ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年7号
現場改善
第102回 納品率向上に挑んだ中堅日雑卸

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

71  JULY 2011 納品率を正しく管理する  本社を中国地区に置くP社は年商約二〇〇億 円の中堅日用雑貨品卸である。
同社は小売り業 態別に三つの事業部を設けており、専門店チェ ーンや総合量販店(GMS)を相手とする量販 事業部がそのうちの稼ぎ頭となっている。
 同事業部の取扱アイテム数は約三万。
納品先 は北海道を除く全国にまたがっている。
一〇年 ほど前までは、得意先の数は限られていて、取 引のない有力チェーンも多く残されていた。
そ の穴を埋めるべく、M&Aを含めた拡大策に打 って出て、売り上げを大きく伸ばしてきた。
 しかし、規模こそ拡大したものの、部分最 適の継ぎ足しを繰り返したかたちの組織は、う まくは機能していなかった。
現場を熟知した叩 き上げのP社トップは、全体最適を図るために、 物流からメスを入れるべきだと判断した。
改革 に向けたプロジェクトチームが組織され、その 推進役として我々日本ロジファクトリー(NL F)にお声がかかったのであった。
 我々は約一年半にわたり作業の効率化や支払 い運賃の最適化などベーシックな改善に取り組 んだ。
そして、いよいよ新たな段階にたどり着 いた。
納品率の改善である。
 流通業に携わっている読者の方ならお分かり であろうが、納品率は卸にとって最も大事な指 標の一つである。
実際、専門店チェーンやGM Sの多くが、卸の納品率を見て、その卸との付 き合い方を決めている。
 納品率は単純に?一マイナス欠品率?で決ま るわけではない。
欠品が発生しても他の拠点や 二次卸から調達できれば納品率は維持できる。
従って、その卸の商品供給力、そして物流力が 納品率に表れるのである。
 改善に取りかかる前のP社の全国平均納品 率は、九八・三%と、決して悪い値ではなかっ た。
というよりライバルの卸と比べて優秀であ り、カテゴリーによっては一位、二位を争うほ どであった。
それでも、コンビニを始めとした オペレーション精度の高い業界のレベルにはま だ達していなかった。
あるいは全国規模のメガ 卸と比較した場合には、パフォーマンスに開き があった。
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仄劼離肇奪廚蓮�従�稜蕊蔑╋緘��亜鵑� 可能な限り一〇〇%に近づけていくことなしに、 激しい競争を生き抜くことはできないと考えて いた。
その証拠に納品率が原因で入札を失注す 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  納品率は卸売業の生命線といえる。
オペレーションの精度、 商品調達力、情報共有のレベル等々、すべての機能が納品率 に集約されて表れる。
納品率の改善には物流の枠内に止まっ た取り組みだけでは不十分だ。
難易度の高いテーマに中堅卸 が正面から挑んだ。
納品率向上に挑んだ中堅日雑卸 第102 回 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp JULY 2011  72 ることもしばしばあった。
 卸が管理指標として一般的に採用している納 品率には、大きく二つの種類がある。
「出荷納 品率」と「得意先納品率」である。
 このうち出荷納品率とはセンターからの出荷 段階での注文充足率である。
一方の得意先納品 率は店舗での検品後に明らかになる納品率を指 す。
検品によって発覚したミスや破損の分だけ 出荷納品率よりも低い数字になる。
 日雑業界では店舗段階での受け入れ検品を省 略する「ノー検品」が、今では広く普及してい る。
検品後のデータを返してくる店舗は限られ ている。
しかし、出荷納品率だけでオペレーシ ョンの精度を測るのは危険だ。
得意先納品率と の乖離を無視した管理は自己満足に陥る。
その 結果、顧客からの評価を著しく落としてしまう 恐れがある。
 また、受注形態によっても納品率には二つの 解釈がある。
「正常受注」と、いわゆる?ダミ ー込み受注?のどちらを分母にとるかという違 いである。
 正常受注は文字通り顧客からの実注文であ る。
一方のダミー込み受注の?ダミー?とは、営 業が欠品を恐れるあまり、あるいは担当顧客の 販促(特売)を見越して、注文数を上乗せして いるケースを指す。
 物流部門は、正常受注の納品率の向上に努め るのはもちろんのこと、ダミー込み受注の納品 率の改善にも取り組む必要がある。
営業との連 携テーマとして物流部門が主導しない限り、な かなか改善されない問題だからである。
 具体的にはまず、ダミー込み受注によって、 どれだけの金額的損失が生じているかを算出す る。
