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荷主の事業再編が物流市場を襲う
荷主の事業再編に揺れる物流
今年九月二二日、鉄鋼業界国内最大手の新日本製
鐵と三位の住友金属工業が合併に向けた統合基本契
約を結んだ。 来年一〇月には世界二位のシェアを持
つ新会社「新日鉄住金」が誕生する予定だ。 新会社
は三年後をメドに年間一五〇〇億円の統合効果を見
込んでおり、物流コストの削減が柱の一つとなってい
る。
新日鉄と住友金属は共に大型の物流子会社を傘下
に抱えている。 新日鉄はそれまで東証二部に上場し
ていた日鐵物流を二〇〇五年十二月に完全子会社化
して上場を廃止している。 一方の住友金属も売上高
約七五〇億円の住友金属物流をグループに持つ。
この物流子会社二社に加え、新日鉄をメーンの荷
主とする山九、元請けのアンダーでオペレーションを
担っている運送会社、倉庫会社、海上輸送キャリア
など、物流専業者も荷主の合併による影響を避けら
れない。
業界再編が進んでいるのは鉄鋼業界だけではない。
重厚長大産業からドメスティックな百貨店業界に至る
まで、今やあらゆる産業界でライバル同士の合併や事
業統合が活発化している。 国内市場の縮小とグロー
バル競争の本格化が荷主企業を再編へと駆り立てて
いる。
玩具業界では、〇四年にパチンコのサミーとゲーム
のセガの経営統合でセガサミーホールディングスが誕
生してから、立て続けに大手同士の合併が起こった。
〇五年には玩具最大手のバンダイとゲームのナムコが
経営統合、〇六年にはタカラとトミーが合併した。
少子化、コンピューターゲームの攻勢、量販店によ
る価格破壊など、玩具市場は長期にわたって逆風に
さらされてきた。 ライバル同士の合併による業界再
編は生き残りのためには避けられない選択だった。
親会社の再編は物流子会社を大きく揺るがした。 バ
ンダイは物流子会社のバンダイロジパルを一九九〇年
に上場させている。 四〇%もの外販比率を誇る優良
子会社だった。 そのロジパルに対し、新たに親会社と
なったバンダイナムコホールディングスは「上場廃止」
と「グループ貢献への特化」を通達した。
ロジパルは外販拡大による自立を求められたそれま
でとは真逆の生き方を命じられることになった。 しか
し、ロジパルの馬場範夫社長(当時、常務)は、こ
れに“待った”をかけた。 上場廃止という親会社へ
の意向には逆らえるはずもない。 しかし、外販を止
めて、グループへの貢献に特化することには異議を
唱えた。
「外販を捨ててしまえば、身を削ることでしか貢献
の道はなくなってしまう。 そんな後ろ向きの方法では
必ず限界が来る。 いずれ我々の存在価値は無くなり、
グループのお荷物になってしまう。 グループに貢献す
る原資を捻出するためにも、外販は不可欠だ」と上
場廃止委員会の席で親会社に訴えた。
この要求が通り、外販は継続が決まった。 ただし、
外販とグループ貢献の役割を明確に分けるため、〇七
年七月にロジパルの一〇〇%子会社としてロジパルエ
クスプレスを設立した。
エクスプレスはロジパルの資産を全て引き継ぎ、そ
れをフル活用して従来通り外販を含めた荷主のオペレ
ーションに注力する。 一方のロジパルはノンアセット
型で、徹底的にグループの物流コスト削減に貢献する
という体制だ。
この時にロジパルは親会社に対して、上場廃止から
四年後の〇九年度には年間物流コストを〇五年度比
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業界再編が加速している。 M&Aや事業統合、共同
化の進展によって物流の在り方は大きく変わる。 拠
