ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年6号
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「ジャスト・イン・タイムに罪はない」戦略調達 中ノ森清訓 社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2011  4 自由かつ迅速に組み換えられるしな やかなサプライチェーンが理想です」  「特に重要なのが調達の柔軟性です。
これは単価の安いサプライヤーにコロ コロ切り替える?レートショッパー? になれという意味ではなく、いざと いう時に、果断にサプライヤーの切り 替えが行えるようにしておくことが 重要だという意味です。
日ごろから 柔軟性のある調達機能を整備できて いれば、危機に際してもサプライチェ ーンは機能するはずです」 ──今回の震災でそういった事例は あまり聞こえてきません。
 「ユニ・チャームが即座に主要製品 の仕様を簡素化したり、JTが製造 するタバコの銘柄を減らしたりと一部 では柔軟な対応を示した企業もあり ますが、多くの企業のサプライチェー ンが硬直化していることが震災によ って明らかになりました。
特定のサ プライヤーが被災して供給がストップ した途端に、製造ライン全体が止まっ てしまった。
代わりとなるサプライヤ ーを用意することもできませんでした」 ──何故でしょう。
 「原因の一つは、ものづくりへのこ だわりが強すぎることがあげられます。
日本の企業は製品で差別化しようと するあまり、顧客から必ずしも求め られていない加工の複雑さを追求し 積み増せば競争力が落ちる ──東日本大震災の影響でサプライチ ェーンが大きく混乱したことを受け、 ジャスト・イン・タイム(JIT)に 代表される在庫削減が裏目に出たと の声があがっています。
企業はこれ を機に在庫を積み増し、リスクに備 えるべきでしょうか。
 「答えは『No』です。
問題の立て 方が間違っている。
JITと震災対 応はほとんど連動していません。
仮 に今回のような大規模災害に在庫で 対応するとなると、基幹部品からネ ジ一本に至るまで全ての部品・部材 が二カ月分から三カ月分は必要です。
これは現実的には不可能なはず。
そ んなことをすればマーケットにおける 競争力が著しく低下し、震災が来る 前に企業は潰れてしまいます。
ピン ポイントで特定の部品・部材だけを わずかばかり積み増しても、焼け石 に水で非常時にはほとんど意味を為 さなかったはずです」  「仮にムリをして在庫を揃えたとし ても、在庫が同じ拠点にあれば同時 に毀損して使えなくなってしまう可 能性もある。
そうかといってリスク 分散のために複数の拠点で在庫を抱 えていれば、交通インフラが寸断さ れた場合、生産ラインまで運べない こともあり得えます」 ──在庫の積み増しでは非常時の対 策にならない。
 「たまたま功を奏すケースもあるで しょうが、場当たり的で効率が悪い。
在庫の弊害を復活させるだけの理由 にはなりません。
在庫は経営やオペ レーション上のあらゆる問題を隠して しまいます。
機動性の足かせにもなり、 トラブル対応や商品改廃のタイミング などにも悪影響を及ぼします。
RO A(総資産利益率) やROE(自己 資本利益率)といった指標も悪化し、 投資家からの評価も下がって資金調 達にも影響が出ます。
負の要素があ まりに大きい。
こういった問題を解 消するためにこれまで在庫削減を中 心とするサプライチェーン・マネジメ ントを進めてきたのに、当たるか当 たらないかわからない震災対応のた めに在庫を積み増すという選択は間 違っています」 ──リスクに対応するためにはどうす れば良いのでしょう。
 「最も有効なのは?柔らかい?サプ ライチェーンを構築することです。
平 時には効率を最重視した拠点や人員 がグローバルレベルで最適に配置され ていて、危機発生時にはその機能を 戦略調達 中ノ森清訓 社長 「ジャスト・イン・タイムに罪はない」  東日本大震災以降、ジャスト・イン・タイムの弊害が 喧伝されている。
しかし、在庫を積み増してもリスクへ の効果的な対策にはならない。
的の外れた議論を続ける より、柔軟性のあるサプライチェーンを構築することが先 決だ。
             (聞き手・石鍋 圭) 5  JUNE 2011 たり、いたずらに製品のバリエーショ ンを増やしたりしがちです。
そうな ると求める部品や部材の仕様や品質 も厳しくなり、応じることのできる サプライヤーも限定されてくる。
結果、 特定のサプライヤーへの依存度が高 まってサプライチェーンも硬直化する。
