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AUGUST 2011 82
両空港に大型投資
昨年一〇月二一日、東京国際空港(羽田空港)で
は、四本目となる新滑走路が開設され、それに合
わせて新国際線旅客ターミナルがオープンしました。
四本の滑走路合計で見た発着枠は、従来の年三〇・
三万回(うち国際線は一・二万回)から三七・一万
回(同六万回)に増加しました。 今後は早ければ二
〇一三年度に、年四四・七万回(同九万回)にま
で増えることが予定されています。
発着枠の拡大を受け、昨年一〇月三一日には、多
くの国際定期便が就航しました。 これまでは中国や
韓国など東アジア四路線の国際チャーター便に限定さ
れていましたが、サンフランシスコ、パリ、ホノル
ル、シンガポールなど一七路線に広がりました。 本
格的な国際定期便の就航は実に三二年ぶりのことで
す。 国土交通省によると、羽田空港の国際化による
経済効果は年間一兆円に達するそうです。
また国交省は今年六月二一日、羽田空港の新国
際線旅客ターミナルの拡張計画を発表しました。 総
工費一〇〇〇億円を投じて現在の一・四倍の広さ
(二一万八五〇〇?)にするほか、搭乗口を現在の
根拠無き日本の航空行政
羽田・成田は統合し、
ハブ機能の回復を図るべき
羽田空港の国際化が進む一方で、成田空港では国内線を含む
離発着枠の拡充が急速に展開している。 これまで棲み分けてき
た『国内線の羽田、国際線の成田』という境界線が薄らいでい
る。 縮小経済下での両空港の拡充・拡大政策は少ないパイを奪
い合う結果しか招かない。 根拠のない航空行政は、直ちに見直
す必要がある。
第 5 回
一〇カ所から二〇カ所に拡充するなど、機能の充実
を図る予定です。 近い将来五本目の滑走路をオープ
ンして欲しいという声も多く、今後ますます羽田空
港の国際化は進展していくものと見られます。
一方、これまで国際線を一手に引き受けてきた成
田空港の機能拡充も進められています。 成田国際空
港株式会社によると、二〇一四年度中に発着枠は現
在の年二〇万回から三〇万回になり、そのうち国内
線は二万回から三万回に増加します。 従来国内線は
八路線しかありませんでしたが、これが最大二〇路
線に拡大されます。 二〇一三年には、格安航空会社
(LCC)専用の旅客ターミナルも新設される予定で
す。
旅客のみならず、貨物の分野でも変化が生じてい
ます。 羽田空港では、国際線旅客ターミナルと同様
に国際貨物ターミナルも活況を呈しています。 羽田
空港離発着の定期貨物便は現時点では運航されてい
ませんが、旅客機の貨物室を活用するケースが増え
ています。 貨物チャーター便の利用も一部可能にな
りました。 東京税関の調べによると、二〇一〇年一
〇月以降、貨物の取扱量は増加基調で推移していま
す。 これは羽田空港の強みである二四時間離発着が
可能な点などが支持された結果でしょう。 また、羽
田空港は国内路線乗り継ぎの要衝になっているため、
国内線との連携がスムーズにいき、リードタイムの
大幅な短縮が実現できる点も貨物増加の追い風とな
っているようです。
これまで旅客・貨物ともに首都圏離発着の国際便
は成田空港、国内線は羽田空港といった棲み分けが
なされてきましたが、現在は国際・国内といった互
いの境界線を超えた機能拡充が両空港で活発に行わ
れています。 今回は両空港に見られる首都圏を対象
にした航空行政について考察します。
空港整備のあり方を考える上で最も重要なことは、
将来の需要がどの程度あるかを予測することです。
需要が急増するのであれば、空港整備を拡充する必
要がありますが、減退するのであれば、縮小や集約
が不可欠です。
政府が二〇〇七年六月二一日に発表した、交通
政策審議会航空分科会答申(今後の空港及び航空
保安施設の整備及び運営に関する方策について)の
資料に拠ると、二〇〇六年に五八〇六万人だった国
際線旅客人数は、二〇一二年度には七一八〇万人、
二〇一七年度には八〇七〇万人になります。 一〇年
物流行政を斬る
産業能率大学 経営学部 准教授
(財)流通経済研究所 客員研究員
寺嶋正尚
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間で約一・四倍になると想定されています。 かな
り強気な予測と言えるでしょう。
貨物に関しても同様で、二〇〇六年に三一七・
三万トンであったものが、二〇一二年には四四四
万トン、二〇一七年度には五四七万トンと想定さ
れています。 こちらも七二%もの大幅な増加を見