点配置や在庫のアロケーション、輸送ルートはもちろ
ん、物流部門や子会社の位置付け、協力物流会社と
の関係にも見直しがかかる。 再編を先取りして変化
を味方につける必要がある。 (本誌編集部)
第 1 部
特 集
13 NOVEMBER 2011
で一〇億円下げることをコミットしている。 初年度
にあたる〇六年度に二億円、〇七年度に五億円、〇
八年度に七億円、〇九年度に一〇億円削減するとい
う計画だ。
これを実現するためには、グループ内でロジパルが
まだ請け負っていない物流領域に深く食い込んでい
く必要があった。 グループ外に流出している物流コス
トをロジパルが取り込み、従来よりも安価で品質の
高い物流サービスを提供するという青写真を描いた。
その結果としてロジパルの売り上げは伸びても、利益
を追うことはせず、効率化の成果は荷主に還元する
という方針も固めた。
親会社の川上を攻める
まずは、海外の協力工場から日本に輸入する調達
物流の効率化に着手した。 バンダイナムコグループが
取り扱う玩具の九割以上は中国の協力工場で生産さ
れている。 その大部分を従来は香港を経由して東京
港まで海上輸送し、東京の拠点に保管。 そこから全
国の卸拠点に納品するというフローをとっていた。 こ
の体制を改めた。
中国の深圳にロジパルが二〇〇〇坪の倉庫を設け
て、現地で在庫を保管することにした。 協力工場か
ら倉庫までの中国内での調達物流もロジパルが担う。
そこから納品先の立地に合わせて東京港と神戸港に
海上輸送するというフローを設計した。 これによっ
て、保管費用と日本国内での横持ち輸送費が大きく
下がった。
「物流フローを変えるためには、荷主と協力工場と
の取引条件を、日本国内での倉庫渡しから現地の倉
庫渡しに変更する必要があった。 そういった川上に
踏み込んだ改革を提案できるのは物流子会社の強み
だ。 川上こそ当社の生存領域だと考えている」と馬
場社長はいう。
中国から日本への輸入を効率化する一方で、中国
から世界各国に輸出される玩具についても、ロジパ
ルは手を伸ばしている。 〇八年にバンダイの米国法人
向けの海上輸送を受託した。 さらに今年六月にはロ
ジパルの米国法人を設立、来年初頭からは米国内の
輸送や倉庫業も手がけていく計画だ。
親会社のバンダイナムコホールディングスは現在、
海外市場の開拓を成長戦略の柱の一つに位置付けて
いる。 ロジパルも親会社の海外展開に歩調を合わせ
るかたちで、各国での物流コスト低減に貢献できる
体制を順次整えていく方針だ。
さらに、ナムコ側の物流を順次受託するなどグルー
プの物流を取り込む一方で、貢献の原資となる外販
にも力を注いでいる。 玩具とは繁忙期の異なる荷物
を受託することで、拠点やトラックの稼働率を上げる
戦略を採っている。
玩具の物流はクリスマス商戦の九月〜十二月に繁
忙期を迎える。 その時期には大きな倉庫スペースが必
要になるが、その他の閑散期にはリソースを持て余し
てしまうことも多い。 閑散期の穴を埋める荷物が獲
得できれば、売上拡大と稼働率の向上による効率化
を両立することができる。
実際、ロジパルの東扇島のセンターでは一月〜四月
はオフィス家具、四月〜八月は飲料水、それ以降は
グループの玩具というローテーションで作業すること
で、年間を通してインフラをフル活用できているとい
う。 自転車や紙おむつといった分野の外販の獲得も
進んでいる。 現在の外販比率は三三%ほどだが、将
来的にはこれを五〇%にまで増やしたい考えだ。
グループの物流の取り込みと外販への注力が奏功
2004 年10月
バンダイ
バンダイ
ナムコゲームス
バンダイ
ナムコ
…
2005 年9月
ナムコ
etc.
セガ
サミー
…
etc.
