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MAY 2011 64
求車求貨事業で独自のノウハウ
トランコムは、協力運送会社の車両運行情報を
集約し、荷主の輸送ニーズとマッチングさせる求
車求貨事業(「物流情報サービス事業」)と、3P
Lを行う「ロジスティクス・マネジメント事業(以
下、LM事業)」を主力とする独立系中堅物流企
業である。 景気悪化に伴う貨物情報数の減退によ
り、物流情報サービス事業の売上高が減少した二
〇一〇年三月期を除けば、長期に渡り増収営業増
益を果たしている。
リーマンショック後の金融危機に伴い、荷主は
本業への回帰を進めており、アウトソーシングの
ニーズが高まっている。 加えて足元で進む物流子
会社の再編などは、同社にとってビジネスチャン
スの拡大と捉えることができよう。 また、東日本
大震災の日本経済に対する影響を見極めるのは困
難だが、緊急輸送需要が拡大する可能性もある。
同社の顔と言える物流情報サービス事業を振り
返ってみる。 求車求貨市場では一九九〇年代か
ら二〇〇〇年前後にかけ、インターネットを利用
した事業者が乱立した。 しかし、その多くは価格
競争に陥り利益を捻出できない、システムに頼り
すぎ荷主のニーズに対応しきれないといった理由
で撤退を余儀なくされ、今日では一握りの事業者
のみがサービス提供を行うに留まっている。
その中でトランコムが生き残った理由は、まず
過去の成約履歴の蓄積・共有によるマッチングの
円滑化が挙げられる。 次に、荷主と実運送会社の
双方に対するリスク軽減施策。 保険制度の導入に
よって荷主の不安を払拭し、運送会社に対しては
高額賠償責任の回避に努め、貨物、空車情報の
集積に成功した。
更に、人手によるマッチング方式を採用し、荷
主に対しては配送品質面の、運送会社に対して
は資金面の責任を引き受けることで、利益を捻出
してきた。 結果、物流情報サービス事業では金融
危機が影響し営業減益となった〇九年三月期を除
き、売上高営業利益率三・五%程度を維持しつ
つ、業容を拡大してきた。
足元では空車情報数がやや減少しているが、背
景には協力運送会社が幹線運行の効率化に努め
たことがあると判断している。 これは傭車費単価
の上昇や傭車難易度の高まりをもたらしているが、
貨物情報数の回復に伴う「アジャスター(マッチ
ングを行う従業員)」の生産性改善で吸収してお
り、マッチング環境全体としては改善傾向にある。
日本経済の先行きには不透明感が残るものの、
今後は新規情報センターの開設により貨物情報数
が増加するとともに、傭車費単価の上昇を背景に
空車情報を登録する運送会社が増加すると考えて
いる。
一方のLM事業に関して言えば、業績の確認が
可能な二〇〇〇年三月期以降、増収営業増益を
トランコム
3PL事業者としての知名度向上が課題
求車求貨との連携強化でもう一段の成長を
求車求貨事業を原動力に成長を続けて
きた。 それに対して3PL事業の知名度
は高くはない。 3PLの案件受託にはネー
ムバリューも重要な要素になる。 今後、事
業規模を更に拡大するには求車求貨事業
の荷主を3PLに繋げて実績を積み上げ、
大型荷主を獲得することが必要だ。
一柳 創
大和証券キャピタル・マーケッツ
金融証券研究所 企業調査第一部
第68回
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続け、一〇年三月期には連結売上高の二六%、営
業利益の三八%を占める規模にまで成長した。
しかし、トランコムの3PL事業者としての知
名度は決して高くはない。 現状では単発的にコン
ペに参加するに留まっているほか、荷主の物流セ
ンターに人材を送り込んで庫内オペレーションの
改善を行うなど、部分的な受託が多いことが要因
ではないだろうか。
客先センターでの改善業務は、立ち上げ時間の
短縮化やリスク軽減といった点でメリットがある
ものの、コスト削減の選択肢が限定的となり易い。
表立って事業を行わないことから知名度の向上に
も繋がりにくい。
荷主にとっては、3
PLは導入効果を事
後的にしか判断でき
ず、しかも契約は通
常、複数年にまたが
るため、慎重になら
ざるを得ない要素が
あり、3PLビジネ
スにはネームバリュー
が引き合い数に直結
する側面もある。 そ
の意味で、3PLは
実績が実績を呼ぶビ
ジネスと捉える事がで
き、同社にとっては
知名度向上も含めた
実績の積み上げが喫
緊の課題と言えよう。
更なる事業規模拡大に向けては、物流情報サー
ビス事業とLM事業の連携の強化が重要であり、
具体的には?LM事業での大型荷主の獲得、?
