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NOVEMBER 2011 76
経団連が規制改革要望を発表
今年九月二〇日、日本経済団体連合会(経団連)
は「2011年度 経団連規制改革要望」を公表し
ました。 六月から七月にかけて一一二の会員企業・
団体に対し、規制緩和・改革に関する要望を調査し、
寄せられた六四八の要望を十二分野一七四項目に整
理したものです。
その中で「運輸・流通分野」は三四項目あり、そ
のうち物流関連は二六項目ありました(図表参照)。
それぞれの項目に対し「規制の現状と要望理由」が
書き添えられています。 代表的なものを見てみまし
ょう。
(1)
の項目は、四五フィートコンテナをはじめとし
た大型貨物が一般公道を走行できるよう、包括的な
許可制度を創設すべきというものです。 現在の法令
では四五フィートコンテナは一般公道を走行するこ
とはできません。 この規制を緩和すれば、輸送ロッ
トサイズは拡大し、単位当りの輸送コストは低減す
ることに加え、CO2の削減も見込むことができま
す。
さらに諸外国から海上輸送で運ばれてきたコンテ
行き過ぎた規制緩和は危険
事業者が長期・安定的に
経営できる環境の整備を
経団連が国内航空運賃の規制緩和を提言している。 市場
原理を働かせ、コストを低減することで利用者や航空業界
に寄与するという。 しかし、既に国内航空運賃ではある程
度の自由化が図られている。 これ以上の規制撤廃は、業界
全体の疲弊しか生まない。 過去のトラック業界の例を振り
返れば明らかだ。 何が本当のメリットなのか、慎重に見極
める必要がある。
第 8 回
ナ貨物を、積み替えることなく陸上輸送に回せるよ
うになるので、荷役コスト等も減らすことができま
す。 四五フィートコンテナが走行できる道路を厳密
に精査することは不可欠ですが、一部の主要幹線道
路に関しては、早急にこれを認めるべきでしょう。
(6)
の「車高規制の緩和」は、路線便事業者の行政
手続きの簡素化を訴えたものです。 現在、指定道路
以外で道交法の高さ制限である三・八メートルを超
えた車両を運転する場合には、車両ごとに制限外積
載申請(許可期間:最長二年)をする必要がありま
す。 路線便は長期間運行され、その経路も決まって
いるにも拘わらず、車両一台ごとに許可を申請する
のは煩雑です。
そこで、路線便に限っては複数の車両に関する制
限外積載許可を一括申請できることとし、路線の変
更および車両の廃棄・追加などの変更が生じた場合
には変更申請することを提案しています。 極めて合
理的な意見と評価することがでます。
(10)
の「営業用トラックの車検期間延長」は、現在
は営業用トラックの車検証の有効期間は一年ですが、
これを自家用自動車同様、初回三年、以降二年に
すべきというものです。 安全性の観点から、三年、
二年という期間が妥当であるかどうかは検討する必
要がありますが、少なくとも自家用自動車と営業用
トラックの車検期間の条件は揃えるべきです。 それ
により、自家用トラックから営業用トラックへのシ
フトが加速し、より専門性の高い企業が物流を担当
する効果が期待できます。
このように、要望の多くは経団連の提案する通り、
何らかの形で規制改革をすることが望ましいと言え
ます。
しかし一方で、個人的には疑問に思う項目もあり
ます。 その一つが
(16)
の「国内航空運賃の自由化」で
す。 これは、国内航空運賃における運用上の規制撤
廃による自由化を徹底すべきであるというものです。
日米オープンスカイ実施に合わせ、国際線の運賃
は昨年一〇月二九日から実質的に自由化されました。
一方で、国内線運賃については、プロモーショナル
な割引運賃の制限や運賃設定に関する新規航空会社
優遇など、運用上の諸規制が存在し、国内航空会社
による自由な運賃競争が阻害される要因となってい
る、というのが経団連の見解です。 これを改め、自
由化による競争環境を整備し、利用者利便の向上や
航空需要の増進による地域活性を実現すべきである
物流行政を斬る
産業能率大学 経営学部 准教授
(財)流通経済研究所 客員研究員
寺嶋正尚
77 NOVEMBER 2011
と主張しています。
確かに、国内航空会社がより自由なプライシング
をすることが可能になれば、利用者のメリットはよ
り向上するでしょう。 しかし、既に九八年に施行さ
れた改正航空法により、かなりの程度、国内航空の
規制緩和は進んでいるというのが私の見解です。
需給調整規制が廃止されたことで、新規事業者に
よる参入が可能になりました。 運賃に関しても様々
