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2011年11月号
特集

第2部 市場規模縮小で変わる勢力図

NOVEMBER 2011  16 市場規模縮小で変わる勢力図 物流業の九割が「解散価値」以下  会社が全ての負債を支払った後に残る資産を「解 散価値」もしくは「純資産価値」という。
その金額 と株式時価総額の関係を表す指標が「PBR(株価 純資産倍率)」だ。
株価を一株当たりの純資産で割っ て算出する。
PBRが一倍である時、その会社の価 値は解散価値に等しいことを意味する。
 今年九月三〇日現在、株式市場に上場している日 本の物流企業九〇社のうち、PBRが一倍を超えて いる物流企業は十一社に過ぎない(一八頁「物流企 業時価総額ランキング」参照)。
残りの七九社、全体 の九割近くの物流会社が解散価値を割り込んでいる。
そのまま事業を継続するより会社を清算したほうが プラスだという評価を市場から下されていることに なる。
 割安な株価は買収の標的にもなりやすい。
その会 社を時価で買い取ることができれば、例え解散させ ても投資した以上の現金が手に入る。
PBRを一倍 以上に維持することは、企業防衛上も経営者の責務 とされる。
 「実際、リーマンショック前までは外資系ファンド が割安な日本の物流会社の株を買い漁っていた。
そ の後、勢いは失速したが、現在のユーロ危機が一服 すれば、彼等は再び投資を再開する。
その一方で国 内では銀行を筆頭に持ち合い解消が進み、株の流動 性が高まっている。
外資による買収が改めて物流会 社の脅威になっている」と市場関係者は指摘する。
 転売目的の買収ファンドだけでなく、物流外資の参 入もこれから再び活発化する。
二〇〇〇年代初頭に は国際インテグレーターのDHL、UPS、フェデッ クスが、それぞれ日本事業の強化に動き、日本の有 力物流企業の買収を模索していた。
しかし、その候 補となる物流会社の多くが買収防止策を講じ外資の 傘下入りを拒んだ。
 めぼしい買収案件が見当たらない間に、日本のお 隣の中国で爆発的な経済成長が始まった。
これに反 応してインテグレーターは、アジア事業の軸足を日本 から中国にシフトした。
日本の物流会社の買収に見 切りをつけ、その資金を中国に向けていった。
 インテグレーターに代わって現在は、急速に力を付 けたアジア勢が日本の物流業界を窺っている。
豪物 流最大手のトールホールディングスは〇九年に中堅路 線会社のフットワークエクスプレスを買収した。
現在 は本社から経営陣を送り込んで、トールグループへの 統合を進めている。
中国系資本も日本の物流会社の 買収を検討している模様だ。
 国際宅配便の獲得が狙いだったインテグレーター と違って今回は、ロジスティクス事業がターゲットだ。
サプライチェーンの上流では国境をまたいだ水平分業 が進み、川下では「アジア内需」を目指す動きが加 速している。
工程ごとに分散する生産拠点とアジア 各国の市場を結びつけるロジスティクスの構築が、多 くの荷主にとって急務となっている。
 これに伴い物流会社の選択基準も変わる。
国別・ 地域別に物流会社を使い分ける従来のやり方を改め、 アジア全域をカバーできるパートナーを選び直すこと になる。
グローバルに事業を展開する大手メーカーや 外資系荷主の仕事を、国内外の物流会社が同じ土俵 で奪い合う物流市場のグローバル競争が本格化する。
 しかし、日本の物流業界の反応は鈍い。
M&A助 言大手、KPMG FASの紀藤政寿マネージャーは 「日本でもM&Aは増えている。
ただし、物流業界 で起きているのは、M&Aの“A(買収)”であって、  国内の物流市場が縮小に向かっている。
しかし、各社が 等しく売り上げを落としているわけではない。
プレーヤーの 数が減ると同時に上位集中が進んでいる。
M&Aが変化を加 速させている。
荷主の事業再編、物流子会社の売却、そし て海外物流企業の買収によって、物流業界の勢力図が大き く変わろうとしている。
