ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年12号
ケース
米フローサーブ 欧米SCM会議?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2011  50 六〇種類のERPが混在  まずは、フローサーブという会社の概略か ら説明します。
当社はメカニカルシール(回 転機軸封装置)を主力とする流体制御機器メ ーカーです。
従業員数は約一万六〇〇〇人で、 アメリカのダラスに本社を置き、世界五五カ 国・二二〇カ所に工場とサービスセンターを 配置しています。
 一九九七年創業の比較的新しい会社ですが、 その源流を辿れば、一八〇〇年代までさかの ぼることができます。
お互いにいくつもの買 収を重ねてきた「BWシールズ」という会社 と「デュルコ(Durco)インターナショ ナル」という会社が、一九九七年に合併して できたのが当社です。
 当社の組織はメカニカルシールやポンプなど を製造・販売する「フロー・ソリューション ズ・グループ」と大型のバルブなどを製造・ 販売する「フロー・コントロール・ディビジョ ン」の二部門から構成されます。
 二〇一〇年度の売上高は約四〇億ドル。
地 域別の売上高は、トップが北米、二番目がヨ ーロッパ、三番目がアジア太平洋という順番 です。
売り先を業界別に見ると、一位が石 油・ガス業界、二位が電力業界、三位が化学 業界の順になります(図1)。
 私自身は、二〇代の頃に米軍のロジスティ クス業務に携わって以来、これまで約三〇年 間にわたって、この分野でキャリアを積んでき ました。
今 から六年前、 当時EDS というコン サルティン グ会社で働 いていた私 の元に、知 り合いから 一本の電話 が入りまし た。
「君にぴ ったりの仕 事があるん だ。
とりあ えず、その 会社に行って話を聞いてくれないか」と。
そ うして出会ったのが、フローサーブでした。
 その当時のフローサーブの泣き所は、SC Mが各地域、各サイトでバラバラに行われて いることでした。
本社では、全体の正確な出 荷件数さえ把握できていない状態でした。
そ のことを長年の懸案としながらも、効果的な 改善策を見出せないままずるずると現状維持 を続けていました。
 そうした現状を打破しようとして、私が入 社する一年ほど前に、フローサーブ本社は手 始めにタイのサプライチェーン改革に取り組み ました。
しかし、そのやり方は、本社の人間 が複数の3PLを呼んでコンペを行い、一番  世界55カ国・220拠点にまたがるグローバルロジス ティクスの統合に取り組んだ。
KPI や業務委託方法 を標準化して、60種類以上のERP、600社以上の協 力物流会社の集約を進めた。
その結果、年間約650 万ドルの物流費の削減が実現した。
同社国際ロジス ティクス部門のロブ・ルーイン部長が、その歩みを語 る。
欧米SCM会議? 米フローサーブ 米軍兵站部門出身の専門家をリーダーに 世界55カ国・220拠点の物流管理を統合 図1 売上構成比(2010 年) 石油・ガス 42% 北米 31% ヨーロッパ 26% 18% 中東とアフリカ 15% 水力関連 5% アジア・太平洋 南米 10% 電力 17% 一般産業 20% 化学 16% 産業別地域別 組織概要 会社名 フローサーブ 設立 1997年 本社 テキサス州アービング 最高経営責任者  マーク・A・ビリン 株式上場 ニューヨーク証券市場 売上高 40億3200万ドル(3144億9600万円) 営業利益 3億8829万ドル(302億8662万円) 従業員数 約1万6000人 (注1)いずれも2010年度決算の数字 (注2)1ドル= 78円で換算 51  DECEMBER 2011 うまくやりそうな会社に業務を丸投げすると いう強引なものでした。
 しかも、3PLの選定過程にタイの現地法 人は全くかかわっていませんでした。
