ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年10号
物流指標を読む
第34回超円高時代の企業の生き残り策は経済産業省「現下の円高が産業に与える影響に関する調査」帝国データバンク「第2回『円高関連倒産』の動向調査」、「円高に対する企業の意識調査」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む OCTOBER 2011  66 超円高時代の企業の生き残り策は 第34 回 ●収益圧迫などで円高関連倒産が顕著に ●大手製造業は海外生産・海外調達を拡大 ●中小企業は動くに動けない苦境が鮮明に さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
エコノミスト業界の裏事情  世間から経済の専門家と称されているエコノミ スト諸氏。
そのコメントをみると、十人十色とま では言わないが、人によって見解に相違が生じる こともしばしばある。
一〇人の医者が同じ患者を 診察して、一〇通りの病名が出てくることはまず 無いであろうが、エコノミストの場合は起こりう る。
同じ指標を分析しているのに、なぜこうも見 解が異なるのか。
 理由はいくつかある。
まず、自身の説の根幹を なす信条や理論が多様であること。
その結果、当 然見解も異なってくる。
 また、極端な強気あるいは弱気を自身の商売の ネタにしている人が少なからずいること。
たとえ ば、どんな不況期であっても、年がら年中バラ色 論を唱えている有名評論家がいるではないか。
 あるいは、所属している組織の違いによって、見 解が異なるケースもある。
政府や政府系金融機関 などの研究機関に所属する官庁エコノミストは、ど ちらかと言えば、比較的堅い見方(言い換えれば、 政府の見解と大きく乖離しない見方)をする傾向 が強い。
したがって、景気が非常に悪い局面であ っても、極端に悪い見解は出さない、いや出せな いと言った方が正しいかもしれない。
「政府の見通 しは甘い」と言うに等しいからだ。
一方、民間エ コノミストは、比較的自由に見解を示すことがで きるので、強気派もいれば弱気派もいる。
筆者の 独断的なイメージでは、証券系には強気派が多く、 逆に銀行系にはやや保守派が多いように思う。
証 券会社としては、株価が上昇することが望ましい わけだから、そこに所属するエコノミストの見解は どうしても強気になりがちだ。
 エコノミスト諸氏の見解を聞く際には、ただ漫然 と聞くのではなく、その人の所属や信条などにも 注目すると、いっそう理解が深まると思う。
 さて、三井住友銀行に宇野大介氏というエコノ ミストがいる(注:厳密に言えば、「エコノミスト」 ではなく「ストラテジスト」)。
さきほど、「銀行系 エコノミストにはやや保守派が多い」と書いたが、 宇野氏はかなり急進的なお考えをお持ちのようだ。
以前から、一ドル=五〇円という超円高を予測さ れている。
一本調子にそこまで円高が進むとは考 えにくいが、本原稿執筆時における為替レートは、 一ドル=七七円程度であるから、年内に七〇円近 い水準まで円高が進む可能性は否定できない。
 九月九日に内閣府が発表したGDP速報による と、二〇一一年四〜六月期の実質経済成長率(二 次速報値)は前年同期比でマイナス一・一%。
う ち外需の寄与度はマイナス一・三%であるから、輸 出の大幅減が日本経済の足を引っ張った格好だ。
言 うまでもなく、東日本大震災の発生に伴い、部品 等のサプライチェーンが寸断されたことにより、自 動車、自動車部品、電子部品などを中心に輸出が 減少したためである。
その後、サプライチェーンの 回復とともに国内生産は急回復しているが、今後 は超円高が輸出の足かせになりそうだ。
 九月に入って、円高に関連した厳しい調査結果 が相次いで発表されている。
まず、帝国データバン クの「第2回『円高関連倒産』の動向調査」(九 月八日発表)によると、一一年一〜八月における 円高関連倒産件数は累計で三四件となり、前年同 経済産業省「現下の円高が産業に与える影響に関する調査」 帝国データバンク「第2回『円高関連倒産』の動向調査」、「円高に対する企業の意識調査」 67  OCTOBER 2011 企業は三五・五%で、「好影響」とした企業(四・ 九%)を大きく上回った。
また、海外との取引が ある企業における、最近の円高局面で実施した対 策や、実施を検討している対策(複数回答)につ いては、「海外調達を増やす」が二三・四%で最も 多い。
