2011年11月号
現場改善
現場改善
第106回 中堅外食チェーンG社のコスト削減PJ
NOVEMBER 2011 78
車両は清潔、ところが庫内は‥‥
福岡に本社を置くG社は年商約八〇億円の中
堅外食チェーンである。
関東と信越を除く全国 各地の繁華街やデパ地下などに、専門型外食店 約八〇店と総菜店約二五店を展開している。
物流センターは福岡、大阪、名古屋、北海道 の四カ所に設置している。
いずれも運営は協力 物流会社に委託しているが、うち福岡と北海 道はG社が土地・建物を所有する自前の施設で、 食材加工センターと隣接し、セントラルキッチ ン機能を備えている。
我々日本ロジファクトリー(NLF)に問い 合わせしてきたのは、同社の商品部のE部長で あった。
オーナー経営者の鶴の一声で、物流コ スト削減プロジェクトに着手することが決まっ たものの、G社には物流管理部門が存在しなか った。
そのためE部長が商品部と兼務でプロジ ェクトリーダーを命じられたのだという。
「トップからは早急に物流コストを削減するよ うに言われているが、何から手を付ければ良い のか分からない状態だ」とE部長。
プロジェク トはまだスタートしたばかりで、E部長の手元 には名古屋センターの物流フローと支払い物流 費の総額程度の資料しか揃っていなかった。
その資料を見ると、売上高に占める支払い 物流費の比率は外食チェーン業界の平均値に近 く、とくに割高というわけではなかった。
しか し、いかんせん判断材料が少な過ぎる。
まずは 実態を把握するため、E部長を始めとするプロ ジェクトメンバーたちと共に物流センターを視察 することになった。
名古屋センターと大阪センターが視察の対象 であった。
この二つのセンターはG社の店舗の 約七割をカバーする基幹拠点で、双方とも同じ 協力物流会社A社が庫内運営から店舗配送まで 請け負っている。
最初に名古屋センターを訪問した。
外食チェ ーンの物流センターだけあって、さすがにバース に停まっていた専用車両は洗車が徹底され、清 潔感を維持していた。
ところが庫内に入って印 象が一八〇度変わった。
ひどく汚ない。
センタ ー入口には破損したパレットが散在し、ドック シェルターの着車部分のラバー材は剥がれたま ま。
不要となった廃棄設備などもあちらこちら に転がっている。
食品関連以外の荷主であっても、このセン ターを見て業務を任せたいとは思わないだろう。
事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 オーナー経営者は、物流にムダがあると直感していた。
し かし社内には物流管理部門はもちろん、物流専任担当者も いない。
プロジェクトチームを組織して実態の把握に乗り出 したところ、予想以上に物流コストがかかっていることが判 明した。
作業品質にも大いに問題があった。
中堅外食チェーンG社のコスト削減PJ 第106 回 79 NOVEMBER 2011 ましてや外食チェーンともなれば、コストの問 題以前に食品衛生上の問題が心配になるほどで あった。
次に大阪センターを視察したが、こちらも名 古屋と五十歩百歩であった。
この視察から筆者 は、G社が安価な料金を求める余り、?安かろ う、悪かろう?の物流サービスを受ける結果に なっているのであろうという印象を受けた。
その後、プロジェクト開始から一ヵ月が経ち、 ようやく支払物流費、物流会社との契約料金 体系等の必要な資料が整った。
その内容を見て、 筆者は目を疑った。
明らかに高いのである。
保 管料はほぼ相場であったが、入庫料、出庫料は 地域相場の五割増、管理料が三割増という水準 だった。
おまけに庫内オペレーションはアナログ運営で あるにもかかわらず、「システム費用」まで請 求されている。
その他にも内容が判然としない 費用項目が三つ、四つ挙がっていた。
E部長に その内容を尋ねても、何の費用かわからないと いう。
運賃契約にも問題が多かった。
個建制の体裁 をとってはいたが、実態は専属チャーター料金 とほぼ同額だった。
配送用に使用している三ト ン・ワイド車もしくは四トン車の一日当たりの チャーター料金を取扱個数で割っていただけだ った。
業界平均の一・八倍のコスト比率 こうしてデータや資料が集まってくるのに従 って、最初にE部長から聞いていた状況とは全 く異なるG社の物流の実態が徐々に明らかにな ってきた。
当初の資料では外食業界の平均的水準だった 支払い物流比比率は、改めて全社の実績データ を集計してみた結果、業界平均の約一・八倍に も達していることが分かった。
