ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2011年10号
特集
第4部 成都市「貨運市場」実態ルポ李瑞雪 富山大学経済学部 准教授

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2011  24 帰り荷の取引所が各地に自然発生  中国本土のトラック輸送サービスは、主に「貨運 市場」と呼ばれる市場を介して取引されている。
一 九九〇年代の後半以降、中国の主要都市周辺の交 通の要衝に数多くの貨運市場が生成され、トラッ ク輸送サービスの取引プラットフォームとして、ま た中長距離輸送のノード(結節点)として重要な 機能を果たし続けてきた。
 今日では国内トラック貨物輸送量(トンキロベー ス)の六割以上が、貨運市場を経由しているとさ れる。
貨運市場の実態解明を抜きにして、今日の 中国物流産業を真に理解することは不可能だとい えるだろう。
 貨運市場の大半は計画的に整備されたものでは ない。
そのほとんどは大型トラックの駐車場から 出発し、ダイナミックな経済活動に突き動かされ るかたちで発展してきたものである。
その背景と なったのは、トラック輸送産業の小規模分散化と、 トラックによる域間輸送の拡大であった。
 中国政府は九〇年代後半から、輸送能力の供給 不足を緩和するため、それまで国有企業に独占さ れていたトラック輸送事業の民間参入を認め、営 業地域制限や台数制限などの事業規制を段階的に 緩和・撤廃していった。
 その結果として中小零細のトラック輸送業者が 全国で誕生した。
産業の集中度は極端に低下した。
中国内のトラック事業者数は二〇〇二年末時点で 三四〇万に上った。
一社当たりの車両保有台数は わずか一・四台に過ぎなかった。
 一方、高速道路をはじめとする道路網の急速な 整備とトラックの車両性能の向上はトラック輸送産 業の発展に強力な追い風となった。
かつては鉄道 に依存していた長距離陸上輸送が次第に機動性の 高いトラックにシフトしていった。
 〇九年度のトラックによる貨物輸送分担率はト ンベースで七五・二%、トンキロベースで三〇%に 達している。
国際海上輸送分と国際航空輸送分を 除けば、トラックのトンキロベースでの分担率は五 〇%近いと推計される。
トラックが鉄道と並んで、 長距離幹線輸送の主力モードになったのである。
 しかし、中小零細のトラック業者は、域間の長 距離輸送に従事するようになったことで、帰り荷 の確保という新たな難問にも直面することになっ た。
空車のまま帰途に就くのを回避するため、ド ライバーの多くは帰り荷が見つかるまで着地で待つ という行動をとった。
着地周辺の荷主企業や物流 仲介業者を回って、帰り荷を探すのである。
次第 に、交通の要衝周辺の低料金の駐車場は帰り荷を 成都市「貨運市場」実態ルポ  中国各都市周辺の交通の要所には、帰り荷を融通する取 引所がある。
「貨運市場」と呼ばれる。
1990年代後半に自 然発生的に誕生し、その後の経済発展と歩調を合わせて取 扱規模を拡大させてきた。
貨運市場のフィールドワークを 成都市で行ってきた富山大学経済学部の李瑞雪准教授が、 その実態を報告する。
李瑞雪 富山大学経済学部 准教授 龍泉物流センター 青白江物流園区 川陝貨運市場 川陝路貨運市場群 大西南生旌貨運市場 双流物流センター 成都航空物流園区 成都保税物流センター 新都物流センター 成都 ★ 成都市の物流マップ 第4部 特 集リアル 中国物流 25  OCTOBER 2011 待つトラックで溢れるようになった。
 これを商機と見て、多くの物流仲介業者(利用 運送事業者や運送取次業者など)が駐車場内ない し周辺に事務所を構え始めた。
仲介業者が集まる につれて、より多くの貨物情報が持ち込まれ、駐 車場を舞台に流通するようになる。
それがさらに 多くのトラックを集める──集積が集積を呼んだ。
 既存の駐車スペースがだんだん手狭になってくる と、不動産開発会社や地主が隣接地に新たな駐車 場を次々と整備した。
