ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年8号
物流指標を読む
第32回自動車産業のけん引で荷動き指数は改善へ日本銀行「全国企業短期経済観測調査」日通総合研究所「企業物流短期動向調査」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む AUGUST 2011  80 自動車産業のけん引で荷動き指数は改善へ 第32 回 ●震災の影響で自動車産業の指数が大幅悪化 ●今後3カ月でV字型回復が見込まれる ●電力の総量規制措置などが回復のネックに さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
自動車産業の部品調達難が解消  東日本大震災の発生はサプライチェーンの寸断 をもたらし、それに伴い、震災地以外の地域にお いても生産が停滞するという事態が発生した。
そ の影響を最も大きく受けたのは自動車製造業であ る。
自動車工業会の発表によると、三月の四輪車 生産台数は前年同月比で五七・三%減、四月は同 六〇・一%減と大きく落ち込んだ。
 しかし、五月には同三〇・九%減までマイナス 幅は縮小し、自動車生産の回復基調が鮮明になっ ている。
なかでも日産自動車と三菱自動車は、国 内工場の稼働率がほぼ前年並みに戻ったことなど から、それぞれ五カ月ぶり、三カ月ぶりに前年水 準を上回った。
さらに六月については、筆者がア ナリストに聞いたところ、被災した工場の復旧が 遅れているホンダ以外は、プラスまたはほぼ前年 並みの水準まで戻したそうだ。
 トヨタ自動車は七月五日、全工場で全車種を顧 客の注文通りに生産できるようになる「完全正常 化」が一〇月に達成できるとの見通しを明らかに した。
六月の株主総会では、完全正常化の時期を 十一月としていたが、一カ月前倒しとなる。
 自動車の生産には一台あたり二万〜三万点の部 品が必要であり、トヨタ自動車では全車種の生産 に約八〇万種類の部品を必要としているが、震災 により半導体やゴム製品など約五〇〇種類の調達 に支障が出たという。
最近では、調達難の部品は 約三〇種類まで減っていたが、これが九月中には 解消できる目処が立った。
 自動車産業は非常に裾野が広いため、その生産・ 出荷の動向が他業種に与える影響は大きく、自動 車や自動車部品の生産量・出荷量の増加が景気に とっても大きなプラス材料となることは言うまで もない。
 自動車産業における持ち直しの動きは、他の経 済統計においてもみられる。
 日本銀行が七月一日に発表した六月の「全国企 業短期経済観測調査」(短観)において、企業の 景況感を示す業況判断指数(DI)は、大企業・ 製造業でマイナス九と、前回調査時(三月)のプ ラス六から一五ポイントの大幅な悪化になった。
大 企業・製造業の業況判断DIがマイナスになった のは、一〇年三月調査(マイナス一四)以来五期 ぶりで、震災に伴い生産活動が停滞したことなど を受けたものである。
 ただし、先行き(三か月後)については、十一 ポイント上昇してプラス二に回復する見込みとなっ ている。
とくに持ち直しの動きが大きい業種は自 動車製造業で、六月調査における最近のDIがマ イナス五二であるのに対し、先行きのDIはプラ ス六と、上昇幅は五八ポイントに達する。
その他 の業種では、非鉄金属製造業(上昇幅:プラス二 三ポイント)、鉄鋼製造業(同一九ポイント)、業 務用機械製造業(同一九ポイント)、電気機械製造 業(同一八ポイント)などにおいてV字型の回復 が期待できる。
 また、日通総合研究所が六月に、荷主企業二五 〇〇事業所に対して実施した「企業物流短期動向 調査」(日通総研短観)でも、かなり近似した結 果が得られた。
 製造業における国内向け出荷量『荷動き指数』 日本銀行「全国企業短期経済観測調査」 日通総合研究所「企業物流短期動向調査」 81  AUGUST 2011 は、四〜六月実績がマイナス二〇 と、前期(一〜三月)実績のプラス 五から二五ポイントの大幅な下降と なっている。
なかでも輸送用機械 は、マイナス四七と全一五業種中最 大のマイナスを示したほか、精密機 械(マイナス四二)、電気機械(マ イナス二九)など、機械関連の業種 における落ち込みが大きい。
