ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年10号
物流行政を斬る
第7回日本には九八の空港が乱立、関空・伊丹の統合を契機に航空行政の抜本的見直しを

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2011  68 国内初となる空港統合が実現  今年五月一七日、関西国際空港(関空)と大阪 国際空港(伊丹空港)の経営を統合する法案が衆議 院本会議で成立しました。
これにより、両空港を運 営する新会社「新関西国際空港株式会社(新関空会 社)」を来年四月に政府の全額出資で設立し、同年 夏からの業務開始を目指すことが決まりました。
複 数の空港が経営統合するのは、国内では今回が初の ケースになります。
 両空港の統合の背景には、約一兆三〇〇〇億円に 上る関空の有利子負債の存在があります。
黒字が出 ている伊丹空港と一体的に運営することで、関空の 抱えている借金を早期に返済したいというのが政府 の狙いです。
 統合の具体的な枠組みとしては、新たに設立する 新関空会社に両空港の運営権および両空港の滑走路、 関空のターミナルビル、伊丹空港の土地といった資 産を移管します。
関空の土地に関しては、新関空会 社の子会社として別途設立する「関空土地保有会 社」が保有・管理し、その土地を新関空会社に貸し 付ける方式が採られます。
日本には九八の空港が乱立、 関空・伊丹の統合を契機に 航空行政の抜本的見直しを  日本には九八もの空港が乱立している。
国家戦略に基づ いた航空行政が行われてこなかった結果だ。
各空港の国際 競争力は低下し続け、アジアのハブの座は韓国の仁川空港 や中国の上海浦東空港に奪われた。
遅れを取り戻すために は、合理的な空港の統廃合しか道はない。
国内初となる関 空と伊丹の統合をその契機にすべきだ。
野田新政権の担う 役割は大きい。
第 7 回  さらに、新関空会社の運営権は二〇一五年度まで に民間事業者に売却される方針で、運営権の期間は 三〇年〜五〇年程度の長期に設定される見込みです。
ただし、運営権の売却後も両空港のインフラや土地 など資産の所有権は新関空会社に残ります。
 両空港の運営権の売却価値はおよそ六〇〇〇億円 と見られていますが、この収入も関空の負債の返済 に充てられます。
その結果、毎年二〇〇億円に上る とされる負債金利の支払いが大幅に軽減し、諸外国 に比べて圧倒的に高い着陸料の引き下げにつながる と期待されています。
 一方、運営を委託された民間事業者は利益を生み 出すため、効率的な運営を手がけるようになります。
このように、国がインフラの所有権を保有し、民間 事業者がその運営を手がけるスキームを「コンセッ ション方式」といいます。
コスト競争力に優れた民 間事業者の力を借りて二つの空港を一体的に運用し、 効率的なインフラ経営を志向する今回の法案は大い に評価・期待のできるものです。
 この画期的な経営統合は、日本の航空行政をもう 一度見直す良い契機になると考えます。
国土交通省 航空局の資料によると、わが国には、?拠点空港二 八カ所、?地方管理空港五四カ所、?その他の空港 九カ所、?共用空港(自衛隊等が設置し、及び管理 する飛行場)七カ所、合計九八の空港が北海道から 沖縄まで全国津々浦々に乱立しています。
関西圏だ けを見ても、前述の伊丹空港と関空のほか、神戸空 港を合わせて三つもの空港が存在します。
それぞれ の距離は非常に近く、神戸空港から関空、伊丹空港 までの距離はいずれも二五キロほどに過ぎません。
 菅直人前首相は総理大臣就任当初の記者会見で、 「(わが国はこれまで)一〇〇に近い飛行場を造りな がら、まともなハブ空港が一つもない‥‥」「(韓国 の)仁川空港のようなハブ空港が一つもないような (税金の)使い方をやった‥‥」と述べました。
 ハブ空港とは旅客および貨物輸送の要衝であり、 そこではトランジットを楽しむ観光客がいたり、物流 センターを設置して流通加工をする企業がいたりと、 様々な経済効果をその周辺地域に及ぼします。
その 空港を拠点とする航空会社の経営にも好影響を与え ます。
わが国としても、早急にハブ空港を整備しな ければなりません。
