ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年9号
道場
メーカー物流編 ♦ 第24回「立派な物流センターが立ち上がった。センターは当然物流部門の所属になる。さて、そうなるとどうなる?」

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湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 SEPTEMBER 2011  74 お話の後、先生はすぐにお帰りになってしま ったでしょ。
ですから、ご挨拶できませんで した」  「そう言えばそうだった。
あのあと学生時 代の友達と飲み会の約束があって、終わった らそそくさと帰ったんだった。
でも、あの講 演は、講演というより、『語り部』として昔 の話をしてくれと言われて、そうしたんだけ ど、その意味では、そんなおもしろいもので はなかったんじゃないの?」  「いえいえ、その、昔の話というのが非常 に興味深かったです。
とくに物流の黎明期に 活躍した人たちの熱意というか熱い気持ちに は感動しました」  「へー、業務課長が感動した?」  大先生の言葉に企画課長が言葉を挟む。
 「こう見えて、彼は意外と情にもろいタイ プなんですよ。
顔に似合いませんけどね‥‥」 67「立派な物流センターが立ち上がった。
センターは当然物流部門の所属になる。
さて、そうなるとどうなる?」 《第113    物流黎明期の主役たちに感動  ようやく秋の気配が漂い始め、ほっと一息 つける季節になってきた。
そんなある日、大 先生がコンサルをしているメーカーの会議室 に大先生一行がいた。
大先生がプロジェクト メンバーたちと雑談をしている。
リーダーで ある部長が突然社長に呼ばれ、会議の開始を 見合わせているのである。
 「そういえば、この前、ある会合で先生の お話を聞かせてもらいました」  業務課長が思い出したように、大先生に話 し掛ける。
ある集いの総会で大先生の講演を 聞いたそうだ。
 「えっ、あの場にいたの? それは気が付 かなかった」  「はい、前の方で顔をさらしては悪いと思 って、後ろの方で小さくなって聞いてました。
メーカー物流編 ♦ 第 24 回  いよいよ物流部を廃止し、新たにロジ スティクス部を立ち上げることになった。
いやおうなくプロジェクトメンバーたち の士気は上がる。
日本がロジスティクス 黎明期を迎えた七〇年代に実務家として 活躍した先人たちも、恐らく同じような 高揚感を抱いていたはずだ。
しかし、先 人たちの努力は結局報われなかった。
そ れだけ当時はまだ壁が厚かった。
大先生 物流一筋三〇有余年。
体力弟子、美人弟子の二人 の女性コンサルタントを従えて、物流のあるべき姿を追求する。
物流部長 営業畑出身で物流部には異動したばかり。
「物流 はやらないのが一番」という大先生の考え方に共鳴。
物流部業務課長 現場の叩き上げで物流部では一番の古株。
畑違いの新任部長に対し、ことあるごとに反発。
コンサルの 導入にも当初は強い拒否反応を示していたが、大先生の話 を聞いて態度が一変。
経営企画部主任 若手ながらプロジェクトのキーマンの一人。
人当たりは柔らかいが物怖じしない性格のようで、疑問に感 じたことは素直に口にする。
75  SEPTEMBER 2011  企画課長の言葉に反論しようと身を乗り出 す業務課長を制するように、大先生が続ける。
 「なるほど、顔の話はいいとして、業務課 長は先人たちのどんなところに興味を持った んですか?」  「はい、時代で言うと、一九七〇年代です よね。
黎明期というのは。
企業の中では、物 流なんてまったく認識されていない時代でし ょ。
そんな時に、トップから物流を何とか しろって言われて取り組んだ、その態度です。
感心したのは」  「真摯に真正面から取り組んだ、その態 度?」  「そうなんです、それです。
先人たちは、 そもそも物流とは何なんだというところから 始まって、企業内の位置づけというか、生産 や営業との関係をきちっと押さえて、物流の あるべき姿を求めていましたよね。
それって、 いまわれわれがやろうとしていることじゃない ですか。
いまこんなだってことは、黎明期の あと、どっかで物流はおかしくなったんです ね。
あんたらは、おかしくなったのはどこだ と思う?」  業務課長がほかのメンバーに向かって質問 する。
企画課長がにこにこしながら、みんな を見る。
 「企画課長は答を知ってるんだ?」  業務課長の問いに企画課長が頷き、「以前、 先生のお話を聞いたことがあるから」と答え る。
ちょっと首を傾げていた主任が「もしか して、それって物流センターおもちゃ説じゃ ないですか?」と業務課長に聞く。
業務課長 が驚いたような顔で頷く。
そのやりとりを見 ていた東京物流センター長が「そのおもちゃ なんとかって何ですか?」と興味津々といっ た風情で聞く。