現場サイドにコ スト高という認識はなかったが、?物流にムダあ り?と見たオーナー経営者の直感は正しかった ことになる。
しかも、G社は仕入先ベンダーからセンター フィーを徴収していなかった。
G社が自社セン ターを持つことで、ベンダーは店舗納品をせず、 一括納品で済んでいる。
そのコストメリットを 仕入れに活かすという発想をG社は持ち合わせ ていなかった。
G社の物流実態を把握するのに思いのほか手 間取り、プロジェクトの着手から三カ月を経て、 ようやく改善活動の方向性をまとめることがで きた。
その概要は次の通りである。
《第1ステップ》 ?大阪と名古屋の両センターを運営する協力物 流会社A社の料金体系を見直して、料率制 NOVEMBER 2011 80 (センターの通過金額に一定の比率をかけて 料金を計算する制度)に移行する ?A社および福岡センターを運営するB社、北 海道センターのC社の協力会社三社につい て、物流パートナーとしての能力・実績を再 検証する ?食材幹線輸送の重量制運賃への移行と、幹線 輸送事業者の見直しも含めた帰り便の活用 《第2ステップ》 ?G社における物流管理専任者の設置 ?物流センター機能のあるべき姿と現状とのギ ャップ解消(在庫管理方法など) ?大阪センター、名古屋センター集約による滋 賀センター設置妥当性の検証 ?物流管理機能およびデータ・帳票類の整備 以上をプロジェクトの中間報告として、G社 の役員会に提出した。
その結果、まずは確実な コスト削減効果を期待できる第1ステップの三 項目について、直ぐに着手するよう経営陣から 指示が出た。
早速、プロジェクトメンバーで役 割を分担し、三つのテーマにそれぞれ着手した。
このうち、?の協力物流会社A社の料金体 系見直しでは、A社が別の外食チェーンの仕事 で料率制を導入したこともあって、見積もりの 提示までは順調に進んだ。
しかし、どうしても コストが下がらない。
デパ地下などへの納品は、 待機時間が長いために効率が悪く、共同配送も 組み立てられないという。
そこでプランを練り直した。
時間指定の見直 しと店舗納品時のノー検品という作業負担軽減 策をG社側から提示し、交渉を重ねることで何 とか合意にこぎ着けた。
その結果、二〇・六% のコストダウンが実現した。
着地側で幹線輸送の車両を手配 ?のA社を含む既存の協力物流会社三社の再 評価では、先の現場視察のくだりでも述べたよ うに、「5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)」 以前の衛生面での懸念が大きかった。
そこで次 年度の契約更新時に、各拠点でそれぞれコンペ を開催することでプロジェクトチーム内では意見 がまとまった。
ところが、これにオーナーが反対した。
「既存 の協力会社各社はいずれも一〇年以上の付き合 いだ。
ずっと当社の物流を支えてもらってきた パートナーを安易に切り換えるのは好ましくな い」とのことであった。
そこで協力会社三社とは、それぞれ月一回の 改善定例会を実施し、現場の課題・問題点を抽 出し、優先順位を付けてG社と共同で改善を進 めていくというかたちに、方針転換を余儀なく されたのであった。
?の食材幹線輸送の重量制運賃への移行と、 運送会社の見直しも含めた帰り便の活用は、現 状ではG社には物流管理部門がなく、物流専任 者も不在であるため、二つの食材加工工場のセ ンター長が中心となって進めることになった。
それまでG社では、輸送の発地となる各拠点 でそれぞれ車両を手配していた。
これを引っ繰 り返して、着地が車両を手配する体制に切り替 えた。
着地となる拠点周辺に、冷蔵品・冷凍 品を納品している運送会社にG社から声をかけ、 その帰り便を利用するようにしたのだ。
着地から下る車両が見つからなかったり、増 車が必要になる繁忙期には、求車求貨事業を手 掛ける大手物流会社に輸送を依頼することで急 場を凌いだ。
これによって僅かながらも幹線輸 送費を抑制することができた。
こうして即効性が求められた第1ステップを 何とかクリアすることができた。
しかし、この プロジェクトの真価が問われるのは、むしろ第 2ステップであろう。
状況によっては我々NL Fそしてプロジェクトチームが、オーナーを説得 しなければならない場面が出てくるかも知れな いと覚悟している。
あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチーフを務める。
96年、 独立。
日本ロジファクトリーを設立し代表に 就任。
現在に至る。
