ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年6号
物流行政を斬る
第3回 物流インフラは即座に復旧燃料・情報・在庫管理など運用面の課題が浮き彫りに

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2011  68 物流インフラは即座に復旧 燃料・情報・在庫管理など 運用面の課題が浮き彫りに  大規模災害にもかかわらず、道路、鉄道、空港、港湾など の物流インフラはスピード復旧を実現した。
日本の復旧能力の 高さが改めて証明された。
ところが、被災者に充分な物資が届 くまでには時間を要した。
政府や地方自治体は緊急時における 燃料確保や情報の一元化、在庫管理などの再検討を急ぐ必要が ある。
第 3 回 震災後三週間でほぼ復旧  三月十一日に発生した東日本大震災により、被災 地である東北及び関東の一部の物流インフラは大き な被害を受けました。
津波により浸水したり、流さ れてきた瓦礫で埋まったりした空港や港湾、亀裂が 入り使用できなくなった高速道路の状況は、メディ ア等を通じてご覧になられた方も多いでしょう。
 しかし、それらの物流インフラは想像を超えるス ピードで復旧しました。
震災から約三週間後の四月 四日時点の状況を見ると、高速道路や直轄国道はほ ぼ一〇〇%、新幹線は六割強、空港や港湾もほぼ 全ての拠点が使用できる状態にまで回復しています (図表参照)。
わが国の技術力の高さを、内外に知ら しめるものと言えるでしょう。
 被害の大きい鉄道に関しても、JR東日本の清野 智社長は四月五日の記者会見で、津波で大きな被害 を受けた気仙沼路線等の七路線について、「責任を 持って復旧させる」と明言し、復旧作業に注力して いることを発表しました。
 物流インフラが急速に復旧しつつあるにも関わら ず、被災地からは震災当初、「充分な救援物資が届 かない」という声が相次ぎました。
何故でしょうか。
このような現状認識をもとに、以下この震災により どのような問題が浮き彫りになったかを考えてみる ことにしましょう。
 震災時における輸送手段で最も威力を発揮するの はトラックです。
船は港湾を、鉄道は駅やレールを、 飛行機は空港を使用しますが、それら施設の一部が 震災で破壊されてしまえば使い物になりません。
ま た船、鉄道、飛行機は、港湾から港湾、駅から駅、 空港から空港までの輸送しかできず、最終目的地ま で届けることはできません。
 トラックであれば、道路さえ整備されれば縦横無 尽に活躍できます。
ドアt o ドアの輸送も行えるとい う強みもあります。
実際、今回の震災に際しても多 くのトラック事業者が政府の緊急災害対策本部の要 請を受け、緊急物資の輸送に当たりました。
しかし、 先述したように物資はすぐに行き渡りませんでした。
トラック輸送のどこに問題があったのでしょうか。
 まず燃料の問題が挙げられます。
道路がどんなに 早く復旧しても、トラックは軽油が無ければ動きま せん。
その軽油が大震災により大幅に不足しました。
多くのトラックがガソリンスタンドに列を成している 光景が連日メディアで報じられたのは記憶に新しい ところです。
災害時において最も活躍するはずのト ラックが燃料確保に窮したことが、効果的な物流の 弊害となりました。
今後、政府や地方自治体は災害 時のために備蓄しておく燃料の量などを再検討する 必要があるでしょう。
 また大震災発生直後は、被災地に入るトラック台 数を制限するため緊急通行許可証の取得を義務付け ました。
この標章があれば、ガソリンスタンドでの 給油も優先的に受けることができます。
しかし、こ の許可証の申請場所や手順を知らない事業者も少な くありませんでした。
その認知方法や緊急時におけ る特例措置などについても、今後議論する必要があ りそうです。
 情報管理の問題もあります。
どの被災地に何人の 避難者がいて、どのような物資を必要としているか、 それを一元管理できる仕組みがなければ、物資に過 不足が生じてしまいます。
特に医薬品の不足は命に 関わります。
電気が使用できない状況下でも情報端 末や被災していない地域の仕組みなどを活用し、ど のように情報管理を行っていくのか、今後早急に検 討していくべきだと言えます。
物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 (財)流通経済研究所 客員研究員 寺嶋正尚 69  JUNE 2011 在庫管理にはプロのノウハウが必要  今回の大震災では、輸送以上に在庫管理の難しさ を垣間見たと言っても過言ではありません。
