{literal} {/literal}

2011年6月号
特集

第5部 何が対応の成否を分けたのか日本能率協会コンサルティング 広瀬卓也オペレーション革新本部 チーフ・コンサルタント

JUNE 2011  28 事業継続計画(BCP)は機能したか  「事業継続計画(BCP=Business Continuity Plan)」は策定していた。
しかし全く役に立たな かった──そんな声が現在、巷に溢れている。
実際、 物流拠点を関東圏の一カ所に集約していたことか ら出荷が不可能になってしまったり、あるいは一 時的に復旧は果たしたものの、計画停電の影響で 一日のうち数時間に渡って業務が続行できないと いった事例を、筆者もいくつか耳にしている。
 しかし、BCPには意味がないと切り捨ててし まうのは早計だ。
今回の震災でも、平時に適切な リスク対策を行っていたことで、いち早く復旧を 成し遂げ、取引先の信頼を勝ち取った企業が少な からず存在する。
 関東エリアを中心に東北から関西にかけて事業 を展開する中堅3PLのA社もその一つだ。
同社 は埼玉県内に本社倉庫およびメイン倉庫の二拠点 を保有し、大手量販店やディスカウントストアな どを対象に食品・日雑等の荷役保管および配送納 品業務を受託している。
 震災発生時、A社の埼玉のメイン倉庫では激し い荷崩れや荷傷みが起こり、出荷が全くできない 状況となった。
しかし、本社機能は本社倉庫を含 め、ほとんど無傷であった。
 地震発生から二時間後、A社の役員たちは本社 に一堂に集まった。
事前に策定していたBCPに 基づき、社長をトップとする災害対策本部を立ち 上げ、各役員たちを安否確認担当・荷主対応担当・ 燃料確保担当・被害算定担当などの災害対策担 当に割り当てた。
 このうち荷主対応担当役員は、稼働可能な全拠 点に連絡を取り、配送体制がどこまで復旧可能か を早急に取りまとめた。
A社は物流専業者として チャーター配送用の自社車両を相当台数保有して いた。
これを最大限活用する体制を整えた。
 東北地方への物資供給・配送に関しては、急遽、 臨時拠点を確保し、緊急クロスドッキング体制を 敷いた。
地震によって全く確保の出来ない商品や 資材も多くあったので、顧客と個別に調整をして 納品の可否や優先度を決定した。
 一方、燃料担当役員は即時に中部以西の各支店 や営業所等に連絡を取って、可能な限りのローリ ー車を手配し、軽油やガソリンなどの確保に奔走 した。
出荷拠点は当面、本社倉庫に集中し、被害 の大きいメイン倉庫は復旧に専念することも方針 決定された。
 こうした対応の結果、A社は被災した金曜日か ら四八時間後の月曜日には大口顧客である大手量 販店へのセンターおよび店舗への納品を再開する ことができた。
もともとA社はこの大手量販店か ら業務委託契約の締結に当たり、災害発生時には 四八時間以内に復旧することを要請されていたた め、BCPの策定を始め、事前準備のレベルが高 かった。
 現在のA社の課題は「対策本部のバックアップ 体制の確立」だという。
今回は本社が無傷で済ん だので即時に対策本部を立ち上げることができた が、本社が甚大な被害を受けた場合にどこが司令 塔となるのか、BCPの抜本的な見直しを検討中 とのことである。
 リスク管理に対するトップの意識が高かったこ とで被害を最小限に抑えることができた企業もある。
 筆者が数年来お付き合いしているB社は、デジ 何が対応の成否を分けたのか  震災対応の成功事例、失敗事例の報告が徐々に上がっ てきた。
事前に準備した事業継続計画(BCP)は役に立っ たのか。
対応に成功した会社では何が機能したのか。
トッ プはどのような判断を下したのか。
今回の震災から学ぶ べき教訓を整理する。
日本能率協会コンサルティング 広瀬卓也 オペレーション革新本部 チーフ・コンサルタント ひろせ・たくや 1969年生まれ。
大阪大学法学部卒。
物流・ロジスティクス・サプライチェーン を専門領域として、加工食品メーカーや 商社、物流会社などに豊富なコンサルティ ング実績を持つ。
「物流技術管理士資 格認定講座」の講師および運営委員を 務める。
第5部 特 集 29  JUNE 2011 タルサプライやアクセサリ等を幅広く取り扱うメ ーカーである。
