ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年11号
ケース
米ダウ・ケミカル 欧米SCM会議?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2011  48 一〇億ドルの投資で五〇億ドルの効果  化学品メーカーとして一〇〇年以上の歴史 を持つダウ・ケミカルが、労働環境を含めた 環境問題に本格的に取り組み始めたのは一九 九〇年代半ばのことです。
その手始めとして 九六年に一〇カ年計画を策定しました。
二〇 〇五年までの一〇年間で、どのような項目で、 どれだけの成果を上げるのか、具体的な数値 目標を設定しました。
 労働時間二〇万時間当たりのけがや事故 の件数を九〇%削減する。
輸送や保管中の化 学製品による汚染(破損や漏出、噴出)を九 〇%削減する。
輸送事故を九〇%削減する ──といった目標です。
そのほとんどをクリ アすることができました。
 その例を挙げると、この計画に取り組む前 まで、当社では汚染事故を防ごうとするあま りに、政府の規制を超えて過剰梱包をする傾 向がありました。
しかし、環境対策に取り組 む市民団体や公的機関と共に、安全で効率的 な梱包方法を研究することで、個々の化学製 品の特性に合わせた梱包方法を確立すること ができました。
 当社は九〇年代の前半に、社外から環境問 題に関する有識者を集めて、専門委員会を立 ち上げています。
それが九六年、そして〇六 年から始まった新たな一〇カ年計画の土台と なっています。
 環境に大きな負荷をかけているといわれる 当社のような化学品メーカーが、環境問題に 取り組んでいることを説明しても、「どうせ 社会貢献をしているというポーズに過ぎない んだろう」という反応の返ってくることが少 なくありません。
 しかし、当社は九六年と比べて、エネルギ ー消費量で三八%の削減を実現しました。
こ れは九〇〇兆BTU(英国熱量単位)に相当 します。
CO2の排出量も二〇%削減しまし た。
仮にダウ・ケミカルを一つの国家に見立 てれば、九七年に定められた京都議定書(気 候変動に関する国際連合枠組条約)の基準を クリアした唯一の国となるほど、環境問題に 大きく貢献しているのです。
 九六年以降の一〇年間で当社は環境対策 費に一〇億ドルを支出しました。
しかし、同 時にエネルギー消費量の削減などを通して五 〇億ドルのコスト削減効果を生み出していま す。
環境対策は利益を追求する企業活動と相 容れないとする風潮がありますが、当社の場  1990年代から環境対策をSCMに組み込み、効率 化との両立を図ってきた。
CO2 排出量やエネルギー 消費量などの各項目にそれぞれ意欲的な目標値を設 定し、その達成を通じて、大幅なコスト削減を実現 している。
同社サプライチェーン担当ディレクターの ローレンス・クレッシー氏が取り組みを解説する。
欧米SCM会議? 米ダウ・ケミカル SCMの管理項目に環境対策の数値目標 CO2削減と年間8億ドルの費用削減を両立 会社名 ダウ・ケミカル 設立 1897年 本社 ミシガン州ミッドランド 最高経営責任者 アンドリュー・リベリス 売上高 536 億7400万ドル (4 兆792 億2400万円) 最終利益 23 億2100万ドル (1763 億9600万円) 従業員数 4万9505人 (注1)いずれも2010 年度の数字 (注2)1ドル=76 円で換算 米ダウ・ケミカル組織概要 49  NOVEMBER 2011 合、それらは両立しているといえます。
 現在は〇六年に策定した、二〇一五年ま での新たな一〇カ年計画の達成に取り組んで います。
九六年に作った計画が環境に負荷を 与えないことに重点を置いていたのに対して、 〇六年の計画は積極的に環境を改善していこ うというポジティブなスタンスをとっています。
 目標としては、「持続可能な化学製品の売 上高の割合を一〇%にまで引き上げること」 や「〇五年と比べて環境と安全衛生の主な基 準において七五%改善すること」──などを 挙げています(図1)。
これらの数値目標は、 毎年の年次報告書で途中経過を公表するとと もに、一五年には、全体の結果を一冊の報告 書にまとめます。
 九六年の一〇カ年計画と〇六年の一〇カ年 計画で、アプローチとして大きく違うのは次の 二点です。
一つは、当社の各主要施設を、関 係するすべての地域社会から受け入れられる ようにするという考え方です。
 そしてもう一つは、気候変動やエネルギー 問題、食糧問題などの分野で、少なくとも三 つ以上の「ブレークスルー(現状を打破する 画期的な解決策)」を見つけ出す、というこ とです。
環境対策のブレークスルー  ブレークスルーの一例を挙げれば、当社は 現在、小麦などの主食の生産性を高めるため、 種子の段階から殺虫成分を含んでいる種子を 作ろうとしています。
また、太陽エネルギー をはじめとした再生可能エネルギーの実用に も取り組んできました。
 私が当社のサプライチェーン担当ディレクタ ーになったのは〇七年のことですが、それ以 前からサプライチェーン部門は環境対策にか かわってきました。
当社では環境を専門にし た部門だけではなく、サプライチェーン部門 もまた環境負荷の低減のための一翼を担って いるのです。
 その理由を詳しく述べる前に、当社の概要 と、サプライチェーンの概略について説明した いと思います。
当社は、塗料&インフラスト ラクチャー部門や化学&エネルギー部門、プラ スチック部門などの八部門で構成されていま す。
一般の消費者が手にする製品の九〇%に 何らかの形で当社の製品がかかわっています。
 サプライチェーンに関して言えば、四〇〇 社のサプライヤーから約一億ポンド(四五三 六万キロ)の原材料を仕入れ、それを世界三 七カ国にある二一四工場で約五〇〇〇種類の 製品に加工しています。
そして四五〇カ所の 倉庫と一五〇カ所のターミナルを使って、一 六〇カ国にある四五〇〇カ所の客先まで製品 を届けています。
 年間の出荷件数は三〇〇万件で、そのうち 二〇%が通関業務を必要とする輸出入貨物で す。
そして調達物流(インバウンド)と製品 物流(アウトバウンド)合わせて、九九・九 七%までの貨物を、事故を起こすことなく保 管・輸送しています。
 当社の社是は、「科学技術を使って、最も 利益が上がり、かつ最も尊敬される企業にな る」というものです。
また当社の使命は「持 続可能な方法で、人類の進歩に必要なものを 情熱的に作り出していく」というものです。
 ここでいう「尊敬されること(respected)」 と「持続可能(sustainable)」の両方を達成 するために、サプライチェーンを軸にした環 境対策を行ってきました。
 持続可能なサプライチェーンを築くには、 五つの条件を満たすことが必要だと考えてい ます。
まずは安全性を確保すること。
二つ目 は、利益を上げること。
三つ目は臨機応変に 対応できる体制を整えること。
四つ目は社会 的な責任を果たすこと。
最後は、環境面から 見て効率的であること──です。
 当社は、安全が確保できない限り、ど 図1 2015 年までの10カ年計画の主な骨子 持続可能な化学製品の 売上高の割合を一〇%にまで引き上げる 二〇〇五年と比べ、エネルギー 消費量を二五%削減する 二〇〇五年をベースに毎年CO2の 排出量を二・五%ずつ削減する 二〇〇五年と比べ環境と安全衛生の 主な基準において七五%改善する NOVEMBER 2011  50 んな業務も行いません。
当社が扱う原材料 や製品の八〇%までは危険性のない物質で す。
二〇%は危険物(hazardous materials) で、一%は高危険度有害化学物質(highly hazardous materials)です。
 その高危険度有害化学物質の一つに塩素が あります。
塩素を取り扱わないので済むのな らそれが一番いいのですが、現代社会におい て塩素は必要不可欠な化学物質です。
アメリ カの水道水の九八%は塩素を使って浄化され ています。
また薬品の九〇%に何らかの形で 塩素が使われています。
農薬の八〇%にも使 用されています。
 しかし、塩素は輸送中に流出すれば大惨 事を免れません。
そこで当社は、塩素の輸送 をできるだけ少なくするという取り組みを進 めてきました。
鉄道の専用コンテナで運ばれ る塩素の輸送重量に関して言えば、〇六年ま でに九九年比で八〇%まで減らしました(図 2=図では二〇〇一年の数字からのみ)。
 輸送を少なくする方法にはいくつかありま す。
その一つは、輸送する前に、塩素に特定 の化学変化を与え、塩素とは別の危険度の低 い物質に変えて運ぶというやり方です。
最終 的に製品を顧客に引き渡す前に、改めて化学 変化を起こして塩素に戻したうえで納品しま す。
鉄道輸送の部分を専用パイプラインでの 輸送に替えたこともあります。
 また、A地点からB地点への長距離輸送が 必要な場合は、同業他社と連絡をとって、同 削減を達成しています(図3)。
 当社の輸送モード別のトンキロとサプライチ ェーンに関するCO2排出量の現状は、図4に 示されている通りです。
CO2 排出量は、ト ラック輸送が一番多く、次いで鉄道輸送、海 上輸送、航空輸送と続きます。
輸送によって 発生している年間のCO2の排出量は三〇〇 万トンです。
これはアメリカの自家用車に置 き換えると六〇万台分に相当します。
また工 場から出るCO2を含めた当社全体のCO2排 出量の七〜八%を占めています。
 当社のサプライチェーン部門は、環境対策 と利益への貢献の両立を特に重視しています。
コストセンターであるサプライチェーン部門が じ化学製品をB地点からA地点まで運ぼうと している企業を探します。
条件に合う企業を 探し当てることができたら、その企業にB地 点への顧客への納入を依頼して、当社はその 企業が運ぶことになっているA地点の顧客に 納入するのです。
年四万トンのCO2を削減  〇六年に策定した一〇年計画には、塩素な どの高危険度有害化学物質の輸送距離(トン マイルベース)を半減するという目標も含ま れています。
輸送距離を減らせば減らすほど、 事故の確率も減らすことができるからです。
極言すれば、輸送をゼロにすれば、事故もゼ ロになるわけです。
そして既に〇九年の時点 で先の方法などにより、〇六年比で四〇%の 800 700 600 500 400 300 200 100 0 2001 2002 2003 2004 2005 2006 (単位:100 万重量ポンド) 図2 塩素の輸送重量の削減 (年) 1,600 1,200 800 400 0 2005 2006 2007 2008 2009 2010 ‥‥ 2015 (年) 図3 高危険度有害化学物質の輸送トンマイルの半減 (単位:100 万トンマイル) 51  NOVEMBER 2011 CO2を削減することができました。
 こうした取り組みを一〇年間という長いス パンで成功に導くためには、社内・社外を問 わず、途切れることなく教育を行い、常に同 じ目標を共有できる下地を整えておくことが 重要です。
 当社では定期的に、ウェビナー(ウェブを 使った会議)やワークショップを行い、持続 的なサプライチェーンを維持していくには何が 必要かを話し合っています。
また、どの貨物 をどの輸送モードを使って運べばどれほどの 運賃がかかり、CO2がどれだけ排出される のか、事前にシミュレーションできる仕組み を使って、サプライチェーンの各セクションの 一人ひとりが、各輸送業務において適切な判 断を下せるようになっています。
政府機関や社外の団体とも連携  輸送業者や倉庫業者などとの関係におい ては〇一年から、それまで環境対策では後れ を取ってきた南米における意識を高めるため、 優れた実績を挙げた協力会社に対して「Do wGOL賞」を授与してきました。
 「GOL」は、「Guiding(他の業者 の模範となり)」、「Observing(各 種の決まりを順守し)」、「Leading(自 ら積極的にかかわる)」という三つの単語の 頭文字を取ったものです。
 過去一年間において重大事故を起こさず、 当社が設定した各種の環境や安全の基準を満 たすことのできた協力会社が受賞の対象にな ります。
この取り組みに参加している協力会 社三〇社のうち、これまで一三社に同賞が与 えられました。
 そのほかにも、政府機関や業界団体、NG O(非政府組織)などとも連携を取ってきま した。
当社は、アメリカの環境保護庁(EP A)が〇四年にはじめた「スマートウェイ・ トランスポーテーション・パートナーシップ」 に加盟した唯一の化学品メーカーでもありま す。
ご存じのとおり、アメリカは、ヨーロッ パに比べて環境問題への取り組みが遅れてい るといわれています。
また政府の規制を嫌う 傾向も強く、CO2削減を企業に求めた「ス マートウェイ」への参加もこれまでのところ ロジスティクス企業が主体となっていて、荷 主企業の参加は決して多くありません。
そう した中で当社は、早い時期から取り組みに賛 同し参加してきました。
 また、国連グローバル・コンパクトや調査 会社のガートナー社が開催する「持続可能のた めの賢人会議(Gartner Sustainability Peer Forum)」、米太陽エネルギー協会の「持続可 能なサプライチェーン勉強会」、「グリーン貨 物における中国プログラム」などにも積極的 に参加しています。
 こうした内外の活動を通じて、今後も我々 はサプライチェーンを軸にした環境対策への取 り組みを一層強化していきたいと思っていま す。
      (ジャーナリスト 横田増生) 利益に貢献するためには、コストを削減する しかありません。
 サプライチェーン部門では〇八年に三〇〇 を超す効率化プロジェクトに取り組み、その 結果として一年間で八億五〇〇〇万ドル(六 四六億円)のコスト削減を果たしました。
 具体的には、サプライヤーや輸送業者の見 直し、積載効率の向上、帰り便の活用、トラ ック輸送から鉄道輸送への転換、配送網の再 構築などを行いました。
これによって、二五 〇万ガロン(九四六万リットル)のディーゼル 燃料や石油などの消費を削減し、四万トンの 図4 輸送モード別の比率(2009 年) トラック輸送 42% 鉄道輸送 22% 鉄道輸送 22% 海上 コンテナ輸送 9% 海上コンテナ 輸送 10% 海上 バルク輸送 27% 7% 海上バルク輸送 航空輸送 0% 航空輸送 4% CO2の 排出比率 モード別の 輸送トンマイル トラック輸送 57%

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