ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年11号
道場
メーカー物流編 ♦ 第26回「会社というのは不思議なところで、全社最適が部門最適に負けるということが当たり前のように起こるんです」

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湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 NOVEMBER 2011  60  「おいおい、そんな話は知らんぞ。
噂とい うけど、業務課長が勝手に想像しているだけ なんだろ?」  部長がすぐに異議を唱える。
業務課長が待 ってましたとばかりに反論する。
 「でも、情報の連中に聞いたら、あっちの 部長が納得しているようだって言ってました よ。
社内常識から言って、部員を外に出すこ とに異議を唱えない部長なんているわけない でしょ。
裏で取引があったに決まってる。
なあ、 そう思うだろ?」  業務課長が隣に座っている企画課長に振る。
他のメンバーたちは、おもしろそうに業務課 長を見ている。
振られた企画課長が苦笑いを して答える。
 「部長同士で裏取引があったかどうかはわ からないけど、この前、先週だったかな、月 例の部門連絡会が開かれて、そこで部長が啖 67「会社というのは不思議なところで、 全社最適が部門最適に負けるというこ とが当たり前のように起こるんです」 《第115  ロジスティクス部長が啖呵を切った  大先生がコンサルをしているメーカーでロ ジスティクス導入のプロジェクト会議が開か れていた。
生産部門との会議状況についての 報告があった後、ロジスティクス支援のため の情報システムの構築をどうするかというこ とに話題が移った。
 情報システム部から優秀な連中を何人か引 き抜いて、ロジスティクス部に連れてくると いう部長の考えに情報システム部側で納得し ないのではと主任が危惧を呈した。
それに対 して、業務課長が声を潜めるように主任に話す。
 「心配ないって。
情報の部長は、うちの部 長となぜか親しいんだ。
それで、優秀なやつ をロジ部にやるから、おれをどっかの支店長 に栄転させるよう働きかけろって条件を出さ れて、うちの部長はそれを了承したって噂だ」 メーカー物流編 ♦ 第 26 回  新設されたロジスティクス部に、情報 システム部の優秀なスタッフをどうやっ て引き抜くか。
相手側の抵抗は必至で、 すんなり事が運ぶとは思えなかった。
舞 台は月例の部門連絡会。
そこでロジステ ィクス部長が直球勝負に出た。
社内常識 に反する部長の発言は、当然のように波 紋を呼んで‥‥ 大先生 物流一筋三〇有余年。
体力弟子、美人弟子の二人 の女性コンサルタントを従えて、物流のあるべき姿を追求する。
物流部長→ロジスティクス部長 営業畑出身で物流部門に は異動したばかり。
「物流はやらないのが一番」という大先 生の考え方に共鳴。
業務課長 現場の叩き上げで物流部門では、一番の古株。
畑違いの新任部長に対し、ことあるごとに反発。
コンサルの 導入にも当初は強い拒否反応を示していたが、大先生の話 を聞いて態度が一変。
今や改革の切り込み隊長に。
経営企画室主任 若手ながらプロジェクトのキーマンの一人。
人当たりは柔らかいが物怖じしない性格のようで、疑問に感 じたことは素直に口にする。
ロジスティクス部新設に伴い同 部に正式に異動。
61  NOVEMBER 2011 呵を切ったという話は聞いている」  「えっ、そんな話があるの。
あんたも情報 通だね。
何なのそれ、聞かせて」  企画課長の思いもよらぬ発言に業務課長の みならず、部長を除いた全員が興味津々とい った顔で企画課長を見る。
 「なんだ、企画課長まで、いい加減な話を ‥‥」  「いいから、いいから、部長は黙ってて。
いい加減な話じゃなく、部員としては知る権 利がある話だから」  部長が止めようとするのを業務課長が止め た。
「知る権利‥‥」と部長がつぶやきなが ら首を傾げる。
それ以上何も言わないので、 業務課長が「それで?」と企画課長をせっつ く。
みんなの視線を振り払うかのように、企 画課長が話し始める。
 「その情報システム部なんだけど、いま忙 しくてロジにまで手が回らないってのは、国 際会計なんちゃらっていうのを入れるために 経理のシステムを変えようとしているらしい んだ。
だよね?」  企画課長の確認に主任が「そうなんです」 と言って頷く。
企画課長が続けようとして、 一応「いいですか?」と部長に確認する。
部 長がしぶしぶ頷くのを見て、企画課長が身を 乗り出して話し出す。
 「それで、これは、その会議の出席者から 聞いたので、そう間違ってはいないと思うけ ど、部長がロジの進捗状況について説明し、 肝心要のシステム作りが遅れているので、情 報から誰と誰をロジ部に移籍させたいって直 球を投げ込んだそうだ。
実名を挙げて・・・」  ここで部長の反応を待つかのように、企画 課長が一息つく。