本社の 人間は、コンペで選んだ3PLをタイの工場 やサービスセンターなどに連れて行って、「今 度から、この業者が小口貨物から、フォワー ディング、通関業務までのすべてを行うから」 と宣言して帰ってきました。
 当然ながら、これには大きな反発がありま した。
現地法人はそれまで付き合いのあった すべての業者との取引をやめなければならな かったし、業務プロセスも大きく変更しなけ ればならなかったからです。
 そうした失敗を経験した後、二〇〇七年に 私が当社に入社し、国際ロジスティクス部門 の部長に就任しました。
その時点での当社の SCMの概要は次のような状況でした。
委託 している輸送キャリア(トラック輸送業者、航 空フォワーダー、海上フォワーダーなどを含 む)は六〇〇社以上、利用通関業者は米国だ けで五〇社以上。
 年間の出荷件数は本社が把握している分だ けで四〇万件、そのうち割高な急送便の使用 率が三五%以上を占めていました。
ロジステ ィクス関連費用としては、年間五〇〇〇万ド ル前後かかっていました。
 輸送に関するコンプライアンスが守られてい る率は五〇%以下。
国際輸送においては輸入 に関するコンプライアンスプログラムは存在し ていましたが、輸出に関するコンプライアン スプログラムは存在するのかどうかさえわか っていませんでした。
 加えて、会社全体で六〇種類を超すERP (統合基幹業務パッケージソフト)が使用され ていました。
そのために全社的に業務を俯瞰 することができない状態でした。
 国際ロジスティクス部門の陣容は私を含め て五人という小部隊です。
こうした条件下で SCM業務を改善することは、私には旧約聖 書に出てくる「出エジプト記」にも似た奇跡 に近いほど困難なことのように思えました。
セールストークを鵜呑みにするな  私はまず、国際ロジスティクス部門のミッ ションを「当社の現状に則したSCMの枠組 みと戦略を作り、それによって、全社的なS CM業務におけるコスト削減を図り、業務を 効率化すること」と定めました。
 そして当社が輸送会社に求める条件と基 本姿勢を五つの項目にまとめました(図2)。
「関係性(Relationship)」、「サービスレベル」、 「コスト」、「革新性」、そして「協力会社にと っての機会」です。
 このうち関係性においては、長期にわた って当社と共に成長できることが条件です。
サービスレベルは当社が定めたKPI(Key Performance Indicator :重要業績評価指 標)の基準を上回ること。
もちろんコンプラ イアンスを実践できることも求めています。
 そしてコスト面のほか、革新性にも期待し ています。
その会社に業務を委託することで、 当社のSCM業務を、それまでより一段上の レベルに引き上げてくれるような輸送会社が 理想です。
輸送会社側にとっても、優れた成 績を維持することで、当社を長期的に安定し た取引先にできるというメリットがあります。
 私が入社して最初に行った取り組みは、合 わせると電話帳一冊分にも上っていた輸送キ ャリアの絞り込みでした。
図2 フローサーブが物流パートナーに求める条件 関係性 サービスレベル コスト 革新性 ●当社のビジネ ス戦略と一 致した戦略を 共有すること ●業界で最高 水準のサー ビスを提供す ること ●当社と事業 計画を共有 すること ●当社の成長 と共に成長 できること ●当社の将来 の成長を見 込んで自らの 事業に投資 すること ●当社のサービ ス目標を上回 ること ●当社の輸送 やコンプライ アンス、サプ ライヤーとの 会議にも出 席すること ●業界内で一番 競争力のある 料金を提示す ること ●常にKPIの目 標数値を上回 り、業務の改 善を怠らない こと ●自ら進んで新 たなサービス の提供を心が ける ●当社の他の 部門や地域、 顧客とのシナ ジー効果を追 求する ●当社と協力し て独自の新 サービスを提 供する ●当社の優れた サプライヤー として優遇さ れる ●長期的な取 引となる ●新しく生み出 されるプログ ラムに参加 できる 協力会社に とっての機会 DECEMBER 2011  52  当社は、郵送できるシールから、重量九万 ポンド(四万五〇〇キロ)を超えるポンプま で、様々な製品を取り扱っています。
