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JUNE 2011 36
1.被災地の生産拠点の
復旧状況・見通し
●回答製造企業の被災した生産拠点の約六割
強が既に復旧を済ませている。
●一方、その他の拠点においても復旧を進めて
おり、夏までに残り三割弱が復旧見込み。
※参考:全国の製造業事業所数に占める被災
地域(青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃
木、千葉七県)における災害救助法適用市
町村にある 事業所数比率は約七% (三月二
七日時点。 平成二〇年工業統計をもとに集
計) 。
2.サプライチェーン把握の現状
●一週間以内に自社のサプライチェーンへの影
響(調達先の被災状況、部材調達の可否等)
を把握した企業の割合は、素材業種で六割
強、加工業種では四割。
3.原材料、部品・部材の調達困難の背景
原材料、部品・部材の調達が滞っている原
因は、
●「調達先が被災」や「調達先の調達先が被
災」が主因。
──調達先が被災:素材業種の企業の九割、
加工業種の企業の八割
──調達先の調達先が被災:加工業種の企
業の九割
●計画停電の影響も小さくない。
──加工業種の企業の五割
※計画停電は、すでに「不実施が原則」の状
態へ移行。 この状態を維持するため、需給
両面から最大限の策を講じているところ。
東日本大震災後の産業実態緊急調査
サプライチェーンの復旧に向けた産業界の取組
東日本大震災後の産業実態緊急調査
調査の概要
●調査期間:四月八日〜四月一五日
●対象企業:八〇社(製造業五五社、小売り・
サービス業二五社)
●調査項目
(1)
製造業
● 被災地の生産拠点の復旧状況・見通し
● サプライチェーン把握の現状
● 原材料、部品・部材の調達困難の背景
● 調達困難な原材料、部品・部材の代替調達先
● 原材料、部品・部材の調達不足はいつ解消する
か
(2)
小売・サービス業
● 震災後の業況
● 自粛の現状
経済産業省は四月二六日、東日本大震災後の企業の生産状況、自
粛ムードの広がりによる消費への影響などに関する緊急調査結果「東
日本大震災後の産業実態緊急調査」を発表した。 また、震災のサプ
ライチェーンへの影響、復興に向けた産業界の取り組みについてヒア
リングを実施し、その結果を「サプライチェーンの復旧に向けた産業
界の取組」としてまとめた。 両調査結果を一部編集して掲載する。
経済産業省
調査レポート
37 JUNE 2011
65%
12%
76%
48%
65%
32%
6% 6%
37% 37%
26%
11%
製64% 造業全体(70) 素材業種(46) 加工業種(24)
11%
4% 7%
3%
26%
3%
7%
67%
9% 9%
2%
20%
4%
9%
58%
17%
13%
4% 4%
38%
4%
1. 被災地の生産拠点復旧の状況・見通し
自社のサプライチェーンへの影響確認に
かかった日数
2. サプライチェーン把握の現状
一週間以内
復旧済み
調達先企業が
被災
調達先企業の
調達先が被災
流通網の不全
北米
欧州
ロシア
中国
インド
中国・インド
以外のアジア
中南米
豪州
中東・アフリカ
日本国内
北海道
関東
北陸
中部
近畿
中国
四国
九州
計画停電の影響
その他
1か月以内
1か月後
2か月後
3か月後
夏までに(1か月
以内〜3か月後計)
4〜6か月後
6か月後〜
1年以内
1年以上
わからない
二週間以内
三週間から
四週間
現時点で確認
できていない
3.原材料、部品・部材の調達困難の背景
原材料、部品・部材の調達が困難な理由(複数回答)
88%
42%
27%
35%
12%
82%
91%
18%
50%
23%
素材業種(26)
加工業種(22)
素材業種加工業種素材業種(15) 加工業種(17)
代替調達を
確保しつつある
代替調達先がない
原材料、部品がある
4.調達困難な原材料、部品・部材の
代替調達先
素材業種(26)
加工業種(21)
素材業種(31)
加工業種(19)
代替調達先の有無
代替調達先国内に代替調達先がある場合〈どこの地域からか〉(複数回答)
