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コンテナは一七〇億円の収支悪化
商船三井の二〇一二年三月期第1四半期経常
損益は、前年同期の三九二億円の黒字から八四億
円の赤字へ転落し、四七六億円悪化した。 四七六
億円の主な内訳は、コンテナ船事業で一四〇億円、
不定期専用船事業(ドライバルク船:資源、穀物
輸送、油送船、LNG船、自動車船等)で三二
七億円等。 通期経常利益予想は期初予想の六〇
〇億円から三五〇億円へ、二五〇億円下方修正
された。 二五〇億円の主な内訳は、コンテナ船で
一七〇億円、不定期専用船で八五億円等である。
今年度の海運業界を取り巻く事業環境は非常に
厳しい。 ドライバルク市況、タンカー市況、コン
テナ船市況の何れも損益分岐点レベルに達してい
ない。 そこに円高とバンカー(燃料油)高が追い
打ちをかけている。 八月以降、バンカー価格の下
落や海運市況の反転など一部でよい兆候も現れて
はいるが、グローバル景気の鈍化懸念が強まるな
ど先行きについては不安材料が多い。 足元で市況
が反転しただけでは、海運市況に強気になるのは
容易ではない。
それでも三菱UFJモルガン・スタンレー証券
(以下、MUMSS)では、商船三井の業績は今
期一二年三月期をボトムに改善し、来期は経常増
益が可能と見ている。 ?自動車船事業の増益、?
コンテナ船事業の赤字幅縮小、が予想されるため
である。
今期の自動車輸送は震災の影響もあり、下期急
回復型になる。 このため、輸送効率や燃費効率
の悪化等により、通期の輸送台数が前期並みとな
ったとしても、前期と同レベルの利益を計上する
のは困難であろう。 しかし、来期は輸送台数の平
準化で増益が予想される。
コンテナ船事業の赤字幅縮小を予想する理由
は、運賃の上昇を見ているため。 現在、マーケッ
トでは船腹(輸送スペース)の供給量が荷動きを
上回るペースで増加しており、需給悪化によって
運賃下落が起きている。 グローバル船社のほとん
どはコンテナ船事業において赤字を余儀なくされ、
八月以降、運賃は上昇しているものの、依然損
益分岐点を下回っている。
コンテナ船事業の収支改善は喫緊の課題であ
り、各社の値上げに対するインセンティブは相当
強い。 今後、運航サービスの見直し、係船など
のスペース削減が進めば結果として需給が逼迫し、
運賃の上昇圧力となる。 商船三井に限らず、赤
字の船社は来期以降、黒字転換を目指して運賃修
復を図ることになるだろう。 MUMSSでは損益
分岐点までの値上げは困難と見るが、赤字幅の縮
小には十分寄与すると考えている。
株式市場でも、コンテナ事業の収益の回復に注
目が集まる。 最近では船社各社のコンテナ事業戦
略に差が出てきており、この差が将来的にどのよ
商船三井
コンテナ船事業の赤字縮小が急務
船舶の大型化でコスト競争力を向上
業績の足を引っ張るコンテナ船事業で、ライバル
の日本郵船とは対照的な戦略を打ち出した。 基幹船
隊は自社で整備し、しかも船舶を大型化してコンテ
ナ一個当たりの輸送コストを削減する。 一方、ベト
ナムで港湾開発に参画するなど新興国の輸送需要の
取り込みに向けた布石も着々と打っている。 市況変
動の波に晒されながらも成長を持続できるのか、そ
の戦略の成否に注目したい。
姫野良太
三菱UFJモルガン・スタンレー証券
エクイティリサーチ部エクイティリサーチ課
シニアアナリスト
第71回
53 OCTOBER 2011
うな収益力の違いをもたらすかに注目したい。
商船三井の場合は大型船投入戦略を進める。 同
社はコンテナ船の運航体制を一〇四隻から今後五
年間で一二〇隻まで拡大する方針だ。 六月には、
同社の所有する船舶では最大規模となる八六〇〇
TEU(二〇フィートコンテナ換算)型コンテナ
船二隻を建造・運航すると発表した。
これはコンテナ船を大型化することで、輸送力