セガ
2006 年3月
サミー タカラ トミー
バンダイナムコHD
売上高 約3941 億円
セガ・ロジスティクスサービス
売上高 約77 億円
セガサミーHD
売上高 約3967 億円
タカラトミー
売上高 約1594 億円
物流子会社
タカラトミーロジスティクス
売上高 約40 億円
物流子会社
バンダイロジパル
売上高 約135 億円
物流子会社
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ーターゲームの成長を先取りし、中間流通に必要なI
T機能と全国規模の物流インフラの整備を業界に先
駆けて進めることで、業界プラットフォームとしての
地位を確立した。 九八年には東証二部上場。 二〇〇
〇年には一部上場を果たしている。
ロジパルが兄弟会社のハピネットと競合してもグル
ープにはプラスにはならない。 物流子会社として自
らの強みを活かせる川上の物流に特化した方が広が
りを期待できると馬場社長は判断している。
一方、バンダイナムコのライバル、タカラトミーの
物流子会社、タカラトミーロジスティクスの松田吉康
社長は「ハピネットの中間流通機能をキャッチアップ
することが我々に課された使命だった」という。
タカラトミーロジスティクスはタカラトミーの発足
に伴い、トミーの物流子会社だったトミー流通サービ
スを母体として、タカラの物流部門を吸収するかた
ちで誕生した。 〇五年十一月にトミー流通サービスを
T2Lに社名変更して両社が物流を統合、さらに一
〇年三月に現社名に変更した。
中間流通機能をハピネットに集約しているバンダイ
ナムコグループに対し、タカラトミーは系列卸のユー
エースに商流を、タカラトミーロジに物流を、それぞ
れ分担させるかたちで中間流通を構成している。
玩具卸業界においてユーエースは、ハピネットと並
ぶ二強としてのシェアを持つ。 しかし、一方の物流
機能は、ライバルに大きく遅れをとっていた。 立て直
しのため〇八年九月に外部からスカウトされたのが松
田社長だ。 花王出身で物流管理と情報システム構築
に豊富な経験を持っている。
玩具流通の世界に足を踏み入れることになった松
田社長は、「日雑業界と比べると玩具の物流は五年か
ら一〇年は遅れていると感じた」という。 欠品が即、
し、ロジパルの売り上げは統合当時の約九〇億円か
ら今期は一三五億円にまで伸びた。 ただし、利益率
の水準は厳しい。 親会社が最終赤字を計上した〇九
年度には、ロジパルも赤字を余儀なくされた。 親会
社のために利益を吐き出した格好だ。 それでも、当
初コミットした物流費削減は実現できた。
現在は来期から始まる中期経営計画を策定中だ。
「今後もグループへの貢献を念頭に置いて各分野での
取り組みを加速する。 メーカーにとって物流はノンコ
アだという話をよく聞くが、そう言わせてしまうの
は物流子会社にも問題がある。 自らの立ち位置を見
極め、やるべきことを明確にすれば、物流子会社ほ
ど親会社に貢献できる存在はいないはずだ」と馬場
社長は自信を深めている。
花王出身者が玩具物流を改革
ロジパルはサプライチェーンの川上への進出を志向
する一方で、卸〜小売り間の川下の物流からは段階
的に手を引いている。 以前はロードサイド店を展開す
る小売りチェーンのセンター運営なども受託していた
が、川下は価格競争が厳しく、利益の確保が難しい。
玩具の中間流通にはハピネットというガリバーの存
在があることも見逃せない。 玩具卸最大手でバンダイ
ナムコホールディングスの持分法適用会社だが、元々
は現会長兼CEOの河合洋氏がバンダイを退社後に
個人で創業した独立企業で今も経営の自律性が強い。
一九六九年にバンダイをメーンに取り扱う玩具卸と
して出発。 九一年にバンダイの販社二社を吸収合併
した。 九四年にバンダイの資本比率を引き上げてグル
ープ入りしたが、その後も資本系列や業種を超えて
品揃えや事業領域を広げていった。
量販店の台頭による販売チャネルの変化やコンピュ
バンダイロジパルの
馬場範夫社長
タカラトミーロジスティ
クスの松田吉康社長
タカラトミーロジスティクスの「市川ロジスティクスセンター」
特 集
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機会損失を招く日用雑貨品と違って、嗜好性の強い
玩具は代替品の購入がまず発生しない。 納品精度や
在庫の管理レベルは高いとは言えなかった。