そこには仲介業者の入居す る建物とトラックドライバーの宿泊するホテルも合 わせて建設された。
市場内には荷物の一時保管や 域内配送、積み替えなどの荷役を行う専門業者が 登場し、自動車修理業者や飲食店、銀行なども店 を構えるようになった。
 こうしてトラック輸送サービスの取引を中心に、 関連サービスが一通り揃う一つの町が出来上がっ た。
貨運市場の誕生である。
このような貨運市場 が中国各都市の交通要衝地にいくつも形成され、 それが肥大化し、中国の域間陸上輸送における中 心的装置となったのである。
 その実態を調査するため筆者はこれまで西南交 通大学物流研究院の協力を得て、中国西部地域の 経済中心都市である成都市でフィールドワークを行 ってきた。
 成都市北城区の国道一〇八号線(川陝路)沿線 の三環路と三河場の間に、成都市最大の貨運市場 群がある。
片側三車線の国道は常時、大型トラッ クで混雑し、道路の両側はトラックドライバー相手 に商売する各種の店がひしめいている。
 成都市交通委員会によると、この一帯には大小 二六の貨運市場が存在し、トータル敷地面積は約 一二〇万?に達するという。
そこに数千社の利用 運送業者や運送取次業者が拠点を構え、毎日、数 万台のトラックが出入りしている。
成都発のトラッ ク貨物輸送量の七割以上に、これらの貨運市場が 何らかの形で絡んでいると、同市交通委員会は推 測している。
 成都市北城区にある貨運市場のなかでも規模が 大きいのは、「川陝貨運市場」、「大西南生旌貨運市 場」、「成都城北貨運市場(将軍碑停車場)」、「大 湾貨運市場」、「三環貨運市場」、「西北貨運市場」、 「駿業貨運市場」、「長運停車場」の八つである。
 これらの貨運市場のうち、もっとも歴史が古く、 取引量も最大とされる「川陝貨運市場」、そして最 大の敷地面積を有する「大西南生旌貨運市場」を それぞれ筆者がフィールドワークした内容を以下に 報告する。
「川陝貨運市場」 ──大手も利用するハイレベルな情報集積  川陝貨運市場は成都市で最も認知度が高く、取 引額、取引件数、さらには取引成立の確率におい ても最高レベルの貨運市場として認知されている。
実際、入場したトラックの平均待機時間(入場か ら運送受託契約成立までのリードタイム)は、周 辺の他の貨運市場が三日以上であるのに対し、川 陝貨運市場は一日と短い。
 同市場を運営する北方物流有限公司は成都市商 務局の傘下にある国有企業で、その前身は成都市 木材総公司である。
同社は一九九四年に大型トラ ックの駐車場ビジネスを始め、二〇〇〇年頃から 仲介業者の入居する建物とドライバー宿泊用のホテ ルを駐車場内に建設し、本格的に貨運市場の運営 に乗り出した。
 二〇一〇年十一月、筆者はフィールドワークで同 市場を訪れた。
筆者が現場に入ったのは午前十一 時。
市場の取引がピークを迎える朝七時から九時 をとうに過ぎていたが、それでも市場内は帰り荷 を探すドライバーでごった返し、様々な地域の方言 で湧き立っていた。
 市場の敷地面積は約八万?。
そのうち約半分が トラックの駐車スペースで、最大収容台数は約七〇 〇台。
これに対して市場を出入りするトラックは一 日当たり約一〇〇〇台を数え、場内は混雑が慢性 化している状態である。
 敷地内に建てられた二列二階建てのオフィス棟に は、求貨情報と求車情報をマッチングする仲介業 者の「店」がズラリと軒を連ねている。
市場を訪 れたドライバーは、これらの店を回って、仲介業者 成都市最大の取扱量を誇る「川陝貨運市場」。
通路の両脇に貨物 輸送の仲介業者が軒を連ねている。
OCTOBER 2011  26 から斡旋能力、管理能力が高く、良心的な運賃を 提示する業者を選んだ上で、年間基本契約を結ぶ など、長期的な取引関係を維持するよう努めてい る。
 荷主企業が利用運送業者から一定額の保証金を 預かることも一般的慣行となっている。
保証金は 通常、輸送一回当たりの貨物の商品価値に相当す る金額に設定される。
ただし、単発的に輸送を依 頼する場合には、保証金の要求を受け入れない利 用運業者も多いという。