 一方、七〜九月見通しでは、国 内向け出荷量『荷動き指数』はマ イナス八と、前期(四〜六月)実績 よりも十二ポイント改善する見込み だ。
なかでも輸送用機械については、 前期実績より四五ポイント上昇して マイナス二と、僅かにプラス水準に は届かないものの、V字型の回復が 見込まれている。
持ち直しの時期が前倒しに  このように、日銀短観および日通 総研短観の両方において、自動車産 業がけん引する形での回復が見込ま れている。
 実は筆者は、このふたつの調査結 果をみた時、あまりにも強気な見通 しに驚いた。
正直なところ、何かの 間違いではないかとさえ思った。
出 荷量を例にとると、昨年七〜九月 は、エコカー補助金の終了を前にし た駆け込み需要もあって、生産台数 が大幅に増加した時期であることから、仮に震災 が発生しなかったとしても、出荷量が前年同期比 で減少することは必至と考えていたのだが、この 勢いでは、大幅減どころかプラスになる可能性す らある。
 一説によると、この震災により被災した車両数 は四〇〜五〇万台とも言われており、東北地方で は自動車が生活必需品であることから、大きな潜 在需要が存在しているのは間違いない。
もっとも、 二重ローン問題などもあり、これらの需要が顕在 化するまでには時間を要するとは思うが‥‥。
 日通総合研究所では、鉱工業生産が前年同期 の水準を上回るのは一〇〜十二月期と予測してい た(注:六月時点の予測による)が、個人的には、 七〜九月期に早まる可能性が高くなってきたよう に思う。
鉱工業生産に占める乗用車、バス、トラ ック、自動車部品の四業種のウエイトは約一五% と高い。
これら業種の生産が増加し、さらに金属 や化学の生産も増えるであろうから、あながち突 拍子もない話ではあるまい。
 ただし、大きな制約もある。
言うまでもなく、電 力不足が深刻化する懸念だ。
夏場における電力不 足の問題は、当初東北や関東に限定されていたが、 その後、原子力発電所の操業停止等を受けた節電 要請の動きは、中部、関西、北陸、さらには九州 と全国に広がっている。
大手メーカーのなかには、 原子力発電所の操業再開を望んでいるところもあ るようだが、ここまで反原発の世論が高まると、さ すがに難しかろう。
いずれにせよ、自動車生産が 順調に回復するためには、電力の総量規制などの 措置がとられないことが大前提となる。
製造業における業況および出荷量に対する判断 製 造 業 6 2 -9 2 5 -4 -20 -8 繊維 3 -8 0 0 4 -16 -30 -21 木材・木製品 0 0 0 -4 5 -2 -9 0 紙・パルプ -20 -26 -16 -17 -9 -2 -2 -9 化学 14 4 2 -3 22 12 -14 0 化学・プラスチック 石油・石炭製品 40 7 0 6 窯業・土石製品 6 -2 -8 -7 2 6 -20 -9 鉄鋼 -22 -2 -21 -2 12 -3 -15 -10 鉄鋼・非鉄 非鉄金属 9 8 -14 9 食料品 0 0 2 1 -17 -6 -5 -9 金属製品 9 0 2 -5 -4 -13 -20 -20 はん用機械 24 22 7 17 生産用機械 7 13 9 19 11 -5 -16 0 一般機械 業務用機械 11 -2 -13 6 電気機械 1 5 -16 2 -4 -12 -29 -13 造船・重機等 10 -7 -6 -10 15 -10 -47 -2 輸送用機械 自動車 23 -2 -52 6 最近 (3月) 先行き (6 月) 最近 (6 月) 先行き (9 月) 実績 1 月〜3 月 見通し 4 月〜6 月 実績 4 月〜6 月 見通し 7 月〜9 月 日銀短観 3月調査6 月調査3月調査6 月調査備考 日通総研短観 注)1. 日銀短観の数値は大企業・製造業の業況判断DI、日通総研短観の数値は国内向け出荷量『荷動き指数』。
2. 日銀短観と日通総研短観では業種区分が一致していないため、異なる業種については備考欄に日通総研短観における業種区分を示した。

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