ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2004年1号
メディア批評
テレビ朝日が放映した「流転の王妃」は歴史を興味深く教える近来のヒット作

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高信 経済評論家 71 JANUARY 2004 テレビ朝日で放映された「流転の王妃・最 後の皇弟」のドキュメントを、日本だけが正 しいという史観で教科書をつくるべしと思っ ている人たちは苦虫を噛みつぶしたような感 じで見ただろう。
満州国皇帝、溥儀の弟、溥傑に嫁いだ嵯峨 浩ひ ろ がどんな運命をたどったかは、彼女の自伝 『流転の王妃の昭和史』(新潮文庫)に詳述さ れている。
それを基にしたドラマは、関東軍 の残虐さを描いて見ごたえがあった。
これは イラクへ進駐しているアメリカ軍でもそう違 いはないのだろう。
日本の犯した過ちを過ち と認め、再び同じ過ちを繰り返さないように することが大事なのに、単細胞の日本礼讃者 たちは、日本が中国を侵略したことさえ認め まいとする。
『流転の王妃の昭和史』に浩は、満州で、 「関東軍=天皇、満鉄=中将、警官=少佐、 残りの日本人は下士官、満人は豚」 と満人が自嘲していた、と書く。
また、満人の召使いがよく次のようにこぼ すのを耳にしたという。
「日本人、満人憎いあるか? 満人、何もし ない。
日本人、国とった、言葉とった、でき るもの皆とった。
それでまだ、文句あるか?」 愛新覚羅浩となった彼女は、そう言われて、 「恥ずかしさのあまり、ただ黙り込むしか」な かった。
(そうよ、そのとおりよ。
あなた方は 何も悪いことをしていない。
悪いのは、日本人なの‥‥) 胸中にこう呟きつつ、しかし彼女はどうす ることもできなかった。
「私は、日本人であるのが辛かったのです。
なれるものなら、中国人になりたかったので す。
そして、彼らと一緒になって日本人を思 い切り罵倒してみたかったのです。
しかし、 民族の血というのは非情なものでした。
私に はそれが許されないのです」 きっかけは政略結婚だったかもしれないが、 それは別として、深く溥傑を愛し、数奇な人 生を送ることになった彼女はこのように述懐 している。
彼女こそが?五族協和の王道楽土〞 を素直に信じて行動し、それゆえに傷ついた のである。
その彼女が中国人と一緒になって「思い切 り罵倒してみたかった」という「日本人」の 中には明らかに石原莞爾が入る。
多くの石原 信者は石原を「日本人」の中から除きたいと 思うだろうが、それはあまりにも石原を偶像 化した見方である。
私は『石原莞爾 その虚飾』(講談社文庫) で「石原と日本人が見た夢」は悪夢となった と批判した。
盧溝橋事件が起こったとき、浩の夫の溥傑 は沈みこみ、その沈黙に耐えきれなくなって、 「日本がいけないのですね」 と彼女が言うと、溥傑はしばらく浩の瞳を のぞきこんだ後で、ポツリと、 「満州と中国は、もともと同じなんだが‥‥」 と呟いたという。
溥傑はとくに、満州国の国教として神道を 押しつけられたことがたまらなかった。
「関東軍が満州国を指導するのはまあいいと しても、あの祝詞 の り と と称する?カケマクモカシ コキアマテラスオオミカミ‥‥〞だけはやめ てくれないかなあ。
そのうえ覚えが悪いから といって、撲ったり蹴ったりするのだから、 乱暴だよ!」 浩は、夫のように日本に留学して日本の言 葉や習慣に通じている者すら、こう憤慨するの だから、風習や信仰のまったく異なる満州国 軍の兵士たちはどう思ったか、と嘆いている。
歴史に無知な者、あるいは歴史をいたずら に美化する者は歴史に報復される。
日本人留 学生が中国でヘンな寸劇をやって痛撃された が、歴史を知っていたら、あんな軽率なこと はしなかっただろう。
興味深く歴史を教える という意味で、テレビ朝日のドラマは近来の ヒットだった。
テレビ朝日が放映した「流転の王妃」は 歴史を興味深く教える近来のヒット作

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