※対象企業55社(素材業種33社、加工業種22社)のうち、日本国内に代替
調達先を有すると回答した企業は、素材業種15社、加工業種17社。
※また、55社のうち、海外に代替調達先を有すると回答した企業は、素材業
種12社、加工業種7社(国、地域については複数回答)。
1
5
1 1
6
3
1
5
3 3
1
4
3
2 2
3
7
1
9
1
8
3
1 1
15
1 1
4
7
17
(地域を明示的に回答し
ていないが、国内複数県
で調達している企業)
※企業により複数の
原料、部品・部材を
使用しており、複数
回答となっている。
※品目により異なるとして、複数回答した
企業あり。
※被災地:青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、千葉
JUNE 2011 38
8%
12%
48%
84%
24%
44%
6% 8% 6% 8%
31%
54%
29%
15% 18% 18%
85%
71%
15%
6%
12%
6% 8% 8%
15%
29%
5. 原材料、部品・部材の調達不足はいつ解消するか
調達済み
コンビニA社
ホームセンターA社
ドラッグストアA社
百貨店A社
百貨店B社
スーパーA社
旅行業A社
外食B社(牛丼チェーン)
コンビニB社
5月
6月
7月
8月
9月
10
月
10
月までに
11
月
12
月
来年以降
わからない
7月までに
素材業種(13)
加工業種(17)
小売り・サービス業(25) 小売り・サービス業(25)
十分な調達量が確保できる時期(見込み)
7. 自粛の現状
6. 業種・業態によって明暗分かれる震災後の業況
足下の売上・客数減少の背景(複数回答)
3月の売上げ実績(前年同月比全店ベース)
震災後、イベント等を自粛したか。
※部品によって見込みが異な
るとして複数回答した企業
があるため、合計は100%に
ならない。
供給元の被災等で調達が困
難となっている品目がある
計画停電による営業時間短
縮の影響
消費者の自粛の広がり
外国人客の減少
その他
自粛した 72%
自粛しない
28%
ホテルA社
ブライダルA社
フィットネスA社
ゴルフ場A社
スポーツ専門店A社
外食A社(居酒屋チェーン)
フィットネスB社
+9.3%
+12.2% +11.0%
+13.4% +12.6%
▲11.0%
▲16.8%
▲5.9%
▲23.4%
▲26.0%
▲5.7%
▲10.5%
▲7.4%
▲24.3%
▲17.9%
▲11.4%
食品・日用品、災害用品関連:10%前後のプラス左記以外の消費関連:10〜20%前後のマイナス
39 JUNE 2011
4.調達困難な原材料、部品・部材の
代替調達先
●加工業種の八割、素材業種の六割強で原材
料、部品・部材の代替調達先を確保しつつ
ある。
●加工業種の五割、素材業種の一割が、一部、
代替調達先が見つからない原材料、部品・
部材を使用。
※具体的品目:化粧品原料(美白成分)、ゴ
ム関連品、半導体・電子部品等。
5.原材料、部品・部材の調達不足は
いつ解消するか
●十分な調達量が確保できる時期は、
──素材産業は、調達済み八%、「七月ま
でに」を合わせると五四%、「一〇月ま
でに」を合わせると八五%
──加工業種は、調達済み六%、「七月ま
でに」を合わせると二九%、「一〇月ま
でに」を合わせると七一%
6.業種・業態によって明暗分かれる
震災後の業況
●食品・日用品、災害用品等を扱う企業では
プラス。
●上記以外の消費関連はマイナス。
7.自粛の現状
●消費者の自粛の広がりが売上げや客数の減
少の主因(八割強)。
●七割の企業がイベント等を自粛している。
サプライチェーンの復旧に向けた
産業界の取組
●地震直後は、東北、関東の多くの工場で生
産が停止したものの、サプライチェーンに係
る主要企業の工場が順次稼働を再開。
●一方、いくつかの工場は、震災の影響が大
きく、引き続き状況を注視していく必要。
●しかし、日本経済全体を見渡
せば、高炉各社の電力会社へ
の電力供給増強、住宅用電線
の需要の高まりなど、復興に
向けた前向きな動きも着実に
生まれている。
1.サプライチェーンの復旧
エレクトロニクス関連産業
概況:震災により材料・部品を
生産している企業の工場が被害
