多くが、
いまだにオンライン取引を電話回線で行っている。 イ
ンターネットに対応できないレガシーシステムを後生
大事に抱え込んでいるからだ。 (聞き手・大矢昌浩)
プラネット 玉生弘昌 社長
ICT ──レガシーシステムの弊害明らかに
第2部 これから物流に何が起きるのか
特 集 3・11どうなる物流
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組んできた。
ハード面では首都圏データセンターに同じ構成の
システムを二系統配置し、本番機とは別に予備機を
常に起動した状態で待機させる「ホットスタンバイ
方式」をとることで障害発生時に備えている。 さ
らに大規模災害にも対応するために大阪データセ
ンターにもう一つのシステムを「コールドスタンバ
イ」の状態で待機させている。
訓練も毎年行っている。 昨年九月にはライオン、
ユニ・チャーム、P&Gなどのメーカーやパルタッ
ク、あらたといった卸売業者など計六〇社以上が
参加する大規模な防災訓練を行った。 首都圏デー
タセンターがダメージを受け、サービスの継続が困
難になったと想定し、大阪データセンターでコール
ドスタンバイしているシステムの緊急立ち上げとユ
ーザー側の切り替えを実施した。
もっとも、今年八月にプラネットのシステムは完
全なクラウドに移行する。 現行のシステムでは首都
圏データセンターが止まった場合に、ユーザー側で
大阪データセンターに切り替える作業が必要になる。
訓練もそのためだった。 しかし、これがクラウドに
なるとユーザー側の作業は不要になる。 ユーザー側
では意識しないままに、自動的にシステムが切り替
わる。
こうしたバックアップ体制を構築し、維持してい
くには当然、費用がかかる。 我々がそれを捻出で
きたのは、技術革新によってシステム費を下げてき
たからだ。 クラウドへの移行によって運用コストは
さらに下がる。 レガシーシステムを抱え込んでいる
限り、新たな技術の活用や効率化は望めず、割高
な費用が発生し続けることを、経営者は知らなく
てはならない。 (談)
じったことのある人間にとっては今や常識だ。 しか
し、コンピューターメーカーやシステムインテグレー
ターはそれでは売り上げが立たなくなってしまう。
そのために改革には抵抗する。
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家たちに反対されると不安になる。 おかしいとは
感じながらも具体的に指摘できないので結局、言
いなりになってしまう。
日本と同様にレガシーシステムが蔓延していた韓
国では近年、国を挙げた“レガシー追放運動”が
巻き起こり、大きく状況が変化した。 一方、新興
国はコンピューターの導入が遅かったために、後発
の優位性で初めからオープン系システムが導入され
た。 日本だけが世界から取り残されてしまった。
それでも今回の震災で、さすがに日本の経営者も
レガシーの弊害に気付いたはずだ。 プラネットでは
繰り返し“脱レガシー”を訴え続けたことで、二〇
〇九年十一月にようやく約一〇〇〇社に上るすべ
てのユーザーがTCP/IP方式に切り替わった。
プラネットと連携している酒類・食品業界のファ
イネットには、まだEOSを使っているユーザーが
残っているが、今後はレガシー撲滅運動に拍車が
かかっていくだろう。 電話回線の音声をデジタル信
号に変換するアナログモデムなど、今ではどこも生
産していない。 レガシーの限界は明らかだ。
今年八月にはクラウドに完全移行
情報通信システムは今やサプライチェーンのイン
フラだ。 とりわけ我々の扱う生活必需品のサプライ
チェーンは災害時であっても止まってしまうことが
許されない。 そのためにプラネットでは「BCP
(事業継続計画)」に二〇〇六年から積極的に取り
る。 当社が発足当時に導入した「IBM3090」
という大型汎用機は価格が約二〇億円だった。 そ
れに対して現在、当社が使用しているコンピュータ
ーは五〇〇万円程度。 オープン系システムはパッケ
ージソフトを使えるので開発費も格段に安い。
レガシーシステムを捨ててしまえば、情報システ
ムのコストは劇的に下がる。 多少でもシステムをか
0
■事業継続計画の対象となるリスク
プラネット第2 回災害対策アンケート(2010 年7 月実施、187 社が回答)
■大規模震災が発生する可能性について
■事業継続計画の対象となるシステム
大規模災害
システム障害
火災
台風・豪雨などの自然災害
その他
20 40 60 80
(%)
(%)
1 年以内
3.2%
1~2 年以内
3.2%
2~3 年以内
2.7%
3~4 年以内
4.3%
15.1%
起こりそうにない
7.6%
20 年より後
10~20 年以内
26.5%
5~10 年以内
27.0%
4~5 年以内
0 10.3%
受発注
物流
請求・支払
在庫管理
情報系(電子メールなど)
生産管理
その他
20 40 60 80 100
新型インフルエンザなどの
感染症
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