同社は以前、東京・江東区にある 物流センター一カ所で全国への出荷配送を賄って いた。
 しかし、トップの判断で新しく西日本にもセン ターを建設することになった。
拠点を分散するこ とで、地震や津波、あるいは火災などの災害時に 出荷が止まるリスクを分散することが目的だった。
これを受けて数年前にプロジェクトがスタートし、 検討開始からほぼ一年後に西日本センターが稼働 した。
全国の配送ボリュームの三割程度をカバー するセンターである。
 そこに今回の震災が起こった。
東京は交通網が マヒし、江東区のセンターからの出荷は一時完全 にストップした。
しかし西日本センターからの出 荷でカバーすることができたので、顧客への納品 はほとんど滞ることがなかった。
 現在、B社では、今夏に起こるかもしれない関 東地域の大規模な計画停電に向けた準備を進めて いる。
具体的には、停電によって江東区のセンタ ーがストップする事態を念頭に置き、西日本セン ターが瞬間的に現在の二・五倍程度の物量になっ ても耐えられるよう、必要な設備投資や作業生産 性の向上を図っている。
リスク管理:成功のポイント  こうした事例から我々は何を学ぶべきだろうか。
筆者はロジスティクスにおけるリスク管理のポイン トとして次の三点を挙げたい。
?BCPの落とし込み  BCPはやはり必要である。
とりわけ対策本部 などの意思決定機関と担当責任者を定める仕組み だけは、何をさしおいても整備しておくべきであ る。
意思決定機関が明確になって初めて施策の実 行が可能になる。
 BCPが役に立たないと言われてしまうのは、 それが机上のマニュアルにとどまっていて、いざ という時に施策の手引として機能しなかったから である。
普段から訓練などを実施し、施策レベル で動けるように落とし込んでおくことで、災害シ ナリオ想定が活きるのである。
?リスク対策と事業戦略の統合  リスク管理やBCP構築を目的として、拠点の 分散や在庫の積み増しを実施する場合であっても、 それを企業の中長期的な方向性、事業戦略と合致 させる必要がある。
経営効率や収益を度外視した リスク対策は現実には不可能である。
 関東の一拠点集中体制を見直し、関西に第二セ ンターを設置するケースを例にとってみる。
 第二センターは単なる保管拠点とするのではなく、 同時に関西方面の顧客に対するサービスレベルが 向上するように設計する。
すなわち、拠点整備に よりリードタイムの短縮、緊急配送への対応、あ るいはサービスパーツ保有の拡大等を実現し、関 西方面の顧客に対する営業開拓を積極化する。
リ スク対策の強化と企業成長を結びつけるのである。
?ネットワーク力  ここで言うネットワークとは、ITインフラの ことではなく、企業同士の結びつきのことである。
ことにロジスティクスにおいては地場の中小物流 事業者との繋がりが重要である。
荷主として3P Lや元請け会社を選ぶ際には、そうしたネットワ ーク力を評価項目の一つに加えておく。
 有力な元請け物流事業者は平時から地場の運送 業者や倉庫業者と繋がり・付き合いを持ち、適度 に仕事を融通することでお互いの関係を築いてい る。
そのため、緊急に車両が必要な時にも「よそ が言ってもダメだけど御社なら」と車両を調達で きる。
とりわけ災害発生時には、そうしたネット ワークが大きな威力を発揮する。
 物流は人手を必要とするオペレーションである。
どれだけ先進的な仕組みを持っていても現場が回 らなければ話にならない。
スキルを持ったパート ナーと、平時にどれだけの関係性を構築できてい るかが、災害対応時の成否を分けるのである。
災害対応の成功パターンと失敗パターン 失敗パターン 体制のバックアップがなく、例え ば倉庫が一つ被災したら業務が 続行不能となる (BCPなどのマニュアルはある が)災害時に事前に想定した行 動を実践できない 災害発生時にトップダウンが効か ず現場がその場の判断を行うた め混乱が避けられない 災害想定がないor 手に負える範 囲を超えており、実際の災害発 生に対応できない 成功パターン 倉庫拠点など、災害時にバック アップを行える物流体制やインフ ラを持っている 災害時に緊急対応・都度対応 できる仕組みがサプライチェーン にビルトインされている トップダウンで災害対応を行う 体制を普段から準備している 災害を想定し、手を打てる範囲 の被害に対応する施策を事前に 準備している JUNE 2011  30 震災で浮かび上がった課題  我々日本能率協会コンサルティングのロジステ ィクス担当部門では、ロジスティクス領域で想定 されるリスク管理項目および、その対策事例をこ れまでのコンサルティング体験に基づいて取りま とめている。
