ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年11号
ケース
ピュア アウトソーシング

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2011  52  リーマンショックで急成長にブレーキがかかり、物 流コスト削減が喫緊の課題に。
まずは店舗間で在庫 を融通する横持ち輸送を佐川急便に集約。
支払い物 流費の削減を実現し、次に調達物流の改革へと駒を 進めた。
そこでは佐川急便がノンアセット3PLの役割 を果たすことで、低コスト・高品質の物流体制が実 現した。
              (石鍋 圭) ピュア 佐川急便をパートナーに全国物流網を整備 外部リソースの活用で低コスト体制を実現 全国一〇〇〇店舗の宅配便契約を集約  健康食品販売のピュアには三年前まで、物流管 理が存在しなかった。
同社は全国約一〇〇〇カ所 に小規模な直営店を展開している。
二〇一〇年三 月期の売上高は二三八億円。
一九八八年に名古屋 で創業して以来、急成長を続けてきた。
物流に人 手を割いている余裕はなかった。
 ところが〇八年秋のリーマンショックで風向きが 一変した。
一時売り上げの伸びが止まり、横ばい がやっとの状況に陥った。
創業以来初となる経費 削減令が打ち出され、物流もその槍玉に挙がるこ とになった。
しかし、社内には物流の専門部署も なければ、物流の分かる人間もいなかった。
 改革の陣頭指揮に当たることになった石田昭浩 社長室長は、まず支払い物流費に目を付けた。
ピ ュアでは全国の店舗間で在庫を融通する横持ち輸 送が頻繁に発生する。
そこでは宅配便が使われて いるが、どの宅配会社を起用するかは各店舗がそ れぞれに判断していた。
一店舗当たりの出荷量は 小口のため、料金は割高だった。
 「全国一〇〇〇店分の店舗間輸送を一つの宅配 会社にまとめれば、ボリュームディスカウントが利 くのではないか」──石田室長はそう考えると大 手宅配会社三社に対応を打診した。
しかし、反応 は鈍かった。
 全国規模の荷主と一括契約を結び、特別割引料 金を適用することは、宅配会社側にとっては必ず しも旨味ばかりではない。
値引きを要求されるう え、出荷元が分散されているため、全国規模の物 量は確保できても集荷効率は上がらない。
しかも、 割引料金の適用を全国の支社に伝え、承認を得る ために煩雑な手 続きや社内折衝 が必要になる。
 「結局、大手 三社のうち応じ てくれたのは佐 川さんだけだっ た。
難しさは他の宅配会社と同じだろうが、当時 の担当者は『ウチがやります』と快く引き受けて くれた」と石田室長。
これによって支払い物流費 を大きく削減することができた。
 物流管理の重要性を実感した石田室長は、取り 組みのスコープを社内から調達先にまで広げること を決意した。
ピュアには三〇〇社を超える調達先 がある。
調達先との契約は物流費込みであるため、 ピュアが直接配送費を支払っていたわけではない。
しかし、発注から納品までのフローには改善の余 地が大いにあると考えた。
 それまで調達は、各店舗がそれぞれ欲しい商品 をPC端末から発注し、そのデータをピュア本社が 取りまとめ、各調達先にFAXで送っていた。
注 文を受けた調達先は、それぞれの協力物流会社を 使って各店舗に商品を納品していた。
 各店舗には三〇〇社の調達先からばらばらに商 品が送られてくる。
荷受けには多くの時間と手間 がかかっていた。
「物流に関心の無かった頃には疑 問にも感じていなかったが、改めて考えてみれば 顧客対応の時間がそれだけ割かれることで、販売 機会ロスを招いているのは明らかだった」と石田 室長は振り返る。
 しかし、調達物流の改革は、宅配便の集約とは 比較にならないほど大規模な取り組みになる。
専 ピュアの石田社長室長 アウトソーシング 53  NOVEMBER 2011 ースを使ってインフラを整備するというアプローチ をとることにした。
佐川急便中部支社で同案件を 担当する鳥海志郎営業開発課課長は「当社がオペ レーションにほとんどタッチしないというのは珍し いが、大切なのは荷主が望んでいるサービスを提供 すること。