を受けたが、順次生産を再開し
つつあり、薄型テレビ、携帯電
話、スマートフォン、リチウムイ
オン電池等のエレクトロニクス
製品の生産には大きな影響はな
い見込み。
■シリコンウェハ【1】を生産・
輸出しているある企業は、震
災により工場が被害を受けた
が既に一部操業を再開。 国内
外を合わせると当面の在庫は
確保されているとともに、被災を受けてい
ない海外工場は通常操業を続けており、顧
客に対する重大な影響はない見込み。
■その他のシリコンウェハを生産・輸出してい
るある企業についても、震災により工場が
多少の被害を受けたが、東北地方での操業
を再開。 あわせて、他拠点での増産等によ
東北・関東地方の主要工場分布
★
★
★
★
★ ★
★★
★
★
★★
★
★
★
★
★
経済産業省
調査レポート
JUNE 2011 40
ているある企業は、主力工場が一部被災し
た影響で生産が減少。 現在は復旧作業が進
み、組立工場は四月初旬から、材料工場は
五月初旬から一部操業を再開する予定。 こ
のため、供給に与える影響は限定的との見
込み。
■半導体パッケージ用のプリント配線板用銅
張積層板【6】を生産しているある企業は、
原料の超極薄電解銅箔を供給している銅箔
メーカーが、計画停電による生産減から大
幅に回復。 一次ユーザーには原料逼迫の状
況はすべて伝達し、必要に応じ社外代替ソ
ースの検討も依頼しながら調整中。
■プロセッサー用の半導体用ソルダーレジスト
【7】を生産しているある企業は、化学メー
カーからの調達原料の供給が危ぶまれてい
たが、同社と調整の上、六月中旬までの原
料在庫を確保。 他方、代替原料を用いたサ
ンプルの評価を四月中旬にユーザーに依頼す
る旨、プロセッサーメーカーにアナウンス済
み。
■半導体用液状エポキシ封止材【8】を生産・
輸出しているある企業は、化学メーカーか
らの原料の供給が危ぶまれていたが、五月
中旬までの原料在庫を確保済み。 さらに、
同社において輸入等による代替供給を検討
中。 両社がコンタクトを取りつつ、供給の
見通しを確認していく方針。
り、現在では震災以前より生産を拡大。
■アルミ圧延産業については、被災工場の復
旧も完了し、現在ほぼフル生産。 HDD用
アルミ基板の生産で世界シェア約六〇%の
工場も三月末よりフル生産に回復。
■フレキシブル基板【2】、リチウムイオン電池
用の超極薄銅箔【3】は計画停電の影響に
より、大幅に減産となっていたが、三月末
より徐々に増産。 五月上旬にはフル生産に
なる予定。
■薄型テレビなどの液晶パネルの製造に使われ
るITOターゲット【4】の生産は、被災に
より操業を停止していたが、順次生産を再
開。 在庫での対応も含め、供給に大きな影
響はない。
■中小型液晶ディスプレイを生産・輸出してい
るある企業は、三月に工場の一部被災や計
画停電の影響で操業を停止していたが、現
在は操業を再開。 このため、携帯電話、ス
マートフォン、タブレットPC等の生産には
大きな影響はない見込み。
■リチウムイオン電池を生産・輸出しているあ
る企業は、工場の一部被災や、計画停電の
影響で操業を停止していたが、順次生産を
再開。
■アルミ電解コンデンサ【5】を生産・輸出し
航空機関連産業
概況:震災直後は一時生産が縮小・停止して
いた工場もあるが、現在は復旧し、または五
月には全面的に稼働開始し、六月には生産も
本格化する見込み。
■航空機エンジンシャフト【9】等を生産・輸
出しているある企業は、計画停電の影響に
よって生産量が減少したため、納期調整を
実施。 計画停電が無くなり、生産が可能に
なったため、現時点で顧客の生産に影響は
ない。
■航空機エンジンに使われるタービンブレード
【
10
】、エンジンディスク【
11
】等を生産・輸
出しているある企業は、今般の震災で工場
が被災。 一部はすでに生産を開始し、電源
も復旧したことから、五月には全面的に稼
働開始の見込み。 六月には生産も本格化す
る見込みであり、納品遅れを取り戻すとと
もに、更なる増産に向け新たな生産計画を
策定中。
自動車関連産業
概況:震災直後は、自動車生産は全国で縮小・
停止していたが、現在、生産可能な車種から、
操業スピードを調整しつつ再開する等の動きが