そのほか、「輸入を拡大する」(一九・三%)、 「国内の生産部門合理化によるコスト削減を図る」 (一三・七%)、「海外生産拠点の拡充・新設」(一 〇・三%)、「海外生産比率を上げる」(九・八%) などの回答が目立つ。
このように、円高の急進を 受けて、海外調達の増加や海外での生産拡大を志 向する企業が多くなっている。
自国通貨高で滅んだ国は無い  さらに、経済産業省の「現下の円高が産業に与 える影響に関する調査」(九月七日発表)では、よ りシビアな結果が示されている。
大企業・製造業 編において、対ドルで一円円高が進んだ場合の営 業利益の減少額についてみると、「一億円以上一 〇億円未満」の企業が四六%と多いが、なかには 「二五〇億円以上三五〇億円未満」の企業が一社、 「一五〇億円以上二五〇億円未満」が二社あり、 円高の進展が輸出企業の収益を大幅に悪化させる ことが分かる。
 次に、現下の一ドル=七六円の為替レートへの 対応策(複数回答)をみると、「経営努力、製品 設計変更等によるコスト削減」(六七%)、「為替予 約によるリスクヘッジ」(六五%)に次いで、「原 材料等の調達方法・割合の変更(海外からの調達 量の増加)」(四七%)、「部品の調達方法・割合の 変更(海外からの調達量の増加)」(四三%)との 回答が多い。
また、「生産工場や研究開発施設の 海外移転」は二三%となっている。
しかも、一ド ル=七六円の為替レートが半年以上継続した場合 には、海外からの原材料等や部品の調達量を増や す企業は五〇%超となり、生産工場や研究開発施 設を海外移転する企業も四六%に達する。
このよ うに、大企業・製造業の多くは、超円高が定着し た場合、よりいっそうの海外展開を図る意向を持 っている。
 一方、中小企業編では若干異なる結果となって いる。
現在の円高水準下における対応策をみると、 「海外生産比率の増加」(二〇%)、「部品の調達方 法・割合の変更(海外からの調達量の増加)」(一 八%)、「原材料等の調達方法・割合の変更(海外 からの調達量の増加)」(一七%)、「生産工場や研 究開発施設の海外移転」(一三%)となっており、 大企業・製造業に比べ、それらの回答割合は低い。
中小企業の場合、大企業とは異なり、たとえ円高 が進展して企業収益が圧迫されても、おいそれと 海外展開を図るわけにはいかないからだ。
 エコノミストの見解は、「超円高の進展は国内産 業の空洞化をもたらす」でほぼ一致している。
そ の一方で、「自国通貨の価値が上がって滅んだ国は ない」という歴史的事実もある。
 先に紹介した宇野大介氏は、今年四月に上梓さ れた著書『超円高で震災日本は3年後に復活する』 (徳間書店)のなかで、「超円高・日本復活」の シナリオを示している。
マスコミがさんざん吹きま くっている、日本経済を取り巻くウソなどについ ても分かりやすく解説している良書なので、是非 ご一読をお勧めする。
期(二八件)と比較して二一・四%も増加してい る。
主な倒産理由は、デリバティブ損失(一七件)、 受注減少(八件)、その他為替差損(五件)など で、帝国データバンクは「現在の円高水準が続け ば、大企業による海外シフト、取引先の輸出企業 からの値下げ要請、海外企業との競争激化等を通 じて、企業収益を圧迫しかねない。
(中略)震災 や原料高の影響も大きく、これから秋以降、年末 にかけてこれまでの円高局面で疲弊している中小 企業を中心に関連倒産が相次ぐおそれもある」と 分析している。
 同じく帝国データバンクの「円高に対する企業の 意識調査」(九月五日発表)では、円高の自社の 売り上げに対する影響について、「悪影響」とした 大企業・製造業における1ドル=76 円の為替ルートへの対応策 経営努力、製品設計変更 等によるコスト削減 為替予約によるリスクヘッジ 原材料等の調達方法・割合の変更 (海外からの調達量の増加) 部品の調達方法・割合の変更 (海外からの調達量の増加) 製品価格(輸出価格)への転嫁 マリーによるリスクヘッジ 高付加価値商品への変更 生産工場や研究開発施設の 海外移転 スワップないしオプション によるリスクヘッジ 海外企業のM&A 取引の円建て化 特に反応なし その他 70 60 50 40 30 20 10 0 (%) 複数回答 カッコ内回答企業数 現在の対応策(検討含む) (60 社) 半年継続した場合 (61 社) 67 65 59 52 47 56 43 52 37 38 32 2625 31 23 46 1313 8 15 710 7 7 10 15 出所:経済産業省「現下の円高が産業に与える    影響に関する調査」(大企業・製造業編)

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