な割引制度が導入され、利用者に対し多様なメニュ
ーが提供されています。 既に航空会社間の競争は熾
烈を極めています。 これ以上の自由化が、本当に必
要なのでしょうか。 適正な競争が行われ、消費者及
び事業者にとって望ましい価格水準が形成されれば
問題ありませんが、そうなる保証はありません。
トラック業界は自由化で大ダメージ
航空運賃の自由化の是非を問う上で、過去のト
ラック分野における規制改革を振り返ってみたいと
思います。 トラック分野では八九年、物流二法と
呼ばれる「トラック運送事業法」と「貨物利用運
送事業法(制定当時は貨物運送取扱事業法)」が成
立しました。 大きな柱は、?参入規制の緩和(需
給調整規制を撤廃し、新規参入に際しては免許制
から許可制に変更)、?運賃規制の緩和(許可制か
ら事前届出制に変更、〇三年には事後届出制にな
った)、?営業区域の拡大、の三つです。 また九六
年には、事業を開始するにあたっての最低車両台
数の引き下げが実施されました。
自由化が進展した
結果、事業者数は
一・五倍に増加し
ました。 これに対し、
荷物を運ぶ車両数は
九〇年度の九〇万八
〇〇〇台から〇九年
度の一〇八万三〇〇
〇台に二〇%弱増え
たに過ぎません。 物
流量は、失われた二
〇年と呼ばれる景気
低迷期ということも
あって、さほど伸び
ていません。 つまり、
自由化によって一事
業者当りの平均保有
車両台数は減少し、物流業界の中小零細性が一段と
増したことになります。
これらトラック輸送に関する一連の規制改革によ
る利用者メリットは、〇二年に内閣府が発表したと
ころに拠ると三兆八七六三億円であるとされていま
す。 利用者側から見れば、輸送コストひいては物流
コストが低減したわけで、最終商品価格が安くなる
ことを意味します。
しかし、物流業界からすれば四兆円弱の減収にな
ったわけで、その結果、同業界から退出する企業が
相次ぎました。 まさに物流事業者にとっては、熾烈
な競争を余儀なくされる逆境となったわけです。 い
くらコストが低減しても、物流の担い手がこのよう
に厳しい環境に晒されることが、本当の意味での利
用者のメリットと言えるのでしょうか。
トラックにしろ、航空にしろ、参入や運賃に関し
ては、ある程度の規制が必要なのかもしれません。
望ましい物流サービスが提供されるには、長期的に
安定した経営が保証される中で、長期ビジョンを実
現しうる物流事業者の存在は不可欠です。 もちろん
?悪貨?は駆逐する必要がありますが、規制を緩和
することで多くの?良貨?が市場から撤退すること
のないよう、どの規制が必要で、どの規制は不要か、
また逆に行き過ぎた状態を改めるべきか、さまざま
な視点からの議論が待たれます。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、
流通経済研究所を経て現職。 日本物
流学会理事。 客員を務める流通経済研
究所では、最寄品メーカー及び物流業
者向けの研究会「ロジスティクス&チャ
ネル戦略研究会」を主宰。 著書に『事
例で学ぶ物流戦略(白桃書房)』など。
2011 年度 経団連規制改革要望(運輸・流通分野)
45フィートコンテナ等大型貨物の輸送許可制度の創設
国内輸送におけるISO規格大型海上コンテナの活用
緊急自動車の指定範囲の拡大
緊急通行車両手続きの簡素化等
積載制限外積載許可申請に係る手続きの簡素化
車高規制の緩和
現金輸送用車両および機械警備警報対応用車両への駐車規制の緩和
中古自動車の移転等登録のワンストップサービス(OSS)の導入
中古並行輸入車の走行距離の表示
営業用トラックの車検期間延長
港湾計画変更の迅速化
日本籍旅客船船舶検査の緩和
船舶部材の国際規格の導入(国際船級間の相互承認)
船舶職員法と船員法における定員基準の緩和
米国、欧州等先進国との乗員資格、飛行模擬装置、整備施設等に
関する相互承認の推進
国内航空運賃の自由化
航空機製造事業法の適用基準の見直し
海外における航空機搭載無線装置借用基準の緩和
AEO事業者に対する輸出の事後届出制
AEO特定輸出者を対象とした輸出事前許可申請手続の簡略化
帳簿書類の電子的保存に係る要件の見直しおよび手続の簡素化
帳簿書類の保存期間の短縮
通関申告先官署の自由化
不開港へのNACCSシステムの適用
複数の保税蔵置場を一括した保税蔵置場として許可する要件の緩和
保税舶用重油の包括承認申告に関する運用の緩和
※物流に関係する項目を抜粋
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