ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年8号
特集
第2部 第2ステージの10年を展望する日本ロジスティクスフィールド総合研究所 辻俊昭 代表

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2011  14 第2ステージの10年を展望する テナントの六割は3PL事業者  我々日本ロジスティクスフィールド総合研究所(J LFI)は、一九九〇年代末にプロロジスが日本市 場に参入し、リーマンショックで市場規模拡大がスト ップするまでの約一〇年間を、日本における物流不 動産市場の第一ステージであり、“創生期”だったと 位置付けている。
 それに対して現在、市場は第二ステージを迎えてい る。
リーマンショック以降、事実上ストップしていた 大型賃貸物流施設の竣工が二〇一一年初頭から再び 始まり、その後は堰を切ったように新規の着工や開 発計画が主要な開発事業者から発表されている。
 これらの開発事業者が先行的に土地を取得してい る物流用地(ランドバンキング)は、全国で約四〇万 平方メートルに上ると見られる。
それに加えて現在 は、投資家、金融機関とも物流不動産に対して積極 的な姿勢をとっていることから、市場はこれから大 いに活発化していくと予想される。
 ただし、第二ステージの市場は黎明期にあった第 一ステージとはまた違った展開を見せることになる。
黎明期の経験とそこで得た教訓は、必ず次のステージ に反映される。
それを整理するために、まずは第一 ステージの一〇年を振り返ってみたい。
 〇二年にプロロジスの第一号施設が開発されて以降 これまで、主要な開発事業者が公表したものだけで も、日本国内で約一二〇棟の物流施設が開発されて いる。
その延べ床面積は六三〇万平方メートルにも 及ぶ。
物流不動産市場のこの急速な拡大は、一つは 施設需要面から説明できる。
情報技術の発展と普及 によってオフィスビルがインテリジェント化を必要と したように、物流施設もまた、SCMの高度化と普 及に伴い高度化が求められていた。
しかし、既存の 倉庫事業者はそれに十分対応できてはいなかった。
 従来型の倉庫はスペック的にも保管機能が中心とな っている。
それに対して今日の物流施設には、でき る限り在庫を減らし、配送や庫内作業を効率化する ことが求められている。
端的に言えばスケールメリッ トを活かせる、大規模なスペースが必要である。
 この時期に3PLビジネスが普及したことも物流不 動産マーケットの成長には大きな追い風となった。
実 際、開発事業者の手がける今日的物流施設は、テナ ントの六割を3PL事業者が占めている。
 日本では九〇年代の後半から、荷主企業の物流ア ウトソーシングニーズの増大を受け、3PL市場の本 格的な成長が始まった。
その伸び率は年率四%を超 えている。
これだけの成長を継続している産業は国 内を見渡しても他にそれほど例はない。
 また今日では一兆円規模に近づいてきている通販 物流も、大型の賃貸物流不動産の有力なユーザーと なっている。
通販物流は在庫拠点を全国一カ所ない しは二、三カ所に集約することが多く、商品の保管・ 出荷には大規模施設が必要となる。
 こうして3PLや通販など、物流機能をビジネス モデルの基軸に据えた新しいタイプのビジネスの台頭 が、物流不動産マーケットの成長を需要面から支えた 大きな要因だった。
開発事業者が手がける大型施設 は日本の産業構造が変革していくうえで、必要な施 設だったわけである。
 一方、第一ステージにおける成長は、供給面の要 因も大きかった。
物流施設に先行して、不動産マー ケットではオフィスや住宅向けの不動産投資がヒート アップしていた。
有望物件には買い手が殺到し、価 格が高騰した。
それに比べると物流不動産には割安  日本の物流不動産マーケットは第2ステージに突入した。
このビジネスは「物流×不動産×金融」という要素から構 成される。
第1ステージは、このうち「金融」が市場を創り、 また「金融」によって混乱した10年だった。
これに対して 次の10年は「物流」と「金融」がどこまで融解し合えるか が成長の鍵となる。
日本ロジスティクスフィールド総合研究所 辻俊昭 代表 第2部 特 集 物流不動産 15  AUGUST 2011 感があった。
当初はプレーヤーの数も少なく競争相手 も限られていた。
 ただし、マーケットのボリュームや物件数という点 で、物流不動産はオフィスや住宅よりもはるかに規 模が小さい。
そのため市場が過熱するのに、それほ ど時間はかからなかった。
その後の開発ラッシュは改 めて説明するまでもないだろう。
物流不動産ビジネス=物流×不動産×金融  物流不動産ビジネスは「物流×不動産×金融」と いう要素から構成される。
このうち第一フェーズは 「不動産」とともに「金融」面が強く出た時期と言え る。
実際、物流不動産が魅力的な投資対象として認 識されたことで、ニッチだった市場に大量の資金が 流れ込んだ。
 それだけに金融環境の変化には大きく振り回され ることになった。
〇七年のサブプライムローン問題、 そして〇八年のリーマンショックにより、市場の成長 が突如として止まった。
