ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2011年9号
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第70回日本郵船海運市況の変動から脱却し持続的成長へグローバル物流網でアジア市場を取り込む

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

67  SEPTEMBER 2011 主要事業全てが八方ふさがり  現況、海運企業を取り巻く環境は大変厳しい。
日本郵船を始めとする我が国の大手海運会社は、 海運業と一口にいっても、製品貨物の定期コンテ ナ輸送事業、専用船による完成車輸送事業、資 源・エネルギーを輸送するドライバルク(ばら積 み貨物)・タンカー事業など多様に分散された事 業ポートフォリオを持ち、ある事業が不調の時 には他の事業がそれを補うといった形でバラン ス良く安定的な事業運営を行ってきた。
しかし、 直近期である二〇一二年三月期第1四半期決算 は、上記の主要事業全てが赤字ないし大幅減益 という八方ふさがりの状況である(図1)。
 苦境の根底にあるのは船舶の供給過剰問題で ある。
海運業界では、プレーヤーの数の多さに 加え、船舶の発注から竣工まで約三年というタ イムラグが存在する。
このため、荷動きの拡大 期に大量の新造船発注が集中し、好況の波が去 った後にそれらが竣工し不況の谷を深くすると いう“本質”を内包しているといえる。
 最近では〇七年前後に「ケープサイズバルカ ー」と呼ばれる大型ばら積み船が大量発注され たのに伴い、いわゆる「ケープサイズ二〇一〇 年問題」が懸念されたが、コンテナ船、タンカ ー、自動車専用船を含めたあらゆる船種で程度 に違いはあっても共通の傾向がみられ、それぞ れに市況、運賃の圧迫要因となっている。
 コンテナ事業では、荷動き自体は堅調に推移し ている。
それでもコンテナを一万個以上積載でき る超大型船の竣工が相次いだことで、船社間で 消席率(輸送スペースの利用率)にばらつきが 出ているようだ。
このため、運賃値上げの足並 みが揃わず、赤字採算にもかかわらず夏の繁忙 期に入っても運賃是正は実現していない。
当初 六月に計画されていた運賃値上げは、七月、さ らに八月へと延期され、現状に至っている。
 ドライバルクはケープサイズを中心に最も新造 船の供給圧力が強く、スポット運賃は損益分岐 点を大きく下回る水準での推移が継続。
タンカ ーも同様に市況の低迷が長期化している。
 自動車専用船については、現状の収支悪化は 東日本大震災による一時的な生産停止、輸出数 量の急減という需要サイドの要因が大きく、今 後生産回復につれて短期的には収益改善に向か うものと考えられる。
しかし、この分野でも〇 七年前後には投機的発注が増加し従来はみられ なったスポット運航船が増加している。
 輸出完成車はこれまで日本出しが中心で、我 が国の船社は大量の大型船を日本で満載にし、メ ーカーとの契約運賃で効率よく輸送することによ って安定的かつ高採算を確保することができた。
しかし将来的には輸出拠点の分散化が予想され、 輸送の少ロット化が進む可能性がある。
市場価 日本郵船 海運市況の変動から脱却し持続的成長へ グローバル物流網でアジア市場を取り込む  中期経営計画では海運事業に物流・港湾ター ミナル事業を絡めてアジア市場の成長を取り込 む戦略を明確に打ち出した。
海運バブル崩壊の 影響は長期化しており、これまでのように単に 船舶に投資して規模を拡大するだけでは持続的 な成長は期待できない。
海運業の枠を超えるこ とによって同業他社との差別化を図り、市況変 動からの脱却を目指している。
板王亮 SMBC日興証券 株式調査部 シニアアナリスト 第70回 SEPTEMBER 2011  68 格で調達したスポット船を活用する新興オペレー ター(船舶の運航者)が登場し、結果として輸 送効率や運賃水準の低下がもたらされる可能性 についても念頭に置いておく必要があるだろう。
 現在、先に述べた海運業界の“本質”は従来 以上に鮮明になっている。
二〇〇〇年代半ばに は中国の登場によってスペースの供給不足が恒 常化するのではないかという期待が高まったが、 結局それは“海運バブル”とその崩壊、供給過 剰による“海運市況デフレ”の長期化をもたら したに過ぎないといえる。
物流事業は重要な差別化要素  以上の状況を踏まえると、日本郵船が今年三月 に公表した中期経営計画「More Than Shipping 2013」は興味深い。
その基本戦略の概要は 以下のとおりである。
?海運業ではボラティリティ(変動性)を極力抑 制しつつ安定成長を志向し、メリハリの利いた 船隊投資を行う。
船隊増強に当たっては、市況 変動リスクの大きいコンテナ船は長期固定船隊を 削減し短期用船のウェイトを引き上げる。
また、 ドライバルク事業では「パナマックス」、「ハンデ ィサイズ」、「ハンディマックス」など汎用性が高 く小回りの利く中小型バルカーを中心に増強す る。
一方で、積載貨物が限定され、配船の融通 の利かせにくいケープサイズは追加投資を行わず 長期契約中心の運用体制とする。
?自動車関連では、輸出拠点の中国シフトに対 応するため中国四大港(大連、天津、上海、広 州)において自動車船専用ターミナルの運営に 出資・参画するほか、アジア域内の生産 拠点を中心とした部品・完成車輸送など 物流事業を強化し、海上輸送の獲得につ なげる。
