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物流指標を読む
SEPTEMBER 2011 82
生産拠点・調達先の海外流出を防げ
第33 回
●震災が引き金となり海外シフトが加速
●電力不足でさらに拍車がかかる可能性も
●政府は早急に復旧・復興後の青写真を
さとう のぶひろ 1964 年
生まれ。 早稲田大学大学院修
了。 89年に日通総合研究所
入社。 現在、経済研究部担当
部長。 「経済と貨物輸送量の見
通し」、「日通総研短観」など
を担当。 貨物輸送の将来展望
に関する著書、講演多数。
懸念される国内産業の空洞化
経済産業省が八月一日に公表した「東日本大震
災後の産業実態緊急調査2」によると、六月時点
において、被災した九一生産拠点のうち九三%が
復旧し、八〇%が震災前の生産水準に戻っている、
または震災前よりも上回る生産水準になっている。
四月の調査では「夏までに復旧」という回答が九
〇%であったことから、復旧がほぼ想定通りに進
んでいると言える。
しかし、喜べない結果も出ている。 製造業の三
割が震災を契機として、海外の顧客からの取引量
の減少や契約の打ち切り等の要請といった海外取
引への影響があったと回答した。 また、復旧後の
調達先について、製造業の八三%が「従来の国内
調達先が復旧後は元の調達先に戻す」と回答する
一方で、「従来の調達先が復旧後も、現在の国内
代替調達先から調達する」との回答が五八%、「現
在の海外調達先から調達する」との回答が四二%
となっている。 要するに、従来の調達先にすべて
の調達を戻すわけではなく、国内または海外の代
替調達先からの調達も続けるということだ。
円高が急進していることなどもあり、調達先が
海外にシフトしてしまった場合、国内に戻ってこ
ない可能性が高く、経済産業省も国内産業の空洞
化を懸念している。
日通総合研究所が六月上旬に、荷主企業(製造
業、卸売業)二五〇〇事業所に対して実施したア
ンケート調査結果でも、震災の発生が引き金とな
り、「生産・調達先の海外へのシフト」の動きが加
速されるであろうことが示されている。
調査結果の概要を以下に示す。
東北地方における生産の
国内他地域・海外へのシフトの動き
東北地方で生産を行っていた事業所に対して、東
北地方での生産を国内他地域・海外にシフトする
動きについて尋ねた。 回答事業所数一七七件(複
数回答)。
●現状のまま東北地方での生産を継続する(一三
四件:七五・七%)
●東北地方以外の国内他地域に生産の一部(全
部)をシフトする(一四件:七・九%)
●日本以外の国に生産の一部(全部)をシフトす
る(四件:二・三%)
●現状では決めかねているが、将来的には他の地
域・海外にシフトする可能性もある(九件:五・
一%)
●まだ分からない(一七件:九・六%)
原材料・部品・製品等の調達先の東北地方
から国内他地域・海外へのシフトの動き
東北地方から原材料・部品・製品等を調達し
ていた事業所に対して、原材料・部品・製品等の
調達先を東北地方から国内他地域・海外にシフト
する動きについて尋ねた。 回答事業所数五〇〇件
(複数回答)。
●現状のまま東北地方からの調達を継続する(二
四二件:四八・四%)
●東北地方以外の国内他地域に一部(全部)の調
達先をシフトする(一二六件:二五・二%)
●日本以外の国に一部(全部)の調達先をシフト
する(五〇件:一〇・〇%)
●現状では決めかねているが、将来的には他の地
日通総合研究所「ロジスティクスレポートNo.19」
経済産業省「東日本大震災後の産業実態緊急調査2」
83 SEPTEMBER 2011
件:五三・八%)
●リスク回避策として、生産や調達先をより分散
するため(八六件:五〇・三%)
●東北地方において今後電力不足が予想され、生
産活動が停滞する懸念があるため(二七件:一
五・八%)
●今後も余震等により、生産活動が停滞する懸念
があるため(二二件:十二・九%)
●本社・親会社・取引先の指示による(二二件:
十二・九%)
●もともと生産・調達先を海外にシフトする意向
があったため(十二件:七・〇%)
