*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
「新しいルールを作り合意を図る」
卸抜きの流通は考えられない
──今回の製配販連携は、卸の介在が前提になって
います。 メーカーと小売りの大手同士が直接取引す
る欧米型とはモデルが違う。
「少なくとも短期的には、卸の介在しないサプライ
チェーンなど日本では考えられません。 欧米の大手
小売りは卸機能を自分で持っています。 垂直統合し
ている。 日本とは全く違います。 誰がやるにせよ中
間流通機能は必要であり、それを小売りが代替する
ことは、日本の場合には難しい。 これまでも試みら
れては来ましたが成功はしていません」
──直接取引に比べて卸経由のサプライチェーンは
効率が悪いとする「卸不要論」は間違いですか?
「それは誤解から来ているのだと思います。 現在は
もちろん過去の歴史においても、卸がいるから効率
が下がったということはなかったはずです。 むしろ豊
富な品揃えや、きめ細かなロジスティクスなど、日
本特有のサービスは卸がいたからこそできた」
──日本市場でもカテゴリーによっては製造小売り
(SPA)が台頭しています。
「アパレルのように狭いところで完結する商品なら
SPAも可能ですが、食品や日用雑貨品のような幅
広い商品を扱う分野、品目数やメーカー数がケタ違
いに多い分野では、卸がいた方が効率的ということ
だと思います。 今の段階では卸は不可欠で、それを
前提に垂直連携を考えていく必要あります」
──日本で製配販の連携、SCMの重要性が指摘さ
れるようになって、既に一〇年以上が経過しています。
企業の枠を越える取り組みは進んだのでしょうか。
「進んできた部分とそうでない部分があります。 販
売データなどのシステム的な情報共有は、ある程度
は進みました。 しかし、今回のWGでもいろいろ議
論しましたが、製配販それぞれが抱えている事情、
問題意識は共有できていなかったと思います。 卸は卸、
メーカーはメーカー、小売りは小売りの事情を抱え
ていて、それをお互いが協力して解決しようという体
制にはなっていなかった」
──このタイミングで製配販の協働が合意できた理
由をどう考えますか。
「個人によって見方は違うでしょうが、個人的には
二〇〇〇年代後半から意識が変わってきたように感
じています。 不毛なサービス競争はやめましょう、流
通全体でコスト効率を高めましょうという意識に移っ
てきた。 日本の人口がピークを打ち、国内マーケッ
トが縮小に向かったことがやはり大きいと思います。
効率化できるところは協調してやっていこうとならざ
るを得なくなった。 市場が拡大しているときにはその
ような危機感はなかった」
──多少古い話になりますが、日本のボストンコンサ
ルティンググループ(BCG)が一九九七年に「E
CRニッポン」を立ち上げています。 今回の協議会
と同じようなメンバーが集まり、各社ともかなりの活
動資金を投じて取り組んだものの、結局二年足らず
で活動が頓挫してしまいました。
「ECRニッポンと今回の協議会の最大の違いは、
小売りのコミットメントだと思います。 ECRニッポ
ンにも大手小売りの名前は入っていましたが、それ
ほど深くはコミットしていなかった。 今回は小売りの
意識が当時とはまったく違います」
──確かに返品削減にしても、配送効率化にしても、
メーカーや卸に対して買う側の立場にいる小売りが
それを認めなければ話が始まらない。
「今回は日付の“三分の一ルール”にしても見直し
JUNE 2011 26
取引制度改革は小売りのコミットメントがカギになる。 国
内市場が縮小トレンドに入ったことで、小売りの意識も以前
とは変化した。 メーカーや卸と合意のできる環境が整ってい
る。 まずはサプライチェーンの実態を把握し、現状認識を共
有することが第一歩となる。 (聞き手・大矢昌浩)
流通経済研究所 加藤弘貴 専務理事
27 JULY 2011
くさんある。 そのため出荷時には既に生産から日が
経っているといったことが分かってくれば、もっと合
理的な判断ができるようになる」
──五月一九日のフォーラムでは、返品が業界全体
でどれだけ発生しているのかを推計した金額が発表
されました。
「関係者が考えていた以上に返品の多いことが明ら
かになりました。 そうした実態、事実に基づくこと
で合意も進むと考えています。 そうした情報を開示
することに対する抵抗もなくなっています。 機は熟し
てきました」
──「配送最適化WG」は? これも返品のような実
態調査や新しいガイドラインを出していく?