?新規成長分野として海洋事業(深海油 田開発関連)への投資を拡大する、など。
 簡潔にいえば、既存の海運事業では規 模拡大よりも短期用船へのシフトなど、 ボラティリティ抑制による安定収益の確 保に重点を置く。
そこに物流やターミナ ル運営などを絡めてアジア全体の物流市 場の拡大を取り込む成長戦略を描く一方、 新規分野として資源エネルギー開発関連 の海洋事業への投資を拡大する、といっ た内容である。
 日本郵船にとって海運事業は利益の大 部分を占める中核事業であるが、過去の 市況変動の大きさを考えれば、単に船舶 への投資を拡大していくだけでは利益規 模の持続的拡大を期待することはできな い。
企業全体の長期的な利益成長を追求 するためには、船舶投資以外の面で同業 他社と差別化し収益を取り込む機会を増 やしていく必要がある。
 同社はロジスティクスの分野では自社 の物流部門であるNYKロジスティクスと連結 子会社の郵船ロジスティクスを中心に、倉庫・陸 送などのグローバル展開を積極的に進めてきた。
海運の主要な顧客基盤である自動車を始めとす る製造業、流通関連企業などを対象に、部品物 流やSCMの構築などを地道に行ってきた。
 これらロジスティクス事業と海運事業の営業 面における直接的なシナジー効果については懐 疑的な見方が未だ少なくない。
しかし、企業の 競争力を維持するうえで生産・在庫拠点の地域 あるいは輸送手段等について従来以上に機動的 なSCMの構築が求められる“SCM構築の流 図1 2012 年3 月期第1 四半期決算。
主要事業が軒並み振るわず、経常赤字に転落した 一般貨物運送事業その他事業 定期船※1 ターミナル 航空運送 物流 (単純合計) 不定期専用船※2 客船 不動産 その他 連結 不定期専用 船事業 事業セグメント 第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期 通期 第1四半期 前年同期比増減額 1,231 1,275 1,099 1,014 4,621 1,085 ▲ 145 103 158 68 ▲ 28 302 ▲ 86 ▲ 189 306 321 299 297 1,224 345 38 16 22 18 8 66 17 0 231 225 219 195 872 226 ▲ 5 19 21 29 7 78 19 0 1,014 1,009 983 901 3,909 943 ▲ 70 20 24 22 10 77 9 ▲ 10 2,784 2,832 2,600 2,409 10,627 2,600 ▲ 183 160 227 139 ▲ 1 525 ▲ 39 ▲ 199 2,099 2,049 1,941 1,873 7,964 1,731 ▲ 368 224 170 157 51 604 ▲ 54 ▲ 278 90 111 85 71 358 71 ▲ 19 ▲ 13 10 ▲ 5 ▲ 18 ▲ 26 ▲ 23 ▲ 9 29 29 27 28 114 26 ▲ 2 12 12 10 8 43 10 ▲ 1 395 373 400 465 1,635 458 62 ▲ 1 ▲ 2 0 0 ▲ 4 4 6 5,047 5,057 4,711 4,474 19,291 4,477 ▲ 570 381 417 302 40 1,141 ▲ 101 ▲ 482 11年3月期 12年3月期 ※1 コンテナ船 ※2 自動車専用船、ドライバルク、タンカー 単位:億円、上段:売上高、下段:経常損益 出所:会社発表資料より作成 69  SEPTEMBER 2011 動化”傾向はますます強まると考えられる。
日 本郵船の海・陸・空・港湾のグローバル物流ネ ットワークは、アジアの成長を取り込むうえで重 要な差別化要素となり得よう。
 同社が七月二九日に発表した一二年三月期第 1四半期決算は一〇一億円の経常赤字となり、 通期経常利益予想は期初の五〇〇億円から一〇 〇億円へと大幅に下方修正された。
株価も低迷 しており(図2)、株価純資産倍率は〇・七倍 と二〇〇〇年以降で最も低い水準近辺で推移し ている。
 業績面ではこの第1四半期が当面のボトムと なり、第2四半期以降、回復トレンドに入ると予 想されるが、現状では未だ運賃市況に明確な回 復はみられず、燃料価格は高止まりが続き、為 替は歴史的な円高基調、と厳しい外部環境が続 いている。
 さらに船腹(輸送スペース)の供給圧力が向 こう二年程度は継続する可能性が高いなかで、 グローバル経済の先行きは不透明感が払拭でき ず、運賃・市況の中期見通しに対しても強気と なる根拠に乏しいと言わざるを得ない。
このた め、同社の株価は概ねボトム圏にあると考えら れる一方で、本格的な上昇に向かうために乗り 越えるべきハードルは少なくない。
 しかし、同社の中期戦略は、海運業界の抱え る問題点を踏まえたうえで持続可能な成長を達 成するための正しい処方箋を示していると考え ている。
長い目でみた安定成長性という点にお いて、業界内で相対的に優位性を高めることが 可能と考えている。
いたざき おおすけ 一九八八年三月神戸市外国語大学 卒業、同年四月岡三証券入社。
シュ ローダー証券、INGベアリング証 券、クレディ・スイス証券を経て現 職。
八八年以来、運輸セクターを中 心にアナリスト活動を展開している。
過去10年間の株価推移 《出来高》

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