 川陝貨運市場を開発した北方物流はあくまでも 市場の運営者であり、市場内での取引には基本的 には介入しないが、市場を安定的に運営するため に、仲介業者を管理することは同社の重要な役割 となっている。
 とはいえ、前述のように市場内の仲介業者は一 〇〇〇社にも上り、入れ替わりも激しい。
そのす べてに目を光らせるのは困難だ。
そのため北方物 流は約三〇〇社の「原商家」のみを直接の管理対 象とする一方で、原商家に二次テナントの管理監 督を委ねるという方法をとっている。
 二次テナントがトラブルを繰り返し引き起こした り、詐欺などの悪質な行為に手を出した場合には、 そのテナントにデスクを貸している原商家に対して、 罰金から賃貸契約解除までの罰則を課している。
 原商家が北方物流に支払っている家賃は一?当 たり月額六〇元(七二〇円)。
これに対して二次賃 貸はデスク一つ当たり月額八〇〇元前後が相場と いう。
二次賃貸だけでも原商家はかなりの儲けを 得られる。
その権益を失いたくない原商家は、二 次テナントの監督に真剣にならざるを得ない。
 また北方物流は市場に十数人の専任スタッフを擁 ク業界に明るい利用運送業者(仲介業者)を仲介 させる傾向にある。
 利用運送業者は様々な手段を用いてトラック業者 の信頼性をチェックしている。
まずドライバーの身 分証明書、運転免許証、トラックの車検証のコピ ーを取り、それを公安当局および陸運当局のデー タベースと照合、その真偽を確認して委託契約書 と一緒に保管しておく。
 ドライバーの自宅に電話をかけて身元を確認した り、ドライバーの出身地の貨運市場の提携先に調 査を依頼するという方法もとられる。
高額商品を 輸送する場合などは、自らドライバーの実家を訪問 して身元を確認し、人柄や財産状況を把握するな どの徹底調査も厭わない。
 荷主自身もリスク管理には工夫を凝らしている。
複数の利用運送業者をテスト的に利用し、その中 と対面で交渉し、条件の合う帰り荷を探し求める。
 その光景は中国の一般の市場とそう変わらない。
ただし、一般の市場では、商品の売り手側が店を 構えるのに対し、貨運市場では帰り荷スペースの 買い手側である仲介業者が店を構え、売り手のド ライバーが店を回るというスタイルである。
 一軒当たりの店の大きさは二〇?程度で、同市 場内にある店の数は全部で約三〇〇軒だが、そこ に仲介業者約一〇〇〇社が入居している。
一つの 店に複数の業者が同居しているケースが多いためで ある。
 家主である北方物流と直接賃貸契約を結んでい るテナント(川陝貨運市場では「原商家」と呼ぶ。
以下、「原商家」)は軒数通りの三〇〇社だが、原 商家は一軒分のスペースに三つ、四つのデスクを置 いて二次貸しをしているのである。
取引の信頼性を担保する仕組み  仲介業者は、手持ちの需要情報が書かれた黒板 を店の前に掲げる。
ドライバーは興味のある情報を 発見したら直ちにその店に入り、仲介業者と交渉 を始める。
交渉が成立すれば、その仲介業者と運 送受託契約を結ぶ。
 ただし、仲介業者のなかには荷主とトラック業 者のマッチングを取り持って仲介手数料を稼ぐだけ で、運送契約にはタッチしないところもある。
そ の場合にはトラック業者と荷主が直接契約を結ぶこ とになる。
 しかし、貨運市場に帰り荷を探しにくるのは、 ほとんどが零細事業者であり、荷主がその信用度 や能力を把握するのは困難だ。
そのため荷主の多 くはトラック業者との直接契約を避け、零細トラッ ドライバーは仲介業者が黒板に提示した貨物情報を見て条件の合う 帰り荷を探す 特 集リアル 中国物流 27  OCTOBER 2011 する「治安管理弁公室」を設置している。
その主 な役割は市場内のセキュリティを守ることである。
入居業者とトラックドライバーの間の争いやトラブ ルを調停し、適宜勧告を発し、注意を促す。
 治安管理弁公室はあくまで企業内の一職能部門 であり、公的治安維持権限を有するものではない ため、民事事件や刑事事件につながる大きな争い を取り扱うことはできないが、管轄地域の警察当 局との情報交換などの連携も行っているという。