部長は何も言わない。
業務 課長が「そんな直球投げたんですか? 社内 常識からは考えられないことだな」とわざと らしく、しかめ面をする。
部長が「記憶にご ざいません」とかわす。
業務課長に促されて、 企画課長が続ける。
 「そしたら、たしかにそれは社内常識に反 する発言なので、経理の部長と担当役員がす ぐに部長に噛み付いたそうだ」  業務課長が「そりゃそうだ」と頷き、「大 事なシステムを作っているのに、担当者をく れなんて頭おかしいんじゃないのか、くらい のことは言ったんじゃないの?」と合の手を 入れる。
 「頭おかしいとは言ってないと思うけど、そ のような叱咤に近いことを言ったそうだ。
正 確に何と言ったかは聞いてない」  会社として優先順位を考えるべきだ  「でも、そんな展開になったら、部長は黙 ってないでしょ?」  それまでじっと聞いていた主任が、ちらっ と部長を見て、企画課長に聞く。
企画課長 が「もちろん、話はこれからが本番」と言って、 みんなを焦らすように、お茶に手を伸ばす。
 「部長、そう言われて、何て言ったんです か?」  待ちきれないように、業務課長が部長に聞 く。
部長は「だから、記憶にないって言ったろ」 と相手にしない。
 企画課長が「間違っていたら訂正してくだ さい」と部長に言って、話を続ける。
部長は 何も言わず窓の方を見ている。
 「ここで、部長が啖呵を切ったそうだ。
す ごい迫力だったって、そいつは言ってた。
当 然の正論だと思うけど、『その経理のシステ ムを変えることで、いくらの利益が出るんだ。
ロジを動かせば、多額のキャッシュが生み出 され、利益も増大する。
会社として優先順位 を考えてくれ。
それに定型業務のシステムチ ェンジに優秀な人間は要らんはずだ。
その意 味で、当然の要求をしているつもりだ』とい うような発言を部長はしたそうだ」  企画課長が一息入れるのを見て、みんなが 感心したように部長を見る。
部長が「なんだよ、 おれは知らんよ」と照れたように言う。
主任 が「さすが部長ですね」と嬉しそうな顔をする。
業務課長が企画課長に確認する。
 「でも、それで向こうが引っ込むとも思え ないけど‥‥」  「そう、経理は会社のベースとなるシステ ムだとか、どこの会社も進めてることだとか 言って、抵抗したらしいけど、常務が『優先 順位としてはロジが先だ。
部長が指名した人 間を早急にロジスティクス部に回せ。
経理の システムチェンジは別の人間で進めればいい』 NOVEMBER 2011  62 と結論を出し、社長も頷いて、とにかく早く ロジを動かしてくれと部長に指示したことで 決着したそうだ」  「なるほど、部長はまた敵を作りましたね。
大したもんだ」  業務課長が嬉しそうな顔で部長に言う。
 「いやいや、業務課長ほどじゃない。
それ にしても、企画課長もよくそんな情報を仕入 れたものだ」  部長が呆れたような口調で言う。
 「いえ、この話は情報というほどのものでは ありません。
社内では、もう結構知れ渡って いますよ」  企画課長の言葉に、業務課長が「へー、 おれは知らなかった。
あんた知ってた」と主 任に聞く。
 「いや、知りませんでした。
でも、そう言 われると、思い当たる節があります。
昨日で すけど、その情報システムの彼に、電話で打 ち合わせの日程調整を申し入れたら『もう じき日程調整の必要はなくなるかもしれない。
もう少し待って』って電話を切られたんです。
それはそういうことだったんですね」  主任が納得したように、一人で大きく頷く。
 「あっ、そうそう、その会議には情報の部 長も出てたよね、会議のメンバーだから。
彼 は反対しなかったんだろ?」  業務課長の問い掛けに企画課長が「そう、 おれも気になったんで聞いてみたら、情報の 部長は何も発言せず、部長の言葉に頷いてい なに筋が通っていても、それをやると企業に 大きな利益をもたらすとわかっていても、そ れを受け入れないという事態がしばしばある んですね。
全社最適が部門最適に負けるとい うことが当たり前のように起こると言っても いい」  大先生の話に、思い当たることがあるかの ように、みんなが大きく頷く。
 「ロジスティクスなんか、その典型ですよ。
全社最適を目指すロジスティクスは、往々に して部門最適を否定することになるので、部 門としては、容易には受け入れられない。
そ れに変化を嫌うという風潮が加われば尚更で す」  「はい、当社もまったくそうでした。
はじめ の頃は、ロジなんかまず無理だろうと思って ました」  企画課長が思わず相槌を打つ。
大先生が 続ける。
 「そんな中でロジスティクスを導入しようと したら、まずトップの支持と支援があること が必要です。
ただ、それだけじゃだめなんで すね。
実際に、その導入を先頭に立って行う 人が必要です。
仮にその人を先導者と呼べば、 その先導者は当然、意思の強い人でなければ なりません。
他の部門とぶつかって、やり込 められて帰ってくるということでは、いくら トップがやりたいと思っても、トップは支え きれません。