このうち主に物流事業者が対象とな るものを図1に掲載した。
 一連の対策のなかでもとりわけ拠点の分散や在 庫の積み増し、代替輸送手段の確保については、 今回の震災をきっかけに多くの企業が検討を始め ている。
その主な論点を以下に整理してみよう。
?拠点の分散  今回の震災によって顕在化したロジスティクス の課題としては、これが一番大きいのではないだ ろうか。
地震によって出荷が出来ないという現実 を目の当たりにした多くの荷主・物流事業者が、 物流拠点の分散を考えるようになっている。
 具体的には、関東一拠点体制を見直し、東西二 拠点体制に移行したいというニーズである。
ある いはアジアの出荷拠点から日本の消費地にダイレ クトにモノを届けたいという、グローバルな視点 からの課題解決を模索している例もある。
 ただし、倉庫の増設には課題も多い。
最大の課 題はコスト増である。
単純に拠点を一カ所から二 カ所に増やせば、拠点間横持ちなどの新規のコス トも発生し、倉庫関連費用は倍近くになる。
在庫 も通常で一・五倍程度に膨らむ。
?在庫の積み増し  今回の震災では半導体や資材等のサプライチェ ーンの上流に位置する部品メーカーが被災したこ とにより、日本のみならず海外の自動車組み立て メーカーや家電メーカーまでが操業停止を余儀な くされた。
 これに対応するために、必要な部品や半製品を 内製化する動きが今後活発化してくると予想され る。
内製化までには至らなくても、?の拠点分散 と併せて、BCP視点での在庫政策の見直しを開 始している企業は多い。
 しかし、本施策も難しい課題をはらんでいる。
リスク管理のために在庫を積み増すということ ロジスティクスの災害リスク管理  今後の災害に備え、拠点の分散や在庫の積み増し、代替 輸送手段の手当てに動く企業が増えている。
しかし、その 判断に妥当性はあるのか。
拙速な対応は企業競争力を阻害 することにもなりかねない。
ロジスティクス領域における リスク管理の考え方とアプローチの方法を解説する。
日本能率協会コンサルティング 広瀬卓也 オペレーション革新本部 チーフ・コンサルタント 図1 ロジスティクス・リスク対応項目例 対象 リスク項目 対策発生前 予防保全 発生後 機能 項目 迅速対応 物流事業者 情報 システム 輸送 車輛が調達できなくなる 一定比率の自社車輛の確保 路線便事業者の有効活用 複数社購買によるリスク分散 確保可能なルート情報の早期収拾 一定比率の自社車輛の確保 路線便事業者の有効活用 複数社購買によるリスク分散 確保可能なルート情報の早期収拾 拠点分散対応 拠点分散対応 拠点分散対応 倉庫の共同利用・協業検討 手動による入出荷業務訓練等の実施 地場人材派遣事業者ネットワークの構築 燃料が調達出来なくなる 道路インフラが寸断される 道路インフラが寸断される 車輛が調達できなくなる 燃料が調達出来なくなる 作業人員が集まらなくなる 配送 荷役 保管 倉庫が破損して入出荷が 出来なくなる 倉庫が破損して入出荷 が出来なくなる 平時における外部業者活用(ピーク時の作 業委託など)による、衛星習熟資産形成 クラウドコンピューティングを含めたサー システムインフラが破損し バー分散化 て使えなくなる ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○○○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 第6部 特 集 31  JUNE 2011 は、当然ながら経営上必要とされる「適正在庫」 を超えて在庫を保有することになる。
キャッシュ フローはその分悪化する。
在庫を持つことによる 副次的なコストも増加する。
 専門性の高い基幹部品や一社購買を行っている 重要部品、当面の販売強化製品など、クリティカ ルなアイテムを慎重に定めて、それだけを工場・ 倉庫・営業所等に適切に分散させるといった施策 を打つにしても、コストアップは避けられない。