今回はノンアセット3PLの立場で支援 するのがベストだと判断した」という。
 佐川急便が実務に当たるのは緊急出荷が生じた 場合のみに絞り、通常業務は中部地区を地盤とす る勅使川原産業に運営してもらうことにした。
佐 川急便中部支社とは長年の取引のある協力会社で、 名古屋に条件の合う倉庫を所有していた。
同社の 下、輸送協力会社を方面別に計十一社選び、低コ ストの運営体制を整えた。
 全国の調達先から集荷した商品を、全ていったん 名古屋の基幹センターに集め、すぐに方面別・店 舗別に仕分けて、再び全国の店舗に配送する。
基 幹センターの規模はわずか六〇〇坪。
在庫を持た ないTC(Transfer Center) として運営することで 倉庫面積をできる限り抑えた。
 ただし、このフローを実現するためには、自動ソ 門家の手を借りる必要があった。
石田室長は全て の調達先と会って各社の物流の実情をヒアリングす ると同時に、佐川急便にサポートを求めた。
 佐川急便は延べ床四五〇〇坪の専用センターを 設けて、それまで調達先任せにしてきた物流をピ ュアが自らコントロールするというプランを提案し た。
オペレーションは一括して佐川急便が請け負い、 費用はセンターフィーとして調達先から徴収するた め、ピュアの負担は増えないという。
 しかし、石田室長はこの提案を呑むわけにはい かなかった。
自社センターを設けて調達物流を握る ことには賛成だったが、コストが合わない。
ヒアリ ングを通じて調達先各社の現状の物流費は把握で きていた。
提案の通りに大型センターを設置すれば、 センターフィーによって調達先の負担が従来よりも 重くなる。
ピュアの物流体制を変えることで調達 先に迷惑をかけたくはなかった。
佐川急便をノンアセット3PLに  佐川急便は提案内容を練り直す必要があった。
SGホールディングスグループが運営する汎用倉庫 への入居や宅配便ターミナルの空き時間を利用す る方法など、あらゆるプランを検討した。
しかし、 既存施設を使おうとすれば設備面や現場スタッフ の人件費が制約になって、どうしてもピュアの提示 したコストを上回 ってしまう。
 そこで発想を 切り替えた。
佐 川急便はコーデ ィネーター役に徹 し、外部のリソ ーターによるスピーディな仕分けが必要になる。
そ れには調達先の出荷時に、商品にSCMラベルを 添付してもらわなければならなかった。
受発注と 集荷のタイミングを同期化させることも絶対条件だ った。
従来のようにFAXを前提にした受発注体 制では成立しなかった。
 石田室長や佐川急便のスタッフが調達先を回っ て新体制への協力を求めた。
調達先の負担は出荷 時にSCMラベルを添付するだけで、物流会社を 手配する手間も省けることもあり、全ての調達先 から理解を得ることができた。
並行してSGホー ルディングスのシステム会社、SGシステムが中心 になり、オンラインの受発注システムを構築した。
 こうして昨年八月、新体制が稼働した。
佐川急 便の鳥海課長は「スタートからこれまで、試行錯 誤を繰り返しながらその精度を高め、今では月間 四〇万ケースにおよぶ物量をミス無く捌いている」 と胸を張る。
 物流・受発注体制を刷新したことにより、ピュ アは物流コストの削減はもちろん、店舗オペレーシ ョンや本社の受発注処理に係る作業などが軽減さ れ、関連費用のスリム化を実現できた。
石田室長 は「入口は単純な物流費削減だったが、物流改革 は経営全体に効果があるということを今回の取り 組みから学ぶことができた。
佐川さんの英断や協 力には感謝している」と評価する。
 新たな物流体制を「ピュア・ロジスティクス・シ ステム」と名付け、今後はそこに他社の荷物を取 り込んでいくことを計画している。
荷主にとって はいっそうの低コスト化が、物流企業にとっては事 業規模の拡大が期待できる。
荷主と物流企業が一 体となって、物流の高度化を目指している。
昨年8月にオープンしたピュア物流センター 佐川急便中部支社の鳥海課長 庫内にはソーターを導入し効率化を図っている

購読案内広告案内