ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年7号
特集
第6部 離陸した次世代EDI「流通BMS」Part 2イオンとセブン&アイHDの決断

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2011  38 JCA手順の利用を後二年で終了  二〇〇七年四月のスタート以降、流通BMSの 普及は遅々として進まなかった。
肝心の小売りが 導入に消極的だったからだ。
 情報システム標準化の効果は主に卸で発生する。
卸は取引先の各小売りから送られてくるメッセー ジフォーマットが標準化されることで、個別プログ ラムの開発が原則不要になる。
新規の取引先が増 えた場合のシステム対応も容易になる。
個別プロ グラムの維持・管理からも解放される。
 一方、小売りには標準化による直接的なメリッ トがない。
インターネット回線に切り替わること で通信時間が短縮されるのは確かだが、電話回線 でも小売り側では発注データを一度送信してしま えば作業は終わる。
 既存のシステムを標準に合わせるには投資も必 要になる。
直接的な効果の見えない投資に、経営 層が首を縦に振ることはまれだ。
JCA手順でも 必要最低限の運用はできているだけに、新たなE DIの必要性は理解しながら、小売りの多くは“様 子見”を続けてきた。
 流通BMSが登場する以前にも、一九九〇年代 半ばに当時の通産省主導で検討された「JEDI COS」をはじめ、標準化の動きはこれまでもい くつかあった。
しかし、ことごとく頓挫している。
 それだけに今回「流通BMS導入宣言書」に小 売り二七社を含む製配販各層の有力企業四九社が サインしたことは大きな意味を持っている。
 イオングループのIT統括会社・イオンアイビス の北澤清システム開発本部本部長は「宣言に賛同 した企業が、どこも導入に一〇〇%納得している というわけで はないだろう。
それでも各社 のトップがコ ミットした事 実は揺るがな い。
普及の大 きな追い風に なる」という。
 イオングル ープは今回の 宣言が発表 される以前か ら、小売りとしては例外的に流通BMSの採用に は意欲的だった。
流通BMSが経産省の主導によ る流通効率化事業として着手された当初から、積 極的に人員を派遣し、その先導役を務めてきた。
 参加各社が渋ったメッセージフォーマットの開示 にもオープンな姿勢を示し、議論を前へと推し進 めた。
共同実証の参加にもいち早く名乗りを上げ、 実証終了後にはそのまま本番稼働に移行している。
 〇九年にはイオンアイビス内に「流通BMS推 進グループ」を設置、取引先企業への説明会を開 きながら、普及の拡大を図ってきた。
今年六月一 日時点で、既に取引先企業三七五社との間で流通 BMSが本番稼働している。
さらに水面下では五 〇社との間で並行テストを実施しているという。
 とはいえ、その普及率は今のところ同社の全取 引先の二割に満たない。
同社が三〇年近く前に構 築したJCA手順による電話回線システム「JET」 がいまだにEDI取引の主流を占めている。
 イオンアイビスの畔蒜多恵子システム開発本部流 イオンとセブン&アイHDの決断  小売り〜卸間のEDIの大部分が現状では電話回線 によるJCA 手順で行われている。
しかし、今後数年 のうちにJCA 手順の利用には、タイムリミットが訪 れる。
イオンとセブン&アイHDという小売りの“2強” が全面的なシステムの切り替えを実施するからだ。
  (石鍋 圭) イオンアイビスの北澤清 システム開発本部本部長 イオンアイビスの畔蒜多恵 子システム開発本部流通B MS推進グループマネジャー 離陸した次世代EDI「流通BMS」Part 2 特集 39  JULY 2011 通BMS推進グループマネジャーは「我々として は今回の導入宣言を好機と捉え、今後は流通BM Sへの切り替え促進をさらに加速する。
一三年度 までにJETシステムの利用を終了させる予定で 動いているが、上からは計画をもっと前倒しする ように指示されている」という。
 小売りにとっては直接的なコストメリットの薄い 標準化を同社が急ぐのは、流通BMSを新しいビ ジネスモデルの構築や業務革新に不可欠なインフラ として位置付けているからだ。
