ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年8号
現場改善
第103回中堅卸E社の新センター開発プロジェクト

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2011  76 庫内作業の「6つのない」  業務用の包装資材を扱うE社は、九州管内の 五カ所に営業所を構える年商約五〇億円の中堅 卸である。
福岡に物流センターを置き、九州全 域を商圏としてカバーしている。
 取扱いアイテム数は約三万。
物流センターか ら出荷する荷物の九五%は小売りやサービス業 などのエンドユーザーへの納品、営業所経由は 残りの五%のみ。
基本的には商物分離が確立さ れている。
 ただし、物流センターは著しく狭隘化してい た。
二〇年ほど前に建設した延べ床三〇〇坪強 の自社センターは、その後の売り上げの増加に よってキャパオーバーに陥っていた。
 保管スペース確保のために、庫内の通路幅は 年々狭められ、ピッキングカートが相互通行(七 五〇?×二台)できるのは、最も出荷頻度の高 い「SAランク」ゾーンのみであった。
他のゾ ーンは通路に商品が直置きされていて、カート の横を人が通るすき間もないほどであった。
 その結果、庫内スタッフの残業が慢性化して いた。
定時の終了時間が一七:三〇のところ を平均で一九:三〇、物量の多い月曜日には二 一:〇〇〜二二:〇〇までの残業が発生し、幹 部社員まで手伝いに入る始末であった。
 パート・アルバイトの勤務体制や作業手順な どにも問題はあったが、最大の要因はやはり狭 隘化であった。
物量の増加への対応が限界に達 していたのだ。
 その対応策としては一般的には、既存施設の 増床や建て替え、一部業務を外注化し協力物流 会社の施設を賃借する方法、あるいは物流不動 産会社や倉庫会社からのリースなど、複数の選 択肢が考えられる。
 しかし、E社の場合は、既存センターの近隣 に土地を確保し、そこに自社センターを新たに 建設する方法を選んだ。
会長がゼネコンと相談 のうえ、トップダウンで決断した。
そのうえで 我々日本ロジファクトリー(NLF)に、新セ ンターの庫内レイアイトおよび保管ロケーション 作成が依頼されたのであった。
 我々NLFはE社に対して、「六つのない」 を新センターの開発コンセプトとして提案した。
現場の作業員を、?歩かせない、?持たせない、 ?待たせない、?探させない、?考えさせな い、?書かせない、ことを目指すものだ。
元々 は生産現場で用いられてきた管理手法だが、近 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  バブル時代に建設したセンターの狭隘化から中堅卸が新セ ンターの開発に乗り出した。
これを機にレイアウトに余裕を 持たせて作業効率を向上させたいところだが、一定の保管 能力を確保する必要もある。
什器やマテハン類は既存設備を できるだけ使って初期投資を抑えたい。
様々な制約を受けな がら一つひとつ課題をクリアしていった。
中堅卸E社の新センター開発プロジェクト 第103 回 あおき・しょういち  1964 年生まれ。
京都産業大 学経済学部卒業。
大手運送業 者のセールスドライバーを経て、 89 年に船井総合研究所入社。
物流開発チーム・トラックチーム チーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代表 に就任。
現在に至る。
主な著書 に『経営のテコ入れは物流改善 から』明日香出版社、『物流のし くみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 77  AUGUST 2011 年では物流にも広く適用されるようになってい る。
この提案がE社から歓迎された。
 ゼネコンから上がってきたラフ図面によると、 E社の新センターの建屋は、ワンフロア約七〇 〇坪の二階建てであった。
将来の売上拡大を考 慮しても、スペースとしては十分過ぎる規模だ った。
 そこでプロジェクトメンバーとも話し合い、建 物の一階だけを新センターとして利用し、二階 の半分は研修ルーム、残りの半分は予備スペー ス兼、将来のVMI(ベンダー主導型在庫管理) を視野に入れたベンダー用倉庫として利用する ことにした。
