*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
SEPTEMBER 2011 4
のため今年五月に発表した新中期経
営改革『二〇一五年ビジョン』では、
既存の仕事の自然減も織り込んで事
業計画を立てました」
──二〇一五年ビジョンの目標は売上
高七五〇〇億円ですから、再び二〇
〇〇億円を上積みすることになります。
そこまでの規模が必要でしょうか。
「規模そのものより成長することが
大事なんです。 経営トップが成長を
明確に打ち出さない限り、人は付い
てこない。 それも、少し無理に思え
るくらいの高い目標がいい。 この会
社なら大きな仕事ができる、給料も
上がっていくということが、採用や
モチベーションに効いてくるんです」
──しかし、急激な規模拡大には様々
なリスクが伴います。 これまでの買
収攻勢にしても一部には「肉食・日
立物流」と皮肉る声がありました。
「それはまったくの誤解です。 実際、
これまで当社から買収を仕掛けたこ
とは一度もない。 すべて金融機関な
どを通じて先方から打診のあった案
件ばかりです。 我々はM&Aに関し
て主に三つのルールを設けています。
一つは黒字会社であること。 赤字会
社であれば安く買えても、それを立
て直すには一流の経営者が必要にな
る。 人員整理も避けられない。 そん
なことはしたくない。 二つ目は既存
五年で売上高を倍増
──今期は売上高が五〇〇〇億円を
突破するのが確実です。 二〇〇五年
度に立案した中期経営計画「二〇一
〇年ビジョン」の目標を、一年遅れ
ながら達成することになります。 五
年でほぼ倍増のペースです。
「それまでと同じやり方を続けてい
たのでは絶対に達成できない目標で
した。 約六〇年かけて、ようやく三
〇〇〇億円に手が届こうかというと
ころまできた会社が、五年で二〇〇
〇億円も上積みすることなど普通な
らできるはずがない」
「そこで、二つのことを思い切って
やりました。 一つがグローバル化であ
り、もう一つがM&Aです。 〇七年
の資生堂物流サービス(現・日立物
流コラボネクスト) に始まり、この五
年間で計十二社を買収しました。 そ
れまで我々は買収には積極的ではな
かった。 日立グループ全体の傾向とし
て、買収よりも自律成長を善しとす
るところがあったと思います。 もち
ろんそうできるなら、それに越した
ことはないわけですが、当社が中期
計画を達成するには売上高で一〇〇
〇億円程度の買収が必要でした」
──これまでに買収した企業のうち、
バンテックを除いた十一社の売上高は
単純計算で約九〇〇億円です。 M&
Aに関してはほぼビジョン通りに実施
したことになります。
「そのうち一〇年度の売上高に反
映されているのは約六〇〇億円です。
それに対して当社過去五年間の連結
売上高の増加額は八三一億円です。
従って自律成長分は二〇〇億円余り
にすぎないことになる。 この間にも
新規受注は順調だったんです。 五年
間で約九五〇億円分を新たに獲得し
ています。 ところが既存荷主の仕事
が約七五〇億円分減っている。 うち
五〇〇億円近くはリーマンショック
の影響ですが、そうでなくても、こ
の仕事は既存荷主の物量が減ったり、
事業構造が変わったりということが
常に起こる。 荷主が物流を内製化し
たり、最悪の場合には他社に乗り換
えられてしまうことだって、ないわ
けではない」
「つまりリーマンショックのように
一気に仕事が減ることは稀でも、3
PLビジネスは少しずつ自然減が発生
するのを避けられない。 数年も経て
ば既存の仕事の二割は外に出ていっ
てしまうと考えたほうがいい。 とく
にこれからの国内市場では、そのこ
とを覚悟しなければなりません。 そ
日立物流 鈴木登夫 社長
「M&Aの勝ちパターンがつかめた」
今年四月のバンテック買収で今期の売上高は五〇〇〇億円を大
きく超える。 セイノーホールディングス、山九を抜き、業界大手
の一角に浮上する。 それでも成長スピードを緩めるつもりはない。
二〇一五年度に売上高七五〇〇億円という新たな目標を掲げ、ア
クセルを踏み続ける。 (聞き手・大矢昌浩、石鍋圭)
5 SEPTEMBER 2011
荷主が当社を嫌がらないこと。 そし
て三つ目は、その会社の従業員の合
意があることです」
「バンテックのM&Aは相対交渉で
はなく入札でしたが、当社が一番高
い値段を付けたわけではなかったよ
うです。 それでも落札できたのはバ
ンテックの賛同表明を得られたからで
す。 もちろん株主にとっては高く売
れるのが一番です。 しかし、会社側