?輸送手段の多様化  今回の震災では、輸送能力の確保もまた大きな 課題となった。
車輛はもとより燃料の調達、ある いはドライバーの安全をどう担保するかという課 題である。
 なかでも燃料不足は一時期深刻な状況に陥っ た。
このため地下タンク(インタンク)による燃 料備蓄や傭車比率の見直し等がクローズアップさ れている。
ただし、これも企業単独で進めるのに は限界がある。
上記の拠点分散や在庫積み増しと 同様に、燃料備蓄や車輛増加には少なからずコス トがかかる。
想定外の事態にどう対応するか  リスク対策にどこまでコストをかけるのか。
そ の判断は経営者が下すしかない。
 しかし筆者はジャスト・イン・タイム(JIT) やSCMの各種の手法を用いて、在庫を最小化し ようとする傾向は今後も変わらないと考えてい る。
今回の災害の影響がどれだけ大きなものであ ったとしても、JITを放棄して在庫を現在の数 倍持つという決断をする企業は少ないはずだ。
 それよりも今後のSCMに求められてくるの は、サプライチェーン上のプレーヤー同士が、ど のようにリスクを分担し合うかという問題であろ う。
製品・半製品・資材の在庫の所有と配置が、 リスク管理の観点から改めて検討されることにな る。
 輸送手段の多様化に関しても、注目すべきは共 同物流であろう。
普段から複数社をまたがった輸 配送のネットワークを持っておくことで、災害時・ 非常時の車輛・ドライバーの融通が容易になる。
 もちろん災害時にはリソースが全体的に不足す る。
供給不足はどこも同じだ。
それでも災害対応 をトリガーとして、普段は実施の難しい異業種混 合の共同配送やミルクランなどの共同集荷を進め ていくという選択肢は十分にあり得るはずだ。
 サプライチェーンが断絶した原因を、JITや 在庫削減に求める論調は、震災から時間が経過す ると共に収束し、その後はコスト面からも妥当性 のある施策が見極められることになるだろう。
 むしろ今回の震災とそれに伴う原発事故から筆 者が痛感させられたのは、事前にリスクを想定す ることの難しさである。
想定されるリスク項目を 洗い出し、発生確率や影響の大きさなどを評価し て、施策立案と準備の優先度合いを決めていく方 法については、既に様々な手法やフレームワーク が開発されている。
 しかし、すべてのリスクを事前に想定すること は不可能だ。
全く想定しなかったリスクは常に起 こり得る。
その場合、BCPのシナリオや事前の 取り決めはほとんど役に立たない。
 そのような場合には「各関連部門から必要な情 報が即時に入ってくるか」そして「対策本部など の意思決定組織が機能しているか」が問題になる。
カギとなるのは情報収集能力である。
 いわゆるJITやSCMの運用に長けている企 業は、情報収集能力にも優れている。
今回の震災 においても、平時のSCMで築いたネットワーク を活かし、必要な関連企業と適宜連絡を取り、物 資や人材を柔軟に融通することで最小限の期間で 復旧にこぎつけた企業は多い。
 JITの目的は在庫削減ではない。
在庫削減は 結果である。
JITの本来の目的は情報の動きを 密にして、サプライチェーン上をモノがスムーズ に流れるようにすることにある。
従って必要なの はJITの見直しや取りやめではない。
JITの 深化、SCMの高度化こそが、想定外のリスクに 備える最良の方法なのである。
図2 リスク管理の基本的考え方 原則都度対応 ■事前想定が役に立たない場合が 殆ど(今回の震災もこれに近 い) ■情報連携を密にして、とにかく都 度対応を迅速に行う 可能な限り事前想定 ■リスクの事前想定は可能だが、 影響が大きいため全てに対策を 打てない ■「ここまでの大きさのリスクに対応 する」という線引きが最も重要 ■想定した範囲内のリスクに対して は、対策を確実に打っておく 事前想定 ■発生確率が高いので、事前想 定をしっかりと行い、対策が確 実に打てる仕組みを構築してお く 最小限の対応 ■事前にリスク想定が出来ても、 そのための事前準備は最小限 にとどめる 発生時の影響度 小さい リスクの発生確率 大きい 大きい小さい

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから