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NOVEMBER 2011 22
航空フォワーダーを買う
大手三社の寡占市場に3PLが挑む
今年三月、三井倉庫は旅行業界最大手JTBから
同社の航空フォワーディング事業を四七億円で買収し
た。 その中核会社のJTBカーゴの二〇一一年三月
期の売上高は約一〇〇億円。 従業員数は約二〇〇人。
当時の月間輸出混載重量は一〇〇〇トン超で、国内
の航空フォワーダー約七〇社中、二〇位前後のポジ
ションにあった。
一方の三井倉庫は、中期経営計画で海上・航空貨
物輸送事業の強化を打ち出しながらも、航空事業部
門の人員は約二〇人で、月間輸出混載重量は約二〇
〇トンに過ぎなかった。 業界内でのランキングは四〇
位前後だったと推測される。
三井倉庫の小川良司執行役員航空事業部門長は
「当社が展開する総合物流事業のうち、航空事業は
正直いって弱かった。 一〇〇〇トンクラスのフォワー
ダーになったことで、“航空フォワーディングもやっ
ています”とようやく顧客に胸を張っていえるよう
になった」と語る。
この買収で三井倉庫は旧JTBカーゴを「三井倉
庫エアカーゴ(MSA)」に改称すると共に、本体の
航空事業の大半を同社に移管。 三井倉庫本体とMS
Aの両社が協力して営業に当たる体制を整えた。 同
社の航空事業部門と旧JTBカーゴの二〇一一年三
月期売上高は単
純合算で約一二
〇億円だが、こ
れを今期は一四〇
億円に引き上げる
方針だ。
中期的には月
間輸出混載重量二〇〇〇トンの達成を目標に設定し
ている。 これは航空フォワーダーとして中堅に仲間入
りすることを意味する。 小川執行役員は「二〇〇〇
トンの規模があればキャリアにも一目置かれる存在に
なれる。 早急に事業規模を拡大したい」という。
同社を始め国内の有力3PL各社はどこも現在、航
空フォワーディング機能の強化を急いでいる。 荷主の
グローバル化に対応するには不可欠な機能だからだ。
しかし、航空フォワーダーの運賃競争力、スペース
供給能力は、物量が決定的な要因となる。 同業界は
日本通運、近鉄エクスプレス、郵船ロジスティクスの
三社でおよそ五割のシェアを握る寡占市場。 三社の
月間輸出混載重量はそれぞれ一万トン以上の規模に
上る。 3PLが対抗するには一定規模の物量を確保
する必要がある。
そのため航空フォワーダーの売却案件には、買い手
が殺到する。 日立物流が約五〇〇億円もの資金を投
じてバンテックを買収したのも、同社の持つ航空フォ
ワーディング事業が大きい。
バンテックは〇四年十二月に航空フォワーダーの東
急エアカーゴを買収している。 それをベースとするバ
ンテックの月間輸出混載重量は二〇〇〇トンクラス
と推測される。 今後、日立物流は社内の航空事業を
バンテックに寄せるかたちで統合を進める計画で、完
了すれば同業界でベストテン入りすることになる。
しかし、バンテックの小山彰社長は「単純に二社
のフォワーディング事業を足しただけでは、依然とし
て弱者連合だ。 大手三社に比べれば、まだまだ規模
が足りない。 日立物流グループは一五年に連結売上
高を七五〇〇億円にするという数値目標を掲げてい
る。 それを実現するには今後もアクセルを踏み続ける
必要がある」という。
航空フォワーディング機能の強化が3PLの大きな課題に
なっている。 同業界は日通、KWE、郵船ロジの大手3社
が牛耳る寡占市場で、国内の総事業者数は約70社に過ぎ
ない。 有力な航空フォワーダーのM&Aには買い手が殺到
することになる。 (大矢昌浩、梶原幸絵)
三井倉庫の小川良司
執行役員航空事業部門長
第 3 部
特 集
23 NOVEMBER 2011
とはいえ、国内で事業統合やM&Aの対象となり
得る航空フォワーダーは限られている。 中堅以上の航
空フォワーダーで物流企業グループの後ろ盾を持たな
い専業者は、近鉄エクスプレス(KWE)と阪急阪
神エクスプレス、西日本鉄道に絞られる。
そのKWEと日立物流は今年五月、業務提携と合弁
会社の設立を発表した。 七月には日立物流が五一%、