 川陝路沿線の各貨運市場の中で、治安管理弁公 室を設置するのは今のところ川陝貨運市場のみで ある。
もっとも、ほとんどの入居業者は退去処分 を恐れ、トラブルを示談で解決しようとする傾向 にあり、治安管理弁公室に持ち込まれる案件は減 っているという。
 こうして北方物流は市場の参加者を厳しく監督 する一方で、荷主からの評判や順法状況に基づき、 「大西南生旌貨運市場」 ──路線便ターミナル機能も備える  川陝貨運市場のすぐ隣に地元の民間開発会社が 運営する大西南生旌貨運市場がある。
敷地面積は 約二二万?と川陝路貨運市場群の中では最大級。
うち約一〇万?が駐車スペースで一五〇〇台の車 両を収容できる。
 出入りするトラック台数は一日当たり一三〇〇 台〜一六〇〇台である。
そのうち地元の四川省内 のトラックは約三割に過ぎず、他は重慶市、安徽 省、湖北省、陝西省、寧夏自治区、新疆自治区、 江蘇省、上海市、北京市、広東省などからの長距 離トラックである。
 同市場を経由する貨物の量は一日約二万トンと 推測される。
毎年の三月頃は荷動きが若干落ち込 むため場内に空きスペースが出るが、それ以外のシ ーズンはほぼ埋まっている状態である。
 場内には延べ約二万?の倉庫スペースが設けられ ている。
店舗用の総延べ床面積は約四万?で、店 の軒数は四〇〇余り。
うち仲介業者・物流会社は 約三〇〇で、残りは飲食店や自動車修理、旅館な どである。
 大型トラックの平均的な待機時間(入場から成 約までのリードタイム)は三〜四日間。
取引プラッ トフォームとしては川陝貨運市場に比べてやや見 劣りするが、敷地面積が大きいという点を活かし て、保管や荷役、配送にかかわるサービスの充実 にこれまで努めてきた。
 混載輸送サービス(LTL)を営む利用運送事 業者が多く入居している点は、川陝貨運市場には ない特徴である。
これらの混載輸送業者は運賃は 市場に入居する仲介業者のなかから毎年「優秀商 家」を選んで表彰するなど、ムチとアメを併用し た管理を行っている。
 北方物流の収入源は、トラックの駐車料金、テ ナント家賃と並んで、市場内のホテル運営が柱の一 つとなっている。
同社の従業員二〇〇人余りのう ち、約七割がホテルで働いている。
宿泊客のほと んどはドライバーとその関係者であるため、宿泊料 金は一泊十数元から数十元程度と低く設定されて いるが、部屋数は四〇〇部屋を超え、最大一〇〇 〇人の宿泊が可能である。
 宿泊サービスのほかに、市場内には車両・荷物 の計量やトラックの修理整備といった取引に付帯 するサービスや、飲食、浴場、理髪、銀行ATM、 郵便、診療所などの各種の生活サービスも提供さ れている。
このうち、計量以外のサービスは北方 物流ではなく、市場に進出している外部の事業者 によって営まれている。
 敷地の制約から、川陝貨運市場には倉庫施設が 併設されていない。
積み替えなど荷役の場所もな い。
いわゆるトラック・ターミナルとしての機能は 備わっていないといえる。
それでも場内に駐車で きないドライバーの多くが近隣の他の貨運市場にト ラックを停め、川陝貨運市場まで貨物を探しに来 るほど人気は高い。
 遠成物流、 蟻物流、通安達物流など、成都地域 の大手物流企業も川陝貨運市場の情報集積機能に 着目し、市場内に傭車調達拠点を設けている。
こ れらの大手物流企業は荷物の量や種類、仕向け先 によって、傭車を使ったほうがコスト的に有利だと 判断した場合、積極的に市場で情報を発布し、傭 車を調達しているという。
市場内に設置された高床式倉庫 OCTOBER 2011  28 積み込みのため市街地に行かなければならないト ラックに有料で貸し出す。
 成都市の警察当局は市内の混雑を緩和するため に、大型トラックが三環路以内の市街地に進入す ることを規制している。
警察の発行する市内通行 証がないまま進入した大型トラックに対しては、罰 金などの処分が科される。