主な著書に『経営のテコ 入れは物流改善から』明日香出版社、『物流 のしくみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE
関東と信越を除く全国 各地の繁華街やデパ地下などに、専門型外食店 約八〇店と総菜店約二五店を展開している。
物流センターは福岡、大阪、名古屋、北海道 の四カ所に設置している。
いずれも運営は協力 物流会社に委託しているが、うち福岡と北海 道はG社が土地・建物を所有する自前の施設で、 食材加工センターと隣接し、セントラルキッチ ン機能を備えている。
我々日本ロジファクトリー(NLF)に問い 合わせしてきたのは、同社の商品部のE部長で あった。
オーナー経営者の鶴の一声で、物流コ スト削減プロジェクトに着手することが決まっ たものの、G社には物流管理部門が存在しなか った。
そのためE部長が商品部と兼務でプロジ ェクトリーダーを命じられたのだという。
「トップからは早急に物流コストを削減するよ うに言われているが、何から手を付ければ良い のか分からない状態だ」とE部長。
プロジェク トはまだスタートしたばかりで、E部長の手元 には名古屋センターの物流フローと支払い物流 費の総額程度の資料しか揃っていなかった。
その資料を見ると、売上高に占める支払い 物流費の比率は外食チェーン業界の平均値に近 く、とくに割高というわけではなかった。
しか し、いかんせん判断材料が少な過ぎる。
まずは 実態を把握するため、E部長を始めとするプロ ジェクトメンバーたちと共に物流センターを視察 することになった。
名古屋センターと大阪センターが視察の対象 であった。
この二つのセンターはG社の店舗の 約七割をカバーする基幹拠点で、双方とも同じ 協力物流会社A社が庫内運営から店舗配送まで 請け負っている。
最初に名古屋センターを訪問した。
外食チェ ーンの物流センターだけあって、さすがにバース に停まっていた専用車両は洗車が徹底され、清 潔感を維持していた。
ところが庫内に入って印 象が一八〇度変わった。
ひどく汚ない。
センタ ー入口には破損したパレットが散在し、ドック シェルターの着車部分のラバー材は剥がれたま ま。
不要となった廃棄設備などもあちらこちら に転がっている。
食品関連以外の荷主であっても、このセン ターを見て業務を任せたいとは思わないだろう。
事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 オーナー経営者は、物流にムダがあると直感していた。
し かし社内には物流管理部門はもちろん、物流専任担当者も いない。
プロジェクトチームを組織して実態の把握に乗り出 したところ、予想以上に物流コストがかかっていることが判 明した。
作業品質にも大いに問題があった。
中堅外食チェーンG社のコスト削減PJ 第106 回 79 NOVEMBER 2011 ましてや外食チェーンともなれば、コストの問 題以前に食品衛生上の問題が心配になるほどで あった。
次に大阪センターを視察したが、こちらも名 古屋と五十歩百歩であった。
この視察から筆者 は、G社が安価な料金を求める余り、?安かろ う、悪かろう?の物流サービスを受ける結果に なっているのであろうという印象を受けた。
その後、プロジェクト開始から一ヵ月が経ち、 ようやく支払物流費、物流会社との契約料金 体系等の必要な資料が整った。
その内容を見て、 筆者は目を疑った。
明らかに高いのである。
保 管料はほぼ相場であったが、入庫料、出庫料は 地域相場の五割増、管理料が三割増という水準 だった。
おまけに庫内オペレーションはアナログ運営で あるにもかかわらず、「システム費用」まで請 求されている。
その他にも内容が判然としない 費用項目が三つ、四つ挙がっていた。
E部長に その内容を尋ねても、何の費用かわからないと いう。
運賃契約にも問題が多かった。
個建制の体裁 をとってはいたが、実態は専属チャーター料金 とほぼ同額だった。
配送用に使用している三ト ン・ワイド車もしくは四トン車の一日当たりの チャーター料金を取扱個数で割っていただけだ った。
業界平均の一・八倍のコスト比率 こうしてデータや資料が集まってくるのに従 って、最初にE部長から聞いていた状況とは全 く異なるG社の物流の実態が徐々に明らかにな ってきた。
当初の資料では外食業界の平均的水準だった 支払い物流比比率は、改めて全社の実績データ を集計してみた結果、業界平均の約一・八倍に も達していることが分かった。
現場サイドにコ スト高という認識はなかったが、?物流にムダあ り?と見たオーナー経営者の直感は正しかった ことになる。