込んでいます。
しかし、実際はどうでしょう。 二〇〇六年段階
で三五六九万人だった成田空港及び羽田空港の合
計国際線旅客人数は、二〇〇九年時点では三〇
〇〇万人強にまで減少しました。 貨物に関しても、
現在わが国は人口減少社会に突入していることな
どを考慮すれば、政府の想定通りに順調に増加し
ていく可能性は極めて低いでしょう。
もし政府の想定通りに旅客人数や貨物量が増加
していくならば、現在のような両空港における機
能拡充は正しい選択といえます。 しかし、需要の
伸びがあまり期待できない中で、両空港の発着枠
をいたずらに拡大させれば、少ないパイを奪い合
うことになります。
この事態を避けるためには、「旅客人数も貨物量
も伸びが期待できない」という前提のもとで、今
後の航空行政を考え直していく必要があります。
並存を図るなら棲み分けを
二〇〇九年の総貨物取扱量及び総旅客人数の空
港別ランキングを見ると、貨物分野に関しては成田
空港及び羽田空港が、中国や韓国の主要空港の後
塵を拝していることが分かります。 成田と羽田の
両空港を合わせて、やっと上海浦東空港と同等の
レベルです。
旅客に関しては、国内線旅客人数に支えられた羽
田空港が健闘していますが、近年の順位は低下基調
にあります。 成田空港に至っては、かつて三〇位以
内であった順位が現在ではランク外になっています。
貨物及び旅客に関するアジアの「ハブ空港(拠点
空港)」としての機能を考えた場合、成田空港と羽
田空港は将来的に統合し、そのスケールメリットを
生かしていくべきではないでしょうか。 個人的な意
見としては、羽田空港に機能の多くを集約すべきだ
と考えています。 都心から五〇?以上離れた成田に
対し、羽田は約一五?の近さにある点、二四時間使
用が可能な点、国内線との連携の良さ、将来リニア
新幹線が品川駅に止まること等を考えると、その使
い勝手の差は歴然としています。
あくまで両空港の並存を図るのであれば、少なく
ともその役割分担を明確にすべきでしょう。 例えば、
「羽田は旅客中心、成田は貨物中心」、「羽田は高価
格・高サービス路線、成田は低価格・低サービス路
線(そのために着陸料等を調整する)」といったよ
うに棲み分けを図り、それぞれの強みを発揮しなが
ら他国の国際空港と渡り合っていくべきでしょう。
いずれにせよ、成田空港、羽田空港の理念なき開
発・拡充は直ちに中止し、早急に航空行政の立て直
しを図る必要があるのではないでしょうか。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、
流通経済研究所を経て現職。 日本物
流学会理事。 客員を務める流通経済研
究所では、最寄品メーカー及び物流業
者向けの研究会「ロジスティクス&チャ
ネル戦略研究会」を主宰。 著書に『事
例で学ぶ物流戦略(白桃書房)』など。
図1 総貨物取扱量の空港別ランキング
(国内線+国際線、2009 年)
1 メンフィス(米国) 3,697,054 0
2 香港(香港) 3,385,313 -8
3 上海浦東(中国) 2,543,394 -2
4 仁川(韓国) 2,313,001 -5
5 シャルル・ドゴール(仏) 2,054,515 -10
6 テッドスティーブンス・アンカレジ(米) 1,994,629 -15
7 ルイビル(米) 1,949,528 -1
8 ドバイ(ドバイ) 1,927,520 6
9 フランクフルト(独) 1,887,686 -11
10 成田(日本) 1,851,972 -12
24 羽田(日本) 779,118 -8
成田+羽田 2,631,090
貨物量
空港名(国、地域)
トン
前年比伸び率
(%)
(資料)国際空港評議会
順位
図2 総旅客人数の空港別ランキング
(国内線+国際線、2009 年)
旅客数
空港名(国、地域) 人
前年比伸び率
(%)
(資料)国際空港評議会
順位
1 アトランタ(米) 88,032,086 -2
2 ヒースロー(英) 66,037,578 -2
3 北京(中国) 65,372,012 17
4 シカゴ(米) 64,158,343 -6
5 羽田 61,903,656 -7
6 シャルル・ドゴール(仏) 57,906,866 -5
7 ロサンジェルス(米) 56,520,843 -6
8 ダラスフォートワース 56,030,457 -2
9 フランクフルト(独) 50,932,840 -5
10 デンバー(米) 50,167,485 -2
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