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AUGUST 2011 26
売り物件が少ない
──物流不動産市況をどう見ていますか。
「賃貸マーケットとしては非常に安定しています。 物
流施設は計画されてからマーケットに供給されるまで
の期間がオフィスや住宅に比べて短い。 景気サイクル
との乖離が起きにくいので、需給バランスが取りやす
い。 賃貸借契約が五年、一〇年と長期にわたること
が多いのも、安定性が高い要因の一つでしょう」
「一方、売買マーケットとしては非常にタイトにな
りつつあります。 物流施設は欧米ではオフィス、賃貸
住宅、商業施設と並ぶ四大アセットクラスとして確固
たる地位を築いていますが、日本ではこれまで投資
対象としてあまり認識されていませんでした。 それ
が急速に見直されています。 不動産投資業や投資家
から非常に大きな注目を浴びるようになってきた。 背
景には物流効率化・高度化へのニーズや、震災による
物流の重要性の再評価などがあると思います。 しか
し、肝心の売り物件が少ない。 投資サイドの取得意欲
が大きくなっているだけに、市場に売り物が出回った
ときの競争は激しくなっているというのが現状です」
──御社が運用するJリート、産業ファンド投資法人
が抱える資産は、数としては物流施設が多いですが、
不動産の鑑定評価額ベースではインフラ施設が全体の
五〇%を上回っています。
「産業ファンドが保有する物流施設は『IIF東雲
ロジスティクスセンター』を除いて一〇億円台から五
〇、六〇億円台が中心です。 それに対し、インフラ
施設は一つ一つの規模が大きい。 『IIF羽田空港メ
インテナンスセンター』は四〇〇億円規模ですし、も
う一つの『IIF神戸地域冷暖房センター』も一八
〇億円規模の施設です。 アセットカテゴリーのバラン
スとしては物流施設と工場・研究開発施設で五〇%
〜八〇%、インフラ施設で二〇%〜五〇%を志向し
ていますが、現在はややインフラ施設がオーバーして
いるという状況です。 しかし、不動産は細切れには
できないので特に問題視はしていません。 物件の出
てくるタイミング等にもよりますが、今後はまず物流
施設や工場・研究開発施設を増やし、全体の規模を
大きくしてインフラ施設にも投資していくという流れ
になると思います」
──今年に入ってその物流施設への投資で大きな動
きがありました。
「三月から四月にかけて五つの物流不動産を取得
しました。 五物件への投資総額は約一一三億円です。
いずれの物件も収益性、継続性、汎用性に優れた物
件だと評価しています」
──確かにそれぞれ立地も良く、優良なテナントも
ついている。 利回りも六%台から八%台と良好です。
これだけ条件が揃っていると、取得するまでの入札
も激しかったのでは?
「いや、五物件のうち競合がいたのは一つだけで、
他の四物件に関しては相対取引で取得しました。 現
在は非常に取得競争が厳しい状況ですので、できる
だけ入札で取得することは避けるようにしています。
我々が狙うのは市場に出回っている物件よりも、企
業が抱えているノンコアの物件が中心です。 いち早く
企業のノンコア資産売却ニーズや資金ニーズをはじめ
とするCRE戦略情報をキャッチし、それに対応す
るソリューションをこちらから積極的に提案すること
で取得していくことを心がけています」
「例えば取得した『IIF厚木ロジスティクスセン
ター?』は小田急電鉄さんから取得したものですが、
もともとはグループ会社の小田急百貨店さんの配送セ
今年3月、Jリート上場以来初となる一般公募増資を実
施し、5物件100億円規模の物流施設を取得した。 金融危
機以降、財務面の立て直しに追われていたが、今後は再成
長に軸足を移す。 当面は現在の規模の倍にあたる運用資産
2000億円を目指すという。 (聞き手:石鍋 圭)
三菱商事UBSリアルティ 久我卓也 社長
産業ファンド投資法人
──運用資産規模を倍の2000 億円に
第3部主要プレーヤーはこう動く
27 AUGUST 2011
期化などに注力する時期が続きました」
──一〇年前半からは投資口価格が反転しています。
「基本的に我々は投資口価格についてコメントする
立場にありませんが、一部資産を入れ替えて投資家
への分配金上昇を図ったことが評価されたものと認
識しています。 それが先般の公募増資にも繋がって
いった。 その間、負債の削減や長期化も実現し、L
TVも現在では当ファンド方針の範囲内である五〇%
弱の水準にまで引き下がっています」
──産業ファンドが身動きの取れなかった間、物流施
設特化型のJリート、日本ロジスティクスファンド投
資法人は着実にビジネスを進めていました。 彼らは無
借金状態だったことが奏功したわけですが、どうい
う目で見ていましたか。
「投資家に対しては申し訳ないという気持ちがあり
ましたが、他社は関係ありません。 我々が一定のレ
バレッジをかけながら運用していくということは投資
家に対しても明言しています。 日本特有の低い金利
を活用しない手はありませんし、それに加えて当社
は他者に比べて資金調達力に強みがあると自負して
います。 リーマンショックはありましたが、そのポリ
シーは今も変わっていません」
──動ける環境が整いましたが、今後の投資戦略は?
「再成長に軸足を移します。 産業ファンド投資法人
は、まだまだ物件数もテナント数も十分とは考えてい
ません。 リスクの分散化を図るためにも、ファンド
の規模を拡大させていく必要がある。 当面は現在の
ほぼ倍にあたる資産規模二〇〇〇億円を目指します。
ただ、あえて時間軸は設けません。 それを設定する
と“投資のための投資”になってしまう可能性があ
る。 投資家の利益を重視しながら、適正に成長して
いくことを目指します」
ンターとして使われていた物件です。 しかし、現在
ではその役割を終えて別のテナントさんが利用してい
る。 そうなると、小田急グループさんとしてその物
件を所有し続けることが必ずしも必要ではなくなる
可能性もある。 そういった点を我々がご相談させて
いただき、最終的に売却してもらったのです。 こう
いった戦略を情報収集力や提案力、三菱商事グルー
プのネットワーク力を駆使して実現していく。 それが
我々の差別化にも繋がってくると思っています」
再成長に軸足を移す
──五つの物流施設の取得にあたって、上場以来初
となる公募増資を今年三月に実施しました。
「市場から約五七億円のエクイティ資金を調達しま
した。 今回のディールは投資家に対する分配金の安定
化を核としており、市場関係者から高い評価を得る
ことができました。 これまでは当ファンドの投資口
価格(※株価に相当)の関係などから、なかなか増
資をするチャンスが無かったのですが、ようやくそう
いったことができる環境が整ってきた」
──正直、これまでの産業ファンド投資法人には目
立った動きはありませんでした。
「タイミング悪く、上場後すぐにサブプライム問題
やリーマンショックに見舞われてしまいました。 上場
時には四七万円をつけていた投資口価格は、一時二
〇万円を割り込む水準にまで下落しました。 羽田の
メインテナンスセンターを多額のローンで取得してい
たこともあり、LTV(有利子負債比率)も六〇%
まで引き上がっていた。 そのため、公募増資をして
成長するよりも、まず安定性への底固めが喫緊の課
題となったのです。 資産の売却や劣後投資法人債の
発行を通して負債の削減を図るとともに、負債の長
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産業ファンド投資法人の投資口価格の推移(指数)。
2010 年上半期から大きく持ち直している
産業ファンド
日経平均
東証REIT
会社概要
三菱商事・ユービーエス・リアルティ
物流不動産やインフラ施設などを投資対
象とするJリート「産業ファンド投資法人」
および商業施設特化型のJリート「日本リ
テールファンド投資法人」の資産運用会社。
2000年に三菱商事(51 %)と欧州系金融
機関のUBS(49 %)の合弁によって設立
された。 産業ファンド投資法人の現在の資
産規模は取得額ベースで1082億4000万
円で物件数は16。 そのうち、12物件が物
流施設で資産額は434億3000万円。 その
他にインフラ系の施設を2物件、工場・研
究開発施設を2物件保有している。
特 集 物流不動産
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