       (大矢昌浩、石鍋圭) 第 2 部 特 集 17  NOVEMBER 2011 “M(合併)”は全くと言って良いほど起きていない」 という。
 今のところ物流業界のM&Aの大半は物流子会社 の買収だ。
子会社のマネジメントは親会社(=株主) の意向を常に受ける。
子会社が勝手に他社と握手す ることは許されない。
逆に株主が売ると判断すれば、 子会社の経営者が反対しても売られてしまう。
これ に対して合併は、経営者同士がまず握手をして、後 から株主の承認などを得る。
 「買収と合併は似ているようでも、そのプロセスや 動機は全く違う。
合併は往々にして業界再編的な意 味合いを含む。
単独では生き残れないという経営者 の危機感がその背景にある。
そういった事例が物流 業界には見られない。
大手の社長同士が主体的に合 併を進めたというケースは皆無と言える」と紀藤マ ネージャーは指摘する。
業界大手の顔触れが一変  二〇〇一年にカルロス・ゴーン氏率いる日産自動車 が物流子会社を売却してから今年でちょうど十年が 経過した。
この間に、富士通、資生堂、日本IBM、 富士電機といった名だたるメーカーが日産に続き、物 流子会社を売却した。
 3PLがその受け皿となっている。
なかでも最も 積極的に動いている日立物流は、過去五年間で物流 子会社(バンテックを含む)の買収によって売上高を 約二〇〇〇億円積み上げた。
その結果、同社は今期、 事業規模で日本通運、ヤマト運輸、佐川急便に次ぐ 業界四位に躍り出る。
 五位には近く日本郵船グループが浮上しそうだ。
昨 年一〇月、郵船航空サービス(YAS)とNYKロ ジスティックスジャパンの統合によって誕生した郵船 ロジスティクスはYASとNYKロジグループの売上 高を単純合算した事業規模三三四〇億円を二〇一三 年度に五〇〇〇億円に拡大する計画だ。
実現すれば 売上規模で山九を抜き、セイノーホールディングスと 肩を並べることになる。
 物流ベンチャーとして出発したSBSグループも業 界トップテン入りを目指している。
同社は〇三年の上 場後、M&Aを事業戦略の柱に据えた拡大策に出て、 上場時の連結売上高約二〇〇億円を一〇年十二月期 には約一二〇〇億円まで膨らませた。
リーマンショッ ク後の二年間は財務体質の改善のため成長は踊り場を 迎えていたが、今期から買収攻勢を再開する。
 ダイナミックに変化するグローバル市場と比べれば、 日本の物流市場の変化は緩やかだ。
それでも業界の 勢力図は確実に変化している。
M&Aで規模を拡大 する3PLやグローバル物流企業の台頭と入れ替え に、これまで業界の盟主と目されてきた大手特積み や、大手メーカーの元請けを務めてきた名門企業が その地位を失いつつある。
 インテグレーターの買収攻勢を受けた一〇年前な ら、まだ余力は残っていた。
しかし、国内貨物輸送 量は十二年連続の前年割れで、九〇年代初頭のバブ ル崩壊から続く長期的な減少傾向に歯止めがかから ない状態だ。
トラック運送事業者数も〇七年をピーク に減少に転じた。
 人口の減少によって、国内市場はこれからますま す縮んでいく。
不況期やパイが小さくなっていく市 場では、プレーヤーの数が減ると同時に各カテゴリー のトップ企業に売り上げが集中する。
市場シェアの格 差が大きく開く。
生き残りをかけたライバルとの合併 や思い切った事業の再編を急ぐ必要がある。
株式時 価総額の二極化が、それを促している。
KPMG FASの紀藤政寿 マネージャー 7,0000 6,0000 5,0000 4,0000 3,0000 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 トラック運送事業者数の推移 新規参入 事業者数 退出 事業者数 62,712 2,090 1,860 40,072 63,122

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