庫内オペレーションは作業員のスキルに依存してい
た。 業務プロセスの標準化や保管ロケーションが不明
確で、経験のない作業員では戦力にならないため、
繁忙期を前提に作業員を抱えていた。 閑散期には当
然、人手を遊ばせることになる。 松田社長が問題点
を指摘しても「玩具業界は特殊だから」と当初はな
かなか受け合ってもらえなかった。
昨年四月、タカラトミーロジは物流不動産ファンド
のマルチテナント型物流施設「プロロジスパーク市川
?」に四フロア、計一万八〇〇〇坪を確保して、新
拠点「市川ロジスティクスセンター」を稼働させた。
日用雑貨品のノウハウを玩具物流に適用し、大量の
ピースピッキングを高速で正確に処理する自動化設備
を備えている。
新センターの稼働によってパート・アルバイトを活
用して労働力を柔軟にコントロールすることができ
るようになった。 納品精度も従来の一万分の一レベ
ルから十万分の一レベルに上がった。 同センターを安
定稼働にこぎ着けた現在、「物流品質面、サービス面
では、ハピネットに追いつくことができた」と松田
社長は胸を張る。
外販は当面、考えていない。 同社の役割は売り上
げの拡大や利益率の向上ではなく親会社への貢献だと
割り切っている。 今は玩具流通の行方を見定めようと
している。 「今年五月の『製配販連携フォーラム』を
契機に量販店が本気になって情報システムの標準化に
乗り出している。 共同化や取引慣行の見直しも進ん
でいる。 玩具業界の中間流通も大きな影響を受ける
ことになる」と松田社長は準備を進めている。
日本の冷蔵倉庫業界は、主要荷主が大手物流
事業者としての顔を併せ持つ特殊な構造となっ
ている。 荷主の再編がダイレクトに物流市場の
勢力図に影響する。 それだけに水産業界トップ
のマルハグループ本社と三位のニチロによる経営
統合は、冷蔵倉庫業界にとっても決して小さく
ない出来事だった。
二〇〇七年一〇月に発足したマルハニチロホ
ールディングスは、旧二社の事業を「水産」、「食
品」、「畜産」、「保管物流」の四事業会社とシェ
アードサービス会社に再編した。 このうち保管物
流事業ではマルハグループのマルハ物流ネットが
「マルハニチロ物流」に商号変更し、旧ニチロの
保管物流事業(冷蔵事業部)を承継した。
マルハ物流ネットは国内三六カ所に冷蔵倉庫
を持ち、その保管能力は計五四万一〇〇〇トン
に上る。 冷蔵倉庫業界ではニチレイロジグルー
プ、横浜冷凍に続く第三位の位置にある。 一方、
旧ニチロの冷蔵事業部も、東京港の大井埠頭な
ど三カ所に計四万七〇〇〇トンの冷蔵倉庫を持
っていた。 さらに〇九年四月、マルハニチロ物
流は旧ニチログループで博多港の箱崎ふ頭に冷蔵
倉庫を持っていたニチロ流通センターを統合し、
現在に至っている。
これまでの統合についてマルハニチロ物流の河
添誠吾社長は「一つの会社になったといっても、
当初は伝票フォーマットから経理の仕方、情報シ
ステムまですべて違う。 最近になってようやく
融合も進んできたが、それでも社風や風土とい
うものは簡単には変わらなかった」と振り返る。
現在は全
国インフラ
を武器とし
た集荷数量
の増加と、通
関・保管・
配送までを
一貫して手
掛ける総合物流サービスの拡大を目指している。
水産物と並ぶ新たな事業の柱として、加工食品、
畜産品などをメーンターゲットに据えた営業活動
を展開。 合理化によって生まれた人材を営業部
門に投入し、順調に成果を上げている。 加工食
品などの取り扱いが広がり、一〇年ほど前には
取り扱いの六割を占めていた水産物の比率は現
在、五割を切っている。
設備面では冷蔵倉庫の老朽化やフロン規制へ
の対策を進める。 既に中長期の設備更新計画を
策定した。 今年は四億円を投資し、東京・豊海
の物流センターの冷媒を切り替える予定だ。 順
次、冷媒を切り替えていくのと並行して倉庫の
ビルド&スクラップを行い、競争力を高めていく
方針だ。
河添社長は「冷蔵倉庫業界も経営はだんだん
と厳しくなり、今後は統廃合される傾向になる
と思われる。 国際規制で二〇二〇年にはフロン
の生産もできなくなる。 古い設備は改修が必要
になってくる。 一〇年後の業界は今とはかなり
変わった姿になっているだろう」と予想してい
る。
水産業界最大手マルハニチロの物流事業戦略
河添誠吾社長
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