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縮小する市場でシェアを拡大
私のSCMにおけるキャリアは、一九九〇
年代半ばにドイツに本社を置くERPベンダ
ーのSAP社で働いたことに始まります。 そ
の経験を買われて、現在のドクターペッパ
ー・スナップル(DPS)に転職したのは二
〇〇四年のことです。
その前年の〇三年に、当時当社の親会社だ
ったキャドバリー・シュウェップスは北米の清
涼飲料部門を独立させてドクターペッパー・
スナップルを設立しました。 私の入社はその
直後のことで、当社のIT部門を統括しサプ
ライチェーンの効率化を進めることが役割で
した。
その取り組みを紹介する前に、ドクターペ
ッパー・スナップルという企業について簡単
に説明させていただきます。 当社で働いて数
年が経ちますが、北米においてでさえ、いま
だに「ドクターペッパーはコカコーラやペプシ
のグループ会社ですか」といわれることが珍
しくありません。 もちろん、そうではありま
せん。
当社の沿革は一九六〇年代に、イギリスの
菓子メーカーのキャドバリーと、アメリカの飲
料メーカーのシュウェップスが合併したことに
さかのぼります。 キャドバリー・シュウェッ
プスはその後、現在の当社の主力製品である
「ドクターペッパー」や「スナップル」などの
清涼飲料ブランドを買収し、北米市場におけ
る飲料事業を拡大していきます。
そして先に述べたように〇三年に北米の飲
料部門をドクターペッパー・スナップルとし
て独立させました。 〇六年にはボトリング部
門を一〇〇%子会社化しています。
その後〇八年にキャドバリー・シュウェッ
プスからスピンオフする形で、現在のドクター
ペッパー・スナップルが誕生しました。 この
年に当社はニューヨーク証券取引所に上場も
果たしています。 従って当社の設立は正式に
は〇八年となります(図1)。
当社の本社はテキサス州プラーノ(Plan
o)にあり、ドクターペッパーやスナップルを
はじめとして、約五〇の清涼飲料のブランド
を持っています。 従業員は約二万人です。 北
コカコーラ、ペプシに次ぐ北米3位の清涼飲料メー
カー、ドクターペッパー・スナップルはSAPの「バー
ジョン6.0」を導入し情報システムを統合した。 需要
予測の精度向上および配送と庫内業務の効率化がそ
の目的だった。 同社のIT部門長を務めるニック・オ
ルテガ氏が一連の取り組みを解説する。
欧米SCM会議?
米ドクターペッパー・スナップル
ばらばらだったシステムをSAPで統合
可視性を高めサプライチェーンを効率化
1969 年
1980 年代
1995 年
1999 年
2000 年
2003 年
2006 年
2008 年
〃
英キャドバリーと米シュウェップスが合併
シュウェップスがアメリカで炭酸飲料ブランドを
買収
ドクターペッパー/セブンアップを買収
ドクターペッパー/セブンアップのボトリング会
社の株式40%買収
スナップルを買収
キャドバリー・シュウェップスが北米飲料部門
を設立
キャドバリー・シュウェップスから北米飲料部
門がスピンオフする
ニューヨーク証券取引所に、ドクターペッパー・
スナップルとして株式上場
同社が、ボトリング会社を100%子会社にする
図1 同社の略史
組織概要
組織名 ドクターペッパー・スナップル
創設 2008 年
(キャドバリー・シュウェップス社から独立)
本社 アメリカ テキサス州プラーノ
最高経営責任者 ラリー・D・ヤング
総売上高 56 億3600 万ドル(4565 億1600 万円)
最終利益 5 億2800 万ドル(42億2400 万円)
従業員数 約2 万人
(注1)いずれも2010年度決算の数字
(注2)1ドル= 81円で換算
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はカナダから南はメキシコまでに二三工場を
持ち、二〇〇カ所の物流センターを構えてい
ます。
北米の清涼飲料メーカーとしては、コカコ
ーラ、ペプシコーラに次いで第三位となりま
す。 (筆者注:二〇一一年のオレゴン大学の
調査によると、コカコーラとペプシコーラの上
位二社で清涼飲料市場の八〇%近くを押さえ
ており、ドクターペッパー・スナップル社の
市場占有率は一五%となる)地域別に見た当
社の売上高の構成比は、アメリカが八九%で、
カナダが四%、メキシコが八%となっていま
す。
北米の清涼飲料メーカー各社はこの一〇年、
逆風の中での経営を余儀なくされてきました。
一般消費者の健康志向の高まりから、北米に
おける清涼飲料の消費量は年々減少する傾向
にあります。
二〇〇〇年代の初頭には、北米の清涼飲料
水の一人当たり年間消費量は五二ガロン(一
九七・六リットル)を超えていました。 それ
が現在は四〇ガロン後半に落ち込んでいます。
しかし、こうした中でも当社は清涼飲料水
(コーラ類を除いた)のトップ一〇ブランドの
うち六ブランドを有し、着実に市場シェアを
伸ばしています。 実際、〇六年と〇九年にお
けるシェアを比べると三八・六%から四〇・
四%と一・八ポイント伸びています(図2)。