 ところが、日本はハブ空港の集中整備とは真逆の 航空行政を自民党時代から推進してきました。
これ 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 (財)流通経済研究所 客員研究員 寺嶋正尚 69  OCTOBER 2011 により、日本における空港の国際競争力は著しく低 下しています。
関西の三空港を例に取れば、滑走路 は伊丹が二本(三〇〇〇m、一八二八m)、関空が 二本(三五〇〇m、四〇〇〇m)、神戸が一本(二 五〇〇m)、着陸回数は伊丹が六万五七三九回(ほ ぼ国内線)、関空が五万四三三四回(国際三万六九 七四回、国内一万七三六〇回)、神戸が九五九三回 (国内線)というものですが、これらの数字はいず れも、国家的なプロジェクトのもとで集中整備され ている韓国の仁川空港や中国の上海浦東国際空港に 比べ、大きく劣っていると言わざるを得ません。
 関西に三空港が乱立することで利便性にも弊害が 生じています。
例えば、伊丹に到着した国内線の利 用者が海外へ行く場合、関空まで行って国際線に乗 り換える必要があります。
わざわざ伊丹から関空ま で移動するのであれば、最初から韓国の仁川空港を 中継拠点として利用した方が遥かに便利です。
こ れは旅客のみならず、貨物(物流)の面から見て も同じことがいえます。
野田政権に期待  こうした理由から、日本の空港の利用者は減り 続け、反対に韓国や中国の空港の利用率が高まり つつあるのです。
仁川空港と日本の空港を地図上 で見てみると、わが国が一生懸命開発し、整備し た九八に及ぶ空港は、まるで仁川空港を扇の要の 位置に置いたかのように点在していることが分か ります。
日本政府の無策に対し、韓国の航空行政 の巧みさをうかがい知ることが出来ます。
 一二年九月以降、関空に格安航空会社専用のタ ーミナルビルがオープンします。
屋内には免税店や レストランが入居する予定で、おそらく現在の東京 国際空港(羽田空港)のような活況を呈することで しょう。
しかし、せっかく格安航空会社が関空を拠 点にビジネスを展開しようと思っても、関西に向か う他の国内便からの乗り継ぎが不便であれば、その 魅力は大きく見劣りしてしまうことでしょう。
政府 によるインフラの不備が、様々なビジネスチャンスを 逃していると言えます。
 こうした現状を打開するためには、九八の空港を 必要に応じて統廃合をしていく必要があります。
繰 り返しになりますが、そういった意味においても今 回の伊丹・関空両空港の経営統合は、非常に画期的 なことです。
この流れをさらに推進し、旅客や貨物 の国際および国内ネットワークをいかに築くか、その 為に優先的かつ重点的に整備すべきは何かなど、早 急に議論すべきだと言えるでしょう。
 菅前首相は一〇年七月五日の松山市内における 街頭演説で今後の空港整備のあり方に関し、「でき れば関東と関西に二つ造るのが経済発展のためのお 金の使い方だ」と発言しました。
羽田空港と関空の 機能強化を重点的に進めていく考えを示したもので す。
この考えは実に真っ当なもので、出来れば首相 在任中にある程度の道筋を付けてほしいところでし た。
しかしその後、同問題にはなんら手を付けぬま ま退陣になりました。
実に残念です。
新たに発足し た野田政権には大いに期待したいところです。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、 流通経済研究所を経て現職。
日本物 流学会理事。
客員を務める流通経済研 究所では、最寄品メーカー及び物流業 者向けの研究会「ロジスティクス&チャ ネル戦略研究会」を主宰。
著書に『事 例で学ぶ物流戦略(白桃書房)』など。
仁川空港 日本には98も空港が存在する 図 伊丹空港及び関空のターミナル・土地・滑走等の管理者 伊丹空港関空 伊丹空港関空 現在 経営統合後 民間国 滑走路等 土地 ターミナル 滑走路等 土地 ターミナル 航空会社 民間 滑走路等 滑走路等 土地 投資家 ターミナル ターミナル 土地 新関西空港株式会社 ※両空港の経営統合によって発足する 両空港の運営会社(国が100%出資) 長期(30 年〜50 年)の 事業運営権 貸し付け地代 子会社 (資料)民主党ホームページより 関空土地保有会社

購読案内広告案内