を高め一航海当たりのコストを下げる狙いと捉え
ることができよう。 また、一万四〇〇〇TEU
型コンテナ船五隻を三年間チャーターしてアジア
〜欧州航路に投入する計画もある。
以上のような戦略は、日本郵船が自社船を三割
減らし、荷動きに応じ
て船を外部からチャー
ターする「ライトアセッ
ト化」を進めているの
とは対照的である。 日
本郵船は三月末時点で
八七隻あった自社コン
テナ船を今後六三隻ま
で減らす。 大型船も自
社では造らず、一万三
〇〇〇TEU型船四
隻を三年間チャーター
する契約を結んだ。 チ
ャーター船の比率を引
き上げ、荷動きが滞っ
たときの損失を最小限
に食い止める考えだ。
大型コンテナ船につ
いては荷役時間の増加や入港可能な港湾が限ら
れること、消席率(輸送スペースの利用率)の維
持・確保が不安定になるリスク等があるが、消席
率を高水準で保つことが出来ればTEU当たりの
コスト競争力は高まる。
実際、コンテナ輸送で世界最大手のA・Pモラ
ー・マースクでは、コンテナ船の大型化戦略が奏
功している。 各船社が赤字に陥る中で、マース
クのコンテナ船部門の上期(一〜六月)純利益は、
前年同期比六八%減の三・九億ドルと、減益なが
らも黒字を確保した。
ただし、コンテナ船の大型化によってマーケッ
トの需給緩和が進めば運賃の下方圧力が強まる可
能性もある。 商船三井の船舶の大型化戦略と日
本郵船の持たざる経営、どちらがより有効なのか、
興味深い。
新興国への展開を加速
一方、将来の成長に向け、商船三井は中期経営
計画において「成長市場への展開加速」と「安
全運航強化」を掲げている。 このうち「成長市
場への展開加速」のための施策としては、?自動
車船の三国間輸送、?ベトナムにおける「カイメ
ッププロジェクト」がある。
?について、同社の自動車船の運航隻数は一一
三隻と世界最大規模(一一年四月時点)となっ
ている。 円高や海外生産の加速で日本発の輸送が
減少する可能性もあるが、同社は自動車船の三国
間輸送に注力する。 既に、アフリカ、欧州、北米、
南米の四大陸を結ぶ運航サービスを構築。 新興国
での需要増に対して、効率的な輸送ネットワーク
を構築することが競争優位になる。
?「カイメッププロジェクト」とは、ベトナム
南部のカイメップ港で、同国初の大水深コンテナ
ターミナルを建設・運営するプロジェクトへの参
画である。 同港は香港とシンガポールの中間に位
置するため、北米、欧州など基幹航路の大型船
の直接寄港を想定して大水深ターミナルを開発し
た。 これはアジア地域の成長を収益機会として捉
えることのできるビジネスとして期待される。
「安全運航強化」は、同社の油送船、LNG船
部門のプレゼンスをより高めることに寄与するで
あろう。 同社の油送船の船腹量は一五七九万DW
T(載貨重量トン、一一年一月時点)、LNG船
隻数は四五隻(同四月時点)といずれも世界一
の規模を誇る。 これらの分野では、近年の原油流
出事故、環境意識の高まりもあって、安全運航に
関わる規制が年々厳しくなっている。
そうした規制は参入障壁である一方、同社にと
ってはビジネスチャンス拡大の機会と捉えること
ができる。 また、LNG輸送の分野では中国の輸
入増大にも期待できる。
海運会社は短期的な市況変動に晒されながら
も、将来の成長を見据えた戦略展開を進めなくて
はならない。 同社が推進する戦略展開がどう実を
結ぶか注目して行きたい。
《出来高》
過去10年間の株価推移
ひめの・りょうた
二〇〇四年慶應義塾大学経済学
部卒業、同年三菱証券(現三菱U
FJモルガン・スタンレー証券)入
社。 〇五年から明治ドレスナー・
アセットマネジメントで建設、不動
産、運輸、公益セクターのアナリ
ストを務め、〇八年二月より現職。
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