専属傭車など物流情報サービス事業の協力運送会
社の確保、が課題となろう。 荷主の視点に立てば、
物流情報サービス事業を活かした輸送面でのフレ
キシブルな対応、運送会社の視点に立てば、貨物
のボリュームや波動面での安心感が必要となる。
足元の状況を見ると、両事業の共同営業活動が
奏功し、3PLの受託案件を徐々に積み増しつつ
ある。 しかし、専属傭車契約の増加に繋がるよう
な大型荷主は少なく、専属傭車数も二五〇台程
度と大型荷主からの3PL受託を促すには不足し
ている状況である。
課題克服に向けては、約一万社を超える物流情
報サービス事業の荷主を3PL受託に繋げること
が一つの施策となるのではなかろうか。 物流情報
サービス事業の模倣困難性などを勘案すれば、3
PLの実績を積み上げ大型荷主を獲得することで、
好循環が生まれる可能性があると考えている。
国際物流の拡大へ相次ぎ業務提携
中長期的な視点からは、国際物流ネットワーク
の構築に向けた取り組みも重要になると考えてい
る。 現在、海外における日本国内同様の物流サー
ビスや国際一貫物流・国際3PLに対するニーズ
が一層高まっており、特に中国・アジア圏〜日本
間においてそうした傾向が顕著になっている。
トランコムは上海、香港、タイ、インドネシア
に現地法人を設立するとともに、昨年一月に香港
の物流企業、永得利(以下、エバーゲイン)、今
年二月に港運大手のトレーディアとの業務提携を
発表した。 エバーゲインは七八年の設立以来、香
港と中国で日本同様の物流サービスを展開してい
る。 一方のトレーディアは国内五大港(東京、横
浜、名古屋、大阪、神戸)を中心に港湾運送、通
関業務を行う。 国際複合一貫物流にも注力して
おり、中国関連のアパレル貨物輸送を手掛ける大
手の一角とされている。
中国での物流業務の受託、物流施設および機材
の相互活用など機能補完、国際物流ニーズに対す
る共同営業など、エバーゲインやトレーディアと
の協業を軸にトランコムが国際物流サービスの提
供可能な3PL業者となれば、国内物流業界での
同社の位置付けに変化が生じる可能性もあろう。
その他、資本市場に身を置く者としては、財務
戦略や資本政策についてのビジョンにも期待した
い。 特に、物流情報サービス事業での規模拡大へ
の取り組みやLM事業での実績作りなど、事業基
盤の拡充に向けた設備投資の動向に注目している。
また、設備投資政策との兼ね合いを勘案する必
要はあるが、キャッシュフローの使途として、株
主還元のあり方にも注目したい。 トランコムは連
結配当性向二〇%との基準を示しているが、資本
市場での評価向上に向けてはもう一歩踏み込んだ
対応が待たれる。
ひとつやなぎ・はじめ
一九九七年三月早稲田大学理
工学部土木工学科卒。 同年四月
大和総研入社、企業調査部イン
フラチームに配属。 九九年から
物流担当に。
《出来高》
トランコムの過去10年間の株価推移
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