 北澤本部長は「電話回線を使用する既存のレガ シーシステムを温存し、従来のJCA手順に縛ら れては、新しい取り組みが何もできない。
その都度、 別のシステムを構築しなければならず、その開発 コストや運用コストは流通BMSを導入するより もずっと高くついてしまう」と判断している。
ヨーカ堂も腰を上げる  イトーヨーカ堂も動き始めた。
これまでヨーカ堂 はイオンとは対照的に、流通BMSに対して一貫 して静観の姿勢をとってきた。
経産省主導の検討 会等には顔を出してきたものの、共同実証には加 わらず、流通BMSが正式にリリースされた後も その導入は見送ってきた。
 ある卸企業の幹部は「いくらイオンが流通BM Sの必要性を訴えても、“二強”の一角のヨーカ堂 が乗ってこなければ、卸としても小売りがどこま で本気なのか判断がつかない。
流通BMSが盛り 上がりに欠ける一つの原因になっていた」という。
 しかし今年一月、そのヨーカ堂が突如として流 通BMSの導入を正式に発表した。
驚くべきはそ の普及スピードだ。
現時点では流通BMSで通信 をしている取 引先企業は一 〇数社だが、 今夏までに一 〇〇社、今年 度中には五〇 〇社程度にま で広げる予定だという。
 対象は衣食住のほぼ全商品。
ヨーカ堂のみならず、 ヨークマートをはじめとするグループ企業にもその 対象を広げていく。
さらに来年度からは生鮮品に も全面導入していく考えだ。
 ヨーカ堂の情報システムを担当するセブン&アイ・ ホールディングスの小山雄士システム企画部システ ム企画シニアオフィサーは「社内ではずっと導入 の検討は続いていたが、メリットが見出しにくい という理由から、これまでは実施の優先順位がな かなか上がらなかった。
きっかけになったのは〇 九年一〇月に流通BMSの基本形『バージョン一・ 三』が出たこと。
限られた商材ではなく、衣食住 全てが対象ならば効果も出しやすい。
やるなら部 分部分ではなく、一気呵成の方が良いと判断した」 と語る。
 流通BMSに対する投資の稟議を通すためには、 経営陣に対して具体的なコストメリットを示す必要 もあった。
その推進力となったのが“伝票レス”だ。
 ヨーカ堂では共配センター経由での取引では既 に伝票レスを実現していたが、全国七カ所に構え るTCセンター経由の取引および店舗直納取引の 多くは仕入伝票を発行している。
そこに流通BM Sを導入し、伝票レスを実現することで、人件費 や書類の処理コストを二〇%以上抑えることがで きる。
その額は「経営上、決して小さくはない規 模になる」という。
 小山シニアオフィサーは「遅れはしたが、これ で小売りがEDIの標準化を本気で目指している ことは卸側にも伝わったと思う。
なるべく取引先 に負荷をかけないよう配慮をしながら、今後も普及・ 拡大を進めていく」と語る。
セブン&アイHDの小山雄士 システム企画部システム企画 シニアオフィサー イオンの導入展開のスケジュール(目標) 2007 年〜 2009 年12 月 2010 年 1 月 2010 年 2 月 2010 年 上期 2010 年 下期 2011 年 上期 2011 年 下期 2012 年度 2013 年度 共同実証は 2009 年春終了済 イオン リテール 取引先 説明会実施 マイカル 統合 本番稼働 並行テスト 流通BMS 導入実績 グループ企業 対象メッセージ発注、出荷、出荷梱包(紐付けあり)、受領、返品、請求、支払、値札 計8メッセージ イオンリテール、イオン北海道、イオン九州、イオンSuC、イオン琉球、MV 西日本、MV 東北、光洋、MV九州、MV 北東北、MV 南東北、MV 関東、MV 長野、MV 中京、 MV 北陸、MV北海道(請求・支払を除く)、タキヤ(受領・請求・支払)等 375 528 50 54 取引先数取引先コード数 2011年6月1日現在の流通BMSの導入実績 JET 取引先・新規取引先への導入 JET 未加入の取引先 導入希望の取引先への導入 イオンリテールとグ ループ合同取引先 説明会を随時開催 JCA システム 終了 (予定) 2011年6月1日現在

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