 「先生を前にしてなんだけど、それでは、 おれが説明してやろう。
いいですか?」  大先生が「何を説明するのやら。
まあ、ご 自由にどうぞ」と了解する。
業務課長が頷い て、話を始める。
 物流センターおもちゃ説  「物流黎明期の主役たちが舞台を去り、新 しい人種が物流担当者として舞台に登場する。
時代は八〇年代ってとこかな。
さあ、お立会 い」  「何に立ち会えっていうの?」  業務課長が話し始めたところに部長が戻っ てきて、声をかけた。
 「なんだ、もう帰ってきたの。
これから、 おもしろい話が始まるところだったのに」  席に着いた部長に、主任がこれまでの経緯 をかいつまんで伝える。
部長が頷いて、業務 課長に先を促す。
 「へー、それはおもしろそうだ。
おれも聞き たいから、遠慮なく続けて」  「そう? 部長に言われたんじゃ仕方ない な。
それでは続けるか」  そう言って、業務課長が物流センター長や 若手の課員を見る。
彼らが興味深そうに大き く頷く。
その期待に、業務課長が鼻の穴を膨 らませて話し始める。
 「その頃、多くの会社が、拠点集約などを して、新しい物流センターの構築に取り組ん だ。
立派な物流センターが次々と立ち上がっ た。
その物流センターは当然物流部門の所属 になる。
さて、そうなるとどうなる?」  業務課長に問われて、物流センター長が、 思い当たることがあるように頷き、答える。
 「そのセンターの運営や管理が重要な仕事 になりますね。
業者との契約やセンターから の輸配送の管理を含め、現業の管理が仕事 の多くを占めるようになるんではないでしょ うか? 営業やお客さんからのクレームとか 問い合わせへの対応なども含めて‥‥」  「そうなんだよ、それそれ。
知ってると思う けど、その頃、消費者ニーズの多様化に対応 するという名目で多品種化が積極的に進めら れたんだ。
何が売れるかわからない中で、お 客側が在庫を持たなくなった。
その結果とし て、お客が、短納期、多頻度小口などとい ったサービスを要求するようになった。
お客 の要求が高まると、それに応える方も大変だ。
いかに、その要求に効率的に対応するかと いうことが物流の大きな課題になっていった。
幸か不幸か、売り上げが伸びてることもあっ て、物流コスト削減意識はどこかに行ってし まい、物流サービスの提供に関心が集まった」  業務課長が、みんなの理解を確認するよう SEPTEMBER 2011  76 に、間合いを取りながら説明する。
 「その結果として、物流管理は物流センタ ーや輸配送など現業の管理に限定化されてい ったってことだ」  企画課長の結論に業務課長が「それそれ」 と頷く。
 「物流センターなどというおもちゃを与え られて、物流部はそれで遊び呆けてしまって、 本来やるべき物の流れの管理を放棄してしま ったというのが、物流センターおもちゃ説で すよね?」  主任が、確認するように大先生に聞く。
 「へー、そんな説があったんだ? そんな 意地の悪い説を唱えたのは誰?」  大先生がとぼけたように呟く。
業務課長が、 「またまたとぼけなさんな」という顔で大先生 に念を押す。
 「つい最近、そんな話を先生から聞いた気 がするんですが‥‥」  大先生が、にっと笑う。
それを見て、部長 が言葉を挟む。
 「なるほど、たしかにおもしろい。
誰が唱え た説かは別にして、その時代は、物流におけ る失われた二〇年ってとこですかね? うち も同じかな、物流歴三〇年の業務課長?」  「また、そういう言い方をするんだから、ほ んとに部長は性格が悪いな」  業務課長が口を尖らせる。
それを見て、企 画課長が笑いながら、業務課長をかばう。
 「業務課長は、長年にわたって、本来の管 か?」  大先生の質問に座の全員が固唾を呑む感じ で、部長を見る。
 「はい、生産計画から顧客納品までのすべ ての供給業務です。
工場に作らせるところか ら顧客への納品までです。
物流サービスのレ ベル設定や顧客との交渉もわれわれの仕事で す。
当然、在庫責任はわれわれが負います」  同席していたメンバーたちが「ほー」と感 心したような声を出す。
 「社長の本気度がよくわかりますね。
責任 も重いけど、遣り甲斐がある」  大先生が呟くように言う。
部長はじめメン バー全員が大きく頷く。
部長が代表するよう に答える。
 「はい、みんなそうだと思いますが、やる気 満々です。
気分的に高揚していますが、黎明 期の先人たちも同じ気持ちだったんでしょう か?」  「きっと同じだと思います。
新しい仕事に 挑戦するという、いわゆるチャレンジ精神 に満ちていましたから。
顔も輝いていました。
でも、当時は壁が厚かったですよ」  大先生が、ちょっと顔を曇らせる。
そんな 大先生に主任が聞く。
 「先人たちは、最初からロジスティクスを目 指したんですよね? でも、結局できなかっ たわけですか?」  大先生が頷き、説明する。