出てきている。
■オイルシール部品を生産・輸出しているある
企業は、工場が被災したものの既に復旧済
41 JUNE 2011
■自動車、電気機械、産業機械等の幅広い製
品に活用されるマイコン(半導体)を生産・
輸出しているある企業は、工場が震災によ
り操業を停止。 可能な限り早期の操業開始
を目指して最大限の努力をした結果、二〇
〇?生産ラインについては、 生産(量産ウ
ェハ投入)再開が六月一五日と大幅に前倒
しされた。
2.産業界の前向きな動き
■高炉各社は、震災復興用資材(仮設住宅用
の軽量H形鋼、配管用の大径管等)を優先
して生産。 電力不足・節電対策については、
共同火力、IPP、自家発電の電力出力を
拡大し、東京電力への供給を増強。
■復興等で必要となる住宅用電線については、
西日本での生産が主力。 それらの工場では
生産増強により、四月に入り震災前を上回
る、一二〇%の生産量。
■三月の工作機械受注は、三カ月連続で一〇
〇〇億円を超え、前年同月比四九・六%の
増加。 中国を中心とした新興国需要等、堅
調な外需が寄与。 今後も外需のさらなる増
勢が期待できる。
み。
■トランスミッション【
12
】を生産・輸出して
いるある企業は、被災した二次サプライヤ
ーの影響があったが、現在は震災前の体制
に戻っている。
■自動車用熱延・冷延鋼板や鋼管を生産・輸
出しているある企業は、顧客が一定量の在
庫を有していることに加え、同製鉄所も順
次生産を再開しており、顧客への生産に影
響はない。
■塗装用の光輝顔料を生産・輸出しているあ
る企業は、工場が被災し生産中止。 代替品
が存在しないため、一部の色の自動車の販
売を中止した顧客もあるが、他の色の自動
車の販売には影響はない。 顔料の供給再開
は六月以降の見通し。
■ECU【
13
】、エアフローセンサー【
14
】、イ
ンバーター用パワーモジュール【
15
】を生産・
輸出している企業は、被災により一時生産
を見合わせていたが、三月中に概ね復旧を
完了。
■ハイブリッド自動車や電気自動車のモーター
に使われるレアアース磁石を生産・輸出して
いるある企業は、計画停電の影響で操業を
停止。 現在は操業を開始したことから、安
定供給を確保。
参考・用語解説
【1】
高純度シリコン(九九・九九九九九九九九九%)
の単結晶を薄切りした薄板状のもの。 携帯電話
やデジタル家電、自動車用マイクロコントローラ
などの半導体の基板として使用される。
【2】
一般的なプリント基板より薄く、小さい力で繰
り返し変形させることが可能な配線板。 可動部
品への配線などに使用される。
【3】
銅張積層板に張るための銅箔で、ユーザーごと
のスペックによって厚さを変えたもの。
【4】
液晶テレビや太陽電池の透明電極の製造に使わ
れる母材。 電気を通しやすい、加工性が高い、
透明度が高いといった特性がある。
【5】
アルミニウム電極表面に形成した酸化被膜を活
用した、大容量の電気が蓄積できるコンデンサ。
【6】
パソコンや携帯電話の基板の元となる板で樹脂
と基材からなる絶縁体に銅箔を張り合わせたも
の。
【7】
プリント配線板の表面を覆い、回路パターンを
保護する絶縁膜。
【8】
半導体のチップや接続部を、温度や湿度などの
ストレスから保護し、長期間安定性能を維持す
るための保護材料。
【9】
ジェットエンジン内で超高速で回転する軸とな
る部品。
【10】
翼型を持った、通常は細長い板。 前方から来る
気体の流れを受けてディスクを回転させるもの。
【11】
エンジンの回転軸に取り付けられる円盤のこと。
ディスクのまわりにはタービンブレード等が取り
付けられている。
【12】
エンジンで発生した動力を車の走行状態に応じ
て、回転数、速度などを変換する装置。 燃費性
能、乗り心地などに影響する基幹部品の一つ。
【13】
エンジン、トランスミッション、エアバッグなど
を電子的に制御する装置。
【14】
エンジンに吸入される空気量を測定するセンサ
ー。 燃費性能等へ影響する重要部品の一つ。
【15】
電力を直流から交流に変換する装置。
経済産業省
調査レポート
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