被災地 には全国各地から善意の緊急物資が山のように送ら れてきました。
ただし、宅配便と違って利用者(被 災者)が必要なものを注文したわけではありません。
被災していない地域の人たちが「おそらく被災し た人はこんなものが必要だろう」と推測し、送っ てくれたものです。
当然そこには実際のニーズと のギャップが生じます。
 次々と送られてくる物資を管理し、それをどう 仕分けするかは重要な機能です。
時には温度管理 が必要になることもあり、専門的なノウハウが必 要になります。
被災地では自治体の職員などがこ の作業に当たりましたが、物流に詳しいわけでは ありません。
緊急時に在庫管理に詳しい専門家を 確保し、現地に派遣する仕組みを現状以上に整え ておくべきでしょう。
 わが国の物流行政の全体像および今後の方向を 示したものに、「総合物流施策大綱」があります。
その柱の一つとして掲げられているのが「安全・ 確実な物流の確保等」です。
「大規模な地震の発生 時や、豪雨・豪雪等の頻発する自然災害時に備え、 災害時に強い交通網の確保、災害時の道路、鉄道、 港湾等の早期復旧に向けた体制整備等、安全・安 心の確保に向けた防災・減災対策の総合的な実施 が求められている」としています。
「総合的な対策 の実施」に向け、国及び地方自治体が共同する形 で、今後その詳細を早急につめていかなければな りません。
 これまで見たように、物流インフラの整備、ハ ード面における対策は現状でも十分機能している と言えます。
むしろ問題はその運用、ソフト面に おける施策です。
災害時に輸送や在庫管理はどう 行えば良いか、そのための組織体制はどう整備す べきか、緊急避難的に規制緩和すべき項目などは ないか等を検討する必要があります。
 最後に、この東日本大震災によって発生した課題 で早急に対応すべきものについてあげておきましょ う。
先ずは大震災により発生した瓦礫等の処理の問 題です。
阪神・淡路大震災の時のケースも参考にし つつ、復興に向けて効率的に行っていかなければな りません。
 次に民間企業としては、中期的に見て東北地方の 要衝の地である仙台を軸に据えた物流戦略を改める 必要があります。
船や大型トラックで直接仙台に運 び、そこから東北各県に枝分かれさせるネットワー クを築いてきた企業は、直接東北各県に輸送する経 路を確立しなければならないことでしょう。
 さらに今回の大震災を契機に、トヨタ生産方式を 初めとし、サプライチェーン全体で極力在庫を持た ない仕組み作りに精を出してきた企業などは、今一 度その制度を見直す必要がありそうです。
在庫水準 などのサービスレベルが適正かどうか、リスク管理 をどう行うかなど、明確な方針を固めておく必要が あります。
※日本物流学会では、二〇一一年四月二日に行われた関東部会で 「災害のロジスティクス」と題する緊急シンポジウムを行った。
通 常の部会の三倍近い会員が参加するものであり、内容も大変充 実したものであった。
本稿はそこでの議論等を参考にし、作成 したものである。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、 流通経済研究所を経て現職。
日本物 流学会理事。
客員を務める流通経済研 究所では、最寄品メーカー及び物流業 者向けの研究会「ロジスティクス&チャ ネル戦略研究会」を主宰。
著書に『事 例で学ぶ物流戦略(白桃書房)』など。
物流インフラの復旧状況(震災から約3 週間後の4 月4 日時点) 道路 鉄道 空港 港湾 高速道路 100% 100% 東北自動車道 100% 100% 常磐自動車道 100% 100% 原発規制区間を除く 直轄国道 99% 99% 国道4 号 100% 100% 岩手・宮城・福島県内 国道45 号 99% 99% 岩手・宮城県内 国道6 号 97% 97% 宮城・福島県内(原発規制区間を除く) 新幹線 62% 62% 東北新幹線 47% 47% (東京〜那須塩原、盛岡〜新青森) 秋田新幹線 100% 100% 山形新幹線 100% 100% 在来幹線 62% 62% 100% 92% 100% 100% 東北地方及び茨城に加え羽田・成田・新潟空 港併用している岸壁は一部(青森港を除く) 災害対策 利用一般利用備 考 (注)復旧率は、道路及び鉄道が距離ベース、空港及び港湾が拠点数ベース 資料:国土交通省2011年4 月4 日発表資料(道路局・鉄道局・航空局・自動車交通局・ 海事局資料)

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