物流不動産の開発が一斉に 中止・延期となり、一〇年には新規開発物件の竣工 が二棟しかないという状況に陥った。
 需要がなくなったわけではない。
不況下においても 低賃料施設への移転や複数拠点の統合など、合理化に 向けた物流スペース需要は衰えてはいなかった。
供給 がストップしたのはひとえに金融サイドの問題だった。
 オフィスやレジデンス、商業施設と同様に物流不動 産の開発にも、高い投資利回りを得るためにレバレ ッジを利かせた金融スキームが適用されていた。
リス クの限定されたノンリコースローンを金融機関から取 り付け、エクイティを大幅に上回るデットを行って投 資規模を拡大させた。
 相対的には物流不動産のレバレッジ率は決して高く はなかった。
それでもリーマンショックをきっかけに して、金融機関が貸し出し基準を厳格化したことか ら、開発事業者の多くが新規供給はもちろん借り換 えにも難儀する状況に追い込まれた。
 このように時流に乗って一気に開発が進み、リーマ ンショックにより開発がストップするまでの一〇年余 りが日本の物流不動産ビジネスの創生期であった。
こ の創生期に明らかになった事項として次が挙げられる。
■■需要の底堅さ  大型賃貸物流施設に対する需要は全国で年間約一 〇〇万平方メートル規模であり、そこには景気によ る大きな変動は見られない。
新規事業や事業拡大の ための需要はそのうちの四割程度で、他はコスト削 減を目的とした移転や複数拠点の統合、老朽化施設 からの移転による需要などが占めている。
 日本国内の貨物輸送量自体は長期的に減少する傾 向にあるため、スペース需要も減っていくとの指摘も 一部にはある。
長期的にはその可能性も否定はでき ないが、当面は需要減退は考えにくい。
 国内貨物輸送量の減少は建設関連資材の影響が大 きく、大型賃貸物流施設で扱われる消費財系貨物の 流通量は、この間もほぼ横ばいで推移している。
ま た荷主の物流アウトソーシングニーズに対応した3P Lの新規需要は、既存の保管型倉庫に代わる今日的 な施設スペックを求める。
従って、大型の賃貸物流 施設に対する需要は、国内貨物輸送量にそれほど大 きく依存しないと考えられる。
■■開発エリアの偏在  第一フェーズに開発された物流不動産施設の六割強 は首都圏に集中している。
これに対して都道府県別 GDPで見たときの首都圏の経済規模は日本全体の 約三割である。
開発エリアの過度な集中は、消費財 2,000,000 1,800,000 1,600,000 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 (?) 図2 主要な開発事業者による大型賃貸施設の供給面積と需要面積の推移 日本ロジスティクスフィールド総合研究所調べ (%) 50.0 45.0 40.0 35.0 30.0 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 0.0 (年) 供給量 需要量 空室率 3PL 事業者 62% 荷主 31% その他 7% 図1 大型賃貸物流施設の 入居テナントの業種 AUGUST 2011  16 物流の改革が首都圏を中心に進んだという理由のほか に、供給サイドの事情も大きく影響した。
すなわち、 首都圏は需要に厚みがあるため、テナントの入れ替 えリスクが他のエリアと比べ低い。
また投資家や金融 機関も大都市圏の開発に対しては安心感を持ってい ることが大きかった。
■■エリア特性に合わせた施設スペック  賃貸物流施設として適切な建物のタイプは、開発エ リアによって異なっていることが明らかになった。
首 都圏、近畿圏の物流適地は地価が高いことから、必 要な賃料を得るのに建物を高層階にせざるを得ない。
テナントも高層階を借りることに抵抗はない。
 しかしながら、そうした大都市型の高層施設を他 のエリアに持ち込むと、リーシングが困難になる。
福 岡や仙台クラスの都市であっても、物流施設は平屋 もしくは二層建て、かつ幅広いヤードを有しているの が標準的であり、高層階施設に対する評価は厳しい ものになる。
その結果、リーシングが長期化するケー スが見られる。
 さらに制約案件を細かく分析していくと、首都圏 の同じ地域内であっても、近隣施設の状況次第で、 賃貸施設に対するテナントの評価は左右されることが 分かる。
賃料水準だけでなく、施設スペックによっ ても、対象地域における競争力が問われる。
■■賃料特性  物流不動産の賃料水準は、今日的物流施設が大量 に供給される以前の九〇年代から、下落あるいは横 ばいが続いている。
長期にわたる景気低迷に加え、 賃料水準の情報が流通したことや、ファンドによる 競争力のある賃料設定がなされたためである。
ファ ンド等はレバレッジを効かすことで一定の利まわりを 確保していればリーシングを促進するために、競争力 のある賃料水準の設定も可能である。
 一方で、千葉県の市川など、供給がタイトとなっ たエリアでは、需給バランスが働いて、局地的に賃料 が上昇に転じるなどの現象も起きている。
それとは 反対に、これまでの物流施設に地域相場よりも高い 値段で入居しているテナントが、その後に割高感を持 つケースもあり、潜在的な移転需要を生んでいる。
■■不安定な需給バランス  首都圏の特定地域を除き、賃貸物流施設はまだま だ集積量に厚みがないため、需給バランスが崩れやす い。