そのう ちまずは国際宅配便から手を付けました。
U PS、フェデックス、USPS(アメリカ郵 政公社)、DHL、TNT──ぐらいに事業 者が限られていて、絞り込みが容易だったか らです。
それまでは、地域ごと、工場ごとに、 勝手に事業者を選んでいましたが、それを北 米エリアはUPSに、ヨーロッパはDHLに 絞り込みました。
 次に手を付けたのが、航空・海上輸送です。
それまでは約一八〇社との取引がありました。
それを二段階に分けてコンペを行い、RFI (情報提供依頼書)の段階で二九社に、さら にRFQ(見積もり依頼書)で一七社にまで 絞り込みました。
その後、一年半は一七社を 使っていましたが、現在はヨーロッパで五社、 アジアと北米で十一社の計一六社を使ってい ます。
 コンペで事業者を選ぶ際に重要なのは、セ ールス・トークに乗せられてはならないとい うことです。
フォワーダーや3PLに対して 「当社のために、一体どんな業務をしてくれ るのか」と問えば、異口同音に「あなた方の お望みのことをすべてやらせていただきます」 という答が返ってきます。
 しかし皆さんもご存じのように、そんなこ とはあり得ません。
事業者によって得意な業 務分野も違えば、地域によるネットワークの はわかりにくい、複雑な運賃については、お 互い正直であることを大切にしています。
 例えばコンペの時に、いつも私は「最初か ら一番良い運賃を出してくれ、一発勝負だか ら」と言います。
ところがコンペの後で、運 賃が高くて仕事を逃したと分かると「ちょっと ペンを貸してくれ。
安い運賃に書き換えるか ら」という事業者が必ずと言っていいほど出 てきます。
信頼問題にかかわりますので、そ れを我々が受け付けることはできません。
 一方、フォワーダーは、航空運賃や海上運 賃が値上がりすると、それを理由にすぐに 我々に料金の上乗せを要求してきます。
しか し、運賃が下がった場合には、そのことを報 告してこない場合が少なくありません。
運賃 濃淡も違います。
それでも、事業者は十年 一日のように、「SCM業務なら何でもでき ます」、「われわれは全てを網羅するメニュー をそろえています」という。
そうしたセール ス・トークを超えて、本当に実力のあるパー トナーを選び出すには、選ぶ側にも相当の蓄 積が必要となります。
運賃交渉の留意点  もう一つ大切なことは、コンペを運賃叩き の手段として使わないことです。
私が以前に 勤めていた、ある荷主企業では、毎年、輸送 業者とフォワーダーを選ぶコンペを開いて、一 番運賃が安いところに業務を委託していまし た。
そのために毎年のように委託先が変わっ ていました。
しかしそれでは、業務のノウハ ウや改善につながる知識を集めることができ ません。
確かに支払運賃は下がりますが、同 時に、業務の品質や効率も下がる危険性をは らんだ方法です。
 それに対して現在、当社はリードタイムや 商品の破損率などのKPIを使って、全ての 輸送会社の業績を四半期ごとに評価していま す。
信号機の色のように、目標値の一〇〇〜 九五%を達成した場合は青、九四〜九〇%が 黄色、八九%以下は赤です。
青なら大丈夫、 黄色なら業務の改善が必要、赤が続けば契約 の更新は難しい──となります。
 輸送事業者やフォワーダーと付き合う上で、 もう一つ大切な点に運賃があります。
一般に 図3 国際ロジステック部門の役割 業務プロセス の改善 ロジ業務の 外注化 コンプライアンス 管理 顧客サービスキャリアの管理 契約交渉 国際的ロジ業務の支援会議 国際ルートセンター 運賃支払支援 輸出入業務に関するコンプライアンスの策定 フローサーブ・キャリア フローサーブの 現地法人 53  DECEMBER 2011 ィス」を持ち寄って、業務改善を促進すると いった活動も行います。