作業効率 VS 保管能力のトレードオフ  庫内レイアウトの作成に当たってE社の経営 層からは、「既存センターの一・五倍の保管能 力」と「旧センターの設備をできるだけそのま ま活用してイニシャルコストを抑えたい」とい う要望を受けていた。
 また柱の太さ(五〇〇?×五〇〇?)と位置、 そして一階の天井高(二七〇〇?)は既に決定 されていた。
これらを制約条件として、我々は 旧センターで使用していた保管棚や作業台など の什器、マテハン類を、新センターでも使える ようにレイアウトを工夫した。
 旧センターで使用していた保管棚は全部で一 六二基。
サイズは一八〇〇?(高さ)×一七〇 〇?(横幅)×六〇〇?または四五〇?(奥行 き)がメーンだった。
日本の保管棚の横幅は通 常一八〇〇?だが、それよりも一〇〇?間口の 小さい安価な韓国製を使用していた。
 これを活かしたうえで、新センターには新た に六八基の保管棚を投入した。
新規で追加する 棚には、高さが旧センターのものよりも六〇〇 ?高い二四〇〇?のものを選んだ。
高い位置の 作業は効率が落ちるが、保管能力を確保するう えではそれだけの高さが必要であった。
 また通路幅も当初は格納作業の生産性を考え て一四〇〇?を予定していたが、これを一二五 〇?に変更せざるを得なかった。
カートを相互 通行させるには最低一五〇〇?が必要だ。
し かし、それでは保管効率が著しく落ちてしまう。
また一二五〇?より狭くすれば今度はハンドリ フトが使用できなくなる。
あるいはピッキング カートと人がすれ違うことができないなどの不 具合が生じてしまう。
 保管効率と作業効率は基本的にはトレードオ フの関係にある。
その点においてE社の場合は、 必要な保管能力の確保を優先し、その後に「六 つのない」をコンセプトにレイアウトを組むとい う進め方をとらざるを得なかった。
 レイアウトの最終決定までにはプロジェクト チーム内で侃々諤々の議論があった。
プロジェク トメンバーには専務や常務などの経営幹部も参 加していた。
彼等自身、毎週月曜の?手伝い? を経験していたこともあって、センターの現場 作業については素人ではなかった。
 さらには同業他社の物流センターや関連メー カー、物流会社のセンター見学なども積極的に 行った。
そこから様々な仮説や要望がメンバー から打ち出されていったのであった。
プロジェ 保管棚:1800×1700×450:2 台 保管棚:1800×1700×450:144 台=(3 連)48 台 保管棚:1800×1700×600:16 台=(2 連):8 台 販促棚:450×410×1160:16 台 作業台:800×1800×900:8 台(残6 台) 新規作業台:800×1800×600:8 台 パレット:120×1100×1100:13 台 新規保管棚:2400×1800×450:13 台 新規保管棚:2400×1800×600:55 台 新規ローラーコンベア:800×2000×470:4 台 新規ローラーコンベア:800×3000×470:4 台 新規コンベア(ハネ上げ):800×1000×470:4 台 SAランク Cランク Bランク Aランク Dランク 入・出荷ゾーン Eランク 梱包ゾーン 仮置きゾーン Gランク 返品処理ゾーン 図1 新センター レイアウト案 AUGUST 2011  78 クトチームが新センター移管に伴って改善を行 った主な事柄およびテーマを挙げると以下の通 りである。
1 . 保管棚のサイズアップ(保管効率の向上) 2 . チェック作業台から梱包作業台までのロー ラーコンベア化(「歩かせない」) 3 . 作業台およびローラーコンベアの高さを現ス タッフの屈伸動作が最も少ないと思われる 八〇〇?に統一(「持たさない」) 4 . 女性でも使用できるハンドリフトの導入 (「持たさない」) 5 . ピッキングカートのサンプル手配による作業 性の検証(結局、既存のショッピングカー トが最も使い易いという結果になった) 6 . ピッキングリスト、納品書、送り状を一体 でプリントアウトする統一伝票の導入(「探 させない」「書かせない」) 7 . 昇降機の機種選定 8 . 透明ガラスで仕切った事務所を一階に設置 (二階に設置すれば現場状況の把握度が低 下する) 9 . SAランクを対象としたパレット積みケース ゾーンの設置(補充動線の短縮/「歩かせ ない」) 10 . SAランクを対象とした直置き商品と棚置 き商品の分離 11 . SAランクの棚置き商品を対象としたフロ ーラックの検討(フローラックには奥行き が一五〇〇?必要でスペースが取られるた め、最終的には保管効率を重視して通常保 管棚を選んだ) 12 . 通路の片側の棚だけから商品を摘み取る「I ピッキング」を左右両面の棚から摘み取る 「Zピッキング」に変更。