 「そうですね。
物流サービスについては、当 理に戻そうと、孤軍奮闘してきたわけだよね。
おれは、後ろからついて行っただけだけど」  「なるほど、業務課長の孤軍奮闘というの は、なんとなく想像がつくな。
幸か不幸か、 おれはそれに関わらなかったけど・・・」  部長が、楽しそうに誰にともなく言う。
 「はいはい、いまは孤軍じゃなく、精鋭部 隊だから一気呵成に行きましょう」  業務課長の言葉を引き取るように、主任が 会議の開会を宣言する。
  ロジスティクス部の設置が決まった  「それでは、部長も戻られたので、会議を 始めたいと思います。
はじめに部長から一言 お願いします」  主任に振られた部長が、威儀を正すように 座りなおして大先生に挨拶する。
 「中座しまして申し訳ありません。
社長か ら呼ばれたのですが、話は、来月一日付けで 物流部を廃止して、ロジスティクス部を立ち 上げるということでした。
ついては、現有メ ンバー以外に、どんな人材が必要かと聞かれ ましたので、情報関係や工場の生産計画担当 など何人か名指ししてきました。
現場は別と して本社ロジスティクス部隊は十数名の規模 になると思います」  「たしかに精鋭部隊になりそうだ。
来月か ら一気呵成ですね?」  大先生の言葉に部長が頷く。
 「それで、担当する業務はどの範囲です 湯浅和夫の 77  SEPTEMBER 2011 ど固定費だから、営業利益が増えるというの が経営の論理でした。
単品大量生産で製造 原価を下げることが至上命題みたいなもので した。
無駄な在庫がずいぶん積み上がってま したけど、誰も気にしなかったですね」  「在庫を隠れ蓑にした架空利益の計上、と いったところですかね?」  主任が、ずばりと本質を突く。
それを受け て、部長が決意を表明する。
 「その意味では、時代が変わって、それを 悪とみなす経営の考え方が当たり前になって きた。
われわれは、黎明期の先人たちの思い を受け継いで、徹底的にやるつもりです。
経 営計画業務を取り込みましたので、あとは生 産効率とのバランスを調整するだけです。
少 なくとも、売れ残りの危険があるような作り 方はさせません」  「工場の評価基準を一新することも必要で しょうね?」  業務課長が部長に提案する。
 「そう、社長から、それについて意見を出 すように言われた」  「へー、社長からそんな指示が‥‥たしか に社長は本気だ」  業務課長が感心したように呟く。
 「常務の社長教育の成果ですかね?」  企画課長が部長に確認するように聞く。
 「きっかけは常務だったろうけど、社長もす ぐにロジスティクスの価値に思い至ったと思 う。
メーカーにとっては、極めて重要な管理 領域だと認識していることは、日ごろの言葉 の端はしからわかる」  「なるほど、舞台は整ったから、あとは台 本に沿って演じることが求められるわけだ。
業務課長のアドリブはほどほどに」  企画課長が業務課長を茶化す。
業務課長 が反論する。
 「何をおっしゃる課長さん。
おれは主役の 一人だし、元々アドリブなんか言うタイプじ ゃないから、心配無用」  「えっ、いまから検討する台本に業務課長 の出番はあったっけ?」  部長の言葉に、業務課長が手に持ったペッ トボトルを投げる振りをする。
部長が大仰に 避ける仕草をする。
それをメンバー全員が呆 れた顔で見ている。
時すでにメニュープライシングのような形で、 取引単位によって販売価格に差をつけると いうことをやっていたところもありましたが、 厚い壁は生産でした。
単品大量生産の壁は越 えられませんでした」  「それは、当時は売り上げが伸びている時 代だったからですか?」  主任の言葉に大先生が同意を示す。
 「そうです。
当時は、とにかく売り上げを 増やせ、製造原価を下げろ、そうすれば売上 総利益つまり粗利ですね、粗利が大きくなる。
粗利が大きくなれば、あとの販管費はほとん Illustration©ELPH-Kanda Kadan ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大 学院修士課程修了。
同年、日通総合研究 所入社。
同社常務を経て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを設立 し社長に就任。
著書に『現代物流システ ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の 手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』 (以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コン サルティング http://yuasa-c.co.jp PROFILE

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