これが現在の構造です」  「それに対して、欧米の企業は調達 の柔軟性を徹底して追求しています。
日本に比べるとサプライヤーとの関係 が短く、浅いので、切り替えも比較 的容易です。
その分、部品・部材の 仕様や製品バリエーションは絞り込ん でいる。
進んだ企業では、危機が発 けなくても済みますが、新規開拓と なれば多くのサプライヤーから技術情 報を取得し、それが自社のビジネス に合うのか、変更はどの範囲まで可 能なのか、コスト効率はどうなのか、 そういったことを細かく分析する必 要があります。
それには相応のサプ ライヤー評価体制が不可欠です」  「ところが多くのメーカーは製造部 門には潤沢なリソースを投下する一 方、調達部門への投資は薄い。
企業 が生み出す付加価値のうち、自社だ けで創出しているのは一〇%から一 五%ほどと言われています。
つまり、 八〇%以上は外部のサプライヤーによ ってもたらされている。
それだけ重 要な役割を担う調達部門なのに、そ の価値ほどは重視されていない。
柔 らかいサプライチェーンを構築するた めには、そういったところの意識改 革も必要かも知れません」 生すればどのサプライヤーを使ってど のルートを選定し、どの拠点を代替 とすべきか、それを瞬時にシミュレー ションし、コストまで含めて最適の ソリューションを導き出す仕組みを導 入しているところもあります」 解は企業によって異なる ──しかし日本のメーカーはサプライ ヤーとの強固な協力関係を強みとし ています。
 「確かにサプライヤーとの関係に関 しては日本と欧米で一長一短が有る のですが、緊急対応においては後者 の方が機能することは間違いありま せん。
遠回りに聞こえる かも知れませんが、サプ ライチェーンのリスクマネ ジメントはJITの是非 や在庫の積み増しではな く、そもそも自社のビジ ネスモデルをどう位置付 けるか、自分たちの価値 はどこにあって、事業効 率とリスクのバランスをど う考えるのかという大局 的な視点から出発する必 要があります」 ──事業効率とリスク対 策のバランスを実際にど う取るかは非常に難しい 問題です。
 「解は企業によって異なりますが、 一つの指針になるのが顧客の反応で す。
顧客がリスクマネジメントに投資 した分の値上がりを許容してくれる かどうか。
例えばどんな状況でも一 〇〇%の供給を約束する代わりに一 〇%高い価格を認めてくれるか、あ るいは九九%の供給率で五%の値上 がりを許容してもらうのか。
そうい ったことを軸にしながら、プライシン グやリスクマネジメントの方向性を決 定していくべきでしょう」 ──震災をきっかけに柔軟なサプライ チェーンを志向する動きは出てくる のでしょうか。
 「実際にサプライヤーの見直しに 入っている企業もあります。
しかし、 日本の場合はサプライヤーの登録にも 時間がかかる。
品質管理や技術とい う観点からのチェックがあまりに厳 しく、全ての対応が終わるのに一年 以上かかるケースも珍しくはありま せん。
トップダウンですぐにサプライ ヤーを切り替えろと言われても、現 場ではどうすることもできないのです。
まずはこの体質を変える必要がある」  「サプライヤーの新規開拓に割いて いるリソースも十分ではありません。
既存のサプライヤーとのやり取りだけ であればそこまで人員やコストをか (なかのもり・きよのり)一橋大学社 会学部卒。
テキサス大学オースチン 校マコームズスクールオブビジネスに てMBA取得。
コンサルティング会社、 三菱商事などを経て2007年12月 に戦略調達を設立、代表取締役社 長に就任。
調達・購買・SCM関連プ ロセスのBPR、プロジェクトマネジメ ント、オペレーション部門の立ち上げ およびマネジメント、事業戦略立案・ 展開、海外のソフトウェア、サービス、 プロセスの日本への展開を得意とする。
お客様 ■需要 モデリング 最適化 サプライヤー 出所:株式会社戦略調達 バリエーションの豊富なサプライチェーンは緊急時にも効果を発揮する 工場DC ■調達方針 ■調達制約 ■輸送方針 ■輸送制約 ■輸送方針 ■輸送制約 ■在庫方針 ■在庫制約 ■配送方針 ■配送制約 ■ライン割当 ■ライン制約 ■在庫方針 ■在庫制約 ■需要、調達・生産・輸送方針や制約に基づき、トータルコストが最小となる生産、 輸送、在庫計画を回答 ■方針や制約を変えたモデルを作成する事で、What-ifシナリオのコストインパクトを検証 シミュレーション ■最適化された計画に基づく在庫推移など、詳細なオペレーションの動きをシミュレーション ■最適化の回答が、実行可能か、オペレーションの細かい要求に耐えうるかを検証

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