(当初は作業員に 戸惑いもあったが、いったん定着した後は ピッキング作業の生産性が一二〇%に上が り、「慣れればZピッキングの方がやりやす い」との声が現場から上がるようになった) 13 . 入荷〜格納までの時間とスペースを確保す るための仮置きゾーン設置(旧センターは 入荷スペースが狭かったため格納作業が一 日中続いていた。
このことが在庫差異の原 因にもなっていた) 14 . レイバーコントロールの実施(勤務シフトの 見直し、最も作業が停滞する梱包作業への 人員投入) 15 . パート、アルバイト体制の見直し(人件費が 安価ということでシルバー派遣を導入して いたが、様々な問題があり、直接パート・ アルバイトを雇用して教育により短期戦力 化する方法に切り替えた)  詳細レベルではさらに多くの改善を行ってい る。
これらの改善策の立案を含め、レイアウト の作成については、結局二カ月弱で概要を固め ることができた。
棚番地の設定で意見が割れる  次は商品の保管ロケーションの作成である。
そ のために庫内レイアウトの作成と並行して、出 荷頻度のABC分析を進めていた。
上位二〇% のアイテムが出荷量全体の八〇%を占めるとい う?パレートの法則?はE社の物流にも当ては まった。
 その分析結果を基に、超売れ筋のSAラン クについては、アイテムごとに最適な保管方法 を検討した。
ピッキングのしやすさと容積をも とに、アイテムごとに縦置きにして格納するか、 ショッピングカート 大型ショッピングカート ショッピングカート(オートスロープ対応) ピッキングカート(専用ボックス付) 静音樹脂台車 ハンドリフト ¥6,800 ¥18,400 〜 ¥27,500〜 ¥29,000 ¥131,859〜 79  AUGUST 2011 は、昇降機サイズ・機種の選定、床加重(四〇 〇?/?)の確認、建ペイ率に含まれる雨よけ の長さの決定などの擦り合わせが必要であった。
 システム会社とは商品マスターのメンテナンス や、旧センターでは検品時のみに使用していた ハンディスキャンの用途拡大を話し合った。
また マテハン会社とは既述設備の確認、見積り、納 期確認と搬入など。
さらには引越し会社相手に 設備の移動や付帯サービスの範囲などを調整す るなど一つひとつ歩を進めていった。
 新センターの立ち上げには様々な調整業務が 発生する。
決してハードルが低いとは言えない プロジェクトであったが、形のない計画が形に なっていく、何もないところから新しいセンタ ーが立ち上がっていく課程を間近で体験するの は筆者にとって大きな喜びであった。
横置きにするかを判断していった。
またAラン ク以下のアイテムの棚割りは、メーカー別にカ テゴリーの中分類で保管ゾーンを分け、保管方 法も大まかに設定して後から微調整する方法を とった。
 これらをクリアし、いよいよ棚番地の策定を 迎えた。
旧棚番地は、「階層/棟/棚番号/段 数」という項目で構成されていた。
このうち 「階層」は新センターでは必要なかったが、それ に代えて商品ランク別にレイアウトした「ゾー ン」と「列」を項目として設定した。
 さらにプロジェクトチームは「段数」をさら に仕切った「コマ」を項目として設定する必要 があるかどうかを検討した。
 専務および情報システム部門のメンバーから はピッキング精度を上げるために「コマ」まで 管理すべきだという意見だった。
一方、常務と センター長は管理が煩雑になるため「段数」ま でで良いという考えだった。
 検討の結果、「コマ」の管理は必要ないとい う結論に達した。
その理由は以下の通りである。
?商品の入れ替え(終売、新商品流行他)が多 く、棚番のメンテナンスに手間のかかること。
?一段につき三コマが最多であり、段数の指定 だけでも作業員が判断に迷う恐れがないこと。
?自動的な作業がかえってミスの発生につなが る可能性もあり、ピッカーが自分でチェック するという工程を入れることが、必ずしもマ イナスとは限らないこと。
 その後もプロジェクトは続いた。
ゼネコンと

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