各部門の担当役員からいろいろ 言ってくるでしょうから、いくらトップでも たって言ってた」と答える。
 「やっぱり、事前に部長同士で裏取引があ ったんだ。
情報の部長が近々異動するって話 なんか聞いてない? あんたそういう情報に は強いだろ?」  業務課長に問い詰められて、主任が目を逸 らす。
何か聞いてるけど、言えないという状 況のようだ。
部長が代わりに答える。
 「まだ公にはなっていないけど、近いうちど こかの支店長で出るようだ。
ただ、この人事 は、おれは関与していないし、情報部員の移 籍とも何の関係もない」  「やっぱしー。
おれの睨んだとおりだ。
裏 取引があったんだ。
部長の策士ぶりが発揮さ れた」  勝ち誇ったような顔で、業務課長が部長を 見る。
部長はそっぽを向いている。
それまで、 黙って楽しそうに話を聞いていた大先生が口 を挟む。
 全社最適は「論理」ではなく「人」  「部長が策士かどうかは置いておいて、御 社のロジスティクス導入のキーマンに部長を 選んだ常務の判断に敬服するということです ね。
また、常務の期待に確実に応えている部 長も大したものです」  大先生の言葉に、部長が「いやいや、とん でもありません」と顔の前で手を振る。
大先 生が続ける。
講義するような話しぶりだ。
 「会社というのは不思議なところで、どん 湯浅和夫の 63  NOVEMBER 2011 その例は結構多いです」  「そうですね。
まったくそのとおりだと思い ます。
その意味では、その先導者は、前に進 むために、攻略する部門に対して、できる手 はすべて打つということが必要になりますね。
トップにはそれはできませんから。
業務課長 の言う根回し、裏取引だな」  企画課長が業務課長を見ながら話す。
 「それそれ、ロジの先導者は策士たれとい うことだ。
部長は適任だったな。
おれにはと てもできない」  業務課長が楽しそうに話す。
それにはかま わず部長が大先生の見解に答える。
 「お話をお聞きしていて、なるほどそういう ことかと思いました。
私としては、常務から ロジの導入をやってくれと言われたとき、受 けたら後戻りできないなということを感じま した。
ロジについてもよくわかっていません でしたが、これが頓挫したら、うちの会社 にとって大きな損失だと直感しました。
正 直、不安もありましたが、常務の『コンサル の先生に入っていただく』という言葉を聞い て、受けることを決めました。
コンサルの先 生がおられれば、頓挫することなど、それこ そ先生が許してくれないだろうと思ったから です。
要するに『梯子を外されることはないな』 という安心感はありました。
あとは、とにか く前に進むだけでした」  部長にしては、ちょっとしんみりした物言 いに、みんな、神妙に聞いている。
突然、業 務課長が何か思いついたように声を出す。
 「そうか、ロジスティクスの導入は、部長 のような策士で、ずうずうしい人間がいない と、決して進まないとなると、そんな人間は、 同業にはめったにいないから、うちが先行し ますね。
同業他社に差をつける絶好のチャン スだってことだ。
な、頑張ろう」  業務課長に声を掛けられて、主任が「は、 はい」と頷いて、「それにしても、業務課長 はほんとに部長が好きなんですね」と唐突に 言う。
 それを聞いて、二人が椅子から飛び上がり ‥‥。
孤軍奮闘には限界があります」  「なるほど、逆に言うと、担当役員からト ップに異論が出たとしても、その先導する人 が確実に前に進んでいれば、トップも後戻り できないってことなんですね?」  主任が納得顔で確認する。
大先生が頷く。
 「そうなんです。
トップがやると決めたこと を後戻りさせないことが重要で、その要にな るのが先導者です。
この人が踏ん張って先に 進み続けていれば、トップは支持し続けられ るということです。
逆に言えば、この人がへ たると、結局うやむやに終わってしまいます。
Illustration©ELPH-Kanda Kadan ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大 学院修士課程修了。
同年、日通総合研究 所入社。
同社常務を経て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを設立 し社長に就任。
著書に『現代物流システ ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の 手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』 (以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コン サルティング http://yuasa-c.co.jp PROFILE

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