しかも、G社は仕入先ベンダーからセンター フィーを徴収していなかった。
G社が自社セン ターを持つことで、ベンダーは店舗納品をせず、 一括納品で済んでいる。
そのコストメリットを 仕入れに活かすという発想をG社は持ち合わせ ていなかった。
G社の物流実態を把握するのに思いのほか手 間取り、プロジェクトの着手から三カ月を経て、 ようやく改善活動の方向性をまとめることがで きた。
その概要は次の通りである。
《第1ステップ》 ?大阪と名古屋の両センターを運営する協力物 流会社A社の料金体系を見直して、料率制 NOVEMBER 2011 80 (センターの通過金額に一定の比率をかけて 料金を計算する制度)に移行する ?A社および福岡センターを運営するB社、北 海道センターのC社の協力会社三社につい て、物流パートナーとしての能力・実績を再 検証する ?食材幹線輸送の重量制運賃への移行と、幹線 輸送事業者の見直しも含めた帰り便の活用 《第2ステップ》 ?G社における物流管理専任者の設置 ?物流センター機能のあるべき姿と現状とのギ ャップ解消(在庫管理方法など) ?大阪センター、名古屋センター集約による滋 賀センター設置妥当性の検証 ?物流管理機能およびデータ・帳票類の整備 以上をプロジェクトの中間報告として、G社 の役員会に提出した。
その結果、まずは確実な コスト削減効果を期待できる第1ステップの三 項目について、直ぐに着手するよう経営陣から 指示が出た。
早速、プロジェクトメンバーで役 割を分担し、三つのテーマにそれぞれ着手した。
このうち、?の協力物流会社A社の料金体 系見直しでは、A社が別の外食チェーンの仕事 で料率制を導入したこともあって、見積もりの 提示までは順調に進んだ。
しかし、どうしても コストが下がらない。
デパ地下などへの納品は、 待機時間が長いために効率が悪く、共同配送も 組み立てられないという。
そこでプランを練り直した。
時間指定の見直 しと店舗納品時のノー検品という作業負担軽減 策をG社側から提示し、交渉を重ねることで何 とか合意にこぎ着けた。
その結果、二〇・六% のコストダウンが実現した。
着地側で幹線輸送の車両を手配 ?のA社を含む既存の協力物流会社三社の再 評価では、先の現場視察のくだりでも述べたよ うに、「5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)」 以前の衛生面での懸念が大きかった。
そこで次 年度の契約更新時に、各拠点でそれぞれコンペ を開催することでプロジェクトチーム内では意見 がまとまった。
ところが、これにオーナーが反対した。
「既存 の協力会社各社はいずれも一〇年以上の付き合 いだ。
ずっと当社の物流を支えてもらってきた パートナーを安易に切り換えるのは好ましくな い」とのことであった。
そこで協力会社三社とは、それぞれ月一回の 改善定例会を実施し、現場の課題・問題点を抽 出し、優先順位を付けてG社と共同で改善を進 めていくというかたちに、方針転換を余儀なく されたのであった。
?の食材幹線輸送の重量制運賃への移行と、 運送会社の見直しも含めた帰り便の活用は、現 状ではG社には物流管理部門がなく、物流専任 者も不在であるため、二つの食材加工工場のセ ンター長が中心となって進めることになった。
それまでG社では、輸送の発地となる各拠点 でそれぞれ車両を手配していた。
これを引っ繰 り返して、着地が車両を手配する体制に切り替 えた。
着地となる拠点周辺に、冷蔵品・冷凍 品を納品している運送会社にG社から声をかけ、 その帰り便を利用するようにしたのだ。
着地から下る車両が見つからなかったり、増 車が必要になる繁忙期には、求車求貨事業を手 掛ける大手物流会社に輸送を依頼することで急 場を凌いだ。
これによって僅かながらも幹線輸 送費を抑制することができた。
こうして即効性が求められた第1ステップを 何とかクリアすることができた。
しかし、この プロジェクトの真価が問われるのは、むしろ第 2ステップであろう。
状況によっては我々NL Fそしてプロジェクトチームが、オーナーを説得 しなければならない場面が出てくるかも知れな いと覚悟している。
あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチーフを務める。
96年、 独立。
日本ロジファクトリーを設立し代表に 就任。
現在に至る。
主な著書に『経営のテコ 入れは物流改善から』明日香出版社、『物流 のしくみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE
