*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
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約四〇〇〇店の小規模スーパーを展開
私は、イギリスのマンチェスターに本部
を置く「コーペラティブ・フード(The
Co-operative Food =コープ・フード)」で、
サプライチェーンとロジスティクス業務を統括
しています。 コープ・フードは、イギリス最
大の生協「コーペラティブ・グループ」の食品
部門でイギリス全土にコンビニや食品スーパー
を展開しています。
コーペラティブ・グループは食品部門のほ
かに金融部門、医薬品部門、不動産部門な
どを擁しています。 二〇〇九年度のグループ
売上高は約一三七億ポンド(一兆七九四七億
円、一ポンド=一三一円で換算)で、うち食
品部門は全体の五五%に当たる七五億ポンド
を売り上げる最大部門となっています。 とり
わけ〇九年度は、後でお話しする大型買収を
実施したことで、同部門の売上高は前年比六
六%増という大幅な伸びを示しました。
当社の売上規模はイギリスの食品小売業と
しては五番目となります。 ちなみにイギリス
の食品小売業を一位から挙げると、テスコ、
アスダ(米ウォルマート系)、セインズベリー
ズ、モリシオンズ、そしてコープ・フードと
いう順番です。
コープ・フードの現在の店舗数は約四〇〇
〇店舗です。 売上高では五位ですが、店舗数
では上位四社を合計した数を上回っています。
これは他の食品小売業が大型店を中心として
いるのに対し、
当社の店舗
の平均サイズ
が約三五〇
平方メートル
とコンビニ規
模だからです。
同業他社
と比べて極端に多い店舗数が、当社のSCM
の特徴の一つであり、また我々の業務全般に
大きな負荷を与える要因となっています(図
1)。
各店舗には一日一回、三温度帯の食品をま
とめて配送しています。 現状では四〇〇〇店
舗に対し、年間延べ六〇万台のトラックを使
って、四億八〇〇〇万ケースを供給し、一九
〇万回の納品を行っています。
取り扱うアイテム数は一万四〇〇〇SKU
(Stock Keeping Unit=最小在庫単位)です。
これらの商品を六つのカテゴリーに分けて管理
しています。 一つは動きの速い常温食品、も
う一つは動きの遅い常温食品、三つ目は牛乳
以外の酪農品、四つ目は生鮮品、五つ目は牛
乳、六つ目は雑貨(電球や洗剤などの小物)
です。
コープ・フードでロジスティクス業務に関
わる人員は、倉庫や配送などを含めて現在、
八一〇〇人です。
私が現在のポジションについたのは〇三年
のことで、それまではヘイズ・ロジスティク
イギリス最大の生協、コーペラティブ・グループの
食品部門コーペラティブ・フードはイギリス全土に約
4000店の小規模スーパーを展開している。 現在、同
社のサプライチェーン&ロジスティクス部門長を務め
るトレバー・アッシュワース氏が2003年に現職に着
任するまで、そのロジスティクスは非効率を極めてい
たという。 同氏が報告する。
欧米SCM会議?
英生協コーペラティブ・フード
買収重ね放置されたままの物流にメス
拠点網を再設計し三温度帯を一括納品
図1 コープフードの店舗
(注)1100 店舗のフランチャイズ店を含む
0─ 300 2,598
300─800 774
800─1,500 448
1,500 以上 95
合 計 3,915
店舗のサイズ
(?)
店舗数
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ス(〇五年にキューネ+ナーゲルが買収)やテ
ィベット&ブリテン(〇四年にエクセル=現ド
イツポストDHLが買収)などの3PL、ま
たコカコーラ、マスターフーズ(現・マーズ・
リミティッド)といった食品メーカーのロジス
ティクス部門で働いてきました。 ロジスティク
スの分野では三〇年の経験を積んできました。
私が入社した頃のコープ・フードには、サ
プライチェーンやロジスティクスに関する戦略
がほとんどありませんでした。 私が引き継い
だ物流センターは全部で二九カ所ありました
が、その多くは小さすぎて使い物にならなか
ったり、また立地も不便で、内部の物流機器
も老朽化していました。 はっきり言えば?非
常に悲惨な状態(a disaster)?でした。
コーペラティブ・グループの創業は一八六
〇年代で、その食品部門はイギリスの食品チ
ェーンとしては最も古い歴史を誇っています。
しかし、サプライチェーンについては、イギ
リス各地のコープの買収を重ねるのに従って、
パッチワーク的に積み上げてきたというのが
実態でした。
常温品のサプライヤーは、一七カ所の常温
物流センターに納品しなければなりませんで
した。 しかも、納品の四〇%がパレット五枚
以下という小ロットで、一番多かったのがパ
レット一枚での納品でした。 こうした多頻度
小口配送をサプライヤーに求めれば当然、そ
の分のロジスティクス・コストが商品価格に上
乗せされ、価格競争力が失われてしまいます。
また食品の三温度帯(常温、冷蔵、冷凍)
がまったく別々のセンターと輸送網を使って、
同じ店舗に納品されていたことも非効率の最
たるものでした(図2)。 このことでサプライ
ヤーと店舗の双方に大きな負担がかかってい
ました。
拠点再編で三温度帯を一括配送
そこで〇四年からネットワークの再構築に
取り掛かりました。 物流センターを新設した
り、既存の設備や機能をアップグレードする
ことで、三温度帯をまとめて取り扱えるよう
にしました。 その際には次の三つの目標を掲
げました。 ?物流拠点の集約、?サプライヤ
ーへのサービス向上、?店舗へのサービス向
上です。
最初に、イギリス中部のバーミンガム近郊
のコベントリーに約二万九〇〇〇平方メート
ルの全国配送センターを作りました。 そのセ
ンターに動きの遅い常温品を集約しました。
これにより、取引のある常温食品のサプラ
イヤー六〇〇社のうち、五二〇社までが全国
配送センター一カ所だけに配送すればいいこ
とになりました。 サプライヤーによる年間の
センターへの納入件数は従来と比べほぼ半減
しました。 パレット単位で測っている納品率
も従来の六〇%台から九〇%に上がりました。
図2 2003 年までのネットワーク
定温食品冷蔵食品
冷凍食品
図3 2004 年のネットワーク構築
全国配送センター
(動きの遅い定温食品を在庫)
(遠隔地)
4 カ所のクロスドッキングセンター
店舗
(3 温度帯対応)
6 カ所の地域配送センター
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また全国配送センターに常温品をまとめるこ
とで、各地の物流センターのスペースに余裕
を持たせることにも成功しました。
次に三温度帯対応型の地域配送センターを
二カ所に新設しました。 同時に従来は常温専
用センターとして使っていた四カ所を三温度
帯対応型に改修し、全部で六カ所の地域配送
センターを作りました。
さらに、遠隔地対応として四カ所に在庫を
持たないクロスドッキングセンターを作り、物
流センターの?ピラミッド?を完成させまし
た。 この結果、サプライヤーから店舗までの
ロジスティクスの流れが大きく改善されまし
た(図3)。
加えて、これまで温度帯別だった店舗への
配送を一本化することができました。 店舗側
の荷受けや伝票などの事務処理の負担を軽減
することができました。
物流センター網を作り上げた後は、構内作
業の効率化に取り組みました。 特にピッキン
グ作業の精度を上げながら効率化を図ること
を最大の目標に掲げました。 そのツールとし
て、音声物流ソリューションの「ヴォコレクト
(vocollect)」を導入しました。
専用のヘッドフォンを装着し、音声でピッ
キングのロケーションや商品、個数といった作
業指示を受けるシステムです。 作業員はスキ
ャナーなどの入力端末やピッキング用紙を手に
持つ必要がなく、しかも正しいピッキングを
行われるまで次の指示が発信されない仕組み
けにとどまらず、顧客そのものを失うことに
もつながります。 今日のように非常に競争の
激しい市場においては、顧客は欲しいものが
その店になければ、すぐに別の店に行ってし
まうからです。
また、一ケースの中に一つでも誤配商品が
混じっていれば、店舗側に事後処理が発生し
ます。 我々サプライチェーン&ロジスティクス
部門に電話で誤配を連絡し、さらにネット上
でクレームのフォームを書き込むという面倒な
作業を処理する必要があります。
同時に我々の側でも、誤配によって事後
処理が発生することで、本来は一ケース平均
一〇ユーロの粗利益が出るはずだった取引に、
その二倍、三倍の経費がかかってしまうこと
になります。
図4はイギリス中部のノッティンガムのセン
ターの一時間単位のピッキング数量の推移を
表しています。 同センターでは〇七年にヴォ
コレクトを導入しました。 〇七年と〇九年の
数字を比べると、はっきりとピッキング作業
の効率が上がっていることが分かります。
その後も複数のセンターに同じシステムを導
入しました。 その結果、導入前と比べて、ピ
ッキングの生産性は平均一〇%ほど上がりま
した。 年間五億ケース近くを出荷するわれわ
れにとって一〇%の生産性の向上は大きなイ
ンパクトを持ちます。
具体的なシステムの導入コストについて、
ここで皆さんに開示することはできませんが、
になっているため、作業スピードと作業精度
を同時に向上できるという触れ込みでした。
まず〇六年に、ロンドン郊外のサロックに
ある地域配送センターで、ヴォコレクトを試験
的に導入しました。 同センターは三万平方メ
ートル強の敷地面積があり、約七〇〇店舗に
年間五〇〇〇万ケースを出荷していましたが、
誤配・遅配の発生率が一番高い拠点でした。
ピッキングのミスが多いことに加え、作業
スピードも遅かったため、予定した配送ルー
トに乗せられないという事態がしばしば起こ
っていました。 誤配・遅配率をいかにして減
らすかが喫緊の課題となっていました。
店舗にとって発注した商品が届かないとい
う事態は、その商品の欠品による機会損失だ
190
180
170
160
150
140
130
120
《期間》
図4 ピッキング作業の効率化
《1時間当たりのケース数》
P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P9 P10 P11 P12 P13
2007年
2008年
2009年
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舗数を増加させていきました。 〇七年には
「ユナイテッド・コーペラティブ」を買収した
ことで六〇〇店舗が加わりました。
また〇八年には、同業の「サマーフィール
ド」を一六億ポンドで買収しました。 これは、
当社にとっては最大規模の買収となりました。
同社は一〇〇年以上の歴史を持つ老舗の食品
小売チェーンで、新たに六五〇店舗が当社の
店舗網に加わりました。
サマーフィールドの買収から二年たった一
〇年現在の段階で、業務統合は五〇%まで
進みました。 M&Aによる経営統合の効果は、
二つのブランドを統一すると同時に、別々の
ロジスティクス・ネットワークを一つにするこ
とで初めて発揮されるものです。 我々はロジ
スティクス・ネットワークの統合の期限を二
〇一二年と決め、現在、再びネットワークの
再編に取り組んでいます。
中央の全国配送センターはそのまま存続さ
せて、地域の配送センターをこれまでの六カ
所から九カ所に増やします。 そして遠隔地に
あるクロスドッキングセンターは、逆に四カ所
から三カ所に減らします。 計十三カ所のセン
ターで、増加した店舗のロジスティクス業務
に対応するつもりです(図5)。
イギリスの食品小売業を取り巻く環境は
年々厳しさを増しています。 当社には事業規
模を拡大していくことと同時にサービスレベ
ルを高めていくことが求められています。
それだけに我々が〇四年から取り組んでき
たサプライチェーン改革の過程において、新
しい店舗が加わることは、ローラーコースタ
ーに乗ったまま日々の業務を行うような緊張
感を伴うものでした。
それでも成果は出ています。 イギリスの食
品と雑貨の消費統計をとっている民間の調
査会社IGDによると、最新のイギリスの食
品・雑貨の小売店の対前年同月比売上高は、
二・五%のマイナスでした。 それに対し当社
の既存店ベースの売上高は同五・五%のプラ
スでした。 業界全体の落ち込みを勘案すれば
八%のプラスと言えるわけです。
こうした好調を今後も持続していくために
も、我々にはサプライチェーンのさらなる改革
が求められているのです。
(ジャーナリスト 横田増生)
(注)この原稿は、二〇一〇年六月にチェコで行われた「ヨーロ
ッパSCM&ロジスティクス・サミット」のセミナーの講義
内容をセミナーの主催者であるWTGイベントから掲載に
ついての承諾を得た上で、該当企業のホームページの情報
などを加えて再編集したものです。
初期投資は生産性の向上によって三年間で回
収できるレベルでした。
また生産性だけでなく、ピッキングの精度
も上がりました。 それまでは〇・三%あった
誤配・遅配率がほぼゼロになりました。 その
結果、店舗の在庫情報と物流センターの在庫
情報がほとんど一致するようになりました。
これによって各センターにおける年度末の棚
卸作業を省略することができました。 会計監
査を担当する会社が、当社の物流センターに
おける在庫管理が正確であることを認め、棚
卸作業を免除してくれたのです。
M&A後の統合で再・再編
こうしたサプライチェーン改革を進めている
間にも、当社は大小のM&Aを繰り返し、店
企業概要
組織名 コーオペラティブ・グループ
創 設 1863 年
本 社 イギリス マンチェスター
最高経営責任者 ピーター・マークス
総売上高 136 億7380 万ポンド
(1 兆7912 億6800 万円)
最終利益 1 億6030 万ポンド
(210 億円)
従業員数 11 万4561 人
(注1)いずれも2010年1月2 日の数字
(注2)1ポンド= 131円で換算
図5 2012 年までのネットワークの変更
9カ所の地域配送
センター=DC
(3 温度帯)
キャリックファーガスDCD
コントベリー
全国配送センター
スコットランドDCD
北東部DCD
中央部DCD2
中央部DCD1
南東部DCD
南部DCD
南西部DCD
北西部DCD
全国配送センター
3カ所のクロス
ドッキングセンター
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