●物流インフラが復旧していないことから、出荷・
調達のコストがかさむため(四件:二・三%)
●その他(一〇件:五・八%)
網掛けの箇所をご覧いただきたい。 生産・調達
を国内他地域・海外へシフトする理由として、「も
ともと生産・調達先を海外にシフトする意向があ
ったため」との回答は十二件にすぎない。 その一
方で、「日本以外の国に生産の一部(全部)をシ
フトする」との回答が四件、「日本以外の国に一
部(全部)の調達先をシフトする」との回答が五
〇件ある。 すなわち、震災発生後に日本以外の国
に生産または調達先をシフトするとした事業所数
(合計五四件)が、震災発生以前から生産・調達
先を海外にシフトする意向があったため、海外にシ
フトするとした事業所数(十二件)の四・五倍に
達している。 このことから、震災の発生が生産・
調達先を海外にシフトさせる大きなきっかけとな
った事業所が多いことは明らかである。
当初、夏場における電力不足は、東北および関
東地方に限定された問題と捉えられていたが、そ
の後、相次ぐ原子力発電所の操業停止を受けて、
電力不足に対する懸念は全国規模に拡大している。
そうしたこともあって、生産・調達先を海外にシ
フトせざるをえないと考える事業所がさらに増大
する可能性が高まるとも考えられる。 言い換えれ
ば、震災の発生が引き金となり、リスク回避のた
め、生産・調達先を海外にシフトする動きが加速
され、さらに電力不足により拍車がかかる可能性
が高まったということができる。
公共投資や復興支援策の助成を急げ
いっこうに原発事故の収束の目処が立たず、復
旧・復興も遅れているなかで、このままの状態が
続くならば、多くの企業が東北地方からの撤収を余
儀なくされる事態が起こりかねない。 しかし、そ
うした最悪の事態は絶対に回避しなければならな
い。 そのためには、政府は早急に復旧・復興後の
グランドデザインを描く必要がある。 さらには、復
旧・復興に向けた積極的な公共投資の実施に加え、
民間企業による復興支援策を助成し、東北地方に
おける生産活動に対してインセンティブを付与する
システムを構築すべきだ。
最後に蛇足であるが、震災の発生から五カ月以
上が経過した現在でも、東北や関東を中心に震度
五クラスの大きな地震が頻発している。 さらに、七
月末には新潟・福島両県を記録的な豪雨(新潟・
福島豪雨)が襲い、多大な被害をもたらした。
古来よりわが国では、「政治が悪いと天変地異が
起きる」とされてきた。 あまりにも酷い菅政権に
対して、天が怒りの鉄槌を下しているのか。
域・海外にシフトする可能性もある(六七件:
十三・四%)
●まだ分からない(四五件:九・〇%)
●その他(十一件:二・二%)
生産・調達を国内他地域・海外へ
シフトする理由
生産・調達の一部または全部を東北地方から国
内他地域・海外にシフトすると回答した理由につ
いて尋ねた。 回答事業所数一七一件(複数回答)。
●生産・調達を行っていた拠点が廃業したため、
あるいは、生産・調達を行っていた拠点におけ
る生産活動の再開の目処がたたないため(九二
生産・調達を国内他地域・海外へシフトする理由
生産・調達を行っていた拠点が廃業したため、
あるいは、生産・調達を行っていた拠点に
おける生産活動の再開の目処がたたないため
東北地方において今後電力不足が予想され、
生産活動が停滞する懸念があるため
今後も余震等により、
生産活動が停滞する懸念があるため
物流インフラが復旧していないことから、
出荷・調達のコストがかさむため
リスク回避策として、
生産や調達先をより分散するため
もともと生産・調達先を海外に
シフトする意向があったため
本社・親会社・取引先の指示による
その他
(%)0 10 20 30 40 50 60 70
53.8%(92 件)
15.8%(27 件)
12.9%(22件)
2.3%(4 件)
50.3%(86 件)
7.0%(12 件)
12.9%(22 件)
5.8%(10 件)
(N=171:複数回答)
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