ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年12号
特集
第3部 リスクと闘うロジスティクス部門 スターバックス──情報・物流改革に危機管理の視点

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2011  32 スターバックス ──情報・物流改革に危機管理の視点 「緊急パック」が震災で活躍  スターバックスコーヒージャパン(以下、スターバ ックス)の物流は、ドライ品とチルド品の大きく二つ に分かれる。
ドライ品はコーヒー豆やビバレッジの材 料、カップ類など。
千葉県船橋市と大阪市の二カ所 にDCを置き、千葉からは東日本、大阪からは西日 本の店舗に週三回、配送している。
チルド品は牛乳 やサンドイッチ類などで、全国十三カ所のTCから近 隣の店舗に毎日出荷する。
 東日本大震災では宮城県岩沼市のチルド物流セン ターが津波の被害を受け、復旧が困難な状況に追い 込まれた。
これを受けてスターバックスは協力物流会 社との調整を開始し、従業員への救援物資輸送と平 行して、岩沼センターを代替する物流体制の検討に 入った。
 岩沼センターは東北六県の二七〜二八店舗をカバ ーしている。
その機能を近隣のセンターに振り分け ることにして、協力物流会社と輸送ルートを探した。
青森・秋田・岩手の店舗には北海道のセンターから、 宮城・福島へは東京から、山形には新潟から供給す る体制をとった。
 震災後、東北・関東地域では大規模な停電が発生 し、計画停電も実施された。
このため全店舗のうち、 四分の一程度が閉店や営業時間の短縮などの影響を 受けた。
それでも店舗への食材・資材供給を継続で きた。
同社独自の発注方式が功を奏した。
 スターバックスには二種類の発注方式がある。
コー ヒー豆や牛乳、コーヒーカップなど日々の営業に必須 のアイテムは、過去の販売実績から本部が算出した推 奨値をもとに、各店舗で一週間分の見込み発注を行 う。
その後、数量などに変更があれば納品前日まで 発注データを修正できる「週間発注」と呼ぶ仕組み をシステムに備えている。
それ以外のアイテムは毎日 発注を行う。
 一週間分の見込み発注を採用したのは、店舗と物 流サイドの双方のオペレーションを効率化することに 加え、リスク管理に配慮したからだ。
店舗の発注忘 れや入力ミス、通信の不具合などで発注データが届か ない場合でも、一週間分の発注データをバックアップ として持っておけば、店舗に商材を送り込むことが できる。
 スターバックスの中川喜仁サプライチェーン本部本 部長は「万が一、停電やシステムトラブルなどで日次 の発注データが壊れても、あるいは店舗で発注作業 が不可能になっても、われわれの中でしっかりとデ ータを取ってカバーをできるような体制を取っておこ うと考えた。
まさかとは思っていたが、それがうま く機能した」と説明する。
 電気ばかりでなくガス、水道などのインフラが寸断 した東北地方の店舗では、被害から復旧したとして も通常通りの営業は不可能だった。
そこでコーヒーな どの中核商品だけでも販売できるよう、本部がアイ テムを絞り込んで物資を送った。
 「緊急パック」と呼ばれるリストを活用した。
発注 データがすべて使えなくなった場合に備えて、必要な アイテムと一回分の納品数量を店舗の売上規模別に 設定したもので、物流センターに紙の書類のかたち で保管している。
 その後、インフラが復旧するのに従って東北地方に 出荷するアイテムを増やした。
宮城県名取市に新た なチルド物流センターも設置し、四月二七日店着分か ら出荷を開始した。
五月の連休明けには全店舗でほ ぼ通常営業を再開した。
 震災後、停電で店舗からの発注が乱れる中でもセン ターから商材を供給し続け、店舗の営業継続を支援した。
業務プロセス改革の一環として情報システムや物流体 制を刷新し、その過程で危機管理の視点を業務に導入 していたことが功を奏した。
      (梶原幸絵) リスクと闘うロジスティクス部門 1 1 2 3 4 5 6 2 1 4 2 5 6 3 4 5 6 第 1 部 第 2 部 資 料 第3 部 第4 部 第5 部 第6 部 第7 部 第8 部 33  DECEMBER 2011 特集 サプライチェーン寸断  同社の現在の情報システム・物流体制は〇四年に始 まった経営改革の一貫として構築されたものだ。