KWEが四九%を出資してプロジェクトカーゴジャパ
ン(PCJ)を立ち上げ、社会インフラ・エネルギー
関連を中心とした海外プロジェクト案件や企業の海外
移転案件を対象とした営業活動を開始した。
しかし、この提携交渉はバンテックの買収以前か
ら進められていたもので、当時とは状況は大きく変
わっている。 バンテックを吸収した現在の日立物流の
航空貨物事業は、KWE にとってもライバルとして
無視できない存在となっている。 両社の提携関係が
今後どれだけ発展していくのかは不透明だ。
バンテックの小山社長は「国内の航空フォワーダー
業界は、相当程度に棲み分けが出来上がってしまっ
ている。 しかし、海外に目を向ければ、また違った
可能性が見えてくる。 逆に外資系が日本に本格的に
乗り込んでくることだって十分に考えられる。 日本
の中だけで競争を考えていれば済む時代は、とうの
昔に終わっている」という。
同社の元・親会社の日産自動車はルノーと共に購買
調達機能をグローバルに統合する「ルノー・ニッサン
パーチェシングオーガニゼーション(RNPO)」を〇
一年に設立している。 同社の共同購買の対象は現在、
末端のオペレーションにまで広がっている。 日本国内
の物流契約も全てRNPOを通す必要がある。 「荷主
は我々のグローバル化を待ってくれない」ことを小山
社長は肌で感じている。
——過去一〇年の物流業界のM&Aは、バン
テックを中心に展開しました。 〇一年の日産か
らの独立、〇四年の東急エアカーゴの買収、そ
して今年の日立物流グループ入りという一連の
変遷に、どのような感想を持っていますか。
「ゴーン改革当時、私は日産で物流を管理する
側の立場にいましたが、バンテックのMBO に
は基本的に賛成でした。 日産にとって物流はコ
ア事業ではなく、バンテックには経営の自由が
なかった。 荷主と子会社がお互いにもたれ合う、
ぬるま湯的な環境にありました。 あのままでい
たら、人材は育たないし、企業の成長もなかっ
た。 東急エアカーゴの買収もできなかった。 今
日までバンテックが生き残れていたとしても完全
にドメスティックなままだったはずです」
「実際、私は日産に在籍していた時にバンテッ
クに対して、海外に出るようにしつこいくらい
に言い続けていました。 日産のグローバル化につ
いていかないと、バンテックが衰退していくの
は明らかでした。 ところが、?僕らは結構です?
と首を縦に振らない。 やる気のなさに呆れたこ
とを覚えています」
——物流子会社にも海外に出て欲しいという
ニーズが親会社に本当にありますか。 他の物流
専業者がパートナーでも構わないのでは。
「来て欲しいんです。 専業者といっても日系物
流会社の海外物流事業は専ら国際輸送と通関で
あって、ワンストップサービスでないうえに、現
地のロジスティクスは全く当てにできない。 日
産の物流を
理解してい
ないし、そ
こで使われ
ている言葉
も分からな
い。 バンテッ
クのように
はいきません。 バンテックにとっては大きなビジ
ネスチャンスなんです」
——東急エアカーゴの買収がバンテックが変化す
るきっかけになった?
「確かにそうですが、買収後もフォワーディン
グ事業とロジスティクス事業の統合には時間がか
かりました。 フォワーディング業界の営業マンは
基本的に一匹狼なんです。 その人が転職すれば
仕事も一緒に付いていく。 一方でロジはチーム
ワークの世界です。 時間軸も違う。 フォワーディ
ングはその日その日の勝負ですが、ロジは安定
稼働が大事です。 同じ物流業といっても全く風
土が違う」
「最近になって、ようやくかたちが出来上がっ
てきましたが、荷主のグローバル化のスピードに
比べると、未だに歯がゆいことばかりです。 自
動車物流はダイナミックに変化しています。 変
化を我々が先回りして荷主の進出を待つところ
までグローバル化を進める必要があります。 日立
物流のグループに入ることで、それが可能にな
ると期待しています」
「荷主のグローバル化に追いつき追い越す」
バンテック 小山彰 社長
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