IT化の試みと挫折  川陝貨運市場を運営する北方物流は四年ほど前 まで、求車求貨取引の電子化に取り組んでいた。
外部のITベンダーに情報システム開発を依頼、市 場内に仲介会社の貨物情報とトラック情報を掲示 する大型の電子ディスプレーを備えたホールを設置 した。
 ドライバーはホールでディスプレーを見れば、自 分の条件に合う荷物がどこにあるか分かる。
一つ ひとつ店を回って市場内を巡回する必要がなくな いる。
しかし、車両を通路の真ん中に停めて、積 み替え作業を行っている光景もあちこちで見受け られた。
大型トラック二台の車体部分をくっつけ て、あるいはギリギリに並べて、荷役作業員が車 体に乗り込み、手から手へのリレー方式で荷物を一 個ずつ積み替えていた。
 積み降ろしや積み替えなどの荷役作業は、二〇 人程度のグループで活動する専門業者が行ってい る。
このグループは会社形態をとっていないが、そ れぞれにリーダー格の人物がいる。
リーダーは依頼 側との交渉をまとめ、仲間に仕事を割り当てるな どグループの作業を一手に取り仕切っている。
 荷役は物流品質を左右する極めて重要な作業で あるだけに、物流仲介業者もドライバーも、荷役 グループの反発や反感を買うような真似は極力に避 けるように努めているという。
市場運営側も荷役 グループによるサービス提供を基本的には歓迎して いるが、市場内の荷役業務が彼らに独占されるこ とによる弊害も懸念している。
 このように市場運営会社は、外部の業者を誘致 したり、受け入れることで各種の付帯サービスを市 場内に確保する一方、計量や「市内通行証」の借 用といった特殊なサービスについては、自らサービ ス提供に務めている。
 計量サービスは、仲介業者とトラック業者がトン ベースの運賃を計算する際にこれを利用する。
貨 運市場のゲートに設置した大型の台測りで、トラッ クの自重と積載重量を測る。
利用料金は一元/ト ンと安く設定されている。
 市内通行証の借用は成都市の市内の交通規制に 対応するためのサービスである。
運営会社が一定 枚数の通行証をあらかじめ用意しておいて、貨物 安いが、サービスの定期定時性がほとんど実現で きていない。
 自前では輸送手段を持たず、小口貨物を荷主か ら受け取って一時保管し、満載の見込みが立った 時点で市場でトラックを見つけて輸送を依頼する。
着地側では貨運市場に事務所を構えるか、あるい は現地の利用運送業者と提携するかたちで、サー ビスを提供している。
 こうしたノンアセット型の混載輸送サービスの成 長は、各地で域内の小口集配を専門に行う輸送業 者の増加をもたらした。
筆者が大西南生旌貨運市 場を訪問した際にも、約三〇台の小型トラックと ピックアップ・トラック、ワンボックス車が利用運 送業者らのオフィスに隣接する駐車スペースに並ん で配送業務の依頼を待っていた。
 大西南生旌貨運市場が〇三年末に開業した当 初、開発運営会社は市場に入居した混載業者や仲 介業者に保管サービスを一括で提供する目的で、約 五〇〇〇?の高床式倉庫を建設して運営していた。
しかし、期待したほど利用はされず、自社運営を 断念。
倉庫を営業倉庫専門企業に賃貸した。
その 後、開発会社は事務所兼小型倉庫タイプの建物を 整備し、物流業者に賃貸するかたちにやり方を変 えた。
 同事務所兼小型倉庫の大きさは、一つ当たり一 〇〇〜二〇〇?であるが、四〇〇?〜五〇〇?の 比較的広いスペースを利用している業者もある。
倉 庫スペースは、彼等が仲介する貨物の一時保管場 所として利用されている。
 川陝貨運市場に比べて、大西南生旌貨運市場で は場内の通路も広くとられている。
入居業者の事 務所前にも荷物の積み降ろしスペースが設けられて 市場内の貨物の積み替えなどの荷役は20 人程度の作業員で 構成する専門業者が行う 特 集リアル 中国物流 29  OCTOBER 2011 頭の中で処理して業者を選択するというやり方に は困惑した。
また常時ダイナミックに動いている取 引と、パネルの情報掲示にはタイムラグがあった。
そのためパネルに掲示された情報はほとんど役に立 たないと多くの参加者に思われてしまった。