そして出荷センターごとに営業向けの説明 会を開催し、算出結果を報告するのである。
説 明会の後も情報発信は継続して行い、それに対 する解決策を営業担当責任者と物流部門の協議 のうえで決定し実施する、というやり方が有効 である。
物流の枠外に足を踏み出す  �
仄劼領免了�班瑤牢愿譟�羌��羚颪了� カ所にDC(在庫型)センターを配置している。
このうち「正常受注」において納品率九七・三 %と、最も数値が悪かった中京物流センターか ら改善に着手することになった。
 一般に納品率を悪化させている原因・課題は、 同じ会社であっても拠点によって異なっている。
中京物流センターの場合は、スペース的なキャ パオーバーのほかに、大量発注への対応と、メ ーカー欠品の解消が重要な課題であった。
 従来からP社では、顧客が販促キャンペーン 等を実施する場合には、担当営業マンが事前に 「大量販売申請書」を提出することになってい た。
しかし、その運用精度が悪かった。
どれだ けの量を超えた場合に「大量」とするのかとい う点も曖昧だった。
 さらには大量発注以外の通常の発注精度にも 疑問があった。
もう一方のメーカー欠品の問題 も含め、解決には営業部門や調達部門との連携 が不可欠であった。
 それまでのP社の改善は物流部門の管理対象 範囲内で解決できるテーマに止まっていた。
し かし、中京物流センターの課題と解決方法を分 析していくことで、物流部門を中心とするプロ ジェクトメンバーたちは、経営の視点に立った 改革、全体最適化が必要であることを認識する ようになっていた。
 我々は他部署との連携による全社横断的な改 善を開始した。
従来は物流という枠内で活動し ていた若手のプロジェクトメンバーたちが、名 前は知っているが話をしたこともない他部門の 部長クラスに声を掛け、多少おどおどしながら も?枠?の外に少しずつ踏み出していったので あった。
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仄劼覆蕕困箸眩澗虜播�修鯡椹悗靴深茲蠢� みをボトムアップで進めるとなると、他部門と の調整業務に多くの労を費やすことになる。
し かし、その結果として得られる効果は甚大であ る。
単なる効率化だけでなく、プロジェクトチ ームメンバーの成長を促し、社内の風通しを良 くする効果がある。
 確かにトップダウンで取り組みを進めてしま えば担当者の苦労は軽減され、ゴールには早く たどり着くだろう。
しかしボトムアップ型の取 り組みにも捨てがたい魅力があると筆者は考え ている。
 さて、我々プロジェクトチームは中京物流セン ターの納品率向上を目指し、具体策として以下 の三項目の実施を役員会に提案した。
すなわち 「?営業との定期的連絡会議の開催」、「?大量 発注の基準の統一」、「?物流センターのスペー ス確保」である。
73  JULY 2011  このうち「?営業との定期的連絡会議の開催」 については、基本的に月一回(繁忙期月二回) の開催とし、毎回以下の六項目について、それ ぞれ物流と営業が報告し、検証を行うという計 画を提案した。
(1) 欠品報告(物流→営業) (2) 滞留在庫報告(物流→営業) (3) 終売情報確認 (4) 新規納品先(取引先)情報共有 (5) 大量発注見込み情報(営業→物流) (6) 販促情報(営業→物流)  「?大量発注の基準の統一」では五年ほど前 に取り決めた基準が陳腐化し、かつ形骸化して いたため、対象商品を見直し、リニューアルす る必要があることを指摘した。
 また「?物流センターのスペース確保」に関 しては、以下のような複数の選択肢を挙げて経 営レベルの判断を仰いだ。
●センター内の事務所を廃止してスペースを確 保する ●滞留在庫を含む在庫削減 ●センター移転 ●ベンダー直送の推進 ●得意先にコストメリットを提示したうえで出 荷日の調整を図る ●店別の仕分け処理を、路線会社のターミナル に移管する  役員会の結果、「?営業との定期的連絡会議 の開催」と「?大量発注の基準の統一」につい てはプロジェクトチームの提案がそのまま承認 された。
 「?物流センターのスペース確保」については、 中京物流センターが自社物件ということもあっ て、各対策を実施した時の影響を継続して検証 することになった。
しかし、これも会議から三 カ月後にはトップの判断で、「センター移転」に ゴーサインが出たのであった。
 こうしてP社の取り組みは着実に前進してい る。
プロジェクトチームのメンバーたちは大きく 成長し、全体最適の視点が加わったことで新た な改革テーマも見い出せるようになってきた。
 卸売業にとっては永遠のテーマとも言える納 品率の向上にも筋道が出来つつある。
先月か ら〇・一〜〇・二ポイントではあるが、指標が 上がってきた。
物流が現場データを用いて営業、 購買そしてシステムに?もの申す?ようになっ たことの成果だと筆者は評価している。

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