マルチテナント型の大型施設が一棟開発されただ けで、その地域の供給量が五%〜一〇%も上昇した というエリアが多数存在している。
 とりわけ第一ステージの前半においては、開発事 業者の投資が積極的だったこともあって、一時期に 集中して大量の供給が行われ、過度な供給過剰が発 生したエリアが見られた。
かつての大阪湾岸エリア、 首都圏では川崎の東扇島などである。
■■物流適地の不足  大規模開発用地の不足、あるいは用地の市街地化 や地価の上昇などによって、物流活動に適した物流 用地が足りない状況が拡がっている。
このため首都 圏の湾岸エリアでは、より外側に外延化し、内陸部 では高速道路沿いに延伸化している。
■■限られた顧客層  賃貸物流施設は、オフィスやレジデンスのように潜 在的な顧客が無数に存在しているわけではない。
3 PL事業者がせいぜい二〇〇社、それに流通業の荷 主を加えてもターゲットとなるテナントは数百社に過 ぎない。
限られた顧客に対して複数の開発事業者が テナント誘致を行うために、テナント側が過度に優位 に立つケースがしばしば起こっている。
図3 大型賃貸物流施設のエリア別開発状況 首都圏 63% 関西圏 24% 名古屋圏 6% 福岡圏 4% その他 3% (%) 0 10 20 30 40 50 60 70 首都圏 大阪圏 名古屋圏 福岡県 67.1% 57.1% 33.8% 35.5% 図4 圏域別の賃貸率(賃貸倉庫延床/全物流施設延床) 日本ロジスティクスフィールド総合研究所調べ 特 集 物流不動産 17  AUGUST 2011 第2ステージの結果を分けるもの  振り返れば物流不動産市場の創生期は、一貫して 需要は旺盛であり、サブプライム以降の終盤を除け ば、他のアセットと比較してもビジネスチャンスに恵 まれていたと言える。
しかし、市場が成熟期に向か っていく今後の第二ステージにおいては先のステージ ほど、順風満帆ではない。
右に挙げた事項への対応 次第で、開発事業者各社の結果が異なってくるもの と考えられる。
 具体的には以下の課題への対応が第二ステージの競 争の軸になる。
■■開発リスクへの対応  
械丕婿業者の賃料負担力の前提となっている荷 主向けの賃料水準は、年々厳しくなってきている。
よ り廉価な賃料ニーズを満たすために、これまでより もテナント需要の薄いエリアでの開発も増加して、開 発リスクが高まることになる。
 一方で港湾労働法指定エリアや市街地化調整区域 における開発もみられる。
各種のルールがあるため に、これまでは開発の対象から外れることの多かっ たこれらのエリアについても、リスクをとって開発し ていく必要性が高まっている。
■■新たな施設スペックへの対応  今回の震災で、テナントは施設の耐震性・免震性 や電力を始めとするライフライン確保などの安全性に 敏感にならざるを得なくなっている。
夏場の暑さ対 策等の作業環境改善、CO2削減も必須の課題となっ ている。
あるいは今日のマルチテナント型の開発施設 の多くが高床仕様となっているが、低床を望むテナン トもあり、ニーズにどう折り合いをつけるかも今後 の検討課題である。
■■投資家への情報提供  日本の物流不動産のリーマンショック後のパフォー マンスは、他のアセットと比べれば安定していた。
金 融危機を経験したことで、ミドルリスク・ミドルリタ ーンのアセットとしての物流不動産の評価はむしろ高 まったと言える。
 しかし、国内の一般投資家にとって、物流不動産 はまだ馴染みの薄い投資商品である。
物流不動産に 慣れた海外の投資家にとっても、日本の物流不動産 は投資情報が不足している。
今後、市場に良質な投 資資金を呼び込んでいくためには、適切な情報提供 を通じて投資家のリスクを軽減していく必要がある。
これは個々の事業者というよりは、業界としての課 題である。
 このように、物流不動産市場の第二ステージにお いて開発事業者は、テナントの負担できる賃料に限 界があるなかで、投資家の期待利回りに応え、数多 くの難しい課題に取り組んでいかなければならない。
 その実現には当然ながらブランド力、リーシング 力、コストパフォーマンス、施設における付加価値の 提供等、開発事業者の総合力が問われることになる が、基本的には、物流施設のテナント側のニーズを出 発点として、そこで必要とされる投資を金融サイド にどう納得させていくかというアプローチをとること になる。
第一ステージと比べた場合には、価値提供 の重心が金融サイドから物流サイドに移る。
 それだけに金融サイドに対しては、物流不動産が魅 力あるアセットであることを理解させる必要がある。
そのためには業界横断的な取り組みとして、情報発 信や情報基盤整備が有効であり、第二ステージでは 業界としての取り組みも必要な時期を迎えていると 言えるだろう。
PROFILE (つじ・としあき)京都大学工学部卒。
野村 総合研究所で行政機関や民間企業の物流関 連調査・コンサルティングに従事。
ジェイ・ レップ・ロジスティックス総合研究所代表を 経て、2009年9月に日本ロジスティクスフィ ールド総合研究所を設立、同社代表に就任。
現在に至る。

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