 各地域の輸送事業者の絞り込みも、この会 議を通じて行っています。
何十年も続いてい る取引先だからという理由だけで業務を委託 しているケースも数多くあるのですが、貨物 運送保険にも入っていないような事業者との 取引は、停止することにしています。
一割以上の物流コスト削減を達成  とはいえ、もともと当社は国別や工場別 に独立性の強い社風ですので、本社からの指 示を毛嫌いする傾向もいまだに残っています。
それを、お互いが顔を合わせて話し合いを重 ねることで徐々に払拭していき、業務内容や 業務水準を一定以上のレベルに引き上げよう としています。
 「国際ルートセンター」は、本社の近くのテ キサス州ダラスに置いている拠点で、一年三 六五日、毎日二四時間稼働しています。
ここ では当社の工場間やサービスセンター間などの 貨物の流れを全体的にとらえて、混載にした り、貸切輸送にしたり、急送便にしたり、と いう判断を下しています。
判断基準を我々が 作り、それに基づいて3PLが運用を代行す るかたちです。
 また我々の部門ではサプライチェーン上の貨 物の流れの可視性を高めたり、キャリアやフ ォワーダーがコンプライアンスを守っているか を監視したり、ITを使ったルート作成など を行っています。
そのほか、運賃支払い業務 の支援、輸出入業務に関するコンプライアン スの条文策定、また先に挙げた航空・海上フ ォワーダーの絞り込みなども当部の役割です。
 我々が二〇〇七年にSCMの業務改革に 着手してから二〇一〇年までにどんな結果を 得ることができたのか、それをまとめたのが 図4です。
六〇〇社以上あった輸送キャリア (フォワーダーを含む)の数は一〇〇社以下に 減らしました。
五〇社以上あったアメリカ国 内の通関業者は三社に減らしました。
 急送便の利用率は三五%以上だったものを 一五%以下にまで抑制することができました。
出荷件数は四〇万件から一一〇万件に増えま したが、これは二〇〇七年当時、本社で把握 しきれていなかった数字が表面化したためで す。
 また、これが最も大きな成果の一つだと思 っていますが、年間のロジスティクス費用の 削減額は、六三〇万ドルに上っています。
現 在、当社はロジスティクス費用として約五〇 〇〇万ドルを支払っているので、一〇%以上 の削減を達成したことになります。
 業務を統合する上での最大のネックとなっ ているERPシステムは、六〇種類を二〇種 類以下に集約しました。
これを近いうちに五 種類以下にまとめたいと思っています。
そう することで、今以上に全社としてSCM業務 の統制を取りやすくなると考えています。
(ジャーナリスト 横田増生) の動向は、こちらにも早晩わかるものなので、 そうした行為も信頼関係を損なうことになり ます。
 私が率いる国際ロジスティクス部門の役割 は、大きく分けて五つあります。
「国際的ロ ジスティクス業務の支援会議」「国際ルートセ ンター」「運賃支払支援」「輸出入業務に関する コンプライアンスの策定」「フローサーブ・キ ャリア」です(図3)。
 このうち「国際的ロジスティクス業務の支援 会議」には、本社にいる私の部下に加え、各 国の地域ごとのロジスティクス業務の代表者 や工場長などが参加します。
これは、それま でバラバラだった輸送事業者への外注方法や KPI、運賃水準などを全社的に統一してい くための会議で、各地の「ベスト・プラクテ 図4 改革の成果 取引キャリアの数 急送便の利用率 年間出荷件数 コンプライアンス 通関業者の数(米国のみ) 年間のコスト削減額 輸出のコンプライアンス基準 輸入のコンプライアンス基準 600 社超 35%超 40 万件 50%未満 50 社超 200 万ドル 有り(?) 有り 100 社未満 15%未満 110 万件 90%超 3 社 630 万ドル 有り 有り 2007 年2010 年

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