 第三は、ネットワークとしての広がりがなかった ことである。
地理的に離れた地域間の需給情報を 電子化すれば効果は大きい。
発地で着地の帰り荷 情報を事前に把握しマッチングすることができるの なら、ドライバーの待機時間は解消され、稼働率 は高まる。
 しかし、同じ市場内に集まってきた情報を、わ ざわざシステム化しても効率化効果は薄い。
かえっ て非効率になりかねない。
仲介会社やドライバーが 情報システムよりも伝統的な対面交渉を選んだの は、むしろ合理的な選択であったのかも知れない。
貨物の安全は確保できるか  貨運市場の課題として、まず挙げられるのは周 辺の道路混雑である。
政府も躍起になってインフラ 整備を進めているが、物量の増加、車両の増加に 追いついていない。
そして荷主からは、貨物の安 全性にかかわる問題がしばしば指摘されている。
 前述したように川陝貨運市場では独自に治安管 理弁公室を設置してトラブルの防止と調停に努めて いる。
それでも、まだ十分とはいえない。
 川陝路の貨運市場群を管轄する成都市成華区地 方裁判所の発表によると、〇六年〜〇八年の三年 間に同裁判所の受理した陸運業務委託契約にかか わる民事訴訟は八〇件を超え、年平均増加率は四 〇%だったという。
係争のうち約七割はトラック輸 送途中で発生した貨物の紛失や破損にかかわるト ラブルで、とりわけ交通事故による破損、悪質な ドライバーの貨物隠匿、盗難による紛失、不適切 な包装や荷役による破損や変質といった問題が数 多く発生しているという。
 こうしたトラブルが発生しても裁判所には持ち込 まず、闇組織の力を借りるなど非常手段に頼って 被害の回復を図ろうとするものもわずかながらい る。
そのため貨運市場がマフィアの温床になりか ねないと懸念する声もある。
 しかし、筆者のインタビューに応じた市場関係者 らは闇組織の存在を強く否定していた。
また、利 用運送業者の一人も別の角度から同じ考えを示し た。
「貨物を持ち去って隠匿するドライバーなど最 近はめったにいない。
ドライバーも豊かになってい る。
一発で姿をくらまさなければならないような バカな真似をするより、継続的に仕事をもらおう とする気持ちのほうが強い」と、その業者は説明 していた。
り、取引が効率的になるという狙いだった。
 しかし、この取り組みは期待した効果を上げる ことができなかった。
筆者が同市場に訪れた時に は、取引ホールはホテルのロビーに改修され、大型 電子ディスプレーが設置された壁はホテルのカウン ターの背面ボードに姿を変えていた。
 同様に大西南生旌貨運市場も需給情報の電子化 に取り組み、そして失敗している。
同市場ではト ラックがゲートを通った時点で、ナンバープレート、 車両の長さと積載容量、希望する行き先、ドライ バーの連絡先などの情報を拾い、市場内に入居し ている仲介業者に貨物情報の提供を求めるという 方法をとった。
しかし、仲介業者の多くは情報提 供に消極的であった。
 なぜ、IT化は失敗に終わったのか。
北方物流 の経営陣や大西南生旌貨運市場の運営会社へのイ ンタビューによると、その原因は次のように整理さ れる。
 第一は、物流仲介業者が情報の提供と公示に消 極的だったことである。
仲介業者の多くは、ごく 限られた荷主企業との継続的取引に商売を依存し ている。
あまり詳細な貨物情報を公表すれば、荷 主が特定され、他の仲介業者からの横やりを受け かねない。
そのため仲介業者はしばしば情報を簡 略化したり、修正してシステムに流した。
その結 果、IT化による効率化効果は限定的にならざる を得なかった。
 第二は、それまでの商慣行との親和性の問題で ある。
ドライバーは個々の業者を回りながら、その 場で仲介業者から見聞きした情報を利用して交渉 に持ち込むというやり方に慣れていた。
それだけ に大型パネルにいっぺんに表示される大量の情報を 取引ホールはホテルのロビーに改修されていた

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