「配送頻度やロット、リードタイムについては各社
によって事情が全く異なるため、一律的なルールを
作るのではなく、まずは行き過ぎたサービスはやめよ
うという認識が共有できればいいと考えています。 サ
プライヤーに物流サービスを高めてもらうことがベス
トプラクティスではないということをわかってもらう。
実際、今や先進的な小売業はサービスレベルをあえ
て下げることで効率化を進める傾向にある。 WGで
も終売品の欠品を認めて返品を減らしたローソンさ
んの取り組みが紹介されました。 こうした事例を広
く知らせて効果的な取り組みの進め方として共有し、
事例を増やしていく」
──今回の協議会には経産省の予算が付いていませ
ん。 中期的な活動計画はどうなりますか。
「まずは三年ぐらいを目安に考えています。 その後、
組織をどうするかについては今後の検討課題になりま
す。 経産省には引き続きバックアップを期待したい。
関係業界の意見調整や求心力の点で経産省の力はや
はり大きい」
ていくことで小売りの参加メンバーとも合意できてい
ます。 これまでのように、いい商品だけもってこいと
いう態度から変わってきていると思います」
──さすがに今回の震災では、三分の一ルールや日
付の逆順禁止がいったんなくなりましたが、一カ月
も経たないうちにまた元に戻ってしまいました。
「やはり三分の一ルールに代わる新しいルールを作
らないと変わっていきません。 そのために協議会で新
しい基準を作る、あるいは考え方をまとめようとして
いるわけです。 それも実務担当者レベルだけの合意
ではなく、WGの結果を社長会に報告し、各社のトッ
プに承認してもうらう」
──公正取引委員会や行政に協力を仰いで、取り決
めに法的な強制力を持たせることはできませんか。
「それはむしろ制約条件です。 公取委から談合と指
摘されないように配慮する必要があります」
製配販のトータル在庫の把握が必要
──流通経済研究所が事務局を務める「返品削減W
G」と「配送最適化WG」の今年度の活動計画は?
「三分の一ルールに代わる新たなルールについては、
今年度中に何らかの報告を出したいと考えています。
ただし、現状ではまだ流通の各段階で在庫がどれく
らいあるのかという実態さえ共有できていない。 各社
とも自分の在庫はわかっていても、メーカーに何日、
卸に何日、小売りに何日と、一気通貫でみているわ
けではない」
「逆にそうした実態が共有できれば合意できるとこ
ろも出てくると思います。 例えば小売りは三分の一
と言っているが、ほとんどの商品はもっと長くても問
題ないとか、あるいはメーカーにしても、売れない商
品は一年間に数回しか生産しないので実は在庫がた
施策内容
▲新商品店案内
新製品の発注〆日を納品日 火曜日
前週の月曜日にする。
ベンダーは確定数量+追加
発注見込み(5%〜20%)で
初回在庫を用意する。
新規残返品が全て(全体の
40%)削減される効果が見
込める。
推奨取り消し商品(以後、
カット商品)は店案内1 週間
後以降はセンター在庫がなく
なり次第、随時カットする(リ
ニューアル除く)。
カット残返品が約半分(全体
の20%程度)削減される効
果が見込める。
月曜日
▲新商品発注〆日
月曜日
▲
火曜日
納品日・
新製品発売日
2 週間発注1週間
(D+8)
施策スケジュール
▲
火曜日火曜日
▲
月曜日
推奨取り消し
(カット日)
推奨取り消し
店案内日
計画終了期間
(最大4 週間)
1 週間
(保護期間)
発注〆前倒し計画終了
ローソンは2009 年から新製品導入時における発注〆前倒しと、終売時においてセンター在庫を
売り切るプロセスを導入することによって、返品削減などの効果を上げている
特集
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