同社 は一九九六年に日本で第一号店を開店して以降、若年 層を中心にブームを呼び、急成長を遂げた。
 ところが〇三年三月期にそれまでの成長スピードが 鈍り、経常赤字に転落してしまう。
これを受けて〇 三年に複数のプロジェクトを立ち上げた。
〇四年には 「BPI(ビジネス・プロセス・イノベーション、そ の後、BPR:ビジネス・プロセス・リエンジニアリ ングに移行)」と呼ぶ業務プロセス改革を開始した。
 情報システムも発注システムだけでなく、販売管理 システムからドライ品のWMSまで全面的に見直した。
〇五年に新システムに移行したが、大規模なシステム の移行期にはトラブルが付き物だ。
週間発注などのリ スク管理の仕組みを採用したのもそのためだった。
当 時、新システムの構築に携わっていた中川本部長は 「システムがきちんと動かず、うまくいかなければど うなるのだろうと危惧したことが、セーフティネット を持たせようとしたきっかけだった」と振り返る。
丸投げ改め「見える化」徹底  物流改革は、まずドライ品から着手した。
〇五年 にセンターを東京から千葉県船橋市に移転したのを 機に協力物流会社も見直した。
契約形態自体を改め、 それまで丸投げに近い状態だった物流のオペレーショ ンを徹底的に可視化した。
協力会社とは定期的にミ ーティングを行い、KPIなどに基づいて作業効率の 改善をともに進められるよう改めた。
 〇八年には大阪市にもセンターを開設し、現在の 東西二拠点体制に移行した。
船橋センターから出荷 していたのでは配送リードタイムが長くなる。
路線便 による輸送は割高でもあった。
東名などの高速道路 が災害などで遮断されれば供給が寸断されるという リスクもあった。
 ドライ品の物流改革に続いてチルド品に取り組ん だ。
それまでは汎用センターを使っていたが、昨年、 東京に初の専用センターを設置し、オペレーションの 見える化を進め、それに基づき他の十二拠点も生産 性を管理できるようにした。
 一連の物流改革を通して実施した、物流パートナ ーとの関係の見直しと、オペレーションの徹底した見 える化が、震災時の迅速な対応にもつながった。
 震災対応が一段落した現在は、コスト削減を主眼 に置いて、改めて物流の管理体制の見直しを検討し ている。
現在、ドライ品とチルド品の物流はWMSも 違えば業務の一次協力会社も異なる状態で運用され ている。
そのために管理が煩雑になっている。
その 統合を検討している。
 ドライ品とチルド品の共同配送を進める狙いもある。
地方店舗向けの配送には、チルド品は専用便、ドライ 品は路線便を利用している。
ドライ品を大ロットでチ ルド物流センターに輸送して保管し、専用便にチルド 品と混載して出荷すれば、専用便の積載効率を引き 上げ、同時に割高な路線便の利用を抑制できる。
既 に〇九年頃から一部で着手している。
 しかし、ドライ品とチルド品の仕組みの違いがネッ クになっている。
なかでも運賃体系の統合は大きな 課題だ。
現在、ドライ品の配送は作業にかかったコス トに基づいて運賃を決めており、チルド品では通過 金額に応じた料率で支払っている。
 「未だ解決策は見つからないが、運賃体系の統合は、 われわれにとって非常に大きなチャレンジになる」と 中川本部長は意欲を見せる。
さらなる効率化のため にソリューションを模索していく考えだ。
中川喜仁サプライチェーン 本部本部長 過去の業績推移。
業務プロセスの改革は大きな成果を上げている 120,000 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0 (単位:百万円) 03/3 04/3 05/3 06/3 07/3 08/3 09/3 10/3 11/3 12/3 (見込み) (月期) 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 -1,000 営業利益(右軸) 売上高(左軸)

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