IT駆使し三つの課題に取り組む
〇八年にスピンオフして以来、私が全力を
傾けてきたことは、情報システムの統合によ
るサプライチェーンの効率化でした。
図3でわかるように、スピンオフ以前は、
同じ社内で複数の情報システムが使われてい
ました。 とりわけボトリング・グループには、
五つのレガシーシステムを含めて、八つのシス
テムが存在していました。 これを四年間かけ
て、統一のとれたシステムにすることに取り
組みました。
システムの細かい違いについての説明は煩
雑になるのでここではしませんが、基本的に
は私が以前に働いていたSAPのシステムを
メインに据えて、全体の統合を図ってきまし
た。 現状ではSAPの「バージョン6・0」
を、社内で「コーナーストーン・システム」と
呼び、中心システムと位置付けています。
このコーナーストーン・システム構築の目
的は大きく三つあります。 一つは「需要予測
とそれに基づいた製品の配送」、二つ目は「在
庫と倉庫業務の管理」、そして三つ目が「店
舗への直接配送」です。
当社の配送業務は、サービス形態によって、
外部に委託する比率が大きく異なっています。
ペットボトルやカンなどの容器に詰めた製品
の場合、全体の約四〇%を自社の車両で運ん
1 マウンテンデュー 27.4%
2 ドクターペッパー 18.1%
3 スプライト 10.5%
4 セブンアップ 4.6%
5 サンキスト 3.9%
6 A&W 3.7%
7 シエラ・ミスト 2.9%
8 クラッシュ 2.7%
9 カナダドライ 2.3%
10 ファンタ 2.3%
図2 不況下でもシェアを伸ばす同社の飲料水
(注1)コカコーラとペプシコーラを除いた北米での清涼飲料水の順位
(注2)ブロック体で白抜き文字はDPS社の商品
2006 年2009 年
1.8ポイント
増加
38.6%
40.4%
2006 年と2009 年の
シェア
商品名シェア
図3 システム統合の道のり
メキシコ
濃縮工程
工場からの
直送
ボトリング
グループ
ベビダス
トラック
ベビダス
トラック
DPSU
SAP4.6
MSSt
SAP4.6
スナップル
アワード
BGSW
SAP4.6
BGWW
SAP4.0
DPS
ECC6.0
DPS
ECC6.0
レガシー
システムX5
DPSU
ECC6.0
DPSU
ECC6.0
DPSU
ECC6.0
SAP
ECC6.0
2008 年2009 年2010 年2011 年
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でいます。 残り約六〇%がUPSロジスティ
クスを始めとする外部の物流会社へのアウト
ソーシングです。
一方、ファーストフード店などの店内に設
置されるファウンテン式のベンディングマシン
となると、自社配送比率は約一〇%に下がり
ます。 同様に物流センター業務も自社で処理
しているのは一〇%に過ぎません。
多くの作業を外部の戦力に依存するうえで
は、オペレーションの中心に据える情報シス
テムを確固としたものにすることが必要だと
我々は考えました。 それがシステムの統合を
進めてきた理由です。
もちろん、ITシステムを強化するだけで、
全てが上手くいくわけではありません。 I
Tシステムに魔法のような威力はありません。
システムを日々の業務の上で使いこなすため
には、綿密な計画と、現場での正確な作業が
必要となります。
最初の目的であった「需要予測とそれに基
づいた製品の配送」について言えば、システ
ムを統合する前までは、どこにどんな製品が
あって、いつ配達されるのかを納入先に確約
することができない状態でした。 また需要予
測の精度も不十分であったため、多くの売上
機会を逃していました。
システムを統合したことで、容器に入った
製品の「ビジビリティ(可視性)」は格段に向
上しました。 その結果、納期をはっきりさせ
ることができるようになりました。 需要予測
これを改め当社のカスタマーサービス部門で
注文や配送についての確認をとるようにして、
遅配・誤配などが判明した場合には、事前に
当社から連絡を入れる体制に変更しました。
システムの二つ目の目的である「在庫と倉
庫業務の管理」も大きく改善されました。 そ
れまではビジビリティの低かったことが原因
で、多くの製品が途中で紛失したり、賞味期
限切れとなって廃棄処分されていました。
そこで、物流センターから納品する前に出
荷予定表を顧客に送信することにしました。
同時に製品の入庫から在庫、出庫に至るす
べての作業手順を、すべてのセンターで統一
しました。 そして顧客に納品するパレットに、
ICタグをとりつけ、パレット単位で製品を
貨物追跡できる仕組みを作りました。
とはいえ、当社の物流センター数は計約二
〇〇カ所にも上り、それぞれ規模も違えば、
内部の設備も異なっています。 そこで物流セ
ンターの管理方法を規模に応じて三つのパタ
ーンに分けました。
二〇〇カ所の半分に当たる一〇〇カ所強の
センターは、一〇万平方フィート(九〇〇〇
平方メートル)以下と規模が小さく、受け持
っている配送エリアも狭いため、管理レベル
をSKUごとの在庫およびロケーション管理
にとどめ、ICタグの利用も庫内に限定しま
した。
これに対して一〇万〜六〇万平方フィート
の広さを持つ中規模の物流センターでは、S
の精度も高まりました。 それによってボトリ
ング・グループを含めた生産から店舗へのル
ート配送に至るサプライチェーンの協力体制
が機能するようになりました。
納品パレットにICタグを貼付
具体的には以下のような成果を得ることが
できました。
それまで顧客からの発注は、ウェブ上の決
まったフォーマットに合わせて、いくつもの
項目を記入しなければならず、多くの手間が
かかっていました。 それを顧客各社の仕様に
合わせられるように変更して、商品ごとにS
KU(最小管理単位)まで指定できるように
しました。 煩雑だった新商品の発注もそれま
でと比べ格段に簡単になりました。
また当社の在庫について、それまで顧客が
ウェブ上で見ることができるのは、その顧客
の近くにある物流センターの在庫に限られてい
ました。 しかも、SKUレベルとなると、は
っきりとした在庫量が分からないものもあり
ました。
それが四週間先の在庫までSKUレベルで
はっきりと表示することができるようになり
ました。 近くの物流センターに在庫がない場
合は、別のセンターから取り寄せることがで
きるようにもなりました。
また、それまで誤配や遅配への対応は、顧
客からの問い合わせがあって、はじめて当社
がアクションを起こすというやり方でしたが、
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は、四万社を超す新規顧客を獲得し、モンテ
レーでも五〇〇〇社を超す新規顧客を獲得し
ました(図4)。
しかし、メキシコは配送を委託している物
流会社のレベルが決して高いとは言えず、運
賃も頻繁に変わるなどの問題を抱えていまし
た。 新規顧客を開拓しても、その注文に応え
られる配送ルートを確保するのが非常に困難
でした。
そこでメキシコでも、それまで使っていた
情報システムを廃棄してSAPを導入しまし
た。 これによって配送ルートの確保はずいぶ
んと容易になりましたが、現状ではまだ道半
ばといったところです。 今後はSAPのシス
テムとドライバーに持たせる携帯端末を組み
合わせて、顧客からの要望に迅速に応えるこ
とのできる配送システムを構築したいと考え
ています。
顧客からの受注や請求書の発行、物流セ
ンターからの出荷指示などの業務については、
SAPのシステムで処理できるようになりま
したが、これに加えて、配送ドライバーに携
帯電話のような端末を持たせて、積み込みの
確認や、配送途中での作業の変更、配送作業
の結果報告などを行うようにしたいと思って
います。
しかし、メキシコではまだ情報インフラが
十分に整っておらず、こうした端末を使った
システムが完全に使えるようになるには、も
うしばらく時間がかかると見ています。
また現時点では、物流センターから顧客へ
の配送といった販売物流(アウトバウンド)の
サプライチェーン業務における効率化に取り
組んでいますが、ここで十分な成果を上げる
ことができたら、次はサプライヤーを巻き込
んだ調達物流(インバウンド)の業務改善に
取り組んでいくつもりです。
(ジャーナリスト 横田増生)
(注)この原稿は二〇一〇年十二月にアメリカテキサス州で行われた
「北米SCM&ロジスティクス・サミット」のセミナーの講義内容
を、セミナー主催者のWTGイベントから掲載許可を得て、再編
集したものである。
KU管理に加え、製品を入れる仕切り(bi
n)単位の管理も行います。 またバッチ処理
もできる態勢を整えました。 「先入れ先出し」
も行います。 顧客に納品するパレットも、I
Cタグによって追跡可能な仕組みを作ってい
ます。
当社は六〇万平方フィート以上の大型セン
ターも複数所有しています。 そのうちの一つ、
フロリダ州のセンターでは、先のような取り組
みに加え、さらに新たな取り組みを行ってい
ます。 製品のシリアル番号ごとに貨物追跡を
行う仕組みや、ピッキング作業の最適化、作
業員の多能工化などです。
たとえば、これまでフォークリフトの運転
手は、棚から製品を積み降ろしてトラックに乗
せるだけで作業が完結していたのですが、こ
れを改め、トラックに貨物を載せた後で、フ
ォークリフトを使って不要になった梱包資材
を片付けたり、ピッキングがやりやすいよう
に製品の位置を変えたりする──といった具
合です。
メキシコでの改善が課題
最後の目的であった「店舗への直配」で問
題を抱えていたのは、メキシコでした。
メキシコでは現在、三つの工場が稼働して
います。 メキシコ市場における売上高は現時
点では当社の売上高全体の一〇%足らずに過
ぎませんが、需要は年々拡大の一途を辿って
います。 〇九年だけでも、メキシコバレーで
図4 メキシコでの事業拡大(2009 年)
メキシコ・バレー
新規顧客 42,323
新規配送ルート 150
モンテレー
新規顧客 5,651
新規配送ルート 60
外部の配送業者
物流センター
工場
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