の合意のない敵対的買収は、日本で
は上手くいかない。 当社はその会社
の従業員や労働組合が嫌がるような
買収に手を出すつもりはありません」
──一連の買収の結果をどう自己評
価していますか。
「後悔している案件は一つもありま
せん。 おかげさまで、(買収した会社
は)当社のグループに来てからもすべ
──資生堂やDIC、またバンテック
の元親会社の日産はいずれも各業界
の大手です。 その物流インフラを業界
プラットフォームの核にすることがで
きる。 それができない中堅以下のメ
ーカーの物流子会社もM&Aの対象
になり得ますか。
「物量よりも、その業界の勝ち組で
あることが重要です。 M&Aによっ
て当社のブランド価値が上がるかどう
かを重視しているんです。 世間は日
立物流と聞いても、日立グループの
物流をやっている会社だとしか認識
してくれない。 しかし、資生堂やD
ICの物流を手がけていますと説明
すれば、相手の見方も変わってくる。
その分野の荷主が反応してくれる」
──過去を振り返っても、〇一年に
イオンのメーンパートナーを引き受け
たことが日立物流の大きな転機にな
りました。 あまりに投資規模が大き
くなるため当時は危ぶむ声もありま
したが。
「その通りです。 確かにリスクは大
きかったけれど、それによって当社
のブランド価値は大きく上がりました。
イオンの物流を手がけていることが、
その後の他の荷主の交渉にも大いに
効いた。 一流の荷主の仕事をしてい
ることが、我々の誇りでもあり、セ
ールストークにもなるんです」
て黒字です。 だからここまで実績を
積み上げてこられた。 これが一社で
も赤字だったら、M&Aのペースも
鈍る。 ラッキーな面もあったのでし
ょうが、そのための努力を我々は怠
らなかった」
──物流会社、とくに物流子会社の
買収は企業価値の評価が難しいと言
われます。 既存の仕事がどれだけ残
るのか。 料金水準は妥当なのか、判
断が難しい。
「そのため当社はデューデリジェン
ス(企業価値・リスクの評価) に時
間とコストをかける。 一年以上かけ
ることもあります。 大手会計事務所
を入れて徹底的に財務体質を洗い
出し、含み損や不良債権がないこと
を確認する。 それでもすべてのリス
クを回避できるわけではない。 最後
は相手を信頼できるかにかかってく
る。 その点で、これまで当社が相手
にしてきたのはどこも一流の企業です。
おかしなことはしない」
──物流子会社の多くは親会社の余
剰人材の受け皿にもなっています。
人員のムダも少なくないはずです。
「M&Aの交渉のなかでは、当社が
引き受ける人数や、場合によっては
人材の質まで議論させてもらいます
が、売る方にも事情はありますから、
ある程度のところで妥協は必要です。
しかし、人材を持てあますことはあ
りません。 資生堂の日雑化粧品、D
ICの化学品、内田洋行のオフィス家
具など、当社がM&Aした会社はい
ずれも当社にはないスキルを持ってい
る。 物流子会社という立場では基本
的には親会社の仕事しかできないけ
れど、当社に来れば彼等の持ってい
るスキルを幅広く活かすことができる」
──だとすれば、家電や重電など、
日立物流が既に得意としている分野
の子会社は買収対象にはならない?
「余剰人員を生んでしまうような買
収はしません。 実際、そうしたオフ
ァーを過去に受けたこともあります
が応札もしなかった」
3PLのブランド戦略
──それでも正社員を抱え込むこと
はリスクになりませんか。 パートの比
率を上げて、固定費を下げるという
のが現在の物流業界のトレンドです。
「その点では当社のやり方は常識
に反しているかも知れません。 それ
でも成り立っているのは事業が拡大
しているから、固定費としての人件
費が増える以上に売り上げが伸びて
いるからです。 当社はこの五年間で、
過去最高決算を四回更新しています。
M&A戦略に関しては自信を深めて
います。 勝ちパターンがつかめてきた」
2015 年ビジョンの概要
営業利益
(億円)
400
300
200
100
7000
6000
5000
4000
3000
2000
0
売上高
2005
(実績)
2010
(実績)
2011
(計画)
2012
(中計)
2013
(中計)
2015
(目標)
営業利益率(%)
売上高構成比(%)
国内
国際
(年度)
102
159
226
285 320
375
7,500
6,400
5,900
5,500
3,688
2,857
3.6
4.3
4.1
4.8
5.0
22
25
